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75 教皇からの依頼

 神宮寺の案内で、俺達は王都・アスラの中心にある大聖堂も兼ねた王城へとたどり着いた。ちょうどそのタイミングで、リィーシャも目を覚ました。


「スゲェ‥‥‥」


 一階はとても広い協会となっており、ステンドグラスで出来た窓が左右に取り付けられており、聖堂の奥には大きな黄金色の十字架が立てられていた。

 十字架の前には祭壇があり、その祭壇の前で膝を付いて祈りを捧げている白装束の修道女の服を着た女性が居た。


「カレン。客人を連れてきました」


 カレンという女性は、ゆっくり立ち上がりこちらに向いた。長い銀髪と、金の瞳を持つ美しい女性であった。

 しかし、そのカレンという女性の顔が何処かしら熱を帯びているみたいに赤く、目も焦点が合っていない気がする。


「帯刀君は下がった方が良いかもしれませんわ」

「私もそれに賛成。カレンは、いろんな意味で問題がありますから」

「え?」


 神宮寺とリィーシャが、俺を庇う様に前に出て、更にはアリシアさん達までも俺を取り囲んでいるぞ。


「カレンって、確かザイレンの巫女だったな」

「はい。教皇であるジェシカ様の一人娘で、この世界でたった三人しかいない神の加護を授かった人の一人です」


 やはりそうか。教皇猊下とユズルに続く、この世界で生まれ育った人間で加護を宿している三人のうちの一人。

 しかしなぜ、女性陣が俺を庇おうとしているのか分からなかった。


「はぁ‥‥‥そちらの殿方から神の気配が!」


 顔は更に赤みを増し、鼻血とよだれが同時に出ているぞ。この状態になって俺は、ようやく自分の身に迫る危機を察した。


「ついでですから、彼女のステータスを見てはいかがですか。そうすれば、あなたを庇う理由がお分かりいただけるかと」


神宮寺に言われるがまま、俺はカレンという女性のステータスを確認した。


=========================================


 名前:カレン・クラウ・ザイレン  年齢:十六

 種族:人間         性別:女

 レベル:56

 MP値:9300

 スキル:聖魔法S   水魔法S   薬剤配合S   剛力A

     社交A   馬術C

 その他:性欲の女神の加護

     ザイレン聖王国の聖女

     暴走乱心女

     神宮寺美穂子のパートナー


=========================================


 ステータスを見てようやく理解した。性欲の神から加護を貰うと言う事は、このカレンという女は超ド級のヘンタイである事が分かった。


《性欲の女神って、エロウィラね。あの超絶スケベな女の》


 あまり公の場で口にしたくない名前だな。

 スケベな女神から加護を貰ったという時点で、この女もとんでもないスケベである事が証明された。

というか、既に目の前に迫って身の危険を感じているのだけど!


「はぁ‥‥‥神の力を感じる‥‥‥よもやそれが、こんなにも素敵な男性だなんて‥‥‥」

「何言ってんですか!あなたは美男子に目がなく、見境なく関係を持とうとするのではありませんか!」

「とんでもないビッチだな!てか近寄るな!触んな!」


 女性陣のガードを振り切り、カレンは俺の首に腕を回し、顔を近づけて来た。


「これは運命です。私とあなた様が結ばれる為の」

「バカ言わないでくださいまし!」

「ていうか離れなさいよ!」

「私達ですらまだなのに!」

「モテモテですね、うちのご主人様は」


 約一名ジト目で眺めている奴がいるが、他の皆は俺からカレンを引き剥がそうと必死になっているが、剛力のスキルを持つカレンにはビクともしない。


「さぁ!私と愛の誓いを!」


 鼻先が触れるくらいまでに顔を近づけ、強引に唇を奪おうとするカレンに、俺はこの世界に来て初めて戦慄を覚えてしまった。


「やめなさい!」

「ふぎゃ!」


 そんなカレンの脳天にチョップをかまして気絶させたのは、同じく修道女の服を着た四十代の女性であった。顔立ちと髪と目の色から、この人がカレンの母親にして教皇なのだろう。

