72 三勇者遭遇 ミユキの決断
「はぁ‥‥‥疲れた」
クフォト王国王都・ジュラノに入ってから、今日で二日が経った。いよいよ明日は、王城が見えるエリアに到達する。
デリウスからの情報だと、日比島の奴隷の中にミユキの姉と妹がいるというが、デリウスはあまり正確な情報ではないと珍しく自信なさげであった。それが、カリンヴィーラの狙いなのだろうけど。
だが、今日は今日でかなり疲れた。
「中央地区に近づけば近づく程、頭のおかしい住民の率がかなり増えたな‥‥‥」
アリシアさんの魔法のお陰で、俺達の声が外に漏れる事は無いが、それでも警戒は必要であった。だけど、今日はどうしても声に出さない時が済まない!
「アリシアさんが居てくれたから何とか取引できたけど、この辺りの商人どもって、バカしかいないだろ」
ブラックゴーレムの指十本を、「こんな偽物、一本鉄貨十枚、合わせて銅貨一枚がせいぜいだな」、何てふざけた事をふかす阿呆商人がいて、そいつの説得、もとい、脅迫にかなりの時間を要してしまった。
その後は、頭の良いアリシアさんの巧みな交渉、もとい、脅しのお陰で何とか金貨三百枚で売る事が出来た。
また別の商人でも、「残念ながらこれは偽物ですね。お情けで鉄貨二十枚を出してあげましょう」、というこれまた阿呆な奴に出くわしてしまった。
俺が出した素材は、オリハルコン二十キロだ。サリーとローリエの、発掘大好きコンビが掘り上げた物で、レイハルト公爵からもきちんと本物であることが確認採れたのだ。それを偽物だとほざくから、アリシアさんの協力を得て説得、もとい、脅迫をして何とか金貨八百枚で買い取ってもらう事に成功した。
いずれにせよ、安値で買い叩き、加工した後とんでもない高値で売ってぼったくろうと企んでいるのが見え見えであった。
というか、マナダイトで出来たブラックゴーレムの指一本が鉄貨十枚=十円な訳がないだろ!オリハルコンにしろ、キロ鉄貨二枚=二円だなんてふざけているだろ!アリシアさん曰く、クフォト王国の中間地区以降では、こう言ったぼったくり取引が日常的に行われているのだそうだ。
まったく、とんでもない国だ。外周地区にいた連中の方がかなりまともだったな。
それだけでもかなり頭を抱えるのに、その上今日は
「お前もお前で、かなり面倒だったぞ」
「悪かったわよ。だけど、あのオリハルコン魔銃、マジで欲しかったなぁ」
素材を売った武器屋に、オリハルコンで出来たという金ピカの魔法銃が売られており、カナデがその魔法銃を欲しいと言って駄々をこねだしたのだ。
身内である為、最終的に襟首を掴んで強引に引き剥がして馬車に乗せたのだ。
「急いでいるってのに、お前のワガママに付き合っている暇はねぇっての」
「だってぇ~」
未だに頬を膨らませて拗ねているカナデ。
ちなみに内緒だが、あの魔法銃、オリハルコンで出来ていると表記されていたが、実は玩具の銃にメッキを張り付けただけの偽物であった。そんな物を、金貨四百枚で売ろうだなんて思い切り詐欺じゃないか!正しい相場としては鉄貨五枚が良い所だぞ!
この他にも、気になるアクセサリーを見つけるとそれに目がいってしまい、幾つか欲しいと言いやがったので、そこは無理やり引き剥がして強引に馬車に放り込んだ。
こちらも玩具の銃と同様に、石ころに色を付けて、ピアノ線と鉄くずを組み合わせて色を付けただけのガラクタ。子供の玩具未満の酷い物であった。
「ショーマがあたしにもとっておきの武器をくれたら、あんな風にはならなかったのにぃ~」
「ワガママ言っているうちは、お前に作ってやる武器なんてない」
「ブゥ!」
吠えたって無駄だ。
そもそもお前には、超強力な魔法銃が二丁もあるではないか。その内の一丁は、俺がお前の為に作ってやったのだぞ。そもそも銃というのは、内部構造などがかなり複雑であった為もう作るのは御免だ。
まったく、兄貴は超偉大なトウラン武王国の英雄だというのに、その妹はどうしてこうもワガママな性格になってしまったのだろうか?
