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第53話 癖のある式神

 今日はフェンリルを召喚することになった。

 念のため配信はしない。また美少女になってたら炎上するからな。

 

「オン……」


 ジャネットの時と同じだ。呪文に違和感を覚える。これじゃない。本来はこっちだ。

 

「オン・ヴァジュラ・カーラ・ラギータ! 星蒼の座、蒼の獣人、月影を忍ぶ霊獣将。ここに応えよ。来たれ! フェンリル! 急急如律令!」


 ……やっぱり巨大な狼じゃなくて、美少女が現れた。

 薄く青みのある長い銀髪に、狼の耳と尻尾が生えている、獣人の美少女だ。

 服装は白い騎士服で、下は尻尾を出すためか、赤いミニスカートだ。

 可愛いというより、かっこいいタイプだな。

 フェンリルは召喚されると、仰向けになって寝ころんだ。

 

「は?」


 辛うじて足を閉じているが、これは服従のポーズか!?

 

「ちょっと! 立ちなさい」


 琴音が俺からフェンリルを隠すように立ちふさがった。


「グルルル!」


「立て!」


 琴音が言霊を込めて叫んだ。


「くっ! 体が勝手に! ご主人様以外の命令なんか……! はっ! ご主人様の視線が冷たい! これはこれで……いいっ!」


 何故かフェンリルが頬を染めた。


「秀ちゃん。なにこれ? 流石に私も全部受け止められないよ……」


 琴音が振り返って、半泣きになった。

 ヤバい。こんなドン引きした顔を見たことない。


「違うんだ! 琴音! 俺はこんなの知らないぞ! 今初めて召喚したんだ! 琴音だって調伏したところも見ただろ!」


「そうだけどさ。意味わかんないよ。狼がなんで女の子になるの!? いくら強い魂を使っているからって、毎回可愛い女の子のはずないじゃん!」


「俺だってわかんないよ! お前。この間調伏した狼だよな!?」


「はい。ご主人様。しかし私はもう狼ではありません。ご主人様に絶対服従の犬コロでございます。ただ、不快な思いをさせたようなので、とりあえずお仕置きしてください。さあっ!」


「はぁ!?」


「さぁ!」


「秀ちゃん!」


「待て待て! ってあれか……。鎖で電撃放ったヤツか」


「それです! あれをもう一度! 私はアレで目覚めたのです!」


「お仕置きになってねぇよ!」


「この変態! 私が代わりにやってやるわ!」


「グルルル!」


「シャアアアアッ!」


「おい、お前! 名前は?」


「犬コロと……ギャンッ!」


 突然狼女の頭が下がった。まるで誰かに殴られたかように。

 

「お、お許しください」


 狼女が青ざめて、その場で土下座した。

 

「ど、どうした?」


「妙光如来様からの天罰です……」


 そんな直接的な天罰、見たことないよ!

 

「浄土世界に身を置く者として、あるまじき煩悩だと……」

 

「大丈夫なのか……」


「さ、さあ……」


「とりあえず、名前はあるのか?」


「はい。私の名は、カミラです。妙光如来様につけてもらいました」


「ん? お前も記憶がないのか?」


「記憶が曖昧なのです」


「曖昧?」


「狼だった頃の記憶はどんどん薄れていって、ご主人様にお仕置きされたいという、願望だけが残っているんです」


「それは忘れろ」


「それより前の……記憶が段々と思い出してきてるような……あれは竹林……に囲まれた寺とか……? うっ……思い出せない……」


「はあ?」


 こっちで竹なんて見たことないぞ。それに寺だと? やっぱり日本にいた時の記憶か?

 

「何故でしょう。ご主人様を見ていると、何故か懐かしい気がします」


「……そうか?」


「きっとご主人様とよく似た人に、お仕置きされていたのでしょう」


「どうしてそうなる!?」


「自分のことを思い出したい。きっとご主人様の刺激があれば……ギャウンッ!」


 再びカミラが、見えない何かに殴られて吹っ飛んだ。その先に金の襖が現れ、乱暴に連れ去られた。

 

「こ、怖すぎる……」


「ねぇ。秀ちゃん」


「こ、琴音……」


「私に内緒にしてる変な趣味ある? 私、痛いのやだよ?」


「そんなわけないだろ!」


「ならいいけど……いや、よくないよ! もう式神が女の子になるのは諦めたけど! どうしてクセが強い奴ばっかりなの!」


「俺だってわからないよ!」


 配信してなくて良かった。

 

「琴音。またデジャブとか感じてないか?」


「……怖いけどちょっとだけ」


「今日はもう終わろうか」


「うん……」



◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルドに戻って昼食を取ることにした。

 琴音と一緒に食べているけど……会話がない。

 食器の音が、やけに大きく聞こえた。

 琴音はスプーンを回したまま、何か考え事をしている。

 それを見て、嫌な想像ばかりしてしまう……

 

「……琴音。少しいい?」

 

「……うん」

 

 返事が小さい。それだけで俺は心臓が鷲掴みにされたみたいになる。

 俺は息を吸って、勇気を振り絞った。

 

「俺は琴音が好きだ。嫌われたくない」


「うん。知ってる」


「式神が女の子になってしまうのは、俺にはどうしようもないんだ。だから……」


 琴音が顔を上げて、真っすぐ見つめてきた。不安と焦燥。そして期待が見え隠れする。

 

「距離を取る」


「距離?」


「あぁ。ルールを作ろうと思う。そして今から実行する」


「どんなルール?」


「一つ。式神の召喚は、俺一人で行わない。必ず琴音か師匠か狐鈴がいる時にする」


「うん。あんなに強い式神、よっぽど遠くにいない限り、呼び出したら霊力でわかるからね」


 おっかねぇ。絶対一人の時は呼ばないようにしよう。

 逆に琴音がイケメンの式神を従えていたら? 俺の知らないところでこっそり呼び出して、仲良くしていたら? そんなの考えたくもない。


「二つ。接触しない」


「対価に頭を撫でてとか言ってきたら?」


「断る」


「断れない状況だったら?」


「……その場合は、琴音が見ているところでする」


「まぁそれくらいなら……」


「三つ。琴音が嫌がるような会話はしない。友達みたいじゃなくて、あくまで使従関係だ。線引きするように注意する」


「……そこまでする? 流石にアシリアとか泣いちゃうよ?」


「する。式神は式神だ」


「私、そこまでいじわるじゃないよ。式神との関係は良好がいいと思うし」


「でも……」


「私のせいで、秀ちゃんが感じ悪い人になって欲しくない。イチャイチャしなければいいよ」


「……わかった」


「もう一つ。戦闘時だったら、私がいなくても呼び出していいよ。制限かけて秀ちゃんが死んだら、私どうしたらいいかわからない」


「……そうだな。それもわかった」


「秀ちゃんがちゃんと考えくれた。それだけも嬉しいよ」


 ちょっと硬いけど、琴音が微笑んでくれた。これだけじゃダメな気がする。


「琴音にずっと好きでいてもらえるために頑張るよ。戦いでも絶対琴音を守ってみせる! 命に代えても!」


 あれ? 琴音が目を見開いた。びっくりして動揺している?


「……やめてよ。命に代えてとか言わないで!」


「琴音?」


「そんな状況になったら一緒に逃げよう?」


「……わ、わかった」


「それなら許す。ただし……」


「ただし?」


「今日はこれからご機嫌取りデートだよ」


「任せろ!」

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