54 転生者(ミユキ)の不幸
昼食を終えた後、俺達は真っ直ぐ屋敷へと帰っていった。歩きながら俺は、デリウスからミユキを転生させた極悪女神の悪行を詳しく聞いた。その女神の事を聞けば聞く程、反吐が出る程の嫌悪感が全身を張り廻った。
(そんな女神が、よく今も神様をやっていられるな)
《主神でもあるハーディーン様も、アイツの所業にはかなり頭を悩ませているのよね。とは言え、ハーディーン様に限らず他の上級神がアイツを廃嫡出来るかと言われるとねぇ》
神って言うのは、本当に面倒な役職だな。鑑定眼が使えるのは、俺達みたいな召喚勇者だけかと思っていたが、ミユキの様な転生者でも使えたのだな。
《本来は見えるだけであって、使うことは出来ないものなの。だけど、あの子の事だからそんな反則も平気で行うでしょうね。なんせ平気で規則や掟を破るような奴だから》
本当によく廃嫡にならなかったな、その女神様も。
一応、デリウスが念波でアリシアさん達にも事情を話してくれたみたいだし、今晩にでもアリシアさん達とミユキを部屋に呼んで誓いを立てさせるか。無理やり誓わせるのは気が乗らないが、ミユキを救うには他に方法が無いから。
屋敷に戻ると、アリシアさん達とナーナが出迎えてくれた。
「おかえりなさい」
「遅かったじゃないショーマ」
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「私は待ちくたびれたぞ」
「おかえりなさい、ショーマさん」
どうやら五人とも仲良くなったみたいだな。一体デリウスは、どんなお仕置きをしたのだ?
《それは秘密♡ちょろっと、痛い目に遭わせただけだから》
要は力業かよ。女神様がそんな事をしても良いのか?おいそこ、頭の中で白々しく口笛を吹くな。しかも音程外れているし。
留守番五人の紹介もそこそこに、新人の指導をサリーとローリエに任せて、俺はアリシアさん達と一緒にリビングへと足を運び改めてミユキの事を話した。
「では、二十一時半頃にミユキを連れてご主人様の部屋へと参ります」
「私も、ショーマさんと誓いを結ぶ事が許されたので、一緒に伺います」
「そうか。じゃあ、ナーナも一緒に来てくれ」
「はい」
とりあえず、夕食後の段取りが決まったので、アリシアさんからもミユキの転生に関わった女神について話を聞いた。
「じゃあ、デリウスの言う通りで、転生の女神はそんなに悪い奴なんだな」
「はい。快楽の為に事故に見せかけて人を殺したり、幸せの絶頂から一気にどん底に陥れたりと、自分の力で転生させた人の人生を弄んだりするかなり悪質な行動が目立つ女神です」
アリシアさん曰く、その女神の悪行はこの世界の人達の間ではかなり広まっていて、悪神とも呼ばれている程この世界の人達からかなり嫌われているそうだ。
「お話を聞く限りでも、その方は間違いなく転生の女神・カリンヴィーラの仕業です」
あのアリシアさんが珍しく、神様の名前を呼び捨てで呼んだ。その転生の女神の名は、カリンヴィーラというのだ。
「あたしもその話は聞くわ。カリンヴィーラに転生させられた人は、必ず不幸な目に遭うって」
「しかも、その様子を見て腹を抱えて笑いこける様な最低な女神なのです」
ナーナも険しい表情で、カリンヴィーラの行動を話してくれた。そこまで知られているのだな。
本当にマジで、何故廃嫡にならないのだよ。上級神様の、特に主神のハーディーン様の鶴の一声であっさりと廃嫡に出来ると思うのだけど。
《無理よ。連中は平穏と安定だけを望み、面子を守る事だけを考えている保守的な考えしか出来ないのよ。たった一人とはいえ、神の不祥事が世間に知れ渡ったら身の破滅。ましてやそれが、自分の眷属の所業なら尚更ね》
面倒な役職だなと思っていたが、実際は自分の面目とプライドを守りたいだけなのかよ。上級神としてそれはマズいだろ。
「数多くの悪行により、カリンヴィーラの位は下級神の中でも最下層に位置付けられています」
おや、メリーですらカリンヴィーラの事を呼び捨てで呼ぶか。相当嫌われているな
「だが、それが逆に面倒なんだよな」
「どういう事だ、フィアナ?」
「どうもこうも何も、カリンヴィーラはかなりの頻度で地上に降りていると言う噂を聞くからだ。位が一番低いと言う事は、誰からもその行動が相手にされないと言う事だからな」
おいおいマジかよそれ!?