「二人ともそのくらいにしてください。王都周辺、中央地区に行かれるのですから」
「わかった」
「ちょっ!無理やり流さないで!」
そうは言うけど、ミユキにとって明日は姉と妹と会えるかもしれないのだから。カナデには悪いが、この話はここで切り上げさせてもらうぞ。
急かすミユキに言われるがまま、俺はベッドの中へと入った。
後で分かった事だが、王都・ジュラノにはそれぞれ、外周地区、中間地区、中央地区の三つの地区に分類されていることが分かった。
外周地区には、最初に訪れた武器屋みたいに暴君王を崇拝しないまともな人が多く集まっており、貧困層が多いものの飢えに苦しんでいる訳でも、生活に困っている訳ではないが誰も気にも留めないのだそうだ。
中間地区には、まともな人とそうでない人の割合が大体三:七になっていた。生活面に関しては、可もなく不可もなくと言った所であった。つまり、これと言った特徴が無いのだ。
そして、王城が立っている中央地区。その辺りの住民は、貴族や大商人と言ったいわゆる金持ちの人間が多く住んでいる地区である。当然の事ながら、全員があの暴君王を崇拝している大馬鹿しかいない非常に面倒な地区なのである。
そして明日は、その大馬鹿しか住んでいない地区に入るのだから、目的があるとはいえ頭が痛くなりそうだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
俺達はすぐに中央地区に向けて出発し、六時間後にはやたらキンキラキンに塗られた悪趣味な王城が目に入った。
(あれが本当に城なのか!?)
(はい。私も見るのは初めてですが、ショーマさんと同じ感想を抱きました)
(デカくて目立ってりゃいいとでも思ってんのかしら)
(何とコメントをしたらよろしいのでしょうか‥‥‥)
(趣味悪~)
(あんな所にホノカ姉さんとアカリがいるってんの!?)
悪趣味すぎる城を見て、俺達は一斉に言葉を失い、念波でそれぞれ感想を述べた。というか、全体を金で作れば威厳が示せるとでも思っているのだろうか?幼稚だ。
《そんなもの見ないの。君達は君達の目的を果たしなさい》
(((それもそうだな)))
(((それもそうですね)))
あんな城を眺めても、目の毒にしかならない。当初の目的通り、俺達は素材を売りながら情報を集めて行くことにしよう。
そんな時
「お前達、道を開けろ!魔王討伐の為に召喚された三人の勇者様が、この道を通られるぞ!」
住民の一人が、大きな声を上げて俺達に道を開ける様に呼びかけた。どうやら、勇者が三人揃って城下に来ているみたいだ。
(アリシアさんとカナデとフィアナは、馬車の荷物の陰に隠れてくれ)
(え?は、はい)
(何よ)
(分かった)
あの三人の、特に日比島の目に入らないようにする為に、アリシアさんとカナデとフィアナの三人には隠れてもらった。奴隷であるメリーとミユキなら、俺が拒めば大丈夫だろうと思う。
御者台からその要素を眺め、やがて道の真ん中に俺も知るあの三人の姿が見えて来た。
(流石に制服を着ていないみたいだな)
(それはご主人様とて同じじゃないですか)
(そうだな)
だが、今のあの三人の姿を見ると制服の方が良かったんじゃねぇ、と思えてしまう。
日比島が来ている服は、青をベースに金のドラゴンの刺繍が施され、青と金の派手なマントを羽織り、これまた金の刺繍が施された膝下のブーツを履いていた。腰に提げている剣も、金と宝石が散りばめられた派手な物であった。
(まったく。とんだ女たらしですね)
まぁ、ミユキにとっては大切な姉と妹を誑かした悪い男に見えるのだろうなぁ。
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名前:日比島武治 年齢:十七
種族:人間 性別:男
レベル:28
MP値:5900
スキル:剣術B 神速B 風魔法B 柔術C
蹴り技D 口説き術E
その他:剣の女神の加護
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この世界に召喚されて何ヶ月も経っているのに、レベルが未だに28だなんて‥‥‥。スキルも大して上がっていないし、称号だって一つも獲得していないなんて‥‥‥。しかも、後ろには一番上が二十歳、一番下が十三歳くらいの女性が二十人くらい列をなして歩いていた。服装も、見るからに高そうで豪奢なドレスで着飾っていた。女を作る前に、先ずはレベルとスキルを上げる事を考えなさい。
続いて丸本だが、こっちは金色の上着にピンク色のスカートというダサい格好そしていた。その上、腰に提げてあるホルスターにはオリハルコンとマナダイトで出来た、何とも派手でダサい魔法銃が装備されていた。
(何あれ、欲しいかも!ねぇショーマ、作って!)
