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「クソ!」

「殺しても殺しても次から次に出てくる!」


 ヴァリーバ鉱山跡地に住んでいるゴブリン達は、その数を一向に減らすことなくどんどん穴から出てきて、ちっとも途切れない。カナデも、いつの間にか武器をリボルバー銃から荷電魔銃に切り替えていた。弾を補充している間に襲われては、ひとたまりもないからな。


「チッ!」


 一匹の力はそれ程強くないが、これだけ数が多いと流石に苦しいな。しかも魔法が使えない。アリシアさんの風魔法でさえ、耐える事が出来ないらしい。近接戦専用の魔法を使っても、魔力を無駄に消費するだけなのでどの道使えない。


「ご主人様!これは流石にマズいです!」

「分かってる!」


 考えろ!この状況を打破する最善の方法を!ゴブリンを倒しながら、俺はそれを考えていた。


《方法ならあるわよ》


 天の助けとはまさにこの事!デリウスがこの状況を打破する方法を教えてくれた。


《皆、帯刀翔馬を円陣の内側に入れて。帯刀翔馬は「ウエルダン」を使う準備をしなさい。正確な数と、位置は私が頭の中に送るから》


 ここで魔法を使えって言うデリウスだが、今はそれを疑問に思っている場合ではない。


((((((分かった!))))))

 デリウスの指示通りに俺は円陣の中に入り、俺が生み出した火魔法「ウエルダン」に集中した。頭の中に、ゴブリン達の現在の分布と、数が頭の中に送り込まれていた。ちょっと待て、何百メートルも先まで列が続いているじゃないか!下手をしたら、洞窟全体を埋め尽くすくらい居るぞ!


《集中しなさい!皆そんなに長くは持たないわよ!》


「分かってる」


 余計な事を考えるな。今はこの状況を打破する事だけを考えろ。

 全ての意識を、こちらに向かっているゴブリン達に集中し、魔力を注ぎ込んだ。全てのゴブリンに魔力を注ぎ込んだ時、魔法を発動させる時だ。


「『ウエルダン』」


 次の瞬間、周囲を取り囲んでいたゴブリン達は全て炎に包まれ、洞窟一帯は火の海と化した。アリシアさん達は、炎が治まるまでひたすら熱さに耐えていた。

 一分後に炎は鎮火し、魔石だけを残しゴブリンは一匹も残らずに消し炭となった。かなりの量の魔力を使ったせいか、「ウエルダン」を食らったゴブリンは骨も残らず焼かれていった。


「ふぅ、何とか崩壊せずに済んだっす」


《崩壊する訳がないじゃん。だって、帯刀翔馬の火魔法「ウエルダン」は対象を黒焦げにする魔法なのだから、振動や衝撃が起こる訳がないじゃない》


「「「「「‥‥‥あ」」」」」


 言われてみればそうだ。「ウエルダン」は、相手を黒焦げにするだけの魔法。そんな魔法が、洞窟全体を揺らす程の振動を起こす訳がない。ならば、使っても何ら問題が無いと言う事になる。

 というか気付けよ!バカか俺は!普段あまり魔法を使わないせいか、その事に気付く事が出来なかった。


《ほら、反省は後。魔石の回収はアリーナに任せて、君達は先に進みなさい》


「ちょっと待つっす!ここでも自分は見せ場無しっすか!」


《さっきの攻撃で、洞窟内にいるゴブリンの九割以上が消し炭になったから、次からは取り囲まれても各々で対処が出来るわ》


「聞いてるっすか!自分はあんたのパシリっすか!」

「よし任せた」

「お願いします」

「任せた」

「感謝します」

「黙って回収しろ」

「皆酷くないっすか!?自分一応神様っすよ!」


 一応ではなく、正真正銘の神様でしょう。だけど、皆から酷い仕打ちを受けて半泣き状態の女神を置いて、俺達は先へと進んだ。途中、何匹か生き残ったゴブリンと交戦したが、少数であればこちらに勝機は十分にある。その筈だった。


