第29話アンデッドの森、ホラゲが苦手なVTuberの悲鳴が鳴り響く
「いやぁぁああっ! オン・ビャクコク・テン・カガチ・ソワカ!」
アリサさんが迫りくるゾンビ達を見て、半狂乱になりつつも術を唱えた。
「狐火よ集え、炎の尾よ、九つの業火、吠え猛りて悪を灼け! 焔尾轟火! 急ぅ急ぅ如律令ぉぉおお!」
青白い炎がゾンビ達を包み込み、骨も残さず焼き尽くした。
森の中で炎の術はちょっと危険だけど、かなり湿った森だから、そうそう火事にならなそうだ。そんな心配をしていると、アリサさんが詰め寄ってきた。
「アンデッドが出るなんて、聞いてないんですけど!」
アリサさんが燃えているゾンビを刺しながら、文句をぶつけてきた。配信とか関係なく、めっちゃ怒ってる……
「俺も詳しく知らない。調べたら別名死者の森って言われてるくらいしか……」
「それを早く言いなさいよ! 私もう帰りたい!」
ワーズの森は別名死者の森と呼ばれている。その名の通りアンデッドの巣窟だ。あちこちから呻き声が聞こえ、死体が徘徊し、実体を持った幽霊が、木々の間を飛び交っている。しかもレベル三十前後とそれなりに高い。少し前に戦ったレッサーデーモンのレベルが三十なのに、ゾンビやスケルトンもレベル三十前後ってどうなんだ? 吸血鬼の下僕となったアンデッドなら、レベルが高いのだろうか? それとも共食いでもしてレベルが上がっているのか?
「ここまで来たら覚悟を決めろよ。陰陽術って基本的に神様の力を借りるから、アンデッドとは相性がいいんだ。いい修行になるさ」
「それはわかってるけど! 生理的に無理なの! わかってよ!」
「秀ちゃん、今のは気づかいがなってないよ。秀ちゃんだって、ジェットコースターとか苦手でしょ」
「アレは死ぬだろ!?」
「死なないよ!」
「早川君でも苦手なものあるんだ」
「……ごめん。悪かったよ。前衛は任せろ。アリサさんに近寄らせない」
「わかったわ。格好いいこと言うじゃん」
「秀ちゃんは渡さないよ?」
「琴音ちゃん、顔が怖いって。私そんな気ないからね! 未成年に手を出したら、炎上どころじゃすまないんだから!」
「むぅ、怪しい……」
「大丈夫だから!」
アリサさんが若干面倒くさそうな顔をした後、会話相手を狐鈴に切り替えた。
「なぁ。琴音」
「ん? なぁに?」
「どうせなら聖属性の魔法とか閃きたくないか?」
「良いね! かっこいい! 吸血鬼にも効きそうだよね!」
「やっぱり火と光の魔法を使ってアンデッドを倒したら、閃くかな?」
「陰陽術でも浄化の炎とか、浄化の光とかあるしねぇ」
「それじゃ火と光の魔法を使っていこう!」
「オッケー」
戦闘音や俺達の会話に反応したのか、ゾンビやスケルトン達が木々の間から向かってきた。
「琴音、速攻倒そう!」
「了!」
有言実行! 近寄らせないぜ!
俺は聖属性の魔法を閃くために、腕を前に突き出し、光の呪文を唱える。
「光の精霊よ。我、光の理なる環状印を捧げん」
突き出した手の先に光の魔法陣が現れ、ゆっくりと回転し始めた。
「汝、光陣より来たりて槍と化せ。全てを貫き疾走せよ! シャイニング・スピア!」
手の先に光が集まり、槍となって発射された。
光の槍はゾンビをまとめて貫き、はるか先で爆発。
貫かれたゾンビ達は高熱によって燃え上がった。
「光の精霊よ。我、剣の舞にて精霊門を開かん」
琴音が小さく剣舞を踊りながら呪文を唱えた。
「我、求むは焦熱の光、我、求むは灼熱の光。輝く閃光よ。我が導きに従え! シャイニング・セイバー!」
琴音の剣が高熱の光に包まれる。
「はあっ! クレセント・カット!」
琴音の剣が流れるように横薙ぎに払われると、ゾンビの体が真っ二つになった。
高熱の刃に焼かれ、断面から炎が広がっていく。続いてスケルトンが間合いに入ると、琴音はかかとを軸に半回転し、剣先を跳ね上げた。
「ライジング・カット!」
スキルと共に放たれた逆袈裟の斬撃が、スケルトンをバラバラに吹っ飛ばした。
琴音の剣が、俺の魔法が、次々とアンデッド達を倒していく。
しかしアンデッドの数が多い。地面を引きずるような足音や、スケルトンが威嚇するように鳴らす骨の音が連なり、耳障りな騒音となって響く。まぁ……それよりうるさいのは、アリサさんだったりする。
「いぃぃぃやあああっ! 燃やすうぅ! 燃やしてやるうぅっ!」
「まったくうるさいのぉ」
狐鈴がジト目でアリサさんを見つつ、スターライト・シュートを連打していく。無詠唱魔法が羨ましすぎる。
「一度殲滅するかの」
前方に木々を押しのけるかのように、ゾンビの大群が迫っていた。
腐臭と呻き声が混じり合い、恐怖そのものが迫っているかのようだ。
このまま接敵すれば、アリサさんが発狂しそう。
「狐鈴」
「うむ」
狐鈴がババっと印を結ぶ。
「オン・アグニ・キリカ・ソワカ!」
狐鈴の足元から、青白い炎がいくつも湧き出て、周囲を漂う。
「狐火よ。群れよ、舞えよ。狂乱が如く。狐焔演舞! 急急如律令!」
狐鈴が袖を払うと、狐火が一斉に発射された。
狐火は木々の間を縫うように進み、次々とゾンビに着弾し、燃え上がらせた。
「すっご……」
倒したと判定されたアンデッド達の死体が、案内妖精によってアイテムボックスに入って行く。これって買い取りしてくれるのか? 魔法の触媒とかになる? というか、普通に人の死体なのでは?
「私、絶対にいらないから!」
戦闘後にアリサさんが案内妖精に文句を言っていた。
俺もいらないよ……




