40 謎の洞窟とフィアナの旅立ち
その日の夜、ファウーロ族の円形広場にて戦の勝利を祝う宴が催された。俺はと言うと、族長と一緒に上座の前に腰を下ろし、運ばれてきた料理に舌鼓を打っていた。流石にお酒は勘弁してもらったが。
「このたびは、我々の集落を救っていただき誠にありがとうございます」
「いえ、私一人だけの力ではありません。私には信頼できる仲間がいますし、この集落の戦士達も協力してくださったお陰でこの戦いに勝利する事が出来たのです」
俺一人では、八百人に及ぶ敵兵全てを相手しきれなかっただろうし、フィアナが先に行ってくれたお陰でクマガの護衛をしていた五人を倒す事が出来た。それに、打ち漏らした敵兵の進行を食い止めてくれたのはそちらの戦士達。なので、これは皆で勝ち取った勝利なのだ。
「けどそれも、あなたが来てくださったからこそ手に出来た勝利。これも、デリウス様のお導きに違いありません」
まぁ、実際はマリアの口から出まかせであって、デリウス自身は全く関係が無かった。
《私は何の御告げも出していないのに、アリーナが勝手に私の名前を使うから》
肝心のデリウス本人は、勝手に名前を使われた事を少し怒っていた。しかもそれが、自分の同僚の神様である拳の女神・アリーナが言った事だとは。肝心のアリーナ本人は、何食わぬ顔で目の前にある料理の数々を食べながら、酒豪の男達と酒飲み対決をしていた。
《あれ絶対朝には二日酔いになっているわ。そもそもアリーナ、お酒弱いくせにやたら飲みたがるのだから、本当に困る》
拳の女神様はお酒に弱いのですか。確かに、よく見ると顔を真っ赤にして、呂律も回っていない。へべれけに泥酔しているな。
「ところでショーマ殿は、これからどうされるのですか?」
食事を持って来た集落の若い女達が、なかなか俺から離れようとしない。そんな中から、一人の女性が話しかけてきた。
「明日にはオリエの町に帰る為にここを出ます」
『『えぇ―――――――――――――――――――――』』
何故そんなにガッカリする。元々俺は余所者なのだぞ。余所者はとっとと用事を済ませて、とっとと自分の家に帰る。
「それではせめて、私も連れてってください」
「私も、ショーマさんの旅にお供させてください」
「私をショーマ様の物にしてください」
何か訳の分からない事を言い出したぞ!しかも、よく見ると他の女達までも同じ事を言い出したぞ!
《仕方ないでしょ。今の君はファウーロ族の英雄。そんな君と結ばれたい、結婚したいという女の子が続出して当然でしょ》
そんな理由で結婚しようとしないでくれ!つか、俺にだって選ぶ権利くらいあるだろう。あと、アリシアさんとカナデとメリー、それと何故かフィアナから物凄い殺気の籠った目で睨まれている!
「すみません!私はまだ身を固めるつもりはありませんので、申し訳ありませんが結婚はご勘弁を!あと、旅のお供も今いる三人がいてくれるお陰で何不自由ありませんので!」
とりあえず、思いつく限りの良い訳を並べたが、正直言ってもはやパニック状態であった。
「ショーマ様はおいくつで?」
「えと、十七になります」
「でしたら、そろそろ結婚の事を考えないといけません!」
「今見送ったら、来年には晩婚になってしまいます!」
「私達は早くあなた様の物になりたいのです!」
「え?え?え?」
Why?何故こうなる!?
《ファウーロ族では十三歳で婚約し、十四歳で結婚するのが一般的で、十八歳になるともう晩婚なってしまうのよ。普通は十七歳前後で結婚が一般的で、二十歳超えると晩婚になってしまうのよ》
貴重な情報をありがとう。と言うか、この世界ではそんな若いうちに結婚するのが普通なのかよ!十四歳で結婚なんて、現代日本から来た俺からしたら信じられないのだけど!
《そんな事言ったって、それがこの世界の結婚事情なのだから》
もう受け入れてしまえと言わんばかりのデリウスの言葉に、俺は若干イラっとしてしまった。
《補足情報だけど、きちんと養うだけの甲斐性があれば一夫多妻も認められているのよね。特に王侯貴族はそれが顕著なのよね。だから、ここに居る全ての女の子を娶るという選択肢も》
俺にハーレム願望なんてないし、それ以前にこんなにたくさんの女性を養う甲斐性は俺にはありませんから。
その後、族長の助けを借りて、しつこく求婚してくる集落の女達を何とかやり過ごす事が出来た。ぶっちゃけて言うと、ここまでしつこく求婚してくるとかなり怖かった。
宴は夜遅くまで続き、皆が寝静まった頃に俺はアリシアさんとカナデとメリー、そしてフィアナの四人を連れて、クアガ族の砦があった森の更に奥へと進んで行った。
道中、四人の女の子達はムスッとした顔をしていた。
「ショーマさんったら、あんなにカワイイ女の子達から求婚されて、良い御身分ですね」
普段おしとやかなアリシアさんも、今回は般若の様な恐ろしい顔をして俺を見ていた。
「あんなにたくさんの女の子に囲まれて、デレデレしちゃって」
誰もデレデレなんてしていないし、カナデさん言葉に少々棘がありませんか?
