表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/224

76 属性魔法の根源

 ザイレン聖王国の教皇猊下の依頼で、俺達は更に西へ進む事になった。行先は、馬で十日程かかる距離にあるウルヴァ族という部族の集落がある所。

 馬車で行ける距離ではないので、俺達は馬に跨って進む事にした。ちなみに俺は桜に乗り、メリーが紅葉に乗る事になった。他のメンツは、教皇猊下の手配でそれぞれ馬を借りる事になった。

 馬車の方は、俺のアイテムボックスに入れた。

 で、馬に乗って出発という時に、小さなトラブルがあった。


「ちょっと!止まれっての!」

「何やってんの‥‥‥」


 桜に跨りながら、貸し出された馬もコントロールできずに引っ張られているカナデを哀れんだ。この子はトラブルばかり起こすな。


「馬に嘗められているな」

「馬鹿にされていますね」


 フィアナとメリーから厳しい言葉をかけられて、やけになったカナデが無理に引っ張ろうとするが、馬はビクともしなかった。お前の腕力ではダメか。


「仕方ない。桜に乗せてやるから、手を取れ」


 それなら桜も問題なさそうだし、手綱は俺が握るのだし道中大丈夫だろう。


「え、いいの!乗る乗る!」


 何故そんなに声を弾ませるの?


「だだ、ダメですよショーマさん!それだけは!」

「いくらご主人様のご判断でも、それは容認できません!」

「抜け駆けは許さんぞ!」

「馬に乗れないからってズルいですわ!」


 カナデを乗せようとすると、何故かアリシアさんとメリー、フィアナの神宮寺からブーイングが起こった。一体何故?


「だったら間を取ってお姉ちゃんが乗せてあげようか?」


 何の間なのか分からないが、それならばとリィーシャが手を差し伸べて来た。


「それだけは絶対に嫌!」


 カナデはそれを嫌がり、俺の手を取って後ろに跨った。ま、あんな変人の世話にはなりたくないよな。何より、あんな女を義理の姉とは認めていないみたいだし、そもそもあんたユズルとは結婚していないでしょ。

 それに、お陰で俺は背中に2つのとんでもなく大きくて柔らかい果実が押し付けられているので、俺としてはかなりの役得だが。

 おおっと、いかんいかん!平常心平常心‥‥‥は無理かもしれないが、せめて真顔のポーカーフェイスを維持しよう。だって、Hカップもあるのですよ!抗える訳がないじゃない!

 とまぁ、一人を除く女性全員からジト目で見られてしまったが、気にせずに先へ進むとしよう。せっかく教皇猊下とカレンが、俺達を見送りに来てくれたのだからビシッとしないと!


「それでは行ってきます」

「気を付けてください」

「行ってらっしゃいませ‥‥‥」


 カレンだけ何だか残念そうにしていたが、気にしたら負けだよな。というか、コイツと一緒に居たくない。

 二人に見送られながら、俺達は王都・アスラを旅立った。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アスラを出てしばらくは馬車道を真っ直ぐ進んだが、三~四時間進むと道の脇へと入り、そこから先は完全に道らしい道は存在しなかった。

 脇道に進んでからの道中は、舗装されていない草原と川を渡り、高い山を登っていった。これは確かに、馬車で進むのは困難だな。その分魔物との遭遇率が飛躍的に上がったが、後ろに乗っているカナデが豪炎魔銃で全て倒してくれたので、わざわざ降りて戦う必要はなかった。

 こんな道なき道を、十日も進まないといけないのか。少し気が滅入るが、教皇猊下の依頼なのだから仕方ないよな。

 そうして俺達がウルヴァ族の集落に向けて出発してから、かれこれ五日が経った。

 その日の夜、俺はアリシアさんと一緒に魔法の訓練を行っていた。恥ずかしながら、俺の火魔法のランクは未だにⅮのままで全く上がっていない。そりゃ、あまり使っていないというのもあるかもしれないが‥‥‥。

