第59話 コメントチャージ
扉の向こうは、やけに広い石造りの通路だった。
通路は横幅だけで二十メートルはあるから、隣の扉との間隔を考えると、ありえない構造だ。
「転移した?」
「そうかも?」
「案内妖精」
「はーい。予想通り、転移したわよ。ここはたくさんあるダンジョンの一つ。同じレベルのダンジョンが幾つもあって、そのどれかに転移したの」
「なんでそんなことに?」
「パーティー毎に分かれて攻略させるためよ。揉め事なんていやでしょ?」
「なるほどな……」
「それなら思う存分、魔法が撃てるわね!」
今日のアリサはやる気に満ちてるな。
「んじゃ行こうか……てっ!?」
狐鈴がとんでもないことをしていた。
「皆の者。よろしく頼むぞ。ほれほれ」
狐鈴が案内妖精の位置を下げ、朱色のミニスカートを摘まんで少し上げていた。
「おおいっ! 狐鈴! 何やってるんだよ!」
「む。大丈夫じゃ。ギリギリ見えておらんぞ」
「そうじゃなくて!」
「古来妖狐とは男を惑わす存在じゃ」
「魔法少女がそんなことするか!?」
「い、痛いところを突くのぉ」
「狐鈴ならそんなことしなくてもコメントいっぱいもらえるだろ!」
「むぅ。主の命令なら仕方ないが……」
そんなことをしていると、通路の奥から重い足音が響いた。
「来たわよ! みんな! よろしくね!」
姿を現したのは、武装した半裸の豚人間。鑑定すると『オーク・レベル80』。
「コメント・チャージ!」
アリサさんが手を突き出して叫んだ。
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ! ファイアー・ボール!」
火球が通路を突き進み、オークの上半身を吹っ飛ばした。その勢いは止まらず、貫通した火球が、遠くの方で大爆発した。
初級のファイア・ボールでこの威力か!?
「きぃぃもちいいいっ! みんなありがとう!」
快感に浸るアリサさんに、俺は反射的に突っ込んだ。
「いやいやいや! ダンジョン内で炎の魔法はだめだろ!」
「え? なんで?」
「酸素がなくなったらどうするんだよ?」
火は酸素を消費して燃えるからな。密閉状態のダンジョンで使うと酸素が足りなくなってしまう。場合によっては一酸化炭素中毒だってありえる。
「そう言えばそうね。ここって通風孔とかないのかな?」
「酸素の心配は~しなくても~大丈夫よ~」
アリサさんの案内妖精が、間延びした声で答えてくれた。
「そうなの?」
「酸素供給も~照明も~バッチリよ~。迫力ある戦闘を~よろしくね~」
そういうことか。炎の魔法とか迫力あって配信映えするよな。それを制限するような作りになっていないってことか。
「それにしてもコメント・チャージって凄いね」
琴音がオークの死体を見下ろして呟いた
「レベル八十のモンスターを一撃かよ……」
コメント・チャージ。それはこのダンジョンでしか使えないスキルだ。
『コメント・チャージ』と口にして発動すると、次に放つスキルや魔法の威力が、スキル発動からもらったコメント数に応じて増幅する。しかもウルチャなら、金額に応じて上乗せされる。
ウルチャ――有料コメントをポイポイ投げるチャンネルなんて、想像できない……
けど目の前にあるんだよな……
このダンジョンはシールドがゼロになれば強制退場で、死ぬことはない。そして外で戦うよりも、コメントの分だけ強くなれる。いいことずくしのダンジョンだ。しかも視聴者も一緒に戦っている気分になれそうだし、神力をたくさん得られそうだな。
更にレベルアップも加速するだろう。これって俺達がレベル上げすぎたことによる、バランス調整か?
はたまた愉悦之神に対抗するための強化か、もしくはその両方か……
「確かに凄いけど、ダンジョンの外で戦えなくなるとかないよな……」
「んー。ここって時間制限あるでしょ。普段は外で戦うんだし、別にいいんじゃない?」
「ダンジョン専用になる奴もいるかも?」
「そうねぇ。まぁそれはそれでいいんじゃない? 差別化できてね」
「そんなもんか」
少し先に進む分と、さっそく分かれ道だ。
「十字路か……」
角の向こうから、牛頭の巨体がぬっと現れた。『ミノタウロス・レベル80』だ。
「今度は俺にやらせてくれ」
近接スキルでコメント・チャージは使いにくい。ここだって時に、いちいちコメント・チャージなんて言ってられない。
そこで俺は、バフ系のスキルに使うことにした。
「コメント・チャージ」
コメント欄に『頑張れ!』とか、『応援してる』などとコメントが流れる。
流石ゴールデンタイム。昼間だとコメントなんてほぼつかない。
「パワー・チャージ!」
三分間、アクションスキルの威力を上げてくれるバフスキルだ。
「ブォォオオ!」
ミノタウロスが手に持った巨剣を振り回しながら、突進してきた。
「スラッシュ!」
俺はミノタウロスの剣をかいくぐりながら、ダンッと踏み込み、その太い腕を斬り飛ばした。
「ライジング・カット!」
返す剣で下から斬り上げ、胴を斬り裂く。更に正面から唐竹に真っすぐ剣を振り下ろした。
ミノタウロスが必死に残った腕を振り回したが、その腕も切り落とし、腰を落とし、息を吸い込み、力を溜める。
「ピアース・ブレイク!」
ミノタウロスの腹に剣を突き刺した。
ミノタウロスの体がくの字に折れ曲がり、頭が下がったところで素早く剣を抜き、ミノタウロスの首を切り落とした。
「……なんか微妙だ。いつもとそれほど変わらない」
「コメント十件だったしね……」
「アリサさんのさっきのファイア・ボールはどれくらいのコメントだったんだ?」
「え? 目で追いきれないからわかんない」
「レべチ過ぎる!」
「みんな! 早川と琴音ちゃんがスキル使う時、応援してあげてね!」
「くっ、配信はともかく、戦闘でも負けるなんて……」
「ふふん。いつもと立場が逆転ね! ざ・ま・あっ♪」
何故か高笑いを始めたアリサさんの前で、俺はわざとらしく膝をついて、崩れ落ちてみた。




