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悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


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17/17

娘の返事を、父が決めることはできません

「父親の私が認めた。それでも不足か」


 翌朝、審理の卓に着いた父は、私を見ずにそう言った。


 王太子が父の出席を求めた理由が、ようやく分かった。


「何を認めたのですか」


 法務卿が尋ねた。


「娘が、府の確認作業を引き受けることだ。殿下から相談を受け、家として協力すると申し上げた」


 私は膝の上で手を重ねた。


 また、私の知らないところで、私の返事が済んでいた。


     ◇


 父は王都の屋敷から呼び出され、今朝、出頭したという。昨夜のうちに法務卿が出頭の理由を記した書面を送り、返書に私の名を用いた経緯について証言を求めていた。


「私が戻ると、お父様がお答えになったのですね」


「お前にはできる仕事だ。府で働いていたのだから」


「できるかどうかは尋ねていません」


 父がようやく私を見た。


「私へ、その依頼を伝えましたか」


「殿下のお役に立つ話だ。断るとは思わなかった」


 法務卿の筆が止まった。


「本人には伝えなかった、という答えでよいか」


 父は不快そうに眉を寄せたが、やがて頷いた。


 王太子が口を挟む。


「だから、私だけが勝手に名を出したのではない。父親の了承があった」


「その了承の範囲を確認しております」


 法務卿は父へ向き直った。


「娘の名で返書を発行してよいと、殿下に述べたのか」


「家として力を貸すとは申し上げた。だが、商会への返書までは聞いていない」


「私が確認すると記してよい、とも?」


 私の問いに、父は答えなかった。


 殿下が卓を叩いた。


「今になって逃げるのか。そなたは娘を説得すると言ったではないか」


「説得するつもりはございました。しかし、まだ娘には会えておらず……」


 言葉が途切れた。


 まだ説得していない。


 それなのに、商会へは私が引き受けたかのような返答が届いていた。


「では、返書を送った時点では、私の承諾を確認していなかったのですね」


 私は殿下に尋ねた。


「父親が引き受けさせると言ったのだ」


「私が引き受けた、とは違います」


 今度は、広間の誰も口を挟まなかった。


     ◇


 法務卿は、父と殿下の説明をそれぞれ読み返させた。


 相談の日時。父が答えた言葉。私への連絡の有無。


 互いの記憶が食い違う部分は、食い違ったまま記された。


「お父上の証言だけで、返書の内容すべてを決めることはできません」


 私は卓上の発送控えを見た。


「ですが、少なくとも、私に依頼して承諾を得たという説明にはなっていません」


 父は低い声で言った。


「私に恥をかかせたいのか」


 胸が痛んだ。


 昔なら、この一言で謝っていた。


 父が困らないよう、私が引き受けたことにして、夜通し帳面を直しただろう。


「お父様が何と答えたのかは、お父様のお言葉で残してください」


 私は息を整えた。


「私が何と答えたのかは、私に尋ねてください」


 陛下が法務卿へ頷いた。


「本人から確認した承諾と、親族による協力の申し出を、混同するな。昨日の判断は変えぬ」


 私を復職させることも、確認作業を押しつけることも、調査を進める条件にはならない。


 その決定が、もう一度読み上げられた。


 父は椅子へ沈んだ。


 私は父を言い負かしたかったのだろうか。


 少し考えたが、違った。


 私の知らない約束を、私の約束として残してほしくなかった。


 それだけのことを言うのに、随分かかった。


     ◇


 休廷後、シリウス様は私に水を渡した。


「手が冷えている」


 杯を受け取ろうとして、指先が震えていることに気づいた。


「平気だと思っていました」


「平気でなくても、言えた」


 彼は私の杯を取り上げず、落ち着くまで待ってくれた。


 誰かが代わりに決めてくれることと、そばにいてくれることは違う。


 私は両手で杯を包んだ。


「村への送金は、どうなっていますか」


「法務卿へ確認を求めている。調査中でも止めてはならない支払いがあるはずだ、と」


 その返答は、午後に届いた。


 商会で保留されている金について、正当な受取人を確かめ、未払い分への充当が可能か調べる。府の帳簿を閉じ直すためではなく、実際に代金を受け取っていない者へ払うための確認だった。


 法務卿は、商会から届いた請求の控えを広げた。


「全額を盗まれたと決まったわけではない。保留中の金も含め、所在と支払先を確定する。そこから始める」


 私は頷いた。


 罪を明らかにすることと、冬を越す食べ物を届けること。


 片方が終わるまで、もう片方を待たせる必要はない。


 控えの末尾で、私は指を止めた。


 名義欄にあるのは、例の亡くなった会計担当官の名だった。


 だが、その下に、別の文字が添えられている。


『代理受領の申出あり。資格確認未了につき支払不可』


「代理受領を申し出たのは、誰ですか」


 法務卿が控えを引き寄せた。


 金はまだ動いていない。けれど、それを受け取ろうとした者がいる。


 今度こそ、その人に返事をさせなければならなかった。

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