 なので俺は、時々アリシアさんから魔法の指導を受けているのだ。


「魔力のコントロールはかなり上手くなりましたね」

「ん。だけど、それで火魔法が上達したとは思えないな」


 自分の掌を何度も閉じたり開いたりして、体内の魔力の流れを感じていた。

 そもそも魔法というのは、基礎魔法以外は全て使い手が形をイメージして生み出すもの。その為、決まった魔法というのは存在しない。被ることはあるけど。そんで俺は、魔法創造に必要な想像力に乏しいのだ。

 魔法のランクというのは、必要以上に魔力を使う事無く高威力の魔法を使う事で上がるのだが、俺の場合はそれでもちっとも上がらないのだ。

 アリシアさんの指導の下、俺が創造した五つの魔法のうち四つは少ない魔力で発動できるようになった。五つ目は、少ない魔力ではどうしても発動できない為、事実上封印している状態だ。これは仕方ないが。

 それなのに、火魔法のランクが全く上がる気配が無いのだ。


「ここまで来ると、本当に魔法の才能が無いのでしょうか?」

「まぁ、依頼の殆どを刀や槍に頼りきりだったからな‥‥‥」


 やはり俺は、近接戦専門なのだろうか?召喚されたと当初、最大MP値はたったの100しかなかったからな。デリウスからも、それでは発動できたとしても煙草に火を点ける程度の炎しか出せない、と言われたくらいだ。


「そんな方法では、何時まで経っても魔法は上達しないわよぉ」


 そんな俺達の前に、リィーシャが近づいて来た。


「よぉ。ここに来たと言う事は、またカナデの魔法銃を食らったのだな」

「ヒドイのぉ!せっかく未来のお姉ちゃんが添い寝をしてあげようと思ったのにぃ!」


 いや、カナデくらいの年の子(この世界ではもう大人)なら誰だって嫌がるって。その為、毎晩のようにリィーシャはカナデの魔法銃を食らって気絶させられているのだ。そしてその行為を、俺を含め誰も止めようとはしないのだから、本当に残念だ。本当にこの人が、五人しかいない金ランク冒険者の一人だろうかと疑ってしまう。

 まぁ俺だって、恋愛感情を持っていない女性とは一緒に寝られないからな。


「まぁ、それは置いておいて、今はそんな事を言いに来たんじゃないわぁ」

「はぁ‥‥‥」


 そして切り替えの速さも天下一で、一瞬で表情が変わった。これもある意味才能なのかもしれないな。


「それでリィーシャ様、どうしてこの方法では魔法が上達しないのですか?」


 そうそれ。アリシアさんから言われた通りに、俺は魔力のコントロールを学んできたのだぞ。それでは不十分だというのか?