 気絶した娘を無造作に床に放り投げて、教皇猊下は改めて俺の方へと向き直した。


「お初にお目にかかります。わたくしはザイレン聖王国教皇の、ジェシカ・クラウ・ザイレンと申します。大馬鹿な娘が、とんだ醜態を晒しました。ご無礼をお許しください」

「いえ、そんな。その、トウラン武王国から来ました、」

「存じ上げております、帯刀翔馬様。あなた様の事は、美穂子から窺いました。トウラン国王からも、とても勇敢な方だと伺いました」

「そんな、勿体ないお言葉で‥‥‥」


 やはり俺の事は、神宮寺から聞いていたか。


「初めまして。私は、ショーマさんのパーティーメンバーのアリシアと言います」

「カナデです。後方支援を担当しています」

「フィアナだ。よろしく」

「メリーと申します。ご主人様の奴隷でありますが、決して不当な扱いは受けておりませんのでご安心を」

「同じく、奴隷でメイドをしています、ミユキと申します」

「初めまして」


俺達の仲間にも、優しく挨拶をする教皇猊下。どうやら、娘と違ってかなりまともな人の様だ。


「ここにはわたくし達しかおりませんので、鑑定眼を使ってみてください。私の事を知るには、それが一番手っ取り早いと思います」

「はぁ」


 まぁ、神宮寺から事情を聞いているのなら、鑑定眼の事も知っているだろう。


=========================================


 名前:ジェシカ・クラウ・ザイレン  年齢:四十一

 種族:人間          性別:女

 レベル:72

 MP値:26800

 スキル:聖魔法S   風魔法S   槍術S   土魔法A

     火魔法A   演説A   槌術A   社交A

     弓術B   危険察知B

 その他:生命の神の加護

     ザイレン聖王国の教皇

     ザイレン聖王国の聖女

     デーモンキラー

     大賢者


=========================================


「なるほど。あなたも元冒険者だったのですね」

「はい。リュウラ国王陛下のパーティーメンバーでした。もう二十年も前の事ですが」


 道理でレベルがかなり高い訳だ。称号も四つあるし、神の加護もしっかりと持っている。


《命を司る神、ジュランね。あいつもイリューシャと同じく、エルバーレ様の眷属だものね》


 そうですか。まぁこれで、神の加護を持つ三人を全て確認する事が出来た。約一名、かなり問題があるが。


「まぁまぁ、募る話もあるでしょうから、応接室までご案内いたしましょう」

「ありがとうございます」


 ジェシカ教皇の後に続いて、俺達は聖堂の奥にある扉へと案内された。


「はっ!私は一体!あぁ!待ってください!」


 丁度そのタイミングで、気絶していたカレンも目を覚ました。

 一瞬身構えてしまったが、リィーシャから「教皇猊下が近くにいる時は大丈夫だよ」、と聞いたのでとりあえず身構えるのをやめた。

 リィーシャの言う通り、教皇猊下が視界に入っている間は暴走しないみたいだ。理由は至って単純で、見知らぬ男性と関係を持とうとする度に地下牢に入れられているからである。この国の巫女なのに。

 その教皇猊下に案内されて、俺達は応接室へと入っていった。教皇猊下とカレン、リィーシャと神宮寺が同じソファーに腰掛けた。その向かいのソファーに、俺達も座った。

 教本がぎっしり入った本棚と、白塗りの机とソファーだけの応接室からは異様な圧迫感を感じ、俺は思わず委縮してしまった。


「翔馬様の活躍は常々耳にしております。魔物や魔族に対しては勇敢に立ち向かうも、初対面の人には委縮してしまうみたいですね。美穂子から聞いていた通りです」

「す、すみません」

こう言う雰囲気は苦手なの!

「そんなに肩肘ならなくてもよろしいですわ。帯刀君を呼んだのは、純粋にあなたと話がしたかっただけなのですから」

「まぁ確かに、一つお願いしたい事もありますが、今は気にしないでください」

「はぁ‥‥‥」


 その後俺達は、ジェシカ教皇にこれまでの事を手短に話した。俺がトウランに召喚された理由も、アリシアさん達と出会った経緯も、これまで戦ってきた魔物や魔族の事も全て話した。