「にしても、何でうじゃうじゃ出て来る」


 さっき「ウエルダン」を使ったので、それで全体の9割くらいのゴブリンを屠る事が出来た。これは間違いない。

 しかし、さっきからゴブリンが途切れることなく、俺達を迎撃しに来ている。それに、一つ気になる事もある。


「確かに、この数は異常です。私もマップで確認してみたのですが、中腹と上層にいるゴブリンの数がそんなに減っていない様に思えるのです」


 アリシアさんも、俺と同じ疑問を抱いたみたいだ。

 そう。洞窟内に居るゴブリンの数は、減るどころか逆に増えて言っているのだ。

 上層部にいるゴブリンは、俺達を迎え撃とうとしていないのか、一匹たりとも増えても減ってもいないし、動こうともしていない。おそらく、上層に居るゴブリン達は何かに怯えてその場から動こうとしていないのかもしれない。

 それに対して、中腹部に居るゴブリン達の数がどんどん増えていっている気がするのだ。それも、一秒に一匹のペースで。


「デリウス。ゴブリンの繁殖力と成長速度って、こんなに早いもんなのか」


《んな訳ないでしょ。どうしてこんなに増えてきているのか、私が知りたいくらいだよ》


 デリウスでも、原因は分からないか。だけど、確実にゴブリンの数は増えてきている。このままでは、またさっきの様に取り囲まれてしまう事も考えられる。

 走りながら俺は、マップ内に表示されている全てのゴブリンの位置情報を確認した。そして、再びゴブリン達が襲い掛かってくる前に魔法を発動させた。


「『ウエルダン』」


 前にいたフィアナに剣が振り下ろされる直前、ゴブリン達が再び炎に包まれ燃えていった。念の為、上層部に居たゴブリンもまとめて消し炭にした。思えば、マップをここまでフルに活用したのは今回が初めてなのかもしれない。使える様になってまだそんなに経っていないのだけど。

 お陰で、かなりの魔力を消費した。


「ご主人様、ポーションです」

「サンキュウ、メリー」


 枯渇寸前の魔力を、メリーから貰ったポーションのお陰で回復する事が出来た。


「よし、これで洞窟内に居るゴブリンは全て消し炭に‥‥‥」


 空の瓶をメリーに渡し、マップで確認すると目を疑う様な光景が広がった。


「ちょっと、何で!」

「一体、どうなっているんだ!」


 俺のマップを確認したカナデとフィアナが、声を揃えて驚いた。無理もない。何故なら、俺達がこれから向かう中腹部の大空洞からまた新たなゴブリンが次々と出現してきているのだ。


「一体どうなってんんだ!?」


《分からない。そもそも、何もいない空洞からゴブリンが湧いて出て来るなんてあり得ないわ。こんなの、自然じゃないわ》


 もはや何が何だか分からない。一体なぜ、何も無い所から生き物が誕生するのか?そして、そのからくりは一体?


「何も無い所から突然魔物が‥‥‥っ!?まさか!」


 どうやらアリシアさんが、何か気付いたみたいだ。


「何か分かったのか」

「まだ憶測でしかありませんが、おそらくこの鉱山は卵産虫に取り憑かれている可能性があります」

「「「「らんさんちゅう?」」」」


 聞き慣れない言葉に、俺とカナデ、メリーとフィアナは首を傾げた。


《卵産虫って、あの気味の悪い女王アリみたいな魔物か。確かに、それは盲点だったわ》


 どうやらデリウスには、卵産虫が何なのか分かったみたいだ。というか、二人だけで納得しないで欲しいぞ。


「卵産虫というのは、土地に寄生してあらゆる魔物を無限に産み落とす事が出来る昆虫型の魔物で、第一級危険魔物の一匹として登録されているのです。その理由は、食べた魔物を体内で量産し、卵として産み落とすのです。その卵から生まれた魔物は一瞬で大人になり、生みの親である卵産虫を守らせるのです」


 土地に寄生するタイプの魔物って、そんな魔物が居たなんて聞いていないぞ。しかも、卵は産み落とした瞬間に孵り、一瞬で大人になるなんて反則だろ。って事は何か?上に居たゴブリン達は、その卵産虫を恐れて逃げ込んだ連中だったのかよ。


《だけど、個体としての強さは皆無で、大抵は食べようとした魔物の返り討ちに遭って死んでしまうけどね。完全な独活の大木だね。ま、代わりに知能が高いのだけどね》


「はい。それによって、運よく捕食できるとその場に寄生し、すぐに卵を産んで自分を守る為の魔物を無限に産み落とすのです」

「それじゃ、母体となっている卵産虫を倒さないと無限にゴブリンは増え続けるって事なの!?」


 事の重大さに気付いたカナデが、声を荒げた。

 幸か不幸か、卵産虫は数が非常に少なく、その上スライムよりも弱い魔物。だが、その驚異的な繁殖力にギルドも頭を抱えており、大抵は他の魔物が食われ、その土地に寄生する前に討伐に向かった冒険者に倒されるそうだ。