「それで魔法が上達できる人も確かにいるけど、魔力のコントロールを学び、魔法を想像するだけではダメぇ。それだと、真の意味で魔法を理解したとは言い難いのぉ」

「どういう事だ?」


 アリシアさんの方にもチラッと視線を向けたのだが、小さく首を横に振った。どうやら、アリシアさんでも知らないのだろう。


「魔法を真の意味で上達させるには、属性魔法の根源を理解する所から始まるの」

「「属性魔法の根源?」」

「そうぅ。例えば、ショーマの場合は火魔法を使うけど、実際にイメージしてみた方が早いわねぇ。目を閉じて頭の中を空っぽにして考えてみてぇ」

「ん?」


 言われた通りに目を閉じて、頭の中を空っぽにしてみた。


「先ず、ショーマにとって火というのはどういうものかしらぁ?」


 頭を空っぽにした俺に、リィーシャが質問してきた。頭の中が空っぽになっている俺は、漠然とその質問に答えた。


「赤く、熱くて燃え上がるもの」

「それでは、火は何を象徴していると思う?」

「他を寄せ付けない強大な力と、勇気」

「火の弱点は?」

「水」

「では逆に、強いものは?」

「木と氷と金属」

「なるほど。では最後に、あなただったらその火をどういう風に使いますか?」

「火の鳥、火の竜、火の竜巻、シンプルに放射‥‥‥」


 そう考えると、頭の中で次々にイメージが湧いて来て、無意識に詠唱を口にしてその魔法が発動した。


「『燃え盛れ、紅蓮の炎。フレイムバード。マグマドラゴン。ファイアーストーム。クリムゾンファイヤー』」


 その瞬間、周囲にドカドカドカッという大爆発が起こった。その爆発音によって、俺はパッと目を開き空っぽにさせた頭がフル回転した。


「なんだなんだ!?」


 訳が分からず周囲を見渡すと、俺達の周辺の地面が何かに抉られたみたいに大きなクレーターが出来ていた。まるで、大きな隕石が落ちたみたいに。


「さっきショーマが魔法を発動させたのよぉ」

「ショーマさんの周りから、火の鳥と炎の竜、炎の竜巻に普通の火炎放射が発生したのです」

「マジで!?」


 アリシアさんの説明を聞いた後、リィーシャからかなりの高威力だったよという補足情報も貰った。


「ステータスを見てみてぇ。火魔法のランクが上がっている筈だよぉ」

「ん?」


 リィーシャに言われるまま、俺は自分のステータスを開き、スキルの火魔法に注目した。


「ウソだろ!」

「信じられません!たったあれだけで、Ⅾだったランクが一気にSに上がるなんて!」


 そう。俺の火魔法のランクが、一気にSまで上がっていたのだ。


「属性魔法の根源を知るというのはそういう事なのぉ。魔法や魔力の事をどうこう考えるのではなく、その属性そのもの、火だったら火の事を深く考えて知る事が大事なのぉ」


 そこからリィーシャが、詳しく説明してくれた。

 属性魔法の属性というのは、元は自然界に存在するエネルギーの一つ。その属性の威力を上げて、Sに上げるにはその属性の事をしっかりと理解する事が大切なのだという。

 その属性の大まかな特徴、次にその属性が何を象徴しているのか、その属性の相性の良し悪し、それらをしっかりと理解しないとその魔法をものにしたとはいえないのだそうだ。

 最初の、その属性の大まかな特徴については、その属性のパッと見の印象、例えば水だったら「青くしなやかでどんな形にも変えられる」と言った特徴を思い浮かべるのだ。

 次に思い浮かべるのは、その属性が何を象徴しているのかと言う事だ。

 火だったら、力と勇気。

 水なら、柔らかさと知恵。

 雷なら、破壊と光。

 等と言った、その属性が関係しているテーマや象徴の事を指している。

 次に、その属性の相性の良し悪しだが、これは言うまでもなくその属性の弱点と強いものを考える事だ。

 属性魔法の属性には、それぞれ相性というものが存在するのだそうだ。

 火の場合は、水で消される為弱く、氷を溶かす為に強い。ゆえに、水魔法との相性は悪く、氷魔法との相性は良い。

 水の場合は、土の壁にせき止められる為弱く、火を消す為強い。ゆえに、土魔法との相性が悪く、火魔法には強いのだ。

 他の属性の相性をざっと言うと、雷は風に弱く土に強い、氷は火に弱く風に強い、土は雷に弱く水に強い、風は氷に弱く雷に強い。

 それらをしっかり理解する事で、魔法の想像に必要な想像力がしっかり働くのだそうだ。


「使い手の想像力で魔法が出来上がると言っても、完全にその人だけのオリジナルなんてものはそんなにないのぉ。どうあがいても被ってしまうものだってあるし、これは仕方がない事なのぉ。魔力のコントロールにしても、MPの消費を抑えることは出来るけど、イコールランク上げには繋がらないのぉ」


 言われてみれば、確かにそうだ。うまく魔力をコントロール出来る様になったからと言って、それでランクが上がる訳ではない。


「大事なのはね、その属性と向き合ってしっかり理解していく事なのぉ。シンプルで簡単な事だけど、誰も考えたりはしないのぉ。いたとしても、無意識に考えていただけかもしれないけどねぇ」


 確かに単純明快ではあるが、誰もそこまで深く考えたことが無い。火とは何かと聞かれても、熱くて燃えているものとしか認識せず、具体的にどんなものなのか、何を象徴しているのかなんて誰も深く考えたことが無いだろう。

 詠唱は、その為に唱えるものであって、例え省略できるようになっても最低一回は唱えた方が良いそうだ。


「それを理解すると、他の属性魔法の習得も不可能ではないわぁ。聖魔法と呪魔法は無理だけどぉ」


 その二つは、生まれた時に身に付く物らしいからな。神宮寺が聖魔法を使えるのはそれで、実は生まれた時に身に付いていたらしい。地球に生まれた為、それが使われる事が今までなかったのだそうだ。


