第51話 シルバーウルフ
今日の冒険は、いつものメンバーに加えて師匠がいる。調伏の監督役だ。
「こっちの森は結構明るいな」
俺達が来ているのは、ウィップの大森林だ。
一本一本が巨木で、幹も太い。
背の低い木も、茂みもないので、今までの森とは全然違う。日本にはないタイプの森だ。
見晴らしが良いけど、大きなモンスターも多いらしい。
「オン・バラドゥラ・ミトラ・ヤクシャ! 闇を裂く審翼の梟! 来たれ! 夜梟! 急急如律令!」
俺と琴音は梟の人造式神を呼び出して放った。こいつはモンスターを見つけて報告してくれる偵察用だ。
師匠も鷹の人造式神を放ってくれた。あっちの方がかっこいいな……
「北東だな」
早っ!
しばらく北東に進むと、狼の群れを発見した。
「ちょっと大きくないか?」
「人が乗れちゃうね。みんなで狼に乗って移動とか楽しそう!」
「俺様は戦闘に参加しないんで、後はよろしく」
そう言って師匠はレジャーシートを引いて、ネットで買ったノンアルコールのビールを取り出した。俺達を肴に一杯やるらしい。いやいやまだ午前中だけど! ノンアルなだけまだマシか!?
狼はこっちの臭いをかぎ取ったのか、発見と同時に遠吠えを上げて向かってきた。
数は八頭。鑑定スキルをかけてみると、『シルバーウルフ・レベル30』。大きい割にレベルは低いな。しかし群れで襲ってくるのは厄介な奴だ。
「打ち合わせどおり、一番後ろの奴以外を殲滅するぞ!」
俺達は接敵前に呪文を唱えた。
「炎の精霊よ。紅き業火を纏いて敵を討て! ファイア・ジャベリン」
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ! ファイアー・ボール!」
「オン・コン・パー・バラ・ウン! 狐火よ、焔となりて翔けろ! 焔火! 急急如律令!」
「スターライト・シュート!」
しかしシルバーウルフが避ける! 唯一当たったのは、弾速が早い狐鈴の魔法だけだ。
「なんで当たらないの!」
アリサさんの焦りの叫びが聞こえると、狐鈴がアリサさんの側に寄って、援護射撃を行ってくれた。
上手くアリサさんの攻撃に合わせて誘導している。
狐鈴と目が合うと頷いてくれた。あっちは大丈夫そうだ。
さて俺は俺で集中しないと。
シルバーウルフはただ闇雲に飛びかかってきたりしなかった。
その内の一頭が俺の前で一度足を止め、様子をうかがっていると見せかけて、別のシルバーウルフが横から飛びかかってきた。目の前の奴は囮だ! 頭がいいっ!
まぁバレバレなんだけどな!
俺は横から飛びかかってきたシルバーウルフを紙一重で避けつつ、前足を斬り飛ばした。
そこへ様子を伺っていたシルバーウルフが飛びかかってきた。
「インスタント・シールド!」
数秒だけ障壁を張るスキルで跳ね飛ばす。足場を作るスキルを多用してたら閃いた。いい加減本来の使い方をしろって怒られた気分だ。
シルバーウルフを弾いた俺は、足を斬り飛ばされて、必死に立ち上がろうとしているシルバーウルフに向かって、スッと手を伸ばした。
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ! ファイアー・ボール!」
結構近い距離で撃ったので、爆発の余波と熱を遮断するために、一瞬だけシールをオンにする。
そこへシルバーウルフが再び間合いを詰めてきた。しかし炎にビビったのか、今度は飛びかからず様子を伺っている。
俺は剣を突き出し牽制しつつ、呪文を唱えた。
「輝き燃えたる炎の精霊よ。我に灼熱の炎球を授けん。弾けよ。灼熱の鳳仙花! ファイア・ブロッサム」
シルバーウルフが咄嗟に避けるが、それは織り込み済みだ。
唱えた呪文はショットガンから発射された球のように、前方に炎の弾をばら撒くタイプだ。
被弾したシルバーウルフが歯をむき出しながら距離を取った。しかしそれは魔法を使う相手にとって悪手だ。
「炎の精霊よ。紅き業火を纏いて敵を討て! ファイア・ジャベリン」
ファイア・ボールより弾速が早い魔法だけど、それでもシルバーウルフに避けられてしまった。
「風の精霊よ。我が意に従い雷光となれ! ライトニング・ボルト!」
威力より早さを求めるのなら、雷系の魔法だ。
青い稲妻が走り、今度こそシルバーウルフに命中する。
確殺はできないが、ダメージと痺れ効果を与えられた。
「輝き燃えたる火の精霊よ。我ここに、火の円盤用いて理を示す」
俺の突き出した掌の向こうに、炎で出来た魔法陣が現れた。
「汝、盟約に従い、天焦がす炎となれ! バーニング・ファイア!」
ファイア・ボールより一回り大きいオレンジの弾が発射され、シルバーウルフに直撃。その瞬間轟音と共に炎が炸裂し、天にむって火柱が上がった。
調伏するためには相手を屈服させないといけない。だから生き残りに恐怖を与えるために、派手に過剰に攻撃した。
最初こそ手こずったが、気づけばシルバーウルフは残り一匹になり、琴音と対峙していた。
「オン・ラグナ・リンマ・ソワカ! 雷よ、下りて爆ぜよ! 雷爆! 急急如律令!」
「ギャンっ!」
琴音が手加減して放った雷が狼を撃ち抜いた。琴音は痺れて動けない狼へゆっくり歩きながら呪文を唱える。
「オン・カシャ・ザンマ・ソワカ! 天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀! 急急如律令!」
琴音の手に刀が現れ、狼の目に恐怖が宿る。
「オン・カンダ・ヴァジュラ・ソワカ!」」
琴音の刀に青白い稲妻が宿りバチバチと弾ける。
狼は必死に体を動かそうともがくが、痺れて動けない。
「はっ!」
琴音が刀を振りかぶり、狼目掛けて振り下ろした。
「ギャンっ!」
狼は恐怖のあまり泡を吹いた。
琴音の刀は狼の顔の直ぐ側に突き刺さり、稲妻が狼を軽く焼いていた。
「死か服従か」
琴音が言霊を込めて言うと、何を言っているのか伝わったのか、狼はガクガクと首を縦に振った。
「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! シルバーウルフ。調伏の印、いま結び奉る。縁鎖・魂縛・理鎖・封絶・従命! 急急如律令!」
無事に調伏できたかな?
狼は服従のポーズをとった。
「よしよし」
琴音は狼の腹をワシワシとなでる。
「乗せてくれるかな?」
「ぐるる」
狼はうつ伏せになって、背中を低くした。
「よっと」
琴音が狼にまたがる。
「ずれる! 落ちそう!」
狼は琴音を落とさないように、ゆっくりと立ち上がった。落とせば殺されると思ったのか、狼の顔が必死に見えて、吹き出しそうになった。
「ふぅ。しばらく乗ってようかな。浄土世界の門はもうちょっとしたらよろしくね」
「了解だ」
「ねぇ。秀ちゃんとアリサさんも調伏して、みんなで乗ろうよ」
「そうねぇ。私は人造式神からって思ったけど、楽しそうね」
もう一つの群れを探して一匹残して調伏し、無事にアリサさんも狼を式神として使役することに成功した。
「初めての式神! なんか可愛く思えてきたわ!」
アリサさんが狼の上で大はしゃぎしている。
式神となった狼は、さっきの狼と同じく、恐怖で顔が引きつっていた。
ちょっとやり過ぎたかもしれない。




