60 一人目の金ランク冒険者
馬車に揺られる事、十三日間。たくさんの魔物の群れと遭遇しては倒し、盗賊共の撃退プラス財産を巻き上げると言う事をたくさん繰り返してしまい、その結果、到着予定日を三日もオーバーして何とか目的地であるユンゲンの町に到着した。
「そういう理由でしたら仕方がありません。何にしても、よく来てくださいました。ありがとうございます」
町に着いてすぐに俺達は、町役場へと足を運び、そこで町長に会って遅れてしまった理由と、国王陛下の依頼でこの町に来た事を話した。魔物と盗賊に遭遇して遅れる事は、この世界ではさほど珍しい事ではないのですぐに納得してくれた。
だが、今回の依頼でそれは決して許される事ではない。それが遅れた三日間の間に、更に五人の女性と子供が連れ去られてしまったのだと言う。どうする事も出来ない事とは言え、そのせいで更に五人が攫われてしまった事を申し訳なく思った。
「そんなに気にしないでください。こうして来ていただけたのです」
「しかし」
それでも、もっと早く来ていればこんな事にはならなかったのでは、と思ってしまう。
「気にしなくていいわよぉ。あのキングリッチ、どういう訳か攫った女と子供をすぐに殺そうとしないのだからぁ」
「え?」
突然後ろから声を掛けられ、俺達は条件反射的に声の方を向いた。そこに立っていたのは、海を思わせる程のマリンブルーの長い髪と、エメラルドグリーンの瞳をした可愛い系の女性が入っていた。その女性の顔を見た瞬間、左隣に座るカナデの表情が曇った。
「おぉ!リィーシャ様も来られたのですか」
「どもどもぉ。おっひさぁ!」
予想通り、彼女がザイレン聖王国出身の金ランク冒険者、リィーシャ・ハリストンか。貴族の令嬢だと聞いていたから、もしかしたら高飛車な性格をしているのかと思ったら、随分と軽くてマイペースな性格をしているな。
「あらぁ、あそこに座っているのは未来の妹君ぃ!」
「誰が未来の妹よ!あんたみたいなウザ女なんかに、お兄ちゃんは渡さないんだから!」
カナデの見た瞬間、リィーシャは飛びつく勢いでカナデに抱き着いてきた。
「そんな事言わないでよぉ。わたくしはこんなにもユズル様の事を愛しているのにぃ」
「離れろ!」
「それはそうと、ユズル様は元気ぃ?わたしに会いたがっていませんでしたかぁ?」
「知らんわよ!あたし達が帰ってくる事には、もう次の依頼に行っちゃってて居ないし!仮に居たとしても、アンタの事なんて話した事なんて無いわよ!」
「あらやだぁ。また胸が大きくなったわね。お義姉ちゃん羨ましいわぁ」
「あぁ!ウザい!」
カナデではないが、確かにこれはウザい。一瞬これが金ランクの冒険者なのかと疑ってしまうぞ。あと、男が居る前でカナデの胸を揉むな。目のやり場に困る。
とりあえず、ステータスの確認っと。
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名前:リィーシャ・ハリストン 年齢:十七
種族:人間 性別:女
レベル:84
MP値:270000
スキル:火魔法S 水魔法S 風魔法S 雷魔法S
土魔法S 氷魔法S 聖魔法S 呪魔法S
危険察知B 料理A 剣術D 棒術E
その他:ザイレン聖王国の英雄
無敵魔法師
デーモンキラー
大賢者
ドラゴンスレイヤー
勇者
蟲殺し
ゴーレムバスター
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何と、称号が八つも!おまけに、魔法も全属性使える扱える上に全てがSランクとは!