「習得方法は、さっきと同じか?」

「ええぇ」


 リィーシャからのアドバイスを基に、新しい属性魔法を習得しようとしたが、その前にアリシアさんが目を閉じて集中していた。


「『燃え盛れ、紅蓮の炎。たゆたえ、群青なる水。凍えよ、冷徹なる氷』」


 次の瞬間、アリシアさんの周囲から火と水と氷の魔法が次々と放たれた。ステータスで確認してみたら、新たに火魔法と水魔法と氷魔法を習得していた。しかも、どれもいきなりSランクに上がっていた。流石はアリシアさんだ。

 更に、その他の欄に「大賢者」の称号が新たに加わっていた。


《属性魔法を四つ以上習得していて、尚且つすべてAランク以上習得していないと得られない称号よ。だけど、それだけでは得られない。どうやら、その属性の根源をしっかり理解する事も必要の様ね》


「大賢者」の称号の獲得には、そんな条件があったのか。けど、博学で魔法に長けているアリシアさんにピッタリの称号だと思う。


《感心している暇があったら、君も新しい属性魔法の習得を試みては?》


 おぉ、そうだった。

 俺は再び目を閉じ、頭の中を空っぽにした。

 肌に感じたのは、涼しげな夜風であった。

 風は、何よりも優しく、穏やかでしなやか。時に優しく吹き抜け、時に家屋を倒壊させる程の荒々しさも持ち合わせている。

 風が吹く事で炎は更に激しく燃え上がり、荒れ狂う雷を消してしまう。

 そんな風には、あたたかな部分と荒々しい部分の両方を使い分けると良いだろう。


「『吹き荒れろ、大いなる風。ウィンドブレード、サイクロンカッター、ウィンドウォール、ストーム、ウィンドクッション』」


 次の瞬間、俺の周囲から突風が巻き起こるのを感じた。


《ちゃんと発動できたみたいだね。しかもいきなりAランクになるなんて、上達したもんだね》


 どうやら、新たに習得した風魔法のランクがいきなりAになっていたみたいだ。召喚された当初の俺では、とても考えられないな。


「うん。上出来だねぇ。それだけ使えれば、魔法も今まで以上に使いやすくなるし、イメージもしやすくなるわぁ」


 確かに、今までよりも魔法が使いやすくなってきている気がしてきた。どう表現したら良いのか?魔法が今までよりも手に馴染んできている、と言った感じかな。


「さて、明日も朝早くから出発するのだから、もう寝ましょうぅ」


 パンと手を叩いた後、リィーシャはテントが設置してある所へと歩いて行った。

 俺とアリシアさんも、その後に続いて歩いて行った。


「ところで、雷魔法と土魔法も習得しようと思っているの?」

「いいえ。その二つはフィアナさんが得意としていますし、仮に習得できたとしてもキャリアの差でフィアナさんの方が上手でしょう」

「そうか」


 俺とアリシアさん以外で、魔法が使えるのはフィアナだけだもんな。雷と土に関しては、アリシアさん以上の腕前を持っている。

 カナデも水魔法が使えるが、基礎魔法から上達しておらず完全に歩く蛇口扱いである。

 俺に至っては、ついさっきまでランクDだったからなぁ。アリシアさんが火魔法を使えると、俺としてもかなり助かる。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 アスラを出発してから、今日でちょうど十日目に入った。


「あそこに見えるのが」

「えぇ。あれがこの国に古くから存在する部族の一つ、ウルヴァ族の集落よ」


 遠くの崖の上からだが、レンガ造りの建物がズラリと並ぶ集落に、俺達は到着した。古代ローマを思わせる建物と暮らしの中に、近代的なガラス製の製品や陶器、日本でも見た事がある懐かしい菓子パンや新鮮な野菜が並べられている出店がたくさん見られた。

 何と言うか、古代ローマに現代社会がミックスしたような感じであった。


「ここって、前からこんな感じなのか?」

「ううん。他所から来た男によって発展したみたいぃ」


 そう言えば、アスラを旅立つ前に言っていたな。なんでも、繁栄をもたらしたその男は住民全員の信頼を勝ち取り、前の族長から直々に次の族長に指名されたのだそうだ。シュクラ族を作ったその男は、それに嫉妬してこのような暴挙に及んだのだという。

