第21話 配信者達
「おはよう。昨日の夜から、盛り上がっているわね」
ギルドの食堂で琴音と朝食を取っていると、アリサさんが声をかけてきた。トレーの上にはサンドイッチと紅茶が乗っている。
「おはよう。盛り上がってるけどさ。やっぱりずるいよ。みんなユニークスキルとか魔法もらって……」
「そうね。私もそう思うわ。でも納得することにしたの。それよりなんであんた達が不満そうにしてるのよ」
「しょうがないってのはわかるけどさ、俺と琴音は子供の頃から修行した成果なんだけど」
「そうだよ! せめて武器とか防具とか欲しいよ!」
「刀を召喚できるじゃない」
「あの刀より使える武器か……」
「やっぱり武器はいらないかも」
「あの刀ってさ、こっちの世界の武器じゃないからかな? 使ってもスキルを閃かないんだよ。だからもったいないというか……。剣を使った方がお得な気がするんだ」
「あらら」
「それに俺達だけ何もなしってのが気持ち的に萎える」
「私なんて一般人なのに、何ももらえなかったんだから」
「あら、私から見たら、アリサちゃんもだいぶチートだと思うわよ」
野太く、どこか艶めかしい男の声がした。
「ちょっといいかしらぁ?」
近寄って来たのはガタイの良いオネェだった。革の軽装鎧がパツンパツンで、今にもはち切れそう。戦うというより、魅せるために鍛え上げた肉体だな。その筋肉の上に、ダンディで男前な顔が乗っている。しかしその口から発せられるのは、どこか悩ましいねっちょりした声だ。
「えっ? 誰?」
アリサさんがちょっぴり怯えながら振り向いた。
「あら、私ったら。私はキャサリン。筋肉配信をしている乙女よぉ」
筋肉配信ってなんだよ! オネェ系マッチョ乙女とか、パワーワードすぎるだろ!
「えっ! えっ! ア、アリサです。それで……何の用でしょうか?」
「ごめんなさいねぇ。アリサちゃんとも話したいんだけど、今日は早川君と近藤ちゃんに用事があるの」
「俺ですか?」
「ええ、お礼が言いたくてぇ」
「?」
「貴方達が凄すぎたおかげで、私達、スキルや魔法をもらえたでしょう」
「あぁ。昨日の」
「そう! バランス調整ってやつね! 私は肉体強化のスキル! 素敵でしょう!?」
そう言ってキャサリンさんは、ボディービルダーみたいにマッスルポーズを取った。
「ふんぬ!」
すると筋肉がボンっと膨れ、皮鎧がはち切れそうになる。限界ギリギリじゃないかな……
「す、凄いですね」
「そうでしょう!」
「おい。暑苦しいぞ」
そう言ったのは、キャサリンさんと一緒に来た男装の女性だ。肩まである金髪に白いタキシード姿。胸ポケットには赤い薔薇を刺している。まさかこの格好で冒険に出てるわけじゃないよな?
「ふふ。嫉妬しちゃった?」
「あいにく僕は、筋肉に興味がないんだ」
「あら残念」
「やぁ。早川君。初めまして。僕の名前はレン。こう見えても女の子さ」
「初めまして。かっこいい系の女の子なんですね」
「違うよ! 白の貴公子さ!」
どう違うのかさっぱりわからない。
「近藤ちゃんもアリサちゃんも初めてまして!」
「えっ! は、はい。初めまして」
「初めまして」
「そんなに緊張しなくていいよ! かわい子ちゃん達!」
「あなたこそ怯えさせてるじゃない。音量も抑えて。朝から騒がしいわね。ごめんなさいねぇ」
「い、いえ。近藤です。よ、よろしくお願いします」
「あなた達強いわねぇ。私、アーカイブを何度も見ちゃった。特に初めて陰陽術を使った回なんて、興奮してマウスを握りつぶしちゃったわぁ」
どんだけ力んだんだよ!
「あ、ありがとうございます」
「僕も凄いって思った! でもちょっと嫉妬しちゃったな。まぁおかげで今の僕にはこれがあるんだ」
レンさんは胸ポケットから薔薇を取り出した。
「ローズ・バインド!」
すると薔薇の枝が伸びて、キャサリンさんに巻きついていく。
呪文詠唱がない! これはスキルか!
「ちょっと何するのよ!」
薔薇が見る見る内にキャサリンをがんじがらめしていく。
「ふんぬばぁあっ!」
キャサリンさんが気合いを入れてマッスルポーズを取ると、薔薇がブチブチっとちぎれた。植物を操るスキルなのか? 野外で力を発揮するタイプだな。
「ごめんね! どうしても見せたかったんだ。許して欲しい」
「まぁいいわぁ。素直に謝るレンちゃんも素敵よぉ」
「僕を口説くなんて困った子猫ちゃんだね!」
巨漢のオネェを子猫ちゃんとか、この人凄いな。
「口説いてないわよ! 口説いて欲しいなら、もっと筋肉をつけなさいっ!」
オネェと貴公子の掛け合いが面白くて笑っていると、遠巻きに見ていた人達が集まってきた。
「昨日の配信見たぞ! あのデーモンと戦うのすげぇって思った! レベル五十相手に良く勝てたな!」
「まだまだ余裕ありそうだし、どんだけ強いんだよ!」
「局長って誰? 陰陽局とかってあるの?」
「えぇっと……」
一気に話しかけられて、どうしていいかわからない。
「騒がしいのう」
寝坊で遅れた狐鈴が現れると、一気に静かになった。
「狐鈴。妖気抑えて」
「静かになったであろう」
狐鈴の妖気は圧倒的な力がある。そう、享楽之神の声を聞いた時のように。神様には到底及ばないけど、それに近い畏怖を感じてしまう。
「狐鈴様だ……」
「狐鈴様よ!」
「御神体だ!」
「な、なんぞ!?」
狐鈴が妖気を抑えると、近づいて拝み始める人が数名いた。
「俺は聖女様派だ!」
「僕も!」
そう言って琴音を囲み始める奴らも出てきた。琴音に触ったら許さんぞ!
「ちょっ、ちょっと!?」
「琴音ちゃん可愛すぎる!」
「琴音ちゃん、マジ聖女!」
「あの祈り、心洗われました。お布施したい!」
「聖女というか巫女じゃない?」
「あれ真似したけど、何も起きなかった。コツとかあるの?」
「えっ!? 真似はしない方がいいよ。日本の神様は怖いから」
「えっ……やめときます……」
同じプレイヤー同士、こんなにしゃべったのは初めてだな。そう思ったその時、お知らせの音が鳴り響いた。
「えっ! イベントクエスト発生!?」
「都市襲撃クエスト!?」
メニューを開いて確認すると、都市襲撃イベントの告知だった。
別の神が絡んでるなら、イベントなんかじゃない。――本当の襲撃だ。




