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41 五つの御霊と新たな依頼

「それは大変だったな。君はつくづく、魔族に好かれているね」

「魔族になんて好かれたくありませんが‥‥‥」


 オリエの町に帰ってきてすぐ俺達はギルトへ入り、俺はヤンシェさんにサナさんの手紙を渡す為にギルド長室へと通された。アリシアさん達は一階で待ってもらっている。

「しかしまぁ、最強の武闘家と称されるマリア殿と親しくなり、その伝手でファウーロ族の集落へ赴き、そこで英雄になるなんて」

「英雄って、大袈裟な」

「でもそういう事だろ。おまけに、ファウーロ族歴代最強戦士まで仲間に加えるとは」

「こっちは大変だったんですけど‥‥‥」


 来た当初は因縁をつけられるし、自分こそが最強なのだと思い込んでいる大馬鹿雑魚戦士と無意味な決闘をして、魔族となってしまった敵部族の親玉と戦って。本当に大変だったぞ。


「まぁまぁ。それより、折角それだけの大活躍をしたのだから、明日また来るよいいよ。私のポケットマネーで報酬を与えよう」

「いえ、そこまでしなくても」

「気にしないでくれ。ここまで頑張ったのに無報酬なんて良くない。次にそう言った事があったら、ちゃんとそれに見合った報酬は要求した方が良い。でないと、君一人だけが損する事になるから」


 見合った報酬か。一応、ミスリルの杖と赤獣の盾を貰ったのだけど、それとは別に俺にとって特になる物も貰わないといけないのか。


《今回は初めてって事で、マリアも何も言わなかったみたいだし、そもそもあんな状況で報酬なんて要求できなかったでしょうし。次気を付ければいいよ》


 まぁ、無償で行うのが良いのかもしれないけど、それでは依頼を受けた方が一方的に損をするだけになってしまう。


「申し訳ございません。私が至らないばかりに」

「気にしないでくれ。これは私の厚意だから、君は気にしなくていいよ」

「ありがとうございます。では、また明日お伺いします」


 ヤンシェさんにお礼を言った後、俺はギルド長室を後にして一階へと足を運んだ。

 そこで何やら騒ぎがあり、男達が誰かを中心に集まっていた。


「ショーマさん」

「ショーマ」

「ご主人様」


 アリシアさんとカナデとメリーが、困った表情で俺の元へと駆け寄った。ん?なんか一人足りない。


「まさか、男達が囲んでいるのって‥‥‥」

「はい。フィアナさんです」


 あぁ、やっぱりそうか。

 アリシアさんが言うには、俺がギルド長室に入った直後に男達が次々とフィアナに群がり、ナンパだの、パーティーの勧誘だの、いろいろと声を掛けられているみたいだ。当のフィアナは、そんな男達を罵倒し続けており、それでも諦めない男達のしつこい誘いを今受けているのだそうだ。

 確かにフィアナは、絶世の美女と言っても良いレベルの美人だ。その上、民族衣装とはいえ露出の多い衣装を身に着けているのだからな。人が多い所に行けば、ナンパに合うのも仕方なしなのか?

 でも、これ以上フィアナをあのままにはできないので、俺は頭を抱えながらもフィアナの助けに男達の間を割って入って行った。そこには、いくら声を掛けられても全くの無関心を貫いているフィアナの姿が見えた。


「フィアナ!」

「お、翔馬。やっと戻って来たか」


 俺を見つけると、フィアナは嬉しそうに俺の手を握って駆け寄ってきた。


「大丈夫か?」

「ちっとも。こいつ等いくら断ってもしつこくてな」

「はは‥‥‥」


 何だろう。周りから物凄い殺気を感じる。これ以上ここにいたら、とんでもない事が起こりそうな気がする。

 俺は一刻も早くここから逃げる為に、フィアナの手を引き、皆を呼んでギルドを出た。近くに止めてあった馬車に乗り込み、大急ぎでオリエの町を後にした。

 面倒事は、これ以上御免だ。


        ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ、疲れた」


 翔馬との念波を切り、自室のベッドに横たわるデリウス。


「それにしても、帯刀翔馬の身に一体何が起こってるんだ?」


 まだ一月ちょっとしか経っていないのに、レベルが100を超えていたり、その上スキルが幾つかSSになっていたりと、ただでさえこんなに面倒な事が起こっているというのに。