 だけど、ごく稀に討伐される前に何かしらの魔物を食って大繁殖してしまうと、銀ランク冒険者であっても手を付けられなくなってしまうのだ。こうなると、もう母体を直接叩かないと取り返しのつかない事になってしまう。

 卵産虫がマップに表示されないのは、土地に寄生し、その土地の一部となってしまっているからだという。

 そうなる前に早く討伐しないといけない。その理由は二つある。

 一つは、王都に向かう前にオリエの町に向かっていたスタンピードを、引き起こしやすくなってしまうからである。


「つまり、中腹より下に居るゴブリンは全てその卵産虫によって無限に産み落とされたものだったのですね」


 気になっていた事が分かって、メリーは少し納得いったという表情を浮かべていた。どうやら、何故こんなにゴブリン達が湧いて出てきていたのか、ずっと疑問に思っていたのだろう。

 そしてもう一つの理由が、寄生された土地の土の養分を吸い尽くされてしまい、植物が育たなくなってしまう。そうなると、聖魔法と土魔法を使える者が早急に養分を与えないと、水も吸収できない程カラカラに乾ききった荒れ地と化してしまう。


「なら、早く退治しないとこの辺り一帯の植物が枯れてしまうぞ」


 幸い、聖魔法はアリシアさんが、土魔法はフィアナが使える。早く母体を潰して、この辺りの土を再生してあげないと。


「そうと決まれば、早く退治しに行かないと」


 俺は再び意識を集中させて、ゴブリン達に「ウエルダン」を発動させた。その後は少しでも遭遇するゴブリンを減らす為に、俺達は急いで中腹部の大空洞へと走って行った。少しでも体力を温存する為に、会話は念波で行われる事になった。


(それにしても、何でギルドは卵産虫の寄生に気が付かなかったんだ?翔馬に聞いたが、魔物の情報は常に把握出来るように近隣の住民は冒険者、旅の行商人等の人達から情報を得ているのだと聞いたぞ)


 フィアナが言っている事は、以前アリシアさんから聞いた事で、いろんな人達から得た情報を基に調査隊が現地に行って調べに行っているのだ。そうする事で、討伐対象の魔物の危険度と、討伐に向かわせる冒険者のランクを決めるのがギルドの仕事の一つでもある。


(おそらく、場所がヴァリーバ鉱山跡地だったからだと思います。この山はゴブリンの巣窟として既に広まっていますので、この山からゴブリンが出てきたとしても誰も不思議に思わないですし、そうして放っておいた結果このような事態を招いたのかもしれない)


 つまり、情報を提供してくれる人達が、この山を危険視していなかった事で何か魔物が入り込んでも見向きもせず、気付いた人がいてもどうせまたゴブリンだと決めつけて更に放置する。放置し続けた結果、卵産虫に寄生されてしまった。元々荒れ果てた鉱山だったので、寄生されただなんて誰も思わないし。


(仮に卵産虫が入り込む現場を目撃したとしても、ゴブリンが独活の大木と呼ばれているくらいに弱い卵産虫に食われるなんて思う人もいません。だから誰も気が付かなかったのでしょう)


 メリーの予想通りだと思う。怠慢と放置が、こんな事態を招いてしまった。

 だけど、このまま放置する訳にもいかない。


(カナデ、お前が母体の卵産虫を荷電魔銃で仕留めろ。卵産虫はスライムより弱いから、一発撃てば)

(嫌よ!)


 寄生している卵産虫を仕留める様にカナデに言ったが、何故かそれを全力で拒否された。


《あら?どうして嫌なの?卵産虫を殺せば、カナデにも帯刀翔馬が持っている称号と同じものを得られるのよ。名誉な事じゃない》


「蟲殺しの何処が名誉な事なのよ!そんな気色の悪い称号なんていらないわよ!」


 思わず声に出すくらいに嫌なのだろう。どうやら、卵産虫を殺す事で得られる称号が蟲殺しという称号なのだな。そりゃ、女の子ならそんな称号なんて欲しくないだろう。

 というか、そんな称号が「ファウーロ族の英雄」と、「ドラゴンスレイヤー」と同等に扱われるのも嫌だ。


(そんな称号なんて欲しくないから、ショーマの「ウエルダン」で何とかしなさいよ!)

