第30話 創られた存在
アンデッド達を倒しながら森の中央へ進んで行く。
ファーミルの森ではスキルと魔法で高速移動していたけど、今回は師匠に禁止されているから進みが遅い。
アリサさんには言ってないけど、これはレベル上げでもあり、囮でもあるんだ。みんながこれ以上吸血鬼達に襲われないように、派手に暴れつつ侵攻することによって、吸血鬼の気を引く。アリサさんも薄々気づいているのか、何も言ってこなかった。
俺や琴音は、森で大きな荷物を背負って強行軍する訓練を受けているが、アリサさんは違う。そんな当たり前のことに、俺は気づけなかった。
「秀一よ」
「なんだい?」
「少し休まんか? アリサが限界じゃ」
「私は大丈夫よ」
アリサさんの顔色が真っ青で、今にも倒れそうだった。これじゃあまともに戦えない。体力増加のパッシブスキルがあっても、追いつかない強行軍になっていたか。いや精神的な面もあるか?
「たわけが。自分の状態を偽るでない」
「俺が休みたいから、休憩にしよう。確認したい事もあるから丁度いいんだ」
そう言うとアリサさんがホッと息を吐いた。
俺は祝詞を唱え、辺り一帯を浄化し、アンデッドを寄せつけない空間を作った。吸血鬼には効きそうにないくらいに抑えて。
魔法で木々の上に飛び、更に上昇する。遠くに古城らしきものが小さく見えた。
古城を見ていると、何かに見られた気がした。ゾンビやスケルトンからじゃ感じられない、敵意に満ちた感情を向けられた気がする。
「こんアリサー! 今日は最悪の場所から配信するわ! ゲストは琴音ちゃんと狐鈴さんよ。早川の馬鹿は見張りよ! 見張り! なんでかって? ここがアンデッドの森だって、教えてくれなかったからよ! もうあいつに君付けなんてしないわ!」
「え? そうやって秀ちゃんと距離詰めるつもり?」
「琴音ちゃん。目が怖い。そんなわけないでしょ?」
「そう? ならいいけど?」
「ほら、自己紹介」
「近藤琴音です。私の彼氏の秀ちゃんと! カップル配信やってます!」
「妖狐の狐鈴じゃ。よろしゅうな!」
「ねぇ。琴音ちゃん。今日は火と光の魔法ばっかり使ってたけど、聖属性とかの魔法を閃くためなんだよね?」
「うん。そうだよ。聖属性とか浄化の魔法があるなら使いたくて。でもなかなか閃かないのよね。火や光の魔法じゃダメなのかな?」
「RPGなら、アンデッドには回復魔法が定番だと思うけど?」
「あっ!」
「あっ!」
琴音と狐鈴が同時に声を上げた。俺もだ! そうだ! そうだった!
「あんた達オンラインRPGをやってたんじゃなかったの?」
「私近接アタッカーだったし」
「我はもちろん魔法少女じゃ」
魔法使いのアタッカーな。
「早川は?」
「秀ちゃんはタンカーのナイトだよ。私のナイトでもあるけど!」
「脳筋しかいない……」
「私のナイトはスルー!?」
脳筋ってのは、脳味噌まで筋肉で出来てるんじゃないかって言われるパワープレイのことだ。細かいことは気にせず、とにかく楽しむ。……悪口じゃないよな?
