第5話 ライブ配信開始
初めてのライブ配信は大変だった。普段はアバターなんて使わないから、案内妖精に設定を教わるところから始まって、配信を開始してからも無茶苦茶緊張した。
正直上手く話せなかった。今までは動画投稿だったから、いくらでもリテイクできたからな。一発勝負は凄く怖かった。あまり思い出したくないな……
おかしなことが一点。配信用のパソコンは地球のインターネットと繋がってるので、俺達のことを調べてみたんだけど、異世界転移――拉致事件か? それとも失踪事件か? 全然事件になっていなかった。それどころか異世界で冒険できる権利を得た、ラッキーな人達になっていた。しかも、アバターを使ったバーチャル体験だと信じられていて、どの配信者も訂正していない。これも『享楽之神』を名乗る何者かの力なのか……。《《まぁどうでもいいか》》。
「昨日初めてウルチャもらっちゃったね」
「親と知ってる人だけだったけどな」
「それでも嬉しいけどね! お父さんもお母さんも心配してたね。ネットは繋がってるのに、通話アプリも他のSNSも使えないなんて……酷すぎ!」
「電話も繋がらないし、ネトゲも出来ないよな」
「ネット回線ってさ、配信と報酬のためだけにあるのかな?」
「そうかもな。ネットが見れるだけでもマシか。ってもうそろそろ十時だけど、待ち合わせ場所はギルドの正面玄関で合ってるよな?」
メニューを表示させると、右上に現時刻が出ていた。今は九時五十五分だ。
俺達は普段十分前行動してるから、ちょっと不安になってくる。超が付くほど有名なバーチャル配信者のアリサさんが、俺達と行動するなんて思いもよらなかったからな。現実感がなくて不安にもなる。
因みに俺と琴音は、早朝から剣術の稽古をこなした。刀と違って慣れない剣に最初は戸惑ったけど、使えば使う程熟練度が上がる仕様に助けられた。これってチートだよな。武術を習ったことがある身からすると、正直上達が早すぎる。どう使えばいいか、通常ではありえないスピードで分かってくるんだ。
「おはよう」
アリサさんはローブ姿で、武器は持っていなかった。アイテムボックスに収納したままなんだろう。俺と琴音は皮の防具で、腰に剣をぶら下げている。
「おはよう」
「おはよう」
「みんな準備はいい? それじゃあ、行きましょう!」
「もしかしてライブ配信、開始してる?」
「そうよ」
「ってことは俺等も映ってる?」
「映ってる。みんな! 私と一緒に冒険する仲間を紹介するわね!」
「は、初めまして! 早川秀一です!」
「近藤琴音です! あっ……ええと……初めまして! 秀ちゃんとカップルチャンネルやってます!」
「緊張しすぎ~」
「仕方ないだろ……」
「今日は日曜だけど、午前中だから、八千人くらいしか見てないわよ」
「は、はっせんにん!?」
「あわわわ! 秀ちゃんどうしよう!?」
「ええと、十時半予定だったけど、もう配信始めちゃおうか?」
「そ、そうだね」
「セレナ」
「はーい。呼んだ?」
「ライブ配信を開始してくれ」
「了解! はい! 開始したよ!」
ライブ配信が開始されると、視界の右下にチャット欄が表示された。予告より早いせいか、チャット欄に人はいない。まぁいつもいないけど。
「さぁ、挨拶!」
「秀一です!」
「琴音です!」
「「二人合わせてしゅーことです!」」
「今日はすっごいゲストがいます!」
「こんアリサ! 昨日ぷち炎上したバーチャルアイドルのアリサよ!」
「え? 炎上してたの?」
「そりゃそうよ。昨日あんた達と一緒に冒険するって言ったからね。男もいるのかよって」
「でも、昨日はNGじゃないって……」
「NGじゃないだけで、炎上はするわよ」
「アイドルは大変だ!」
「それより、あんた達の動画見たわよ。すっごく青春してるじゃない! 羨ましくて呪詛が出そうになったわ!」
「お祓いしないと!」
「あんた本気で言ってる? マジでぶち殺すわよ?」
「えええええっ!」
「琴音のちょっと抜けてるところも可愛いけどな」
「何それ! 嬉しくない! もっとなんかないの!?」
「まぁ確かに琴音ちゃんって可愛いわよね!」
「えへへ。そうかな?」
「そうよ。ね。早川君!」
「あぁ琴音は可愛い。当たり前過ぎる。もちろんアリサさんも可愛いと思うぞ」
「ちょっと! あんた! せっかくのフォローが台無しじゃない!」
「秀ちゃんの可愛いは軽くなったなぁ……」
やばい。琴音のジト目が怖い。凄く不機嫌だ。
「いや、これはこれは違うんだ! 社交辞令ってやつ?」
「へぇ。社交辞令だったんだ」
「いや、違くてだな!」
「はぁ……簡単に可愛いとか言うからこうなるのよ」
「琴音の瞳が可愛い」
「えっ!?」
「顎のラインとか唇とか……つい目が行っちゃう。何気ない仕草も好きだ」
「ちょっ! 秀ちゃん!?」
「そうやって顔真っ赤にしてるところなんて、可愛くて仕方ない」
「私も秀ちゃんの事かっこいいって思ってるよ。気遣いしてくれるところとか、ちゃんとフォローしてくれるところとか。私のこと、平気で可愛いって言ってくれるところか……」
「ちょっとあんた達! こっちも配信してるの忘れてない!?」
「あ、すみません」
「ひゃああああ! 八千人の前でとんでもないこと言っちゃった!?」
「うわああっ! 琴音やばい!」
「どどどど、どうしたの!?」
「チャンネル登録者数が五十人くらい増えてる! 同時接続数も百人超えてる……」
「うえええぇぇ!? って! チャット欄も凄く流れてる! アリサさんの配信から来たって! どうしよう! なんか爆発しろとか言われてるんだけど!?」
「ええとっ 初めまして! 初めまして!」
「一々返さない。でもウルチャだけは、ウルチャ読み配信とかして、返事しなさいよ」
「わ、わかった」
「これがアリサさんパワー……」
「当然よ! さぁもう行くわよ!」
アストラルゲートは都市の外に設置されている。転移してくる者が必ずしも善良とは限らないからだ。
警備も厳重で、すぐ側に詰所があり、騎士団と魔導士団が警備している。
俺たちはゲートの使用料を払い、ファーミルの森へと転移した。