「だけど、あの声の主は一体誰だったのだろう?」


 女性の声であるのは間違いないが、ここ神界に居るどの女神の声とも違う。そもそも、誰にも加護を与えていない神が他の神の念波に干渉するなんて、神にとってはマナー違反でありそうそうできる事ではない。アリーナの様に、地上で人化しているのであれば話は別だ。完全なる禁じ手であるが。

 でも、あの声の主は間違いなく神界から干渉してきていた。

 しかもあれは、念波ではなく御告げであった。御告げと言うのは、神が自分の加護を持つ人間にありがたいお言葉を送る際に使う物。尤もそれは建前にすぎず、実際は加護の有無を問わず自由に声をかける事が出来るのだ。

 声の主は、これを使って私達の念波に干渉してきたのだ。それでも、念波が繋がっている間は御告げも伝える事が出来ない筈だ。上級神と最高神でもない限り。


「かと言って、上級神の五人の物でもない。最高神様は論外」


 一体、あの声の主は誰なのだろうか。念波ではなく御告げを使ったのは、神気を辿られて干渉した相手を特定されない様にするのが目的だろうけど、こんな効率の悪い方法は普通取らない。

 そして、十日間でデリウスが掴んだ情報も気になる。


「世界神様は一体何の為に地上に自分の御霊を?」


 翔馬に直接繋がる事ではないが、気になる情報だったので頭に入れていた。

 十七年前、最高神であられる世界神様の宮殿から、青色の大きな光が現れ、それが地上に向かって落ちていったのだそうだ。光と言うのは、十中八九御霊だ。

 神が自身の御霊を授けるのは、地上にかつてない程の危機が迫った時に与えられる物。そして、その御霊を宿した人間は神の勇者となり、いずれはデリウス達と同じ神へとなる存在だ。

 十七年前と言ったら、丁度翔馬が生まれた時と一緒。ただの偶然だと言えばそれまでだが、偶然にしてはあまりにも出来過ぎでいる。

 それに、気になる事はもう一つある。


「大きい御霊を送った後、何で翌年に小さな御霊を4つも地上に送ったのかしら?」


 送られた御霊は全部で五つあり、大きい御霊が一つと、小さい御霊が四つ。それぞれ、青、赤、黄、緑、紫の五色が地上に送られた。

 そんな中、翔馬はフィアナと出会い、彼女と、アリシア達三人と共に声に導かれ、あの壁画を目にした。まるで、運命に導かれるみたいに。


「あぁもう!訳が分からない!」


 一体神界で何が起こっているというのだ?魔王の誕生と言い、御霊の件と言い、太陽の鏡がアリシアに与えられた件と言い。

 もはや、デリウスの頭はパンク寸前まで追い込まれていた。


「神絡みなら、とりあえず旅を続ければ良いかもしれないけど、何で彼女達が?帯刀翔馬ならまだ分かるが」


 他の四人の勇者には、そう言った事は起こっていなかった。何故翔馬と彼女達四人にだけ起こるのだろうか。


「旅を続けていれば、いずれ答えも分かるだろうけど。分からないまま進めるのは不安があるわ」


 やはり地上に行けないのがもどかしい。

 そんなもどかしさを抱えながら、デリウスはベッドの中で深い眠りに就いた。


       ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ふん!ふん!ふん!」


 オリエの町に帰ってから五日が経った早朝、俺は円形広場の一角で二メートルに及ぶオリハルコン製の大剣を二本、両手に持って素振りをしていた。

 クマガとの戦いの後、二刀流のスキルがSランクに上がっていた為、更に使いやすくさせる為に重さ二百キロに及ぶ大剣を訓練用に作り、それを毎朝行っていた。

 普通の人間が、重さ二百キロの武器を片手で振るなんて絶対に無理だし、そもそも両手でも持ち上げられる物でもない。それが出来るのは、ランクSの剛力のスキルがあるお陰でもある。


「ふぅ‥‥‥」


 素振りを終えた俺は、二本の大剣を木の近くに置いてあったアイテムボックスの中に入れ、代わりに水を取り出した。

 そんな俺に二頭の馬、桜と紅葉が近づいて顔を寄せてきた。


「心配してくれているのか?ありがとう。俺は大丈夫だから」


 この五日間で俺が新たに始めた事は、二刀流の訓練の他にも御者や乗馬の技術も学んだ。特に桜とは相性が良く、騎乗した状態でも刀を振る事が出来た。その為、それ用の槍も作ってしまった。ほんの出来心です。


