第38話 陰陽師VS巨大ドラゴン
「琴音。いくぞ!」
憑依の状態だと、機動式神に搭載された念話機能が使える。
「うん!」
地面が砕ける程の踏み込みと同時に、機動式神が跳躍し、そのまま空を飛ぶ。飛行魔法で空を飛ぶことを経験したおかげで、以前より上手く扱えている。だけど体が重い。機動式神が重すぎるせいで、余計な力が入ってしまう。やっぱり生身の方が動きやすいな。
地上から重機関銃が放つ火線を避けつつ、グレーターデーモンに狙いをつけ、アサルトライフルの引き金を引く。
空気を震わす重低音。耳をつんざくような爆発音。次々と発射される弾丸は、マントラが刻み込まれた聖なる弾丸だ。
弾丸がグレーターデーモンの体内にめり込むと、弾丸に刻まれたマントラが輝き、術が発動。体内で次々と小爆発し、グレーターデーモンは反動で踊るように四散した。
次々とグレーターデーモン達を撃破しつつ、巨大なドラゴンに迫る。
マジで体育館くらいあるぞ。大きすぎて距離感がわからなくなる。なんであんなデカブツが空を飛べるんだよ! 大きすぎて射程距離が掴めない。……仕方ないな。
「シュートアシスト」
網膜に直接緑のカーソルが表示される。
しかしそんな必要はなかった。ドラゴンがスキルでも使ったのか、一瞬にして距離を詰めてきた。巨大な腕が薙ぎ払われ、大気を震わせながら、爪が襲いかかってくる。
「ぐっ!」
かすった。腕に激痛が走るが直ぐに痛みが引いてく。きっと師匠が俺の身体に回復の術をかけてくれたおかげだ。
俺はドラゴンの攻撃を避けつつ、至近距離からアサルトライフルをフルオートでぶっ放した。
「うおおおっ!」
気が狂う様な炸裂音が耳を襲い、反動で腕が持っていかれそうになる。
しかしドラゴンの鱗が多少傷ついただけでダメージが通ったように見えない。弾丸に込められた術も大してダメージを与えていない。
「次はこいつを喰らえ!」
肩に備え付けた榴弾砲を傾けつつ、距離をとる。
「はあああっ!」
徹甲榴弾がドラゴンの鱗を貫いて爆発した。同時に榴弾に込められた術が展開し、更に大爆発を起こす。
衝撃音が鼓膜を襲い、爆炎が視界を真紅に染める。襲いかかる熱風と衝撃波が全身を殴打し、意識を持っていかれそうになるけど、連続でかけられている回復の術で、強制的に意識が覚醒する。
「大して効いてねぇ!」
ドラゴンの鱗が剥がれて、肉が焼けたが、それでもドラゴンの大きさから比べると、ちょっと火傷したくらいにか見えない。
「はぁあっ!」
光に包まれた琴音の刀がドラゴンの鱗を切り裂く。巨大な刀なのに、傷口が浅い。
ドラゴンが一旦身を引いたかと思ったら、下から電車くらいある尻尾が襲いかかってきた。
「ぐう!」
無理矢理横に飛んで避けるけど、急な加速で視界がブラックアウトしそうになる。
ドラゴンが息を吸い込んだ! 絶対火を吹く予備動作だ!
予想通りドラゴンの口から火炎放射器のように、巨大な炎の奔流が放たれた。
「くっそぉ!」
今度は上に飛んで炎のブレスを避けつつ、アサルトライフルの攻撃で牽制する。
避けても全身があぶられて痛いし、連続で避け続けて、胃の中が全部出そうだ。
「秀ちゃん! 信号弾! 援護射撃が来るよ!」
「了解!」
琴音の言葉で一旦距離を置くと、地上から雨の様な弾丸がドラゴンに襲いかかった。重機関銃から発射された大口径の弾丸だ。流石のドラゴンも動きが止まった。
琴音が肩の装備を榴弾砲に換装し、二人で榴弾砲を撃ちまくる。
下からと横からの十字射撃だ。
爆炎と煙の向こうに見える巨大な赤い魔法陣。
やべぇ! 嫌な予感しかしねぇ!
「回避ぃいい!」
魔法陣から赤い光線が無数に放たれた。
俺と琴音は射撃を中止し、回避に集中。避けても避けても、魔法陣から次々と光線が撃ち出される。しかも一旦避けたと思った光線も、カーブを描いて、再び襲い掛かかってきた。キリがない!
「くっそ!」
俺と琴音は榴弾砲を重機関銃に換装し、アサルトライフルと一緒に、撃って撃って撃ちまくる。
「うおおおっ!」
「はああっ!」
ばら撒かれた弾丸達が、光線と激突した瞬間、弾丸に込められた術が発動し、爆発の嵐を引き起こした。しかし光線は多少弱まったが、爆発を貫通して迫りくる。
「秀ちゃんもう無理! 切り替えるよ!」
「了解だ!」
兵器の実戦試験なんて、もう付き合ってられるか!
