表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Dum Spiro Spero〜この教室33人は息をしている限り希望を捨てない〜  作者: AmorNoctis-アモールノクティス-


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/35

Chapter2【夜の帳:ノクスプルクラ編】

光の奔流に身を投じた瞬間、感覚は消失し、意識は激しい混沌の渦に飲み込まれた。

全身を圧迫するような強烈な浮遊感と、網膜を焼き切らんばかりの色彩の洪水。上下左右の概念すら失われた無垢な白の世界で、彼らは己の存在が霧散していくような錯覚に陥った。

それが数秒だったのか、あるいは数年だったのか。

唐突に「重力」が彼らを繋ぎ止めた。


「……っ!?」


肺から空気が押し出される衝撃とともに、四人は硬い土の感触を肌に感じた。視界を覆っていた白光が引き潮のように退いていく。代わりに目に飛び込んできたのは、深い藍色に染まった静寂の世界だった。


「……小さな、道……? ここは一体、どこなんだ」


最初に声を上げたのは、東雲星也だった。彼はふらつく足取りで立ち上がり、汚れを払うのも忘れて周囲を見渡した。

その隣で、膝をついたまま肩で息をしていた誰時司が、弾かれたように顔を上げる。


「みんな、大丈夫!? ……って、あれ? みんなは……みんなはどこに行ったの?...」


司の声が震えていた。先ほどまで共に光の中にいたはずの仲間たちの姿が、半分以上消えてしまったからだ。

その問いに答えたのは、冷静に周囲の地形を観察していた夜縹八蓮よはなだ やれんだった。


「……あの光の扉を抜ける際、時空の歪みに干渉されたんだろうな。どうやら、俺たちはバラバラに散らばっちまったらしい」


八蓮の声には苦渋が混じっていたが、その視線は鋭く現状を分析していた。

宵闇七華よいやみ なのかが、不安を押し殺すように自分の腕を抱きしめ、生存者を確認するように名前を呟く。


「……ここにいるのは、【星也に八蓮、司ちゃん。それに私】の四人だけ……。あとの皆は、別の場所に飛ばされたっていうの?」


「恐らくな。他のみんなは無事なのかな...」


そこは、なだらかな丘を縫うように続く一本の細道だった。周囲には背の低い草花が揺れる草原がどこまでも広がり、遮るもののない視界の先には、漆黒のシルエットを晒す巨大な原生林が鎮座している。


星也がふと空を仰ぎ、言葉を失った。


「ここは、どこなんだろうな。風が、驚くほど涼しい」


「見て……星空が、あんなに」

司が指差した先。そこには、現実の世界では決して拝むことのできない絶景が広がっていた。

頭上に広がるのは、深淵のような紺色の宇宙。そこに、大小無数の宝石を撒き散らしたような星々が瞬いている。だが、それだけではない。

天の川をなぞるように、幻想的な極光、オーロラが、緑と紫のカーテンを揺らしながら夜空を舞っていた。その光は地上を仄かに照らし、草原の草先を銀色に縁取っている。


「本当に、綺麗……。まるで世界そのものが眠りについているみたい」


司の瞳に、揺らめくオーロラの光が反射する。

しかし、七華の表情は晴れなかった。彼女はこの美しすぎる夜の風景に、拭いきれない違和感と使命の重さを感じ取っていた。


「……私たちは、ここでどうすればいいんだろう。この世界を救うとか、光を取り戻すとか言われても、正直、実感がわかないわ」


彼女の言葉は、四人の共通した本音だった。導かれるままに異世界へ足を踏み入れたものの、地図もなければ明確な指標もない。

そんな沈滞した空気を破ったのは、八蓮の提案だった。


「なぁ、とりあえず、あの先にある森に行ってみないか? 何か手がかりがあるかもしれない」


八蓮が指し示したのは、細道の先で口を開けている暗い森だった。星空の輝きを拒絶するかのように、その樹海は深い闇を湛えている。


「えっ!? あの暗い森の中に行くの!?」


司が、あからさまに身を引いた。


「ちょっと……というか、かなり怖いよ。何が潜んでいるかわからないし……」


星也が、明るい声を出し、司の肩を叩いた。


「ちょっとした肝試しだと思えばいいさ。誰もいない草原で震えてるより、未知の場所へ踏み出すほうがマシだろ? 俺はなんだか、ワクワクしてきたぜ!」


星也の少年のような純粋な好奇心に、七華は小さく吹き出した。彼の無鉄砲さは、時としてこれ以上ない救いになる。


「大丈夫よ、司ちゃん。一人じゃないわ、私たちがついているもの。一緒に行きましょう?」


七華が優しく手を取ると、司はまだ不安げながらも、ゆっくりと頷いた。

「……そうね。みんなと一緒なら、きっと大丈夫。行きましょう!」


四人は意を決し、草原の細道を歩み始めた。

背後には、美しくもどこか冷たい星空の草原。

前方には、未知の運命が待ち受ける濃紺の森林。

一歩、森の境界線に足を踏み入れると、空気が変わった。

草のさざめきは消え、代わりに古樹たちが囁き合うような、低く重いざわめきが耳を打つ。

ここは、光が忘れ去られた場所。あるいは、夜という概念が最も純粋な形で保存された場所。

八蓮が、どこからか聞こえた予言のような言葉を反芻した。

失われた光を取り戻すための旅。

四人の若者たちは、互いの存在を確かめるように肩を寄せ合いながら、夜の深淵へとその身を投じていった。

彼らが知る由もない物語【夜の帳:ノクスプルクラ編】が今、始まろうとしていた...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