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王女な私は死にたくない  作者: 大久保周
王場内革命編
7/7

7 夢の中で

少しおどろおどろしい表現をしています。ご注意ください。

 シャロルワーニュ王国の城下街は他国よりも圧倒的に美しいと評判だ。街の節々にまで水路が通い、咲き誇る花々をその水面に映している。街中で笑い声が耐えることはなく、喧嘩があったとしても見世物になって祭りごとになるような平和で騒がしい街だ。


 そこに、一人の少女が立っていた。深淵を切り取ったように深い闇の色。一人、また一人と人は消えていき、花は枯れ、水は渇き、建物は少女のそばへ土煙を巻き起こして崩れ落ちた。家屋が倒れてくるというのに瞬き一つしない。土煙が収まった後、に荒廃した城下街の先にある、崩れた王城から目をそらさず、呟いた。



「わざわざこんなことしなくても、逃げやしないのに」



 突然少女の周りには無数の穴が開き、半透明の腕が飛び出してきた。その腕は少女の頭の先から足の先まで至るところに巻き付いた。



「ユルサナイ」



 その穴からゆっくり、ゆっくりと同じように半透明の顔が出てきた。瞳はない。涙もない。大きく開く口があるだけ。一つではない。二つ、三つ、次から次へと倒れ伏した家屋の隙間から、枯れ果てた水路の罅割れから。そうして少女の周りを埋め尽くす。



  「ユルサナイ」   「チガウ」 「ミステタ」   「ワタシは」 「オレは」  「タノシソウネ」       「だってズルいジャナイ」「ナンデ」「ウラヤましイ」  「どうして」「ドウシテ」 「ドウシテ!?」   「エラばれたのハ」  「奪っタ」  「カナシンデ」   「ウラヤましイ」「オマエ」「オマエばかり」  「ワタシ」「ワタシたち」「アナタと」   「オナじジャナイ」 「ナニもカわらナイわ」 「ジユウ」「オマエは」「オマエばかり」   「ナゼ」「ナンデ」     「ナンデ」 「ズルい」 「ズルいズルい」    「なんデヨォ……」 「ズルい」  「ワタシじゃナイクセニ」   「愛されないクセに」  「イキテイる」 「ワタシはダメなのに」「ナンデ?」「ナンデ?」   「ズルいワ」    「ズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルいズルい」




「黙れ」




 神の力を受け継ぐ少女(・・・・・・・・・・)は一つの言霊で呪詛を殺し、地に落ちた腕を踏みつけて排除した。それら全てが煙のように消えれば、少女は再び沈黙に浸った。

 その目に生気なんてモノはなく、ただただ深い諦念が現れていた。そして。




 突然少女は振り返ってここには誰もいないのに、いるはずのない人(・・・・・・・・)へ向けて言った。



「どうか、ここには来ないで頂戴ね」



 そして次の瞬間。黒髪の少女も、荒廃した街並みも、全てが黒い水となって虚無に返った。




───────────────────────





 宵闇に映える銀の月。それは彼女の銀の髪を美しく見せる。ルルシャロワは今朝、父王の部屋に行ってからどこへ行くこともなく自室に引きこもっている。食事すらも部屋に呼びつけて、決して己の寝台の側から離れないのだ。そんなルルシャロワの為に作られた特注の寝台に、今、一人のメイドが横になっていた。ルルシャロワはあれから一向に目を覚まさないリーナの傍に付きっきりなのだ。あれだけたくさんの我が儘を貫いていたのだからこれくらいは許してもらえるだろう、というちょっとした打算があった。そんな風に頭の中をこねくりまわしていたら、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。



「……んぅ、ふぁ~あ……? あれ、何か夢を見てたのかな……、嫌な感じがする。リーナも、まだ起きていないし」



 リーナは優秀なメイドであったと記憶している。こんな風に、あの時余計な手出しをしなければリーナが眠ることは無かったのではないか。そんな考えばかりが頭を過る。前世でリーナは特に関係も深くない相手だった。というより、メイドなんて誰も同じだと前世のルルシャロワは思っていた節がある。事実、クビにしては新しく雇い、クビにしては新しく雇い……。よくそんなことができたなぁと今では思うくらい酷かった。今思えばリーナは上手く我が儘をかわしていたなぁと思う。



「あまり、無理はさせたくないのだけど……」



 リーナは、もうルルシャロワにとって特別な人だ。ルルシャロワは膝の上でぎゅっと手を握りこんで、いきなりくるりと後ろを向いた。

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