メリーとフィアナは一言も言葉を発していなかったが、それぞれドス黒いオーラを発しており、バックには牙をむき出しにした虎と竜が俺を睨み付けていた。実際には居ないのだけど、本当に顕現しているみたいで怖かった。
次似た様な事があったら、彼女達の傍にいた方が良いだろう。そう心に決めた。
はは、デリウスさん何とか言ってください。
《ダメよ。これも一種の試練。女の嫉妬も受け止められないようじゃ、立派な男にはなれないわよ》
要は自分の力で乗り切れって言う事か。と言うか、彼女達は一体何に嫉妬しているというのだ?
《(鈍感)》
何か言っている様だが、言葉に出していないので気にしないでおこう。
それより今は、この雰囲気をどうにかしないと!
俺は誤解を解こうと何度も四人に説明をし、数分後、体感的に何時間も説得して何とか分かってもらえた。流石に、誤解されたままと言うのは後味が悪いので。
そうこうしているうちに、俺達は目的の洞窟へと到着した。
「ここがその洞窟なのでしょうか?」
「かもしれないな。洞窟にしては、妙に重苦しい感じがする」
初見での第一印象は、何処にでもある岩の洞窟。けれど、中はそうはいかなかった。岩肌の空洞であるにもかかわらず、洞窟の奥から重苦しさと神々しさが漂っているように感じた。
(なぁ、デリウス)
《えぇ。念波越しでもひしひしと伝わってきたわ。間違いなくこれは神力。それも、かなり位が高いわ。私なんかとは比べ物にならないくらいに。でも、誰の神気なのか全く分からない。うまい具合に隠されている》
デリウスでも、この神力が誰のものなのかを特定する事が出来ないみたいだ。誰にも姿を見せたことが無い最高神は、姿は分からなくても神力の質は皆が感じた事があるそうだ。もちろんデリウスも。
《だけど、世界神様に通じるものを感じるわ。本来あり得ない事だし、私の突飛押しのない発想だから絶対とは言えないけど、それに近い神力だわ》
曖昧だな。だが、知らないと言う以上どうする事も出来ない。仕方なく俺達は、洞窟の奥へと進む事にした。
「『ファイヤーライト』」
「『サンダーライト』」
俺とフィアナは、それぞれ右の掌の上に小さい火と電気の球体を浮かべた。
「見た感じは、何の変哲もないただの洞窟ね」
「けれど、この重苦しい空気は尋常ではありません。されど、何処か神々しささえも感じられます」
カナデとメリーの感想は、的を射ていた。見た目だけだったら普通の岩の洞窟だが、漂う空気は非常に重苦しかった。そして、その重苦しさの中に神々しさも感じられたのもまた事実。
この奥に一体、何があると言うのだろうか?