 俺達の事を話した後は、今度は神宮寺がザイレンに来てからの事を話してくれた。

 イリューシャとレイラのお陰で亡命できた事と、事情を知った上で匿い支援してくれた教皇猊下達の計らい、俺と一緒に魔王を倒す為にたくさんの努力を積んできた事も。

 話を聞いた上で教皇猊下は、この世界の為に戦ってくれている俺達を称賛してくれている一方で、あまり無理をしてはいけないと注意もされた。

 そうしていくうちに、あっという間に夕方になった。俺達は、教皇猊下の厚意に甘えて一緒に食事をする事になった。


「すみません。食事まで用意していただいて」

「良いのです。いろいろと話も聞けましたし、あなたの素晴らしい功績を聞く事も出来ましたので」

「私も、負けてはいられませんわ」

「美穂子様なら大丈夫です」


 自分も負けてはいられないと神宮寺が言う中、豪華な食事に舌鼓を打っていた。仕方ないもん。目の前には、高級フレンチの様な料理がたくさん並べられているのだもん。


「その上で、翔馬様にわたくしからお願いしたい事があります」


 急に真顔になった教皇猊下に、俺は食事の手を止めて真剣な表情で耳を傾けた。そんな俺に続いて、アリシアさん達も食事の手を止めて教皇猊下の言葉に耳を傾けた。


「実は、ここから西に十日ほど進んだ先に、ナギル族とウルヴァ族、フギル族とリクーラ族という昔からこのザイレン聖王国に存在していた部族があります」

「部族ですか」


 ファウーロ族と似たようなものなのだろう。


「けれどそこに、シュクラ族という新たな部族が誕生し、問題となっているのがそのシュクラ族なのです」

「と言いますと?」

「シュクラ族は、フギル、リクーラ、ナギルの三部族と同盟を結び、ウルヴァ族に攻め込んできているのです」

「一体何故?」


 元は大昔から存在していて、小競り合いはあったかもしれないが、存続が掛かる程の戦いを起こすなんて明らかにおかしい。その新しく出来た部族も、一体何のつもりなのだろう?


「ここから先は、実際に現地に視察しに行った私が説明するわ」


 教皇猊下に代わって、現場を見て来たリィーシャが説明をしてくれた。

 それによると、ウルヴァ族には三年前から突如として現れた一人の男性によって情勢が安定し、その男の知恵を借りることで近代化と戦力拡大が実現したのだそうだ。

 しかしその男性は、他を圧倒する程の力を手にしながらも他の部族と争いを起こそうとはせず、平和な暮らしを望んでいたのだという。

 そんな彼に嫉妬した一人のウルヴァ族の男が集落を離れ、同じく集落を離れた祭司様と一緒に、新たにシュクラ族という部族を作り上げたのだという。

 シュクラ族は、周りに存在する少数民族を次々に攻め滅ぼし、取り込んでいく事で大きくしていっているのだという。そして、そのシュクラ族が標的として狙いを定めたのが、男と祭司がかつて暮らしていたウルヴァ族であった。


「元は自分の村なのだろ。何故そんな事をする。村は尤も敬愛すべきふるさとの筈だ」


 ファウーロ族という部族にいたフィアナが、その男の行動に納得できないものを感じた。何故、暮らしが豊かになった自分の村を攻め滅ぼそうとするのだろうか?それは俺も疑問に思っていた。


「一緒に抜けた祭司が、ウルヴァ族に繁栄をもたらした男は破壊の化身であり、このままではこの世界は破滅するなんて言い出したの」

「バカじゃない、その祭司は!」

「ああ」


 その男が魔族か、それに通じる相手なら分かるが、リィーシャの話を聞く限りでは至って普通の人間で、争い事をあまり好まない性格をしているらしい。


「一度ウルヴァ族に全兵士を連れて攻め込んでいったのだけど、村を豊かにした男の起点によって敗北したの」

「それで、他の三部族に協力を仰いで、ウルヴァ族を攻め滅ぼそうと企んでいるのか。くだらない」


 更に乗ったステーキをフォークで勢いよく突き刺し、怒りを露わにするフィアナ。


「そもそも祭司は、何の根拠があってその男を破壊の化身なんてほざいたんだ?どう考えても見当違いだろ」

「私もそう思うのだけど、その祭司はエルバーレ様の加護を授かっていると言われているの。だから、祭司の言う事はエルバーレ様の意思だと言う事になっているの」

「今度はエルバーレか」


 エルバーレと言った、ザイレン聖王国を統治している主神であり、五人の上級神の一人でもある高位の女神だ。


「あり得ません」


 それを真っ先に否定したのは、うちのパーティーの頭脳であるアリシアさんであった。


「自然の女神であるエルバーレ様みたいな神は、加護を与えることが無いと言われているのです。そもそも、上級神様の加護を授かっているなんて言ったら、神を侮辱する行為とみなされて死ぬまで投獄されますし、そのくらいあり得ない事でもあるのです」


《私からも補足させてもらうと、上級神様が加護を与えるのは実は禁止されているの。私達下級神とは、力が比べ物にならないくらいに強力だから》

《ましてやエルバーレ様は、とても理屈っぽいお方なので、最高神様が命令を下さない限りは下界の人に加護を与えるなんて、絶対にあり得ません。それ以前に、掟で禁止されていますので》


 となると、その祭司が加護を授かっているというのは百パーセント嘘だな。それ以前に、終身刑に値する程の大罪でもある訳だし。


「二人の女神様に確認した所、やっぱりあり得ないそうです」

「でしょうね」


 うんうんと頷きながら、教皇猊下はワインを飲んだ。


「神の加護というのは、誰もが授けられるほど安い物ではありません。その祭司に限らず、この国にはそう言った勘違いをしている牧師やシスターがたくさんいますので、わたくしも頭を抱えているのです」