《本当よ。万年最下位だから、何処で何をしようと誰も相手にする事が無く、許可なく勝手に地上に降りるなんてザラにあるわ。それに関しては流石のハーディーン様も注意するけど、肝心のカリンヴィーラは全く反省することが無いの。しかも、アリーナみたいに人化している訳ではないから尚たちが悪いの》
じゃあ何か?今もカリンヴィーラは地上に降りていて、しかも人化せずに神のままこの世界に居るかもしれないというのかよ。
《あくまで可能性よ。でも、先月のスタンピードと言い、あの子と言い、間違いなくカリンヴィーラは地上に降りているわね》
デリウスの予想だと、あの大きなスタンピードを発生させたのはカリンヴィーラではないかというのだ。
「スタンピードに直接関与するなんて」
「しばらくあの子には手を出さないと思います。カリンヴィーラの犠牲者は、あの子以外にこの世界にはたくさんいますので」
それはそれで大問題な気もするが、カリンヴィーラが目を離している今が、ミユキを救う最大のチャンスと言う事だな。
とりあえず夜の九時までは、他の新人達と一緒にここになれてもらう事を優先させるか。
「ご主人様、準備万端なの~」
「ん」
俺達が客間から出ると、サリーとローリエを先頭にメイド服を着た新人達が整列していた。
「ご主人様が私達を買ったのは、屋敷のメイドを増やす為でしたのね」
嫌味たらしく言うミユキだが、今は流すとしよう。
「これだけ可愛い女の子が居れば、夜のご奉仕も大変でしょうね」
「ご奉仕?」
「あら、ご存知ないのですか?男の方に買われた女奴隷は、夜のお相手をする義務があるのです」
「は?」
ポカンとする俺に、ミユキは「知らなかったのですか?」と悪そうな笑みを浮かべていった。
「ミユキが言っていた事って、本当なのか?」
俺はそっと、メリーに確認した。隣にいたナーナにも聞こえていたみたいだったけど。
「はい。ですがご主人様は一向に誘ってくださらないので」
「だからと言って、本当に相手をする必要はありませんけど」
二人とも、顔を真っ赤にしないでくれ。こっちまで赤くなるだろ。
「いや、要らないから」
「私達では、女としての魅力に欠けると言うのですか?」
ミユキが投下した爆弾により、他の新人奴隷が悲しそうな表情を浮かべていた。ラヴィーに関しては、何故か泣いているぞ。
「そうじゃなくて、そういうのはお互いに愛し合った男女がやるもので、好きでもない相手に抱かれても不幸なだけだろ」
「奴隷に落とされた時点で既に不幸なのに、何を今更」
「ここではそんな事は気にするな。それに、自分の身体は大事にしなさい」
俺とて、そんな理由で大切な初めてを奪われたくない。
「そうですか。まぁ、ご主人様にはすでにお美しい奥方様が四人もいらっしゃいますので、今更奉仕は必要ありませんか」
「待て。俺はまだ独身だし、彼女達ともまだそういう関係ではない」
「まだ、と言う事は、いずれは美味しく頂く予定と言う事ですか」
「口の利き方には気を付けろよ。俺はよくても他の仲間がそうは思わないから」
こいつ、鑑定眼が使える俺の事をかなり警戒して、本当に信じても大丈夫な奴なのかどうか試しているな。その上、嫌味たらしく猛毒を吐くし。まぁそこは、ミユキの素の性格だと思うし気にしたら負けだな。今更この程度の事で怒りもないし。
だから横に居る四人のお嬢様方、いちいち反応して赤くならなくて良いです。ナーナは何故か頬を膨らませているけど。
「以後気を付けます」
わざとらしい態度で謝罪するミユキ。何気に一番油断ならない相手を、デリウスの指示とはいえ引き入れてしまったのかもしれないな。
その後新人奴隷達は、サリーとローリエの指示の下初仕事をこなしていった。
その間に俺は、アリシアさんとメリーとナーナと一緒にキッチンで夕食の下準備を行っていた。
「ナーナまで手伝わなくても」
「えい、ただお邪魔してばかりというのも申し訳ないので、私にできる事は何でもしたいです」
随分と気合が入っているね。新人が七人も入ってくれたから、今晩は少し豪勢にしていきたいと思っている。
その途中、ローリエが小包を持ってキッチンに来た。