確かに、聞いていた通りの天才だが、その性格で全てが台無しになっているぞ。
俺がこの世界に召喚された時、レベル80以上は五人しかいないと聞いたから、これは確かにすごい。金ランク昇格するのも頷ける。
《先に言っておくと、出会った当初のフィアナがレベル88もあったのは私も驚いたからね。私も金ランクの五人だけだと思っていたのだから》
補足情報ありがとう。どうやら、フィアナは本当に例外なのかもしれないな。
「カナデとじゃれるのもそのくらいにしてくれないかな。こっちにだって、いろいろと聞きたい事があるんだよ」
「そうだったぁ!」
俺に指摘されて、リィーシャは慌ててカナデから離れて、町長の隣に座って改めて俺の方へと向き直した。
「改めて、初めましてぇ。私は、リィーシャ・ハリストン。あなた、ショーマ・タテワキと同じ金ランクの冒険者をやっているよぉ。ザイレン聖王国出身よぉ」
先程とは打って変わって、落ち着いた雰囲気を醸し出すリィーシャ。おそらく、好きな人に対してはとことん一途で真っ直ぐなのだろう。それでもイラつく喋り方はやめて欲しい。
「ショーマ・タテワキだ。トウラン武王国出身の冒険者だ」
「聞いているわぁ。史上最速で金ランクに昇格したらしいじゃないぃ。あのユズル様よりも早くぅ」
どうやら俺は、ユズルよりも早く金ランクへとランクアップした様だ。初めて知った。
「早速だけど、キングリッチについて詳しく聞きたい」
キングリッチの話題を出すと、リィーシャの顔から笑顔が無くなり、重苦しい雰囲気ではあったが話してくれた。
「一言で言うのなら、分からないぃ」
「分からないって」
おいおい。件のキングリッチと対峙しておきながら、分からないなんてないだろ。
「行動原理もそうだけど、何故町外れにある洞窟をダンジョン風に改装したのかぁ」
「ダンジョン風に改装した?」
「えぇ。例のキングリッチは、そのダンジョン風の洞窟に潜んでいて、災害級に指定されている危険な魔物が五匹も居て、ソイツ等を倒す事で称号を得させようとしているみたいにぃ。もちろん、各階層にはたくさんの魔物も出て来るわぁ」
リィーシャの話を聞いて、益々訳が分からなくなった。一体何の為にそんな無駄な事をするのだろうか?
デリウスの話だと、強い恨みを抱いて死んでいった転生者の成れの果てだと聞いたが、行動原理については未だに謎が多いので、女神でさえ知る事が出来なかった程だ。
ちなみに、その災害級の魔物は上の階層から、グラトニースパイダー、バシリスク、パワーデーモン、スピーダードラゴン、ゴールデンゴーレムだそうだ。
それによって得られる称号は、「蟲殺し」、「大蛇殺し」、「デーモンキラー」、「百戦錬磨の闘士」、「ドラゴンスレイヤー」、「閃光の戦士」、「ゴーレムバスター」、そして「勇者」だ。
「確かに分からん。何故、訪れた冒険者にわざわざ称号を与えるような真似をするのだ?」
「分からないぃ。更に、パワーデーモンやスピーダードラゴンを倒すとぉ、失われた聖剣バルバソードとザラグラードが献上されるみたいなのぉ」
「はぁ!?」
完全に意味不明である。
アンデットにとって聖剣は、自分達を葬り去る危険な武器である筈。なのに何故、そんな聖剣をわざわざ敵に与えようとするのだろうか。それも二振りも。
「まぁ、私にはフォースカリバーがあるしぃ、聖剣と言うのはその人が他の聖剣を持っていたら、絶対にその人には絶対に触れされてはくれないから本当に厄介だよねぇ。お陰で持って帰る事が出来なかったわぁ」
「そうだよな」
どうやら、聖剣の所持は一人一振りまでであって、二振り以上持つ事が出来ないのだな。その理屈でいくと、シクスカリバーを持つ俺もその二振りの聖剣を持つ事が出来ないと言う事になるな。初めて知った。
「だから私は、フォースカリバーでキングリッチを倒しに行ったのだけどぉ、聖剣である筈のフォースカリバーが全然効かなかったのよぉ。仕方なく私は、対アンデット用の聖魔法、『ターンアンデット』を使ったのだけどそれもダメだったわぁ」
「聖魔法にはそんな魔法があったのか?」
「ターンアンデット」について何も知らなかった俺は、思わずアリシアさんに聞いてしまった。
「はい。攻撃魔法が存在しない聖魔法で、唯一の攻撃魔法と言っても良いでしょ言う。ただし、名前の通りアンデット系の魔物にしか効かないのです。聖魔法が使えないショーマさんが知らないのも、仕方がありません」
「と言うか、ショーマの場合は魔法が苦手なんだけどね」
一言多いぞ、カナデ。魔法が苦手なのは否定しないが、全く使えない訳ではないぞ。
「その『ターンアンデット』でも、例のキングリッチには効かなかったのだな」
「えぇ。他の魔法でも試してみましたけど、あのキングリッチには全く効かなかったのぉ。これ以上戦ってもこちらが危なくなるだけだと思い、やむを得ず私は撤退したぁ」
「そうか」
険しい表情を浮かべて悔しがるリィーシャ。そりゃ、聖魔法を極めている魔法師にとってアンデットになす術もなく負けるなんて、屈辱以外の何でもないからな。それに、金ランクの冒険者として依頼を完遂出来なかったと言う屈辱もある。無理もない。
「ここユンゲンの町は、トウランだけじゃなく、ザイレンにとってもとても重要な貿易の拠点となっている町なのぉ。そこにもしもの事があると、ザイレンからトウランへ、トウランからザイレンへの貿易が滞ってしまいかねないわぁ。教皇猊下やギルドからも改めて依頼を受けて、再びこの町に来たのぉ」
チャラチャラしていても、金ランク冒険者としての責務はきちんと果たそうとしているのだな。
「トウラン国王から、あなたを送ったって聞いたから急いで戻ったわぁ。私個人としても、ショーマには興味があったからねぇ」
「俺に興味があったのなら、この後模擬戦でもやる?」
他の金ランク冒険者と会う機会なんて滅多にない。その実力を知る為にも、実態に戦ってみたいと思う。
「ごめんパスぅ」
そして、あっさり断られてしまいました。
「だって、君が持っているその黄金色の刀には魔力吸収の付与があるのでしょぉ。私にとっては、絶対に勝てない最悪の敵ぃ。勝ち目のない決闘を受ける訳がないでしょぉ」
ちょっと待て!何でハバキリに魔力吸収の付与があるのを知っているのだ!?