(嫌だ)
カナデは気に入っているみたいだが、あんなダサい魔法銃を作るなんて絶対にお断りだ。
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名前:丸本日和 年齢:十七
種族:人間 性別:女
レベル:13
MP値:3300
スキル:射撃術B 水魔法B 早撃ちD 投擲術E
目利きE 回避術F
その他:銃の女神の加護
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クラスメイトじゃなかったら、コイツ本当に俺と同じ召喚勇者なのかと目を疑ってしまうレベルだぞ。相当チヤホヤされながら過ごしてきたのだな。後ろに居るのは、一番上が十八歳、一番下が十歳の男達であった。着ている執事服が様になっているが、こいつ等は間違いなく奴隷だ。
最後に左京だが、コイツはあの二人みたいに奴隷を引き連れている訳ではなく、マナダイト製の杖を持って先頭を歩いていた。服装はというと、黒と金のツートンでまとめられた服とスカートを着ており、黒色のローブが魔女って感じを出していた。
(格好だけまとまっていても、レベルとスキルが胸を張れる程のものではありませんね)
アリシア先生は厳しいですねぇ。
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名前:左京弘美 年齢:十七
種族:人間 性別:女
レベル:32
MP値:8700
スキル:雷魔法B 氷魔法B 火魔法B 水魔法B
土魔法C 風魔法C 速読C 護身術E
その他:魔法の女神の加護
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三人の中では確かに一番レベルが高いが、それでも半年でこれは酷いぞ。俺達異世界の勇者は、普通の冒険者よりもレベルが上がりやすくなっているのだから。
さてさて、以上が三人の残念なステータスである。幸いな事に、三人とも俺が鑑定眼を使った事に気付いていないみたいだな。というか、周りにいる気になる人のステータスをやたらと開いているぞ。多すぎだぞ。
(俺も人の事は言えねぇが、あんな風に無差別に鑑定眼は使わないぞ)
(ご主人様の場合は、本当に気になった相手にしか開きませんからね)
(よし、ミユキは後でお仕置きな)
(喜んで受けます)
気になる相手には使うが、一般人に対して無差別に使う趣味は俺にはない。そこを勘違いしないで欲しい。
後でお仕置きを受ける筈なのに、ミユキは何故か嬉しそうに声?を弾ませていた。まさか、俺のせいで新しい道に目覚めていないだろうな?