「どうした?」
「ご主人様にプレゼント。いろいろあって、渡すタイミングを見失ったけど」
照れ臭いのか、珍しく身体を少しもじもじさせながら小包を俺に渡してくれた。中に入っていたのは、サファイアが嵌め込まれたブレスレットであった。同じ物を、アリシアさんとメリーも受け取った。
「金ランク昇格、おめでとう。ご主人様」
「ああ。ありがとう」
キラキラした笑顔で、金ランク昇格を祝ってくれたローリエの頭を撫でてあげた。幸せそうに顔を綻ばせるローリエ。これは、気合を入れて美味しい料理を作らないと。
アリシアさんとメリー、ナーナの協力もあって、今晩は高級なお肉とお米、野菜等をふんだんに使った王宮顔負けの料理が出来た。目玉は何と言っても、この国のブランド牛を使ったステーキだろう。
『おおぉ!』
今まで見た事も無い料理を目の前に、目をキラキラさせる新人奴隷七人と、プラス三人。
「遠慮しないでたくさんお食べ。いただきます」
『いただきます!』
瞬間、皆が物凄い勢いで料理を口に運んでいった。うむ、初めて作る料理もたくさんあったが、美味しく出来て良かった。
「こらこら、お口の周りにソースが付いているわよ」
ナプキンを手に、新人犬獣人のアリアの口を拭くミユキ。意外と言ったら何だが、小さい子の面倒を見るのが得意なのかもしれないな。
ちなみに、この中で上品に食べているのはアリシアさんとカナデとナーナとミユキの四人だけであった。正真正銘のお嬢様であるナーナはもちろん、アリシアさんとカナデの食べる姿はまるで何処か良いとこ育ちのお嬢様みたいであった。元貴族のミユキも、そういうたしなみは身に着けているのだろう。
夕食を食べ終えると、サリーとラヴィーとララの三人で食器の後片付けに取り掛かった。
その間に俺は、自分の工房へ行き武器の手入れをしていた。色付きアイアンで鍛えられた刀は、特に手入れをしなくても痛む事も錆びる事も無いのだが、大切な愛刀である以上手入れを怠りたくはない。
《嬉しいね。私があげたハバキリを、ここまで大切にしてくれて》
元はデリウスがくれた神刀だが、今ではなくてはならない俺の半身となっている。黄金とサファイアブルーに輝く刀身をチェックし、ピカピカになったのを確認してから鞘に戻した。
蒼龍の手入れに取り掛かろうとしたところで、メリーとフィアナも工房に訪れ、自分の刀と剣の手入れを行っていた。二人とも、俺が鍛えた刀と剣を大切にしてくれているみたいでとても嬉しいぞ。
全ての武器の手入れを終えると、エリとヴィイチがお風呂の準備が出来ましたと俺を呼びに来てくれた。皆の厚意で、俺が最初に風呂に入る事になった。ミユキ曰く、一番時間が掛からなそうな人から入れたかったらしい。事実、俺の入浴時間は二十分で終了になった。長風呂は苦手です。女性陣の方は、二人ずつ順番に入る事になった。
そうして時間が経ち、時刻は夜の九時を回った。俺の部屋にはすでに、アリシアさんとカナデとフィアナとナーナが来ており、メリーがミユキを連れて来ると言って部屋を出ていた。
「にしても、無理やり誓いを結ばせるなんて」
ベッドに座り、部屋の天井を眺めながら思わず溜息を吐いてしまった。これからやろうとしているのは、相手の良しとは無関係にパートナーの誓いを結ばせるのだから、気が重い。
《説明すると余計に拒絶してしまうわよ。カリンヴィーラの被害者は、例外なく神様不信に陥ってしまうのよ》
「デリウス様の言う通りです。カリンヴィーラの被害者は、皆さん例外なく不幸な最期を遂げているのです」
「そうですか」
もうそれしか、ミユキを不幸から救い出す方法が無いのなら仕方がない事なのだろう。それでも俺はあまり納得が出来ないが、私情を挟む訳にもいかないか。
「ご主人様、連れてきました」
メリーが部屋に入ると、数秒後に寝間着姿のミユキが遠慮しがちに入って来た。
「あらあら、ご奉仕は要らないと言っておきながら私を呼ぶなんて」
「先ずはここに来なさい」
不審がられない様に俺は、手招きをしてミユキを呼んだ。左隣にはすでにナーナが来ていた。俺の指示通りミユキは、俺の右隣りに腰を下ろした。座る際に胸元のボタンを外していたが、今はそんな事を気にしている場合ではない。ここに居る皆には、デリウスが話してくれたので事情は知っている。