《彼女の特技で、武器を見ただけでその武器の能力を瞬時に見抜く事が出来るの。おそらくそれで、ハバキリに宿った能力を見抜いたのだと思うわ》
面倒な特技を持っているな、リィーシャ・ハリストン。って事は、今まで魔力吸収の付与がある武器を持つ相手と戦ったことが無いのか?
《あるわよ。ただ、ハバキリを除けばたったの三振りしか存在しないから、そういう相手と戦う機会が無いに等しいの。その内1振りは、トウラン国王が管理しているの。持ち主として使っている訳ではないから、本当にただ保管しているだけ。残り二振りは、金ランク冒険者のユズルとキリカが持っているわ。ちなみに、キリカ・サーペントはナンゴウ海王国出身の金ランク冒険者ね》
そりゃ、戦う機会なんて無いよな。更に聞くと、ユズルもキリカもリィーシャよりも強いのだそうだ。
「まぁまぁ、決闘なんてされてお二人に怪我をされては困りますし、夜までまだまだ時間がありますのでこのユンゲンの町を楽しんで行ってください」
町長にとっても、俺とリィーシャが決闘するのは困るみたいで、強引に話を切り上げさせて町の観光を進められた。まぁ、肝心な事は分からずじまいだったが、聞きたかった事は聞けたのだし夜まで観光するのも悪くないか。
役所を後にした後、俺達はリィーシャと一緒に町長お薦めの喫茶店へと足を運んだ。
「それにしても、全部白塗りの建物と、そうじゃない建物がまばらに建てられているな」
「白塗りの建物は、ザイレン聖王国出身の人に配慮しての建物になっているのぉ。私の国であるザイレン聖王国は、建物は全て白で統一されているわよぉ。王城も含めてぇ」
解説ありがとう。というか、ザイレン聖王国内にある建物は全て白で統一されているのかよ!目がチカチカしそう。
「ユンゲンの町には、仕事の都合でザイレン聖王国から移住してきた人も多いので、そういう人達の住む家屋は全て白に塗られ、更に町の至る所に礼拝堂が建てられているのです」
「随分詳しいんだな」
「はい。前のご主人様と訪れた事がありましたので」
「へぇ」
ゾンビタイタンに食われた前のご主人様も、何かの用事で一度この町に訪れた事があったのだな。
「この町に居る間は、あまり酷い仕打ちを受けませんでした。出た後で思い切り酷い目に遭いましたが‥‥‥」
おい。そんな事をしていたのかよ。前のご主人様。
「まぁ、それも仕方ないでしょうぅ。ザイレン出身の人も住んでいるのだから、ザイレンのルールも取り入れて奴隷制度禁止の令が課せられているのだからぁ。君みたいに奴隷でも大切にして人は、ザイレンに訪れたとしても厳しく言われたり、罰せられたりする事も無いから安心してぇ」
「そう言えば、ザイレン聖王国では奴隷を買うのは重罪だったな」
けどそれも、非道な扱いをしていたらであって、普通に接していれば罰せられる事は無い。
「確かにわたしは、今のご主人様に拾われてとても幸せです」
「美味しい食事はたくさん食べさせてくれますし、自由に行動させてくれますし、私達の為に専用の武器も作ってくれますし」
そこまで言われると照れるのですが。
「でしょうねぇ。だってあなた達二人は、とっても幸せそうな顔をしているし、一般の奴隷に比べてお肌も艶があって綺麗だしぃ」
「まぁ、翔馬は人が良すぎるから、たまに奴隷達が調子に乗って馬鹿な事をする事があるけど」
そう言ってフィアナは、ジト目でミユキを見た。それに対してミユキは、あっけらかんとした態度で目の前にあるチョコケーキを口に入れた。
「でも、それは今の環境がとても満たされているって事よねぇ。ミホコから聞いた通りの人物ねぇ、ショーマは」
「やっぱり知っていたか」
何となくそんな気がしていたが、やはりリィーシャも神宮寺から俺の事を聞いていたのだな。
「安心してぇ。私は君の事を口外するつもりは無いし、クフォト王国みたいな独裁国家に君とミホコを渡す訳にはいかないのよぉ」