「ヒーラーはいなかったの?」
「ポーションで……」
「高難易度ダンジョンとか行ってなさそう……。仕方ないから、戻ったら私がヒーラーやってあげるわ」
「やった! アリサさん大好き!」
「くぅ……可愛いわね!」
「アンデッドに回復魔法かぁ。こっちの世界でも通用するかな?」
「これだけゲームっぽい世界なのよ。できるに決まってるじゃない」
「やらぬ手はないな」
それを聞いて俺は一旦結界の外に出た。
アンデッドはそこら中にいるので、探す手間がない。
一体のゾンビがにじり寄って来た。まるで生者にすがるようだ。
「光の精霊よ。癒しの光となれ! ヒール」
俺の手が金色の光に包まれ、まるで聖域が広がるように、癒しの波となってゾンビに向かい、そして包み込んだ。光に包まれたゾンビの瞳がまるで生前の様に白くなり、何かを思い出したかのように笑った。
「……ありが……とう」
それは微かに聞こえた。いや、もしかしたら幻聴だったのかもしれない。
癒しの光が消え、ゾンビが崩れて落ち、ただの死体へと変わった。
それと同時に聖なる浄化の魔法を閃くが、嬉しくもなんともない。
「……俺は何をやってたんだよ」
感傷に浸っているところに無粋な気配が近寄ってくる。
「白焔如来、光輪大明王、八界守護天、三界を超えし御霊に、穢れ魂を滅する力を乞い願い奉る……」
霧が集まり、人の形になった。街で暴れてた吸血鬼よりも弱そうだ。
「夜の静寂を踏みにじる、招かざる客人よ」
吸血鬼が芝居じみたポーズを取って言った。
「闇に堕ちし不死の影、迷いを断ち、輪廻の岸へ還るべし」
「聞いているのか? あぁ、家畜には言葉がわからぬか」
「此処に集いし穢れの魂を見そなわし、常世に堕ちし闇の理、いま断ち給え」
「ならば死ぬがよい!」
「火の禊にて魂を焼き、塵となりて、祓え給え、清め給え、還り給え、恐み恐みも申す」
「ぎゃ……!」
吸血鬼が浄化の炎により燃え上がり、穢れなき灰となる。だめだ。ただ滅しただけじゃだめなんだ。吸血鬼とはいえ浄化してやらないとな。
「掛けまくも畏き八百万の神々の御前に申さく。天地清浄なる理のもと、此の地に満つる穢れを祓い給え、清め給え。罪穢れ悉く消え失せ、光満ちる道と成らんことを。神々の御力を奉りて、禍事・罪・穢れを祓い給え、鎮め給え。恐み恐みも申す」
灰が塩となり、風に吹かれて散っていった。
俺はみんなを呼び、琴音と共にアイテムボックスに入っていたアンデッドの死体を全て浄化した。すると浄化の光にアンデッド達が集まり、次々と光の中へ消えていった。
祝詞や陰陽術は、この世界の魔法系統に存在しない。だからいくら使ってもレベルアップしないし、他の魔法を閃いたりしなかった。けど今回は違った。周囲のアンデッドを浄化しつくしたら、次々と聖属性魔法を閃き、俺と琴音は激しい頭痛に襲われた。これは享楽之神による感謝のプレゼントなのだろうか? それとも俺達だけスキルや魔法がもらえなかった事の補填なのだろうか?
「狐鈴。できるだけアンデッドを浄化して行きたい。力を貸してくれないか?」
「秀一よ。本当は言わないでおこうと思ったのじゃが……」
「ん?」
「無駄じゃ」
「え?」
「皆も聞け。案内妖精を問い詰めて吐かせたのじゃがな。この世界は約三年前に創られた。即ちこの世界に存在する人も魔物も、全て三年前に創られたのじゃ。偽りの記憶を植え付けられてな」
「そんな事って……」
「力ある神ならば可能かも知れぬ」
「それって、ゾンビはゾンビのまま生まれてきたって事?」
「そうじゃ。生前の記憶を植え付けられてな」
「……酷い」
「じゃあ俺達がした事って……」
「無駄かも知れん」
「そんな……」
「そんな顔するでない。憶測じゃが神聖魔法なら、享楽之神の元へ送ってやれるのではないか?」
「え!」
「ノコよ」
「はい、狐鈴様」
狐鈴の案内妖精が淡い光と共に現れた。
「狐鈴様のおっしゃる通りでございます。享楽之神様から授かりし魔法なら、不憫な生まれの者を、享楽之神様の御許へ送り届けることが叶いましょう」
「やはりな。じゃが、今はゆっくりもしてられん。わかっておるな」
「あぁ。古城まで最短距離で突き進みながら浄化してく」




