第44話 琴音視点 京の都
私は近藤琴音。今、夢を見てるみたい。白昼夢ってやつかな? 夢が夢だってわかる感じの奴?
あぁ……またこの夢。
デジャブがあると見る夢。
私にとってとても大切な夢。夢から覚めると、手ですくった水のように、こぼれて忘れちゃう夢。
だから……今度こそ絶対覚えていたい。
「琴姫様。またあの痴れ者が来ています」
「……はぁ。適当な理由を作って帰らせなさい」
「かしこまりました」
また、平民出身の陰陽師がまた私に会いに来てるみたい。
貴族と平民では釣り合わないって、何度言えばわかるのかしら。
――とはいえ。
この京の都で次々と怨霊や妖怪を退治している噂の陰陽師。その実力だけは認めざるを得ない。
十二体の強力な式神を従えてるなんて、規格外にも程があるわ。その式神が全員美少女なのが気に食わない。とんだ色情狂に違いないわ。そんな奴に目をつけられるなんて、とんだ災難だわ。
気分が滅入るので、中庭に出ると、双子の男の子が庭の手入れや、水汲みに勤しんでいた。
「琴姫様!」
「琴姫様!」
二人は私に気がつくと平伏した。
「頭を上げなさい。そんなに這いつくばる必要ないって言ってるでしょう」
「でも……琴姫様は僕らの恩人で……お貴族様です」
この二人は両親を怨霊に殺され、自分達も殺されかけていた。私がもう少し早く現場に着いていたら、両親を助けることができたかもしれない。
そんな罪悪感から下働きとして雇い入れた。それに才能があった。
「私のことは気にしないで仕事をしなさい。その後は修行よ」
「はい!」
「はい!」
この二人は怨霊に襲われたせいか、元々そうなのか、鬼見――霊や妖が見える才があった。もしかしたらそのせいで怨霊に目をつけられたのかもしれない。
「こんにちは」
その声で背筋が固まった。
振り向くとそこには狩衣姿の陰陽師が立っていた。噂の陰陽師だ。
同じ十六歳だと言うのに、私とは比べ物にならない天才……いえ、化物よ。
「どうしてここに?」
「ちゃんと招き入れてもらいましたよ」
「術を使ってじゃなくて??」
「さぁどうかな?」
「帰ってくれないかしら?」
「せっかく来たのに。もう少し話せないかな?」
「人を呼ぶわよ」
「それは困るな」
「……くっ」
全然困ってない。
お父様もお母様も今は陰陽寮にいる。それを知ってて来たに違いないわ。術でも何でも使って、追い返した。でも、今の私じゃ勝てない。
「どうしてそこまで嫌がるんだ? 嫌われるようなことはしていないと、思うんだが……」
「そういうところが嫌なのよ! それに式神が全員若い女の子なのも、気に食わないわ!」
「そんなことを言われてもな。彼女達は僕の前世が調伏したみたいで、代々式神として付き従ってるそうなんだ。文句なら僕の前世に言って欲しい」
「前世から? 憑りつかれているの?」
「さぁ……わからない。琴姫様が気に食わないなら、なるべく出さないようにするよ。僕はあなたが愛しくてたまらないんだ」
こ、こいつ……どうして直接いえるのよ! 普通は和歌に遠回しに伝えるものでしょう! これだから平民は……!
「どうして……その……そんなに……思ってる……のよ?」
「恋に理由はいらない。僕の魂が琴姫様を求めているんだ」
「私は求めてない」
「いづれ振り向いてはもらえるように頑張るよ。だからもっと話がしたいんだが……」
「お、お前! 琴姫様が嫌がってるだろ!」
「帰れ! 帰れ!」
双子が私の前に立ちはだかった。
「弟子か?」
「ただの下働きよ。二人とも下がりなさい」
「い、いやです!」
「琴姫様をいじめるな!」
すると奴は困ったように笑った。
「術を使ってみてよ。怖くて逃げてしまうかもしれないよ」
「おん、ばさら、もう・かさ! えっと……きゅ、きゅきゅうにょりつりょう!」
「ぐはーこれ程までとはー」
陰陽師は棒読みの悲鳴を上げて消えた。いつ術を使ったの? まるでわからなかった。
「やった!」
「馬鹿を言いなさい。見逃してくれたのよ。それに術になってなかったわよ」
「え? え?」
「あなた達はもっと相手の力を見る目をもちなさい」
あいつめ。下手な芝居で私の好感度を上げたつもりでいるのかしら。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夢の場面が変わった。
夢の中私は、とても焦っている。
でも夢を見てる私は嬉しい。噂の陰陽師が、秀ちゃんの前世だって知っているから。
まずいわ。非常にまずいわ!
お父様とお母様から、あの陰陽師を紹介された。どうやら悪霊退治の現場で助太刀されたらしい。
かなり強い悪霊だったみたいで、撤退を考えていたところを、あの男がどこからともなく現れて、あっという間に悪霊を退治したらしい。
私の時と同じだ。不覚にも、私はあの時ときめいてしまった。でも美少女の式神を、何人も従えているのを見て、最低な奴だと気づいたのよ。
その陰陽師が今、夕餉を共にしている。
「琴姫。お前を助けたお方が秀乃介君だとは」
「流石今名うての陰陽師ね」
「私だって名を上げて見せるわ」
「秀之介君。もしよかったら琴姫と一緒に、悪霊退治をやってくれないか?」
「はぁっ!? お父様! そんな必要はありません! 私は一人でもやれます!」
「僕は構いませんが、琴姫様が乗り気ではないようなので、一旦辞退しておきます」
「そうですが……では琴姫の気が変わったら……」
「お父様!」
「琴姫。はしたないぞ」
「もういい! 部屋に戻ります!」
「琴姫!」
秀之介とか言う男。外堀から埋めていく作戦に出たみたい。
父様と母様を助けただけじゃなくて、あの子達――浅太郎と浅次郎にも陰陽術を教え始めた。しかも教え方がうまいのか、私が教えるよりも成長が早い。
私の教えじゃダメってことかしら? 余計なお世話だわ!