「その前にナーナとミユキに頼みがある」
「はい」
「何でしょうか?」
嬉しそうに返事をするナーナと、不敵な笑みを浮かべながら答えるミユキ。
そんな二人に構わず、俺は両手の小指を二人の前に出した。
「俺と小指と小指を絡めて、俺が言った事に返事をしてくれ」
「はい」
「奴隷の私に、拒否権なんてありませんので」
言われるがまま二人は、俺の小指に自分の小指を絡めた。
「よし。汝、この先何があっても我と共に歩み、この先何があっても、我を裏切る事無く、我に従い、尽くすことを誓うか」
「誓います」
「私も誓いましょう」
誓いを結んだ直後、二人の周りに金色の光の粒子が漂い、二人の全身を覆った。その瞬間、先程まで人を食った様な笑みを浮かべていたミユキの表情が一気に険しくなった。
だが、もう手遅れだ。光が治まった事で、完全にパートナー誓いが成立した。
「私を騙すなんて、ご主人様も酷い事をしますね」
「悪いな、お前を救うにはこうするしかなかったから」
「クッ!」
怒ったミユキは、勢いよくベッドから立ち上がり、俺の前に立った。
「やっぱりあんたも、あのクソ女神の関係者なのか!転生者か!」
《クソ女神って事は、やっぱりあなたもカリンヴィーラの被害者だったのね》
「っ!?声?でも、この声はあの女のものじゃない」
「そりゃそうだ。俺に加護を与えてくれたのはデリウスなんだから」
「何?アイツ以外にも女神が居るって言うの?」
どうやらミユキは、女神はカリンヴィーラ一人だけだと思っているみたいだな。
《はぁ。あの子ならそう言いそうだわ。本当に困ったわ》
とりあえず俺は、ミユキの警戒心を解かせる為に自分の素性を話す事にした。
「薄々勘付いているみたいだが、一つ違う所がある。俺は転生者ではない」
「転生者じゃない?どういう事よ」
「俺の名は帯刀翔馬。勇者としてこの世界に召喚された、転移者だ」
「勇者って、何よそれ。そんなのがいるの」
どうやらミユキは、魔王の事もクフォト王国に召喚された勇者の事も知らなかったみたいだ。箱入り娘だったのか?
「まぁな。んで、頭の中に入ってくる声の主は刀の女神のデリウスだ」
「何だよ。他にも神様がいるのなら、どうして私の町と、私のお父様とお姉様と妹を助けてくれなかったのよ」
《言いたい事は分かるけど、神というのは基本的に下界とは不干渉を貫かないといけないの。どんな災害が起ころうと、神が直接手を下す事は許されないの》
「じゃあ、何でカリンヴィーラは私にやたらと干渉してくるのよ!何で私の邪魔ばかりしてくるのよ!」
それからミユキは、今まで溜まっていた鬱憤を吐き出す様に大きな声で叫び出した。
「私は前世では会社の上司からパワハラを受けて、警察も親も誰も私の味方をしてくれず、暴力を振るわれても全く相手にしてもらえず、そんな人生に嫌気がさして屋上から飛び降りて自殺した!そんな時、あの女が、カリンヴィーラが真っ暗な空間の中で私の前に立った、新しい世界に生まれ変わって幸せな人生を送りたいのかって。冷静であれば断っていたかもしれないけど、あの時の私は気が動転していて、衝動的にカリンヴィーラの提案を受け入れてしまった」
どうやらミユキは、前世ではOLをしていたみたいで、上司から酷いパワハラを受けて自殺してしまったのだな。おそらくその上司は、カリンヴィーラに操られていたのかもしれないな。たぶんその時から、もうカリンヴィーラに目を付けられていたのだな。
「その後私は、前世の記憶を持ったままホラウの町を統治する伯爵の令嬢として転生を果たした。初めはとても幸せだったわ。尊敬できる優しいお父様とお母様に、美人で博学のお姉様と可愛らしい妹まで出来て、本当に幸せだったわ。箱入り娘の世間知らずだった私にも、本当に優しくしてくれた。だけど、二ヶ月前に起こったスタンピードによって町は壊滅的被害を受け、お父様とお母様は魔物に踏み潰されて命を落とした。更に不幸は続き、私の転生に関わったあのクソ女神が民衆の前に立って、スタンピード発生の原因を私達のせいだと出鱈目を言い、民衆の怒りを私達に向けさせた」