「さてさて、あいつ等は‥‥‥」


 桜と紅葉を引き連れ、俺は大木の近くで訓練をしている女性陣の様子を見に伺った。

 そこには、木にもたれて息を荒くさせているアリシアさんとカナデの姿が見えた。


「まったく。二人とも、鍛錬が足りないぞ」


 そんな二人と、フィアナが呆れ半分で見ていた。言うまでもなく、二人を打ち負かしたのは彼女である。

 何でこうなったのかと言うと、女性陣は基本的に個々にあった訓練をそれぞれ行っていたのだが、フィアナが「相手がいないと面白みがないだろ」と言う事で、今日から女性陣全員で一緒に訓練を行う事になった。

 剣術がからっきしのカナデは当然として、


「何か今酷い事言われた気がする」


 アリシアさんまでもが、フィアナに一方的に打ち負かされるなんて、流石は元ファウーロ族歴代最強戦士だ。


「とは言え、訓練なんだからわざわざ本物の剣を使わなくてもいいんじゃない」

「あぁ翔馬か。そっちは訓練を終えたか?」

「あぁ」


 俺の姿を見たフィアナの表情がパッと明るくなり、速足で俺の元へと駆け寄った。


「誤解が無いように言うけど、当ててなどいない」

「だけど、あまり追い込み過ぎるのもな」


 何事も限度と言うものが大事である。元々二人とも、前衛ではなく後ろから俺達の援護をする後方支援がメインだから、白兵戦が苦手なのも無理からぬ事だ。


「だけど、いざと言う時ちゃんと戦えないのも困る。特にカナデは、剣術が全くダメで、あれは金輪際剣を握らせない方が良いレベルだ」

「うん。それには同意する」

「って、ちょっと!」


 お世辞にも、カナデの剣の腕は子供のチャンバラごっこ未満だからな。そんなカナデに剣を握らせること自体が間違っている。そんなに大きく頬を膨らませても、ダメなものはダメ。


「だけど、人には適材適所と言うのがあるから、射撃が得意ならそれをもっと伸ばす方向が良いと思うぞ」

「まぁ、翔馬が言うのなら‥‥‥」


 いまいち納得していない感じだが、その人にあった戦い方を進めるのは、魔物との戦闘で命を落とすリスクを減らす為でもあるからな。


「でしたら、わたしがお相手いたします」


 そんな中、サリーとローリエと一緒にオリエの町まで買い物に行ってきたメリーが丁度帰ってきて、フィアナの稽古相手に名乗りを上げた。


「お姉ちゃんはとっても強いの~」

「ん」


 メリーの強さを、身体全体を使ってアピールする妹のサリーと、コクッと頷くだけのローリエ。確かに、ファウーロ族とクアガ族の戦で、メリーのレベルは飛躍的に上がった。それこそ、今のフィアナの同じくらいに。


「メリー、やれそうか?」


 俺が心配するのは、今メリーが着ているのはサリーとローリエと同じメイド服だからである。流石に戦いにくいだろう。


「はい、大丈夫です。サリー、ローリエと一緒に先に上がって朝食の準備をしてきて」

「はいですぅ~」

「ん」


 メリーから荷物を受け取ったサリーとローリエは、先にツリーハウスへと上がった。メリーはアイテムボックスを俺に預け、腰に差してあったライキリを抜いた。ライキリも、クアガ族との戦いで大活躍したからステータスが変わったのだった。

 それがこちら↓


=========================================


 名前:雷切

 ランク:S

 種類:刀

 持ち主:メリー

 能力:連撃向上・切れ味アップ・早撃・雷吸収・不壊

    持ち主固定


=========================================


 名前が漢字表記になっていただけでなく、能力が新たに2つも加わっていた。ハッキリ言って、フィアナが使っている剣では勝負にもならない。

 けど、使っている武器の良し悪しで勝負が決まるとも限らない。最終的には、その人の経験と練度がものを言う。


「今度はメリーか。翔馬の良き右腕らしいが、それも今日限りだ」

「あくまで勝つ気でいらっしゃるのですね。自信を持つのは結構ですが、相手の力をきちんと見極める事も大事です」


 メリーが雷切を構えると同時に、フィアナは左足を強く踏んで跳んだ。神速のスキルを使ったな。だけど、メリーはそれをいとも簡単に避け、先程のフィアナよりも素早い動きで背後に回った。


