第2話 案内妖精
気が付くと小さな部屋にいた。まるで旅行先で泊まった、ホテルの部屋みたいだ。
ベッドがあり、テレビ……じゃないな。あれはパソコンとモニターだ。それに大きなマイクにウェブカメラまである。何だこれ……よく見ると普段俺が使ってる環境より、ずっと良い設備じゃないか! ってそんなことより琴音は!?
「こんにちは!」
パッと光が弾け、目の前に小さな妖精が現れた。見覚えがある。事前登録の時に作った案内妖精だ。
長い金髪の妖精が宙に浮き、ニッコリと微笑んでいた。
金髪碧眼だけど、顔つきが日本人。清楚系な見た目だけど、長い金髪がギャルっぽい。
「……こんにちは」
「私は案内妖精のセレナよ。享楽之神様から……」
ドンドン、ゴンゴン、ドガン! バガン! と激しいノックがした。この叩き方は琴音がキレてる時のノックだ。そもそもノックなのかこれ?
「ドアを開けてあげて。この部屋のドアは、部屋主のあなたしか開けられないの」
「秀ちゃん!」
ドアを開けた瞬間、琴音が勢いよく飛びついてきた。
俺は軽く下がって、琴音を受け止めた。
「秀ちゃん……無事で良かった……」
琴音の声が少し震えていた。
「琴音も無事で良かったよ」
こんなわけがわからない状態で、琴音の無事がわかっただけでもホッとした。
「ぐえぇ……」
琴音が握った手の中で、案内妖精が潰れかけていた。
「ちょっと! 離してあげて!」
「あ、ごめんごめん」
琴音がテヘッと舌を出した。全然反省してない時のしぐさだ。
「……酷い目にあった。あんな物みたいに扱われるなんて初めてだよ」
琴音の妖精は少年の形をしてた。モデルは小学生の頃の俺らしい……
「お前らは一体何者なんだ?」
「私達は案内妖精。享楽之神様に創られた妖精よ。役目はこの世界のことをあなた達に教え、導くことよ」
「ここって……異世界なのか?」
「そうよ。享楽之神様がお創りなった世界。剣と魔法の世界。あなた達が思い描くようなゲームみたいなファンタジー世界よ。一応言っておくけど、ゲームの中に入ったわけじゃないからね」
「俺達は元の世界に帰れるのか?」
「ええ、帰れるわ。グランドクエストをクリアしたらね」
「今すぐ帰してよ! 知らない神様に付き合う義理なんてないわ!」
「あら? 享楽之神様はあなたの願いを叶えたのよ。誰の邪魔も入らない異世界で、大好きな秀ちゃんと気が済むまでイチャイチャしたり、ゲームみたいな冒険がしたいって願いをね」
「あ……うぅ……」
「あなたもね」
俺もそんな妄想してたな。
「どうせ今帰せって言っても、帰してくれないんだろう。グランドクエストをクリアしたら帰れるのか? 神力を集めるんじゃなくて?」
「もちろん一番の目的は神力を集めることよ。そのためにも配信には視聴者を熱狂させる物語が必要なのよ。ただマンネリに冒険してる様子を見ても、すぐに飽きちゃうでしょ?」
「そのためのグランドクエストなのか?」
「ええ。グランドクエストはこの世界の運命。この世界はあなた達が転移したことで、大きく動くことになるの。始めは小さな影響力だけど、それは大きな流れになって、この世界の国々や魔族を巻き込んでいくわ」
「まるで予言だな……」
「ねぇ。そのグランドクエストってどうやって進めるの?」
「いい質問ね。グランドクエストを進めるには、初級のクエスト攻略から始まって、神話級のクエストまでクリアする必要があるわ。全てのクエストをクリアすれば帰還できるの。単純でしょ?」
全てって……簡単に言ってくれるな……
「ん? グランドクエストをクリアしても、神力がたまってなかったら?」
「その時は第二陣と交代よ」
「ねぇ、配信はどうやるの? グランドクエストを攻略する様子を配信するんだよね?」
「戦いながらは無理だよな?」
「頭にカメラ付けてもブレブレになっちゃうよね」
「カメラは私達よ。私が見たもの聞いたものが、動画ファイルとして保存されるの。ライブ配信だってできるわ」
「カメラの妖精だった?」
「その言い方がやめて」
ちょっと怒っている。ドローンの妖精とか言わなくて良かった。
あなた達は二人で一つのチャンネルだから、ライブ配信はどっちかの妖精が担当する事になるわ。ライブ配信する時に選んでね」
「はーい」
「配信作業はこの部屋でできるわ。琴音ちゃんは自分が転移した部屋ね。あなた達一人一人に部屋が与えられていて、各部屋で配信作業が出来るわ」
「どんな回線だよ……俺達の世界と繋がってるってことだよな?」
「えぇそうよ。ウルトラチャットでもらったお金でネット通販だってできるわよ。購入した物はそのままアイテムボックスに転送されるわ」
「やった! って私達ウルチャもらったことないんだった……」
ウルトラチャット。通称投げ銭。それは視聴者が動画配信サイトに課金して、配信者にお金を渡せるシステムだ。三割くらいは手数料で引かれるけどな!
「もらえるように頑張らないとな」
「そうだね!」
「最後にクエストを受けるわよ。ここはあなた達プレイヤーの拠点。冒険者ギルドよ! グランドクエストを進めるためにも、生きていくお金を稼ぐにも、まずはここでクエストを受けるのが基本よ!」
「クローズドベータの参加者って百人だったよな。クエスト受けるにも混んでそう……」
「大丈夫よ。プレイヤーは三つの都市に分かれて転移しているの。ここには三十三人のプレイヤーしかいないわ」
「同じ場所だと同じような配信になっちゃうからか」
「そうよ。さぁ行きましょう!」