百メートルくらい進むと行き止まりになっていたが、壁一面に五人の人物画が描かれていた。一人の人物を中心に、四人の人物が東西南北で一人ずつ立っていた。
「真ん中に立っている人物は、青色の服を着ていて、手には剣が、否、これは刀か。青色の」
しかも、その人物の周りに青色のオーラの様なものに包まれていて、オーラの大きさが周りを囲っている四人の人物のものよりも三倍近くあった。しかもよく見ると、刀は青と金のツートンとなっていて、ハバキリに似ていた。
右側、東側に立っている人物の手にはオレンジ色の丸い何かが胸の前で握られていて、中心の人物より小さいが、緑色のオーラの様な物が人物の周りに描かれていた。
西側に立つ人物は、胸に緑色の勾玉が描かれていて、黄色い小さなオーラで覆われていた。
北と南に立つ人物の手には、それぞれ剣が握られていたがよく見ると形が違っていた。南に立つ人物の手には、赤色の刀が握られており、北に立つ人物の手には、黒色の直剣が握られていた。人物を覆うオーラも、南は赤色、北は紫色をしていた。
青色の大きなオーラを纏う人物を、赤と緑と黄と紫の小さなオーラを纏う人物が囲う絵か。
「これは、何の壁画なんだ?」
「分かりません。こんな壁画、見た事がありませんし、文献や資料にも載っていませんでした」
アリシアさんでも分からないか。となると、もはやお手上げ状態だな。
「けど、左右上下に描かれている人物が立っている場所は、おそらく四つの国を意味しているのだと思います」
「四つの国って事は・・・・・」
右はトウラン武王国、左はザイレン聖王国、下はナンゴウ海王国、上はホクゴ獣王国を現しているのだろうか。
「じゃあ、真ん中に居る人物が立っているのは、クフォト王国か」
「いいえ、それはあり得ません。偏見や嫌悪で言っている訳ではなく、この壁画が描かれたであろう時代にはクフォト王国はまだ存在していなかったのです」
あらら。この当時は、クフォト王国はまだ建国されていなかったのだな。逆に言えば、他の四国はかなり大昔から存在していたと言う事になるな。
「じゃあ、この壁画は一体何を意味して‥‥‥」
訳が分からずボォーと壁画を眺めていると
よく来た。お前達五人が来るのを、心待ちにしてたぞ。
「「「「「なっ!」」」」」
《来たか。やっぱり神力だけど、誰のものなのか分からないわ》
再びあの声が聞こえてきた。やはりデリウスも、誰の声なのか分からないみたいだ。
「誰だ!一体何の目的で、俺達をここに?」
そう身構えるな、帯刀翔馬。
「っ!?」
何で俺の名前を知っている?俺なんて、他の神様からすれば名前も知らない一般人と同等の筈。それなのに何故!?
帯刀翔馬だけでない。お前達四人が来るのを、私は待っていたぞ。
「私達も?」
「一体どういうことなの」
「何故わたし達も?」
「お前は一体何者だ」
警戒しなくても良い。私は魔王とは全くの無縁であり、関係もない。
これだけ敵意を向けられているのに、声の主はかなり落ち着いているな。それすらも想定されていたみたいに。
警戒する俺達にはお構いなしに、声の主は話を進めた。
ここまでは良し。あとは、四つの小さな御霊がそれぞれアイテムを手にするだけだな。
「四つの小さな御霊?」
話の内容が全くつかめない。一体どういう事だ。
それでは早速、最初のアイテムを与えよう。次に会える日を楽しみにしているぞ。
「おい!」
俺達の話を聞く間もなく、声の主は唐突に念波と切った。俺達を呼んでおきながら、その目的も話すことなく。
《考えられる理由が一つあるわ》
声の主のやり取りを聞いて、デリウスがある仮定を立てた。
《一つは、まだ試練の序盤って事かもしれないわね。初めから内容が分かっていては、試練にはならないものね》
つまりこれは、俺達に課せられた試練だというのだな。と言う事は、クマガの討伐は声の主が与えた試練の一つだったのかもしれないな。
「え?」
デリウスの言葉に納得していると、アリシアさんの驚く声が聞こえたので俺達はバッとアリシアさんの方を向いた。目にしたのは、アリシアさんの胸の前にオレンジ色に輝く光の粒子が集まり、徐々に形を成していく様子であった。
オレンジ色の光の粒子は、手の平サイズの丸い鏡へとなった。淵の部分は青銅で出来ていて、裏面には太陽の模様が描かれていた。
「ああぁ!?」
目の前に現れた鏡を落とさないよう、アリシアさんは鏡を両手でキャッチした。その瞬間、鏡がオレンジに輝きだし、五~六秒後に光は治まった
「これは、太陽の鏡!?」
受け取った鏡を見て、アリシアさんが驚いていた。アリシアさんだけでなく、カナデとメリーとフィアナも驚いていた。また俺だけが置いて行かれた。
「太陽の鏡?」
《太陽の女神・サラディーナ様の力が宿っていると言われている鏡で、この世界では神話の中でのみ語り継がれている幻の鏡なのよ》
「マジで!?」
そりゃ、神話の鏡が今アリシアさんの掌の上にあるって言うのだから、誰だって驚くわ。
《だけどそれは、普段はサラディーナ様の神殿の奥に置かれていて、持ち主であるサラディーナ様はもちろん、世界神様でない限り誰も触れる事が許されていない代物よ。まぁ、疑う事を知らないサラディーナ様なら、世界神様が御告げで貸してって言ったら二つ返事でOKするでしょうけど》