 そして、それを煽ったのが祭司だという。


「何にしても、先ずはその男に会って話を聞く事だな」


 俺を先頭に、迂回してウルヴァ族の集落へと馬を走らせて行った。

 その時、村の様子を窺う怪しい黒装束の男が三人居た。見るからに怪しすぎる。


《フギル族の偵察部隊ね。ウルヴァ族の集落の様子を見に来ているのね》


 敵の情報を得て、次の戦に備えようという訳か。俺の視線に気づいたのか、その三人はその場から逃げ出した。

 逃げた三人を放っておいて俺は、ここから五百メートル先で起こっている大きな争いが起こっている所へと向かった。人数は、集落側からはおよそ百四十。その向かい、敵側の人数はおよそ三百と倍以上の数であった。


「リィーシャ」

「えぇ。早く向かった方が良いかもしれないわねぇ」


 俺達は現場に向かって急いで馬を走らせた。どうやら、攻めてきているのはシュクラ族の戦士達の様だ。


「フィアナ!両軍の間にデカイ土の壁を作れるか?」

「余裕だ!」


 森を抜けて、視界が開けた所でようやく両軍の戦いの様子が目に入った。そこには、赤色の服と鎧を身に纏った敵兵と、村への進行を防ごうとしている黒い鎧を着たウルヴァの戦士が交戦していた。何とか耐えているみたいだが、そう長くは持たないだろう。


「『アースウォール』」


 フィアナが左手を前に出し、呪文を唱えた瞬間、両軍の間に大きな土の壁がせり出してきた。


「『ウィンドインパクト』」


 その間にアリシアさんが、風魔法でシュクラ族の兵士達を吹っ飛ばした。属性魔法の根源を理解した今のアリシアさんの魔法は、三百の敵兵全員を一気に倒していった。その間にリィーシャと神宮寺が前に出た。


「双方引けぇ!これ以上争いを続けるというのなら、ジェシカ教皇猊下の命により排除するぞぉ!」


 普段のちゃらんぽらんな雰囲気から一転して、堂々とした威厳のある雰囲気でシュクラ族の兵士達に宣言した後、自身も掌から大きな炎を出して威嚇した。


「ヤバいぞ!」

「金ランク冒険者のリィーシャ・ハリストンだ!」

「逃げるぞ!」


 リィーシャの姿を見たシュクラ兵は、一目散に撤退していった。随分と恐れられているな。

 敵が居なくなったのを確認し、フィアナに土の壁を地面に沈めさせた後、俺はウルヴァ族の兵士達の所へと向かった。当然の事ながら、全員に槍を向けられた。


「俺はお前達の村を攻めに来たのではない。この村の族長と話がしたい」

「黙れ!信用できるか!」


 兵士のリーダー格の男は、俺を睨み付けながら槍を構えたまま徐々に近づけていった。


「信用できないのは当然だろうが、俺はトウランからこの国に来た冒険者だ。アイツ等とは関係ない」

「トウランって、あんな遠くからわざわざここまでなんの様だ?」

「ザイレンの教皇猊下からの依頼だ」


 かと言って、証明できるものは持っていない。それはアリシアさんに預けてあるからだ。

 俺がアイコンタクトを送ると、アリシアさんはアイテムボックスから教皇猊下の実印が押された依頼書を出して提示した。

 それを見たウルヴァの兵士達は戸惑っていた。


「武器を納めろ。彼等は敵ではない」


 若い男性の声が響き、兵士達が左右に避けてその男性の通り道を作った。

 近づいてきた男性を見て、俺は驚愕してしまった。


「お初にお目にかかります。ウルヴァ族族長の、桐山裕也(きりやまゆうや)と申します」

「おいおい。どういう事だ‥‥‥」


 驚いた理由は、俺達の前に現れた男性は俺よりちょい上くらいで黒髪黒目をした、服は豪奢に着飾られていたが百人中百人が日本人だと答える様な容姿をしていた。しかも、名前までも完全な和名であった。これには俺だけでなく、同じ日本人の神宮寺も驚いていた。

 一体、どうなっているのだ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