(無理だろう。あれは相当な集中力がいるみたいだし、戦いながら発動させるなんて)

(あたしが死に物狂いてゴブリン達を食い止めるから、ショーマが何とかして!それに、どうせなら「ゴブリンスレイヤー」の方が良いわよ!)


 どうやら、ゴブリンを倒すと「ゴブリンスレイヤー」という称号が得られるらしい。デリウス曰く、一日に五百匹以上のゴブリンを倒すと貰えるらしい。ちなみに、俺のその他の欄にはすでに「ゴブリンスレイヤー」の称号が追加されているそうだ。


(翔馬がやれって言ってんだから、お前がやれ)

(そうです。カナデ様しか出来ない事ですから)

(ご主人様からご指名を受けておきながら投げ出すなんて、許される訳がありません)


 メリーの発言はちょっと大袈裟だし、それは奴隷であるメリーの感覚。なので、奴隷ではないカナデには俺の命令に絶対に従わないといけない理由なんて無いから。

 それにしても、皆酷くない?俺が指示しておいてなんだが。


(ちょっと!この場にあたしの味方はいないの!?)


 泣きべそをかきながらも、カナデは卵産虫を撃ち殺し、蟲殺しの称号を得る事を渋々承諾した。

 プランも決まった事で、俺はもう一度「ウエルダン」を発動させて、ある程度数が減ったのを確認してから金鉄も抜いて先頭に立った。なんか最近、二刀流を使う機会が多いな。

 それはさて置き、大空洞までもう少しという所で再びゴブリンの群れに遭遇し、俺は金鉄と海鉄でゴブリン達の胴体を斬っていった。予想はしていたが、いくら斬っても目の前の大空洞からゾロゾロと出てきていた。


「翔馬、今度は私が前に出る」


 黒曜を抜いたフィアナが、俺の前に出てゴブリン達を次々と斬っていった。斬ったというよりは、吹き飛ばしたと言った方が正しいのかもしれない。


「おぉ、怖っ」


 見た目によらず、重さが二トンもある黒曜の一撃を食らっていた為、ゴブリンの肉体がそれに耐えられなくなったのだろう。武器や盾でガードした奴も、武器諸共斬っていった。武器は粉々になったが。


「翔馬!早く魔法を!」

「おぉ、そうか」


 フィアナの意図を理解した俺は、もう一度洞窟内に居る全てのゴブリンに意識を集中させて、「ウエルダン」を発動させた。注ぐ魔力をセーブしたので、消し炭ではなく黒焦げにしたので、本体は残っているが間違いなく絶命している。


「行くぞ」

「待てフィアナ!足元には気を付けろ!」


 さっきと違って、今は足元にゴブリンの死体が転がっているので、それにつまずかない様に気を付けなければならない。


「これが‥‥‥」

「はい。間違いありません、卵産虫です」

 大空洞に入ると、向こう側の壁に五メートルくらいはある大きな蟻の姿をした魔物を見つけた。足が完全に壁と同化し、遠目からだと壁に張り付いている様にも見える。

 だけどお腹の先からは黄土色の長い管の様な物が出ており、先端が地面から10センチ手前の所で浮いていた。その先端からドロッとした丸い物体が出てきた。おそらくその丸い物体が、卵産虫の卵なのだろう。

 その卵から、ゴブリンの子供らしき魔物が生まれ、生まれた直後にブクブクと大きくなりあっという間に大人になっていた。しかも、武器まで持っていた。

 そうして気付けば、あっという間にまたゴブリン達に囲まれてしまった。


「クソ!またこれか!」


 母体はもう目の前に迫っているのに、生まれて来たゴブリン達が途絶える事無く襲い掛かっていた。


「ゴブリンは俺達でどうにかするから、カナデは母体の卵産虫を仕留めろ!」

「あぁもう!」


 どうしても蟲殺しの称号を受け入れられないカナデだが、ヤケクソ状態で荷電魔銃を構え、正確に卵産虫の眉間と胴体を撃ち抜いた。危険度の高い魔物だが、スライムに倒せれるくらいに弱い為、たった二発の魔力弾によって卵産虫は呆気なく絶命した。