そんな時、ミユキの表情が一変し、身を乗り出す様に三勇者に視線を向けた。いや、正しくは日比島に従っている女奴隷達に視線を向けていた。
「どうした?」
「ご主人様、あちらを」
メリーが指差す方向に、ミユキの態度が豹変した理由があった。
視線の先には、赤やらピンクやら金など、地球では考えられない程のカラフルな髪の色をした女性達の中に二人だけ、この世界では珍しい黒髪の女性がいた。
「ミユキ」
「間違いありません。私の姉と妹、ホノカ姉さんとアカリに間違いありません」
「マジかよ‥‥‥」
最悪だ。よりにもよって、日比島の奴隷にされていただなんて。
姉のホノカは、垂れ目でおっとりとした雰囲気を漂わせた女性で、カナデやフィアナには劣るがなかなかに大きかった。
妹のアカリは、姉のホノカとは逆に控え目な体付きだが、大きな藍色の瞳が目立つ少しつり上がった目付きが、活発で好奇心旺盛な性格を体現していた。
確かに、一昨日の夜にミユキから聞いた特徴とも一致している。その上、ミユキが言うのだから本人で間違いないだろう。
しばらく歩いていると、ホノカとアカリもミユキに気付き、少し前に出て日比島に声をかけに行った。
その瞬間、日比島の口の端が上がり、こちらに視線を向けた。ご丁寧に、俺達のステータスまで開いて。デリウスの陰で偽のステータス情報が表示されたが、いきなりであったから正直言って生きた心地がしなかった。奴隷であるメリーとミユキの名前はそのままだが。というか、俺の偽のスキルに剣術Aがあるって言うのはどういう事だ?一応俺、商人という肩書でこの国に入国しているのだけど。
一体何を思ったのだろうか、日比島が二人を連れて俺達の方へと歩み寄ってきた。早くも嫌な予感しかしてこない。
「おい。そこの馬車に乗ったボロ服を着た商人」
聞くまでもなく、俺達の事である。日比島に声をかけられて俺は、地球での彼の態度の違いに驚いた。以前の日比島は、自分を飾る事はあまりせず物腰柔らか感じの好青年と言った感じだった。
だけど今の日比島は、高圧的で相手を威圧するような態度で俺達に接していた。以前とはまるで別人であった。
「武治~何やってんの~?」
間延びした口調で丸本が、日比島の所へと駆け寄ってきた。声のトーンからでもハッキリ分かる。以前の丸本は、ハキハキとした口調で話しており、言い方が悪いがチャラそうな見た目とは裏腹にしっかりとした性格をしていたのだ。
今の丸本からは、そんな感じが全く感じられなくなっていた。
「何やってんの。私達はこれから予約してあるレストランで食事をしに行くんだぞ。モタモタしてる場合じゃないだろ」
乱暴な口調で二人に声をかけるのは、俺のクラスで学級委員長を務めていた左京であった。こちらも、以前とはまるで別人であった。
以前の左京は、厳格ながらも相手に気を使い、丁寧な口調で話す礼儀正しい人であった。
だけど今の左京からは、傲慢で横暴は感じがしていた。
まとめると、三人とも以前とは性格が百八十度も変わっていた。正直に言って、本当に本人なのかと疑ってしまうくらいにだ。
「まぁ待て」
気色の悪い声で左京を宥め、日比島は改めて俺の方を向いた。そんな日比島が、俺に要求する事と言ったら大体想像がつく。
「君の隣に座っている黒髪の女奴隷だが、僕に譲ってはもらえないだろうか?」
やはりそう来たか。ミユキの名前と称号を見た瞬間、コイツの表情が明らかに変わっていたもん。おそらく、ホノカとアカリからミユキの事は聞いていたのだろう。
「その子は本来、君の様な薄汚い商人ごときが所有しても良い奴隷なのではない。僕の様な高貴で勇敢な主にこそふさわしいのだよ。何より、あの二人の姉妹らしいからな」
日比島のすぐ後ろでは、ホノカとアカリがミユキに手を振って呼んでいた。何とも無邪気な。
「ミユキ久しぶり!またあなたに会う事が出来て嬉しいわ!」
「ミユキお姉ちゃんもこっちに来て!武治様の奴隷になれて、私達はとても幸せだよ!」
何が幸せだ!ただ性の対象とされているだけなのに、それに気付いていないのか、気付いていてあえて知らんふりをしているのか定かではない。
だが、今の二人の目を見てハッキリと分かる。この二人も、完全に頭がおかしくなっている。
(確かに、重労働を課せられるよりはマシかもしれませんが、女としての幸せを全て奪われてしまいます)
(好きでもない相手に抱かれるなんて、冗談じゃないわ!)