「くっ!?」


 攻撃されるギリギリのところで、フィアナは何とかメリーの攻撃を剣で弾いた。けれど、それでメリーの攻撃が止む筈もなく、また目にも止まらない速さでフィアナの背後、あるいは横をどんどん攻めていった。

 メリーって、隠密のスキルが無くても自分の気配を殺して相手に接近する事が出来るから、フィアナもそれにかなり苦戦している様だ。その上、通常の神速スキルでは考えられない程の速さで動くから、それによって捕らえるのが更に困難になって言っている。

 これには流石のフィアナも、かなり苦戦している様だ。


《味方で本当に良かったわね》


 あぁ、本当に味方で良かった。

 そんなメリーの猛攻が続く中、フィアナが意地を見せた。次のメリーの攻撃を、フィアナは剣で弾くのではなく半歩下がって躱し、同時にメリーの手首を掴んだ。


「なっ!?」

「私を、嘗めるな!」


 メリーの特攻の勢いを利用して、フィアナは五~六回転回った後メリーを、大木を囲んでいる森の方へと放り投げた。投げ飛ばされたメリーは、ドンと大きな音を立てて背中を気に叩き付けられた。

 人一人をあんなに遠くまで投げ飛ばすフィアナの怪力も、実践においてはかなりの脅威である。華奢な身体に似合わず、ゴリゴリの筋肉マッチョな男よりも力が強く、そこに剛力のスキルが加わると素手でゴーレムを吹っ飛ばしてしまいそうなくらい。


「このぉ!」

「くっ!」


 背中を木に打ち付けられてすぐにメリーは起き上がり、猛攻を仕掛けてくるフィアナの首元を雷切で捉えた。

 それと同時に、フィアナもメリーの左脇腹を捉えた。

 相打ちであった。パッと見は。


「相打ちでございますか」

「貴様はかなりの腕前の様だな」


 二人ともその態勢のまま動かなかったので、俺はすぐに二人の下へと駆け寄った。俺から少し遅れて、アリシアさんが俺の隣へ駆け寄った。カナデはと言うと、まだ遠かった。


「ご主人様」

「翔馬」

「あぁ。二人ともそのままで」


 この態勢を崩されると、本当の勝敗を告げる事も出来ないし、その訳も教える事も出来なくなってしまう。


「メリーさんすごいです。フィアナさんと相打ちだなんて」

「いや、この勝負はメリーの勝ちだ」

「「「え!?」」」


 俺の判定に、メリーとフィアナはもちろん、アリシアさんも驚いていた。丁度そのタイミングで、カナデが息を切らせながら到着した。


「ちょっと待て!納得がいかない!何故なんだ、翔馬」

「まぁ待て」


 この結果に異議を申し立てたのは、負け判定を受けたフィアナであった。でも、それにもちゃんと理由がある。


「フィアナ、剣をメリーの脇腹に当ててみろ」

「何だ急に?」


 言われるがまま、フィアナはメリーの脇腹に剣を当てた。その直後、剣はバキッと音を立てて折れてしまった。

 そう。これこそがフィアナの敗因である。

 対してメリーの雷切は、ヒビはおろか刃毀れすらしていなかった。


「まさか、ただ触れただけで折れてしまうなんて‥‥‥」


 自分の敗因を知ってフィアナは、呆然自失のまま剣をボトッと落としてしまった。メリーはフィアナからゆっくり離れ、雷切を鞘に納めた。

 いくら武器に性能の差があったとはいえ、フィアナ程の腕があれば簡単に折れる事は無い。

 だが、俺との決闘の時と言い、クマガとの戦いの時と言い、何故かいつも剣が折れてしまっている。

今回の模擬戦で、その原因が分かった。


「なぁ、フィアナ。その折れた剣も含めて何本剣を折ったんだ?」

「‥‥‥この剣で、七本目だ」


 これまでの戦いで、七本も剣を折っていたのか。それを聞いて確信した。


「敗因は、その剣がお前に合っていなかったからだと思う」

「剣が、私に合わなかっただと!?」


 旅立つ際に、フィアナは予備で五本の剣を持ってきていた為、その剣を一本貰って、鑑定眼で確認した事がある。何処にでもある鉄の剣だが、造りが良くそう簡単に折れるとは思えなかった。

 けどそれは、俺や他の冒険者が使った場合であって、フィアナには合わなかったようだ。


「剣が合わないなんてあるの?」

「あるぞ。剣にも、刀や直剣、片手剣に大剣、柳葉刀やレイピア等、いろいろと種類がある。その中から、自分の戦闘スタイルにあった剣を選ぶことで、自分に優位な戦い方が出来るんだよ」