やがてミユキは、瞳から大粒の涙を流しながらその場に膝を付いて崩れた。
民衆の前に立ったって事は、カリンヴィーラは今地上に降りているのは間違いないな。デリウスが言うには、一度降りると百年くらいは神界には戻らないそうだ。ミユキがこの世界に転生して十六年だから、カリンヴィーラは今もまだこの世界に居るな。
「怒り狂った民衆によって、私達姉妹は奴隷に落とされた。でも、それだけでは終わらなかった。クソ女神は私を更に追い詰める為に、お姉様と妹をクフォト王国の奴隷商へと送ってしまったの!」
「なに!?」
クフォト王国に送られた奴隷は、死んだ方がましだと思う程に主や民衆から冷遇され、その殆どが過労か暴力によって短い生涯を終えてしまう。
「独りぼっちになってしまった私の前に、あのクソ女神が現れて私を嘲笑ったの!そこではじめて分かったの!あの女は私を更に惨めな思いをさせて、傷つき追い詰められる事を望んでいた事を!私がアイツを問い詰めると、クソ女神は全く悪ぶれる事も無く、その様を悦楽と言い腹を抱えて大笑いしだしたの!」
人の不幸を悦楽と言って笑い、楽しむなんてどうかしているぞ。本当にそいつは、最下級とはいえ女神様なのかよ。何が女神だ、冗談じゃない!カリンヴィーラは悪魔そのものだ!
「その後あのクソが何処に行ったのかは分からない。でも、この世界でも結局は不幸な目に遭うのだと思い、生きる事そのものに絶望してしまった。そんな時、あなたに私は買われた」
涙でくしゃくしゃになった顔で俺を見上げ、縋る様に俺の服を掴んだ。
「あんたが勇者なら、どうして私達を助けてくれなかったの?私のお父様とお母様を、お姉様と妹をどうして。どうして!」
やがてミユキは、俺の胸に顔を埋めて泣き出した。そんな彼女の過去を聞いて、部屋に来ていた女性人達までもが泣き出した。そして俺も、カリンヴィーラがミユキに行った所業に今まで感じた事が無いくらいの憤りを覚えた。人の一生を何だと思っているのだ!
《カリンヴィーラによって、更なるどん底に叩き落されたの。相当辛かったでしょうね。でも安心して、帯刀翔馬とパートナーの誓いを果たした事で、私の恩恵を僅かながら受ける事が出来るわ。それによって、あなたとカリンヴィーラを完全に切り離す事が出来たわ。私や彼が居る限り、あなたには指一本触れさせないわ》
「私だけが助かっても意味がないわよ!お姉様と、妹が、クフォト、おう、こくで、どんな目に遭って‥‥‥!」
確かに、ミユキだけを救えても、ミユキのお姉さんと妹さんは今もクフォト王国で奴隷として暮らしている。二人が辛い日々を送っている中、自分だけが助かるのが許せないのだろう。そんな彼女に、俺がしてあげられる事なんて無いのかもしれない。それでも、ミユキの為に何かしてあげたい。
「デリウス、ミユキのお姉さんと妹さんは今どうなっているか調べられないか?」
《君達をサポートしながら調べるとなると、かなり時間は掛かるけど何とかしてみるわ。カリンヴィーラに勘付かれてもいけないから》
「それでも頼む」
「何よ!お姉様と妹を見つけたとしてあんたに何が出来るのよ!」
「それでも放っておけるわけがないだろ。俺が、いや、俺達がお前のお姉さんと妹さん探し出して、助けてやる。だから」
「バカ!あんたはとんだお人好しだよ!ば、か‥‥‥」
その後ミユキは、ただただ俺の胸の中で泣いていた。そんな彼女に、話を聞いていた女性人達が近づいて寄り添ってくれた。
「もう悲しむ事はありません。あなたはとても素晴らしいご主人様に出会えたのですから」
「私も、お父様と叔父様にお願いして捜索してみます。カリンヴィーラの行いは、私も許せませんから」
「微力ながらも、私も協力します」
メリーとナーナとアリシアさんが、泣きじゃくるミユキに声をかけてくれた。カナデとフィアナは、黙ってミユキの方に寄り添った。そんな彼女達のやさしさにミユキが包まれる中、俺はデリウスに新たな決意を言った。
「デリウス。俺にそのクソ女神を殺すことは出来るか?」




