第65話 制服デート
俺と琴音は制服のままデートをすることになった。
放課後のデートを思い出すなぁ。
学校の帰りに、そのまま寄り道して遊んだり、ファミレスやファーストフードで夕飯食べたりしたっけな。
逆に休日は陰陽術の修行や、自衛隊に混じっての訓練で忙しかった。
異世界転移して、色々なことが起こりすぎて、デートの回数が減っていた。
ちょっと落ち着いてきたし、デートの回数を増やしていこう。
今日のデートは配信はしないぞ。プライベートデートだからな。
「どうしようかなぁ。近くにゲーセンあったよな」
「あったっ! 気になってたんだよね!」
常夏の島は異世界の中でも特別な場所だ。ここだけ現代日本の仕様だ。
ここってもしかしたら、メンタルケアのためにもあるのかもな。
こっちの世界は生きることに精一杯で、娯楽が少ないんだよ。
ゲーセンに入るとガランとしていた。
異世界に転移した人数を考えると、人がいなくて当たり前だ。
ちょっと怖いなって思ったら、奥の方でメダルゲームを実況している人がいた。
さて、まずはクレーンゲームかな。
「琴音。これって……」
「うん。アリサさんのぬいぐるみ?」
手前のクレーンゲームに入っていたのは、アリサさんっぽいぬいぐるみだった。
まどかさんや凛さんっぽいぬいぐるみも一緒に入っている。
「すげぇ!」
やっぱりアリサさんって、大手事務所のアイドルVtuberなんだなぁ。
「あっ! あっちの台に入ってるのってさ……」
「狐鈴じゃないか! いつの間に作ったんだ!?」
「これ許可取ってるのかな?」
「わかんない」
「とりあえず狐鈴のを取ろうか」
「お守りになったりして!」
「御利益ありそうだな!」
「五回やったら交代だよ!」
一回銀貨一枚か。結構するな。とりあえず銀貨五枚を入れた。
大銀貨とかないからおまけの一回みたいなサービスもないらしい。
俺はスタートボタンの上に手を置く。
目の前のケースには狐鈴のぬいぐるみが程よく積まれていた。
「秀ちゃん。あれあれ! 横になってる奴!」
「あれか!」
ボタンを押すと、電子音と共にアームが動き出した。
「ああっ!」
狙いが甘かった。アームはぬいぐるみの間にめり込んでしまった。
「おしかった?」
「次こそはっ!」
結局ダメだった。
五回目は持ち上げることができたけど、アームの力が弱くて落ちてしまった。
「今度は私だよ!」
「琴音任せた!」
「任された!」
一回目はつかめず、二回目で持ち上げたけど落ちてしまった。
そして三回目は……
「おっ!」
「いけるんじゃね!」
「頑張れアーム!」
そして……狐鈴のぬいぐるみを掴んだアームが、出口の真上までたどり着き……
「おおっ!」
狐鈴のぬいぐるみが、出口の上でボトンッと落ちた。
「やったっ!」
「ナイス琴音!」
「可愛い! 秀ちゃんのも取ってあげるね!」
「俺が持ってると絶対からかわれるよな……狐鈴にプレゼントしよう」
「オッケー!」
一回取ったせいか、アームの力が弱くなった気がした。
しばらく苦戦したけど、八回目のチャレンジでやっと二個目を取れた。
ちなみに俺は銀貨だけ入れて、琴音に任せた。
「んふふ。二個目ゲット~」
「やったな!」
「次に来る時は秀ちゃんに取って欲しいな~」
「任せろ!」
この後、俺達はカーレースやリズムゲームを楽しんだ。
最高のひと時だった。
たまにはこういうリフレッシュも必要だよな。
「お腹減ったー! 秀ちゃんなんか食べよう」
「パンケーキなんかどう?」
「いいね! フルーツ山盛りのがいい!」
「生クリームもいっぱいだな!」
「さすが秀ちゃん。私のことわかってるじゃん!」
「当たり前だろ」
ホテルのラウンジにあるカフェにパンケーキがあったのを思い出した。
確かレンさんが配信で食べてたな。
「琴音。ホテルのカフェに行こう。確かパンケーキがあった気がする」
「あっ! 私も気になってたんだ!」
カフェに入ると俺達は窓際の席に着いた。
ここからだと浜辺がよく見える。
「いい席だね」
「だな!」
琴音はカフェのメニューを開くと、急に真顔になった。
「ねぇ。私達全然勉強してないよね」
「なんだよ。いきなり」
「制服着てるからかな。思い出しちゃった。私達、まだ高校三年生なのかな? 退学になってたりして……」
「……どうだろうな。卒業日はまだ先だし……一応高校三年生じゃないかな?」
「だといいなぁ」
「確かに留年とかやだなぁ。まぁ就職先がほぼ決まってるのは唯一の救いか……」
「戻ってからのことも考えないとね」
「そうだな。でもまぁ……とりあえず頼もう!」
「そうだね! ごめんね。デート中に」
「気にすんな!」
注文後に運ばれてきたのは、フルーツとクリームが山盛りになったパンケーキだ。
俺のパンケーキはマンゴーとリンゴが乗っていて、琴音のパンケーキはイチゴとブルーベリーが乗っている。
「これ絶対美味しいやつだよ!」
琴音の目が輝いた。
「確かに美味そうだな!」
「んじゃいただきます!」
「いただきます!」
「美味しいっ!」
「んまっ!」
「至福のひと時……」
「最高すぎる!」
「ねぇ。私の一口あげるから、秀ちゃんのも一口頂戴」
「いいぞ」
「ちょっと待ってね」
琴音はパンケーキの端を小さく切り分けた。
そして一口大のパンケーキの上に、イチゴと生クリームをちょんと乗せ、フォークですくい上げた。
「はい。あーん」
「あーん」
そしてパンケーキが目の前に来ると、パクッと食いついた。
「うめぇ!」
「私にも!」
俺も切り分けたパンケーキの上に、マンゴーと生クリームを乗せ、フォークで刺して琴音に差し出した。
「あーん」
「あーん! んまっ!」
幸せそうに笑う琴音を見て、俺はあらためて、この笑顔を守りたいって思った。
なんだろう。以前にもこんな感覚があった気がする。
いや、いつも思ってるよ。琴音を守りたい。でも違うんだ。ずっとずっと昔に、こんな思いを感じたような気がする。
これもデジャブなのだろうか?
カフェを後にした俺達は、腹ごなしにホテルの周りを散歩することにした。
常夏の島は海岸に行くほど暑くなる。
ホテルの周りはそれほど暑くないし、ちょっとした丘になっているから、浜辺と海が一望できる。つまり散歩にちょうどいいんだ。
「なぁ琴音」
「うん?」
「俺。もっと強くなるよ。琴音とデートしてあらためて思った。琴音を守りたいって」
「私もだよ。私だって秀ちゃんを守りたい」
琴音がつないだ手をギュッと握った。
いつになく真剣な表情だ。
「今夜のダンジョン。いくら安全が配慮されてるからって、絶対はない。気を抜かないでいこう」
「うん!」