かなり強く言うな。残っている三人に関しては、もう諦めているみたいだな。
「まぁ、役所で君との決闘を断った他の理由は、もうわかっていると思うけど」
「レベルが違い過ぎるからか?」
「それもあるけどぉ、他にも、剣術と刀術がSSの相手に剣で勝負しても大人と子供ぉ。私に万に一つでも勝ち目はないわぁ」
「はは‥‥‥」
そこまで言われれば、流石に理解出来たぞ。レベルは俺の方が圧倒的に上、剣術では殆ど敵なし、その上ハバキリの魔力吸収の付与が加われば、魔法専門のリィーシャが決闘を断るのも頷ける。
「まぁ、私やキリカくらいなら何とかなるかもしれないけどぉ、ショーマもミホコもまだまだユズルの敵じゃないけどねぇ。ユズルは怪物ですからぁ」
随分と自信満々に言うな。こらこら、アリシアさんとメリーとフィアナとミユキ、だからと言ってリィーシャを睨まないの。ユズルの妹であるカナデだけは、何とも言えないと言った顔をしていた。
《君には悪いけど、私も今の君ではユズルには勝てないと断言できるわ》
デリウスにまで言われたら、もう認めるしかないな。
《理由は分からないけど、あの子のレベルの上がり具合はとにかく異常なの。今の君と同じでね。それで調べようとしても、タケミヤに止められてそれが出来なかったの》
(タケミヤ?)
(戦の神・タケミヤ様の事だと思います。たくさんおられる神々の中でも、最高神様を除いて最強と言われる神です)
《アリシアの言う通り。彼の力は、下級神にしておくにはあまりにも勿体ないくらいのもので、五人の上級神様でさえも軽く凌駕するくらいなのよ。まぁ、世界神様の数少ない眷属なのだから当然だけど》
なにそれ!滅茶苦茶最強じゃねぇか!そんな神様が、何で未だに下級神に留まっているんだよ!しかも、あの世界神様の眷属だなんて!
《ちなみにタケミヤは、君の住んでいた地球、特に日本とはとても縁の深い神様で、そこでは「須佐之男命」と呼ばれて英雄視されているのよ》
戦の神・タケミヤと、日本の神にして英雄の須佐之男命は同一人物でしたのか!
そんな相手に止められては、デリウスとて迂闊にユズルのステータスを覗き見る事が出来ないか。
「それはそうとぉ、カナデちゃん達はもうショーマに抱かれたのぉ?」
「ぶぅーっ!」
口に含んだ紅茶が、盛大に宙を舞った。アリシアさん達も、食べていたケーキが喉に詰まって、ボンボンと胸を叩いた。
いきなりなんて事を聞いて来るのだよ、この女は!さっきまでの厳かな雰囲気から一転して、再びチャラチャラ雰囲気に戻ったリィーシャ。何なの、この切り替えの早さは!
「あら、まだなのぉ?じゃあ、奴隷の子の二人もぉ?」
「ん‥‥‥」
顔を真っ赤にして目を泳がせるメリー。そんな顔をされると、こっちまで照れ臭くなるじゃない。
「うちのご主人様はガードが非常に固く、なかなか抱かせてくださらないのです。なので、女としての自信が無くなってしまいます」
わざとらしく悲しそうな表情で言うな、この女狐メイド!お前には恥じらいというのが無いのか!
「うっそぉ!こんなに綺麗でナイスバディーな女の子がたくさん居てぇ、しかもいつでもウェルカム状態なのにぃ?」
「お前も少し黙ってろ!というか、未婚の男女がそういう事をしちゃダメだろ!」
「固いなぁ~。この世界では一夫多妻が普通なのだからぁ、遠慮なく彼女達を抱いてもいいのにぃ。じゃないと、君の中にある獣の本能がおかしなところで目を覚ます事になるわぁ」
「誰が獣だ!」
堂々とそんな話をするな!この女、本当に宗教を重んじるザイレン聖王国出身なのかよ!
「ほら。リィーシャ様からもゴーサインが出ました。であらば早速今晩!」
「お前はこれ以上余計な事を言うな、女狐!」
時々ミユキの意図が読めない。少しは自分の身体を大切にしなさい。
そんな話をしているせいか、アリシアさん達まで顔を真っ赤にして俯いているじゃないか!どう収拾するのだよ、これ!