機動式神の至るところにあるハッチが開き、無数の式札が発射された。
「オン・ドラガ・ラシュマ・アグラヴァ・ランダ・クシャンバ! 式の札よ。炎輪となりて、万象を焼き断て! 爆破符・烈火陣! 急急如律令!」
宙を舞う無数の式札が一斉爆発し、今度こそ光線を全て迎撃した。
光線は地上にも降り注いだが、狐鈴が張った結界によってみんな無事だ。ドラゴン相手に、機動式神の兵器はここらで限界だ。
そう思った時、師匠も同じ判断をしたのだろう。地上から鉄球が打ち上げられて爆発四散。中から無数の式札がばら撒かれ、ドラゴンの周りを舞い、まるで生き物のように、ベタベタとドラゴンに張り付いていく。式札の援護助かる!
「オン・ラグナヴァーラ・サンディヤ・ドゥルガナ・アラシャ・ソワカ! 式の札よ。断ち切れ、繋がれ、響き合え。雷と火、陽と陽、破壊の連鎖! 爆顕律解・火天裂破! 急急如律令!」
式札が連鎖的に大爆発を起こし、空間を歪ませるほどの閃光と爆圧が轟く。後退して衝撃波に備えようとしたけど、琴音が防御障壁の魔法で防いでくれた。
「サンキュー琴音! 畳みかけるぞ! 五行と神威!」
「了!」
琴音の機動式神が右手で刀を構えつつ、左手で印を結ぶ。
「璃光菩薩、金剛輪菩薩、白蓮華菩薩、真紅天菩薩、青嵐菩薩、黒曜瞑菩薩、天音観菩薩、三千世界の御霊に申し上げる……」
刀が発光し、更に機動式神の背中に、巨大な曼荼羅模様の光が広がる。
ドラゴンの首が琴音に向く。だがお前の相手は俺なんだよ!
俺はアサルトライフルを数発撃ちこむと、武器を送還して印を結ぶ。
「オン・ヴァジュラ・ラーグ・ナスティア! 鋭刃は天理を貫き、流転の理を生む。金気の末に芽吹くは、水の生」
ドラゴンに着弾した弾丸が水となり、まるで巨大な大蛇の様にドラゴンに襲い掛かる。
ドラゴンは水がどうしたとばかりに無頓着だが、俺に標的を変えた。
「オン・スヴァ・ジャーナ・ミトラーム! 潤いし地に根は張り、命は枝葉を広げん。水行、木気を孕みて生ず」
水から木が生え、ドラゴンに巻き付き、動きを止める。
これにはドラゴンも驚き、木を破壊しようともがくがもう遅い。
「オン・グルヴァ・ロハーラ・アグナ! 森羅、燃ゆる時、破滅の理もまた顕現す」
ドラゴンに絡みつく木が発火し、業火となってドラゴンを包み込む。
「オン・プラーシャ・ダーマ・ラギータ! 炎、灰となりて大地を育む。焦熱の底より、理の根源を成す」
業火が灰となり土になる。まだ熱を帯びた土はまるでマグマの様になって、ドラゴンに張り付く。
「オン・カンナ・ラジュリ・アーグマ! 土くれ、黒鉄となりて、刃と化す」
熱かった土が一気に冷めて金属になり、刃となってドラゴンを切り刻んだ。
水で冷やされた後、高熱で焼かれ、熱膨張で脆くなった鱗や肉が切り刻まれていく。
そして琴音の呪文が佳境に入った。
「……オン・サラ・バサラ・カン・マン・ジャク・ソワカ! 鬼邪討伐、悪霊退散、鬼神調伏! 神威七宝・光刃曼荼羅! 急急如律令!」
琴音の機動式神が持つ刀が眩しいくらいに光り輝き、質量を持った高熱の刃になっていく。
「はぁああっ!」
琴音の機動式神がドラゴンへ向かって突撃し、光の奔流となった刀がドラゴンの胸を切り裂く。
「グルゥウアアア!」
ドラゴンが死にものぐるいで琴音めがけて襲いかかる。
俺は再び重火器を召喚し、アサルトライフルと榴弾砲をフルバースト射撃する。
たいして効いてないが、ドラゴンの腕を弾いて隙を作った。
「はぁぁ! 七光の御名に、今一度、願い奉る! 善悪の理、いまだ裁かれざる地、今、一片の光を落とさん! 断罪の剣、神威に坐す天の一閃、清きを照らし、邪気を断つ! 一光斬滅! 急急如律令!」
一際大きくなった刀が、ドラゴンの長い首を一刀両断した。何の抵抗もなく振り切ったので、視聴者は琴音が間合いを間違えたと思ったかもしれない。
ドラゴンの首が傾き、回転しながら落下し、続いて飛ぶことが出来なくなったドラゴンの体が落ちていった。
辺りを見渡すと、アークデーモン達が撤退していくところだった。




