第23話 補充要員と作戦会議
享楽之神が強制力でも使ったのか、特式の使用許可はあっさりと下りた。
特式――正式名称は機動式神。陸上自衛隊と陰陽局で共同開発した、兵器としての式神だ。そのため自衛隊側から条件があった。
それは現場監督者の転移だ。
案内妖精を通じて交渉が行われ、自衛隊から一名、陰陽局から一名転移してきた。
自衛官はキリッとした凛々しい女性で、陰陽師は狩衣――いかにも陰陽師ってわかる服を着ているちゃらいおっさんだ。
俺達は案内妖精によってギルドのホールに集められ、二名の転移者の紹介を受けた。
「皆さん、初めまして。自衛隊中央即応連隊所属、結城早苗です。三日前に配信者としてデビューしました。よろしくお願いします」
結城さんは陸上自衛隊の礼服をビシッと着こなし、綺麗に敬礼した。
「えー陰陽師の沖田でーす。陰陽局って謎の組織に所属してる怪しいおじさんだ。適当によろしく。配信はその内始めまーす。たぶん。忘れてなければ」
一方陰陽局から来たおっさんは狩衣を崩して着ていた。なんか恥ずかしい。そんな態度がバレたらぶん殴られるけど。
「ねぇ。早川君。あの人ヤバくない? 知ってる人でしょ? 大丈夫なの?」
「あぁ見えても凄腕の陰陽師だよ。俺達なんて足元にも及ばない」
「ちゃらいおっさんにしか見えないわ」
「俺と琴音の師匠だよ」
「え? マジで!?」
「師匠には軽口を叩かない。これ大事。マジで」
「わ、わかった……」
「結城ちゃん。もう狩衣脱いでいいかな? 俺が着てるとコスプレっぽくない? こっちの世界って、変な画面をポチポチしたら、着替えられるでしょ」
「最初だけでもキチンとしてください」
「はいはいわかりましたよ。俺ってそんなにちゃらく見えるのかねぇ」
「それと結城ちゃんはやめてください」
「そいつは無理な相談だ」
「……はぁ。えぇ……昨日付けでこちらに配属されて、大体の事情は把握しました。可能な限り、皆さん全員の配信を盛り上げつつ、命を守るために全力を尽くします。早速ですが、魔王軍侵攻について、一つ提案があります。沖田さん」
「あいよ。耳の穴かっぽじって良く聞けよ。実は既に、俺様の式神が魔王軍を偵察してきた」
結城さんがみんなに、クリップで止められた資料を配った。
最初は態度がでかくて口の悪いおっさんに、反感を持った人が結構いたけど、配られた資料を見て、みんな聞く姿勢になった。
「それ、俺様の式神が撮影してきたのを印刷したやつ。機械の式神って便利だね。俺様は嫌いだけど」
一枚目の資料には、人型のモンスターで埋め尽くされた写真が印刷されていた。二枚目の資料には、空を飛ぶモンスターの姿があった。
「人型の魔物がざっと九百。空飛ぶトカゲやグリフォンって言うんだっけ? 鷹の顔と翼にライオンの胴体。アレだ、ぬえみてぇなヤツ。まぁまずは空を飛ぶ魔物を倒す。でないとこれから話す作戦が実行できない」
「沖田さんの言う通り、まずは制空権を奪取するために、ワイバーンとグリフォンを倒します」
「んでだ。お前らの中に、長距離攻撃魔法が使える奴、どんだけいるの? 射程と威力を教えて欲しいんだけど」
「……百メートル?」
「三十メートル行けばいい方じゃ……」
「話になんねぇな。結城ちゃん。これ不味くね?」
「ええ……。では現地の対空兵器だと……バリスタの射程距離は約四百メートル。強化魔法を付与しても倍の八百メートルがやっとでしょう。投石器も似たようなものですね……」
「上に逃げられたらお終いだね。じゃあ空中戦しかねぇか」
「そうなります」
「約百匹の空飛ぶモンスターと戦って、生き残れる自信がある奴いる? あ、秀一と琴音は強制参加だから手を挙げなくていいよ。狐様も参加お願いします」
みんな師匠から目を逸らした。アリサさんも。
「……いねぇのかよ。んじゃ秀一と琴音……ついでにアリサちゃんも空担当で」
「えええっ! 私、自信ないんですけど!」
「狐様が鍛えたら大丈夫でしょ。ね。狐様?」
「うむ。問題ない」
「ちょっと! 問題だらけだと思うけど!」
「そう心配すんな。何も全部お前達だけで倒せとは言わない。見せ場を偏らせちゃだめだからな。お前達は囮だ。ある程度戦ったら、仲間の射程距離圏内まで戻って来い。それで良いよな? 結城ちゃん」
「結城ちゃんはやめてください。それで良いです。残ったメンバーで対空戦を行います。バリスタと投石器は強化魔法をかけて使用します。矢も同様です。着弾と同時に爆発するマジックアイテムがありますので、できるだけ量産します。投石器で発射する弾も石ではありません。同じく魔法で作る爆弾です。作り方は先日のアップデートで追加された、生産スキルの中にあると思います。各自確認してください。矢と爆弾。これを使えということなのでしょう」
確かに生産スキルが追加されていた。愉悦之神がモンスターを量産したのに対し、享楽之神はスキルや魔法で対抗するってことなのか? もっと配信者を増やして欲しいと思うけど、こっちの世界に来るってことは、まさに神隠しだ。それとも拉致と言うべきか? 他の神々に目を付けられないためにも、配信者の数は決めているのかもしれない。
「制空権を確保できたら、超高高度からの爆撃作戦へ移行します。投石器で用いた爆弾を超高高度でアイテムボックスから取り出し、投下するだけです。超高高度故に、敵の弓や魔法による攻撃の心配はありません」
「相手の手が届かない所から好き放題攻撃できるってわけ。誰にでもできるボーナスタイムだ。そんなわけで、この作戦のキモは如何に早く空を制するかだ。街の騎士達とは連携が取れないと思え。奴らは籠城戦に徹するってさ。ビビりだねぇ」
師匠達が来る前に、王立軍とは色々話し合ったけど、こっちの作戦に対して、まったく聞く耳を持っていなかった。
俺達には、遊撃して少しでも敵の数を減らして欲しい。ただそれだけだった。それって使い捨てってことなのか?
「それとここからは機密事項だ。結城ちゃんお願い」
「皆さん、特式という言葉を先日聞きましたね。正式名称は機動式神。式神の力を使った兵器です。本来なら配信に乗せるべきではないのですが、享楽之神様の強制力により、視聴者にはゲーム『ミセリオン』に追加実装された、イベント用の現代兵器として認識されます」
「イベント用って、普段の冒険には使えないってことですか?」
アリサさんが挙手して質問した。
「そうです。普段は使用できないと認識してください。今回のように皆さんの意思とは関係なく、命の危険が迫った場合のみ、何らかの理由をつけて使用できる保険です。まずは先の作戦通り、戦ってください」
後は細かい作戦になっていった。各々何ができるかを発表し、結城さんと師匠が振り分けていく。そして決戦日まで、各自やることが決まっていった。
魔法が得意な者は、長距離攻撃魔法が閃くように、ひたすら攻撃魔法を酷使。
付与魔法が得意な者は、投石器やバリスタに使う爆弾や矢の生産。
そして白兵戦が得意な者は集団戦の連携が取れるように分けられて、臨時パーティが編成された。