ちょっと待て、神様同士で御告げを言う事ってあるのかよ!まぁ、デリウス達からすれば世界神様は雲の上の様な存在だから、御告げでしか意思疎通が出来ないのかもしれないな。
「あの、ショーマさん。この鏡は?」
貰った鏡をどうしたら良いのか分からないアリシアさんが、俺に預けようと両腕を伸ばしてきたが、俺は太陽の鏡を受け取らなかった。
「これはアリシアさんが持っておいた方が良いと思う」
「ですが!」
「あの声の主は、アリシアさんにこの鏡を渡したのだ。だから、アリシアさんが持つべきだと思う。
「‥‥‥わかりました」
しばらく太陽の鏡を見つめた後、アリシアさんは手に入れた太陽の鏡をポーチ型のアイテムボックスに入れた。
「さて、用も済んだし帰るか」
これ以上ここに居る意味がないと判断し、俺達はファウーロ族の集落へと帰る事にした。壁画もそうだが、気になる事はまだたくさんあった。
だが、現段階では何も分からない。それを解明する為にも、俺達はいろんな所を旅して回る必要があるようだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。俺達は荷物をまとめて、馬を馬車に繋げて出発の準備をしていた。
「あなた方のお陰で、我々は救われました。本当に感謝しています。ありがとうございます」
馬車の前には、族長をはじめとしたファウーロ族全員が集まっていた。全員と言ったが、実際は一人を除いて全員である。
「フィアナの奴、ショーマ殿が旅立たれるという時に一体何をしているのだ?」
辺りを見渡しながら族長は、この場にいない人物の名を口にしていた。そう、この場にいないのはフィアナであった。
「気にしないでください。フィアナにも事情があったのだと思いますし」
あんな遅くまで俺達に付き合って、あの洞窟まで同行してくれたのだから、ゆっくり休ませてあげた方が良いだろう。
「本当に申し訳ありません」
「いえ」
「ショーマさん、そろそろ出発しますよ」
「あぁ」
アリシアさんに呼ばれ、俺はすぐに荷馬車に全員乗っているのかを確認する為に中を見た。って、マリアの姿が見えない。
「あぁ。マリアなら、他の神の領地に入るのはルール違反だから、と言って一人先にどっか行ったわよ」
「あぁ‥‥‥」
まぁ、なんか縁があればまた何処かで会えるだろう。どうせマリアも、この世界の何処かに自分の隠れ家的な別荘があるのだろう。デリウス曰く、神々が有給でこの世界に降り立って遊びまわるのは日常茶飯事らしいから。
「まぁいいか。そんじゃ、出発するか」
「はい」
あまり長居しても申し訳ないし、ヤンシェさんに渡さないといけない手紙もあるし、早いとこ出発するか。
「私達はそろそろオリエの町へと帰ります。お世話になりました」
「いえいえ、感謝したいのは我々です。是非また足を運んでください」
「はい。いずれまた」
族長と握手を交わし、俺は馬車に乗り込んだ。それと同時に、御者台に座っていたメリーが馬を動かした。
「ここにいる間も、桜と紅葉もここに居る間ものびのびと走り回る事が出来たもんね。お陰で元気いっぱい♪」
そう言えば、カナデによって二頭の馬はそんな名前が付けられていたのだった。オスなのに。
馬車を走らせてすぐ、集まった住民達をかき分けてこちらに向かうフィアナの姿が見えた。緑色のリュック、アイテムボックスらしきものを背負って、剣も何本か縄で縛ってまとめていた。
「フィアナ?」
集まった住民達を抜けたフィアナは大きく跳躍し、一直線に俺達が乗っている馬車に飛び乗った。
「って、おい!これはいったいどういう訳だ!?」
「決まってる。私も翔馬と一緒に行く」
「しかし」
フィアナはファウーロ族の若き戦士長。ファウーロ族の戦士達にとって、フィアナは重要な存在。そんなフィアナがいなくなると、ファウーロ族にとって大きな損失となる。
「問題ない。族長にはもう話は通してある。これからは、お前と共に歩む」
フィアナの瞳に、迷いはなかった。族長の方を見ると、少し困った表情ではあったが、うんうんと頷きフィアナの旅立ちを認めていた。
《それなら早速、パートナーの誓いを結びましょう》
即決ですな。
《ちゃんと意味はあるわ。彼女は、あなた達と共にあの声に導かれて、あの洞窟に行った。これはきっと、何かの運命だと思うわ。結んでおいて損はないし、彼女はただ純粋に君の役に立ちたいと思っているわ》
デリウスがそこまで言うのなら、間違いないな。
「わかった。皆もそれでいいな」
アリシアさんとカナデとメリーも、特に反対意見は出なかったのですぐに決まった。
「そういう訳だ。これからもよろしくな」
「あぁ」
こうしてフィアナも、俺達のパーティーに加わる事となった。パートナーの誓いを結んだ後、頭の中に直接話しかけてくるデリウスにビックリしていたが、僅か三十分程で要領を掴み、気さくに話しかけてくるデリウスにすぐに打ち解けた。
《また美人のパートナーが出来て、このこのぉ♪》
ムカつく。