(そういう行為は、本当に愛している人とする事で初めて幸せを感じるというのに)
隠れているアリシアさんとカナデとフィアナも、軽々しく身体を許す二人に憤っている様だ。
俺とて、今の日比島にミユキを託すことなんて出来ない。
「申し訳ありませんが、彼女は私にとってはなくてはならない貴重な労働者なので、引き渡す訳には」
それっぽい言い訳を並べて、俺はやんわりと断ろうとした。だが日比島は、そんな事はお構いなしにミユキの手を握ろうと手を伸ばしてきた。
そんな日比島に対して、俺はとっさに手を払い、腰に提げてあった古墳剣をいつでも抜ける様にしていた。
「ほほぉ。商人のくせに剣術に優れているとは、なかなかやるじゃない。だが、勇者であるこの僕に勝てるとでも思ってんのか?」
俺が古墳剣を抜く前に、日比島の方から剣を抜いて来た。俺もそれに対抗して、古墳剣を鞘から抜いて威嚇した。それを見た住民は、一斉に騒ぎ出した。
というか、何てダサい剣を使っているのだ。ヒヒイロカネ製の剣だろうが、刀身の所々に宝石が散りばめられている派手な剣であった。頑丈だろうが、滅茶苦茶ダサいぞ。
「やめろ。いくら剣術に優れているからと言って、貴様の様な雑魚が武治に勝てる訳がないんだ。大人しくその女奴隷を引き渡せば済む話だ」
「武治にケンカを売るなんてぇ~チョームボー~」
悪いが、全く負ける気はしない。というか、お前等三人なんてミユキ一人でもコテンパンに出来るぞ。
俺と日比島の睨み合いが続く中、アカリがとんでも発言をしてきた。
「ミユキお姉ちゃん聞いて!ホノカお姉ちゃんね、赤ちゃんが出来たの!勇者様の!」
「なっ!?」
「え!?」
俺とミユキは、同じタイミングで声を上げて驚愕した。
「私の他にも五人も妊娠していて、その人達の一緒に勇者様と幸せになれるのだと思うと、私は嬉しくて」
「何言ってんの‥‥‥姉さん、将来は子供達に、読み書きを教える為の教師になるって言って、たくさん勉強をしてきたじゃない!」
どうやら、ホノカは学校の先生になる為にたくさん勉強をしていたのだな。
「そんな事よりも、勇者様にたくさん愛してもらえて、その上赤ちゃんが出来た事の方がよっぽど幸せだわ」
そんな姉の言葉を聞いて、ミユキは両手で顔を覆い、体を丸めてうつ伏せてしまった。
「そんな訳だ。さっさとよこせ」
雰囲気を一転させて、ドスの利いた声で威圧してきた日比島。確かに、とても勇者とは呼べない。
「いい加減早くよこせって言ってんだよ!いつまで」
「ざげんな‥‥‥」
「あぁ?」
「ミユキ?」
震える声でミユキはゆっくり顔を上げ、瞳から大粒の涙を流しながらホノカとアカリを睨み付けていた。
「ふざけるな!そんなクズの子供が出来て何が幸せだ!奴隷に落とされてしまったとはいえ、そんな簡単に夢を諦めて、ただの肉奴隷に成り下がる事が本当に幸せだというの!私はそんなのは御免だ!奴隷として働かされても、まだ夢の実現の可能性を与えてくれた彼に着いた方がよっぽどマシだよ!そんなにそのクズと関係を結びたいのなら好きにすればいいわ!その代り、もうあんた達の事なんて知らないから!」
「ミユキ、あなた自分が何を言っているのか、分かってるの!」
「勇者様をクズ呼ばわりするなんて、私達が許さないから!」
「勝手にすればいいわ!あんた達とは今日ここで縁を切るわ!」
大きな声で罵声を浴びせ、ホノカとアカリと決別する事を決めて、ミユキは民衆の目を気にする事無く心の内を叫んだ。
「ふざけるな。ふざけんな!この僕がクズだと!勇者である、選ばれし者であるこの僕が!っざけんな!このブス!」
逆上した日比島が、感情的になってミユキに剣で斬りかかろうとした時。
「やめなさい!今のはどう見ても武治が悪い!」
声のする方を見ると、一般的な地味な服を着ているが、緩いウェーブがかかった鮮やかなサファイアブルーの髪と、その立ち振る舞いから気品が感じられた。
「これは、これは姫様。お一人でこんな危険な城下に足を踏み入れるなんて」
日比島の言動から、彼女はクフォト王国の王女である事が分かった。