 例えば、俺の場合は刀と両手剣、片手剣と言った斬撃メインの剣を使った戦闘を得意としていて、逆にレイピアみたいな刺突に特化した剣は苦手。

 メリーの様に、自力で剣術と刀術を会得する者もいる。その場合、その武器に合った戦い方を持ち主が身に着けていくのだ。


「フィアナは、今まで使っていた剣で思う所はなかったか?」

「武器にケチつけるつもりは無いが、強いて言うのなら軽すぎるかな」

「軽い、か」


 実際に持ってもみたが、普通の片手剣より少し軽いとは思ったが、それでもそれなりの重量はあった。カナデが両手で持っても一振りがやっとと言うくらいに。

 そんなファウーロ族の剣も、フィアナにとっては軽すぎて逆に扱いにくいのだろう。


「つまり彼女には、ある程度の重量のある剣が合うとご主人様はでおっしゃるのすか?」

「確証はなかったが、今回の模擬戦を見て確信した」


 だけど、ただ重ければよいという訳でもない。ここに連れて来た当初、俺は自分の持っていた剣を何本かフィアナに使わせてみたが、どれも反応がいまいちと言った感じであった。俺が二刀流の稽古で使っている、オリハルコン製の大剣くらいの重量でも軽そうに扱っている様に見えたが、実際に振ってみたらかなり使い辛そうにしていた。

 そこからフィアナに合った剣を想像するに、形状はやや細身の直剣タイプで古墳時代辺りの剣。されど、重量は二百キロオーバーでないと逆に扱いづらい様だ。


「作れそうですか?ご主人様」

「作るにしても、今持っている材料ではな‥‥‥」


 軽すぎるミスリルは論外、ヒヒイロカネでは普通の鉄の剣と大して重量が変わらない、力と破壊力に優れたレッドアイアンが一番合いそうな気がするが、それでもフィアナには少し軽すぎる。オリハルコンぐらいが丁度良いだろうか?

 そんな時、デリウスから面倒な情報が入った。


《そこで私からありがたい情報をプレゼント♪朝食を食べ終えたら、すぐにオリエの町へ行きなさい。丁度良い依頼が舞い込んできたから、それを受けなさい。同時に、フィアナの剣を鍛えるのにうってつけの鋼材も一緒に手に入るわよ》


 俺がフィアナの剣をどう作るのかを構想を練っている時に、デリウスから突然の依頼話が入ってきた。実際に依頼を出しているのは、オリエの町の住民なのだけど。

 それにしても、何で何時もこう丁度良いタイミングで、丁度良い話が舞い込んでくるのだろうか?これも、異世界の勇者が持つ大強運のせいなのだろうか。


「ご主人様~!ご飯できましたの~」


 丁度そのタイミングでサリーが俺達を呼んだ。

 稽古を切り上げた俺達は、すぐにツリーハウスへと向かい朝食を取った。そこで俺達は、今回の依頼に同行するメンバーを話し合って決めた。訂正、話し合ってではなく、アリシアさんとカナデ、メリーとフィアナでジャンケンをして決めていたのだ。

 何故そんな事をするのかと言うと、今回の依頼でフィアナの剣を作る為の鋼材も発掘しないといけない為、発掘好きのサリーとローリエを同行させようと言う事になったのだ。大人数で受ける依頼ではない為、デリウスからあと二人までと言う非情発言によりこうなったのだ。

 最終的に、カナデとフィアナの二人が同行する事になり、アリシアさんとメリーは今回泣く泣くお留守番する事になった。

 カナデとフィアナ、サリーとローリエの四人を引き連れて、俺はオリエの町のギルドへと向かい、掲示板からデリウスの言っていた依頼書を剥がして受付に持って行った。依頼内容を見た瞬間、げんなりしたぞ。


「ヒガ山に居ついたドラゴンの討伐ですね。受理いたしました」


 そう。デリウスが言っていた丁度良いと言った新しい依頼は、ドラゴン退治であった。しかも、これで赤ランクの依頼だというのだから何か間違っている。


《ね、丁度良い依頼でしょ。ドラゴンの素材は高値で買い取ってくれる上に、ヒガ山は良質な鋼材が取れる隠れた発掘ポイントなの》


 早速もう、嫌な予感しかしない。これの何処が、少人数で受ける様な依頼なのだ!


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