 やれやれという感じで、教皇猊下は首を横に振った。

 ジュガの加護を授かっている教皇猊下が言うと、デリウスと同じくらい説得力があるな。


「ここまでおっしゃればお分かりいただけると思いますが、翔馬様にはシュクラ族の暴走を止めていただき、暴動の元凶である祭司と男を捕縛、叶わぬ場合は殺していただきたいのです」


 何だか物騒な事をおっしゃりますね、教皇猊下。ま、どの道その祭司は死ぬまで投獄する事になるから向こうで殺しても同じか。


「シュクラ族の暴走は、いずれはこの国全体にも及びかねません。そうなる前に、何としても止めないといけないのです。ですが、美穂子とリィーシャの力だけでは、彼等の暴走を止め切ることは出来ません」


 嘘とは言え、上級神の加護を授かっていると言っているバカ祭司を止めるには、二人だけでは力が足りなかったのだろう。


「そこで、俺に白羽の矢が立ったのですか」

「はい。ファウーロ族の危機を救った翔馬様なら、きっと止められると信じております」

「は‥‥‥」


 別に特別な事はしていないが、たまたま敵の大将が魔王の加護を授かってしまって、半人半魔状態になっていたから倒した方が手っ取り早かったのだが。

 ‥‥‥ん?


「もしかして、教皇猊下はその祭司が魔王の加護を授かっていないか心配されているのですか?」


 教皇猊下は黙って頷いた。


「クマガの件もありますので、半人半魔のものと戦った事がある翔馬様が適任ではないかと思っています」


 なるほど。教皇猊下がわざわざ俺に依頼するのは、そう言った事態を懸念しての事だったのだな。


「報酬もたくさんご用意いたします。引き受けてくださいますか?」


 敵の中に、クマガの様に魔王の加護を授かっているかもしれない奴がいるのなると、見過ごすことは出来ない。

 返事をする前に、俺はアリシアさん達の顔を見て意思を確認した。四人とも、力強く頷いてくれた。


「分かりました。その依頼、お引き受けいたします」

「ありがとうございます」


 教皇猊下は、椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。相当深刻に悩んでいたのだな。


「その前にお願いがあります」

「何でしょう?」

「ミユキを、うちのメイドをトウランの屋敷に送りたいので、」

「ゲートですね。分かりました。そちらもすぐに手配いたしますので、食事の後少々お時間を頂きますが」

「構いません」


 姉と妹の事でだいぶ傷ついているだろうから、早く帰して休ませてあげたいから。


「では、皆さんの分の馬は明日私が用意します」

「馬?馬車があるけど」

「それはいけません。道中は険しい道が多いから、馬車には乗らずに馬に乗った方が良いです」

「マジか!?」


 参ったな。こっちには桜と紅葉の二頭しかいないからなぁ。まあ、貸してくれるのなら助かるが、桜には俺が乗るとして紅葉には誰を乗せるかだな。殆ど答えは決まっているけど。


「じゃあ、アリシアさんとカナデとフィアナの分の馬を用意してください。桜には俺が、紅葉にはメリーが乗りますので」

「「「えぇっ!?」」」


 そんなに驚かれても困る。ちゃんと理由はある。

 まずアリシアさんは、乗馬そのものは出来るみたいだが、桜と紅葉との相性はあまり良くない。

 フィアナの場合は、愛用している剣の黒曜や黒珊瑚の重量があり過ぎて、鞘から抜いた状態で騎乗されては二頭が潰れてしまう。移動だけとはいえ、絶対にないとも限らない。

 カナデは言うまでもなく、二頭に嘗められていて乗せてくれない。

 それらを説明すると、三人ともシュンとしてしまった。悪いが、今回は諦めてもらうぞ。

 逆にメリーは、何だか嬉しそうにしていた。器用なメリーなら若干怖いもの知らずの紅葉をうまく乗りこなす事が出来るだろう。


「分かりました。わたくしの方から大至急手配いたします」

「ありがとうございます」

「それでお母様、私もご一緒に」

「なりません。カレンは目を離すと何をするか分かりません。なんせあなたは、男癖も女癖もかなり悪いのですから」


 男癖だけじゃなく女癖も悪いのかよ!教皇猊下の娘さんは、バイセクシャルなとんでもないヘンタイなのだな。こんなんでよく巫女が務まるな!

 教皇猊下に止められて、カレンはガックリと項垂れてしまった。そうしてくれないと、こちとら身の危険を感じてしまうぞ。


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