 あとは目の前にいるゴブリン達を狩っていくだけだ。その中に魔法を使おうとしていた種類もいたが、こちらの攻撃の方が早く、魔法を放つ前にそのゴブリンを倒した。

 母体である卵産虫が死んだので、ゴブリン達がこれ以上増える事は無く、十分程で全滅させた。


「あぁ、疲れた」


 海鉄と金鉄を鞘に納め、メリーから貰ったポーションで魔力を回復させた後、ボソッと口に出てしまった。


《魔石の回収はアリーナに任せて、あなた達は急いでこの洞窟から出なさい。卵産虫が寄生してしまったせいで、洞窟の地盤が緩み、あと三十分程で鉱山全体が崩壊するわ》


「「「「「ウソでしょ!」」」」」


 驚愕の事実に、俺達は慌てて武器を納め、来た道を慌てて走って戻っていった。

 というか、全壊するくらいにこの山の養分が吸い尽くされていたのなら、わざわざ俺達が入る必要なんて無かったのではないだろうか!放っておいても、崩壊した瓦礫でゴブリン諸共潰されて、どの道全滅するんじゃないか!これも、放っておいたツケなのか!?

 いろいろと言いたい事はあったが、今はこの洞窟を抜けて出来るだけ遠くへと避難する事を最優先にしないといけない。マリアは、転移魔法が使えるから大丈夫だろう。

 走り続ける事三十分。何とか洞窟を抜け出し、大急ぎで馬車へ乗り込み、御者台に座ったメリーが桜と紅葉を走らせた。

 馬車を走らせてから間もなく、ヴァリーバ鉱山跡地はバキバキバキと音を立てて崩壊していった。岩と砂利の波が、物凄い勢いとスピードで俺達に襲い掛かってきた。このままでは追い付かれる。


「『アースウォール』」


 馬車から手を出したフィアナが、土魔法で大きな壁を作って岩と砂利の雪崩をせき止めてくれた。


「『突風』」


 続けて砂埃を、アリシアさんの風魔法で吹き飛ばしてくれたお陰で全員被害を受けなくて済んだ。


「もぉ!皆今回は自分の扱いが酷過ぎるっす!」


 でもなかった。砂埃で汚れたマリアが、転移魔法で馬車の中へと転移して来た。頭には大きなたんこぶが二つ出来ていた。おそらく、落ちて来た瓦礫に頭を打ったのだろう。ご愁傷様。


《それよりもアリーナ、魔石の回収は全てすんだのでしょうね》


「戻って来て早々この扱いって、なんか悲しいっす」


 ドンマイ。その代り、俺達はマギグラムゴブリンの魔石だけを貰うから、後はマリアの好きに使ってもいい。


「はぁ‥‥‥。これが、マギグラムゴブリンの魔石っすよ」


 そう言ってマリアは、アイテムボックスから十センチ未満の小さな虹色の魔石を六つ取り出し、俺に渡した。


「結構派手な色をしてるんだな」

「ゴブリンの中で数少ない、魔法が使えるゴブリンだから魔石の純度も高く、色も派手になるっす」

「なるほど」


 六つのマギグラムゴブリンの魔石を受け取った直後、マリアは突然唸る様に顔を強張らせ、両手の人差し指を立てて蟀谷に当てた。何やってんだ?


「それ!」


 間の抜ける掛け声を出した直後、周りの景色が突然一変して見慣れた景色が目の前に広がった。


「約束通り、古代樹の森まで送ってあげたっす。これ以上デリウスの指図を受けるのはまっぴらなので、自分はこれで!」


 俺達を古代樹の森の前まで送ってすぐ、マリアは逃げる様にして俺達の前からパッと姿を消した。輪郭ぶれる訳でも、姿が徐々に薄くなる訳でもなく、一瞬でその場から姿を消したのだ。


《転移魔法を使ったのよ。さて、サラディーナ様に報告を》


「おいおい!約束が違うだろ!」


《冗談だよ》


「鬼かよあんたは」


《女神様だよ》


 見えた訳ではないが、何となく目元でVサインをしていそうだ。やっぱり、デリウスもマリアも所詮は同じ穴の狢って事だろう。何だかまた、女神様に対する評価が下がってしまった気がする。


《いやぁ~照れるにゃ~》


 そこは照れるところではありませんぞ、この天然マイペースドM駄女神。


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