第209話 エピローグ2
享楽之神と愉悦之神について語ろうと思う。
俺達は元の世界に戻ってきて、防衛省陰陽局に保護された。
俺と琴音は元々所属している場所でもあるから、特に何も変わらない。
一応監視の式神が周囲をウロチョロしているけど、普通に暮らしていたら問題ない。
さて、その陰陽局が色々と調べてくれた。
大昔、千葉の房総半島で大きな地震があった。現在日本だったら、ちょっと大きな地震で済むが大昔は違った。
建物は崩壊し、土砂崩れも起きた。
さらに悪いことに大雨による水害が起きた。川が氾濫し、田んぼや畑がだめになり、家屋が流された。
当時の人々は、今後大きな災害が起きないようにと、山の上に社を建てて土地神を祀った。
一つは地震を治める神。もう一つは水害を治める神として。
そして季節ごとに祭りが行われて、人々は神社に集まり祭事を行った。
そんなことを長年繰り返していると、土地神は鎮地飽楽之尊と鎮水静悦之尊と呼ばれるようになった。
鎮地飽楽之尊は、災害が起こらない世界を作りたかったのかも知れない。
あの異世界はそのための、土台だったのではないか?
他の神々に魂を救済する場所を作ると言って誤魔化し、あの世界を創るのを見逃してもらった。
そして救済が終わったら、そのまま平和な世界に作り変えようとしていたのではないか?
でもやり過ぎた。他の神々が容認できないほどの神力が、集まってしまった。
そうならないために、転移者は百名限定だったのかもな。
でも俺達の頑張りは、愉悦之神のアシストもあって、享楽之神の予想を超えてしまった。
最初、愉悦之神は配信の邪魔をしていると思っていた。
でも違った。予想外の強力な敵との戦いを、俺と十二姫将を使って演出した。
それを超人気VTuberを使って配信させた。
アリサとの出会いも仕組まれていた? いやいや、それは考えすぎか……
最後の方は俺達のレベル上げをアシストしてたよな。
愉悦之神の行動は、グランドクエストをバランス崩壊させるためかと思っていたが、プレイヤー全員のやる気とレベルを底上げしてくれように思える
愉悦之神の暗躍のおかげで、予想を超える神力を集めることができ、他の神々がその有効性に気づき、真似を始めた。
その結果、ありとあらゆる宗教の神々が、地球の仕様を変えてしまったんだ。
ステータスが見え、レベルが表示される。これは日本だけじゃない。世界各国共通の仕様だ。地球仕様ってやつだな。
そして享楽之神は、他の神々を騙し、出し抜いた代償として、地球仕様のシステムから排除され、神の座から引きずり降ろされたんだと思う。
俺達のレベルやステータスは地球の仕様とは違うから、レベルが一に戻った。
でも身体能力や魔法やスキルは、脳や肉体の改造によって施されたものだから残っている。
そして地球仕様のステータスは、俺達の肉体、精神力を参照して新しい基準で適応された。
レベルは経験値テーブルが違うのか、それとも経験値のデータがなくて、対応しきれずレベル一に戻されたのか……
まぁそこら辺はどうでもいいか。強くてニューゲーム状態なのは有利だから文句はない。
俺達が要監視対象のままなのは、地球のダンジョンの仕様にあった。
地球にダンジョンが出来て、レベルが上がり肉体改造が施されたら、俺達だけが特別で危険な存在であり続けるわけがない。
しかし地球でのレベルやステータスの仕様は、ダンジョン内だけだった。
レベルが上がっても肉体改造がされるわけでもなく、体を覆うオーラのような物が、力やスピードを補助してくれてる。それもダンジョン内だけだ。
ダンジョンから出れば普通の人間。これが俺達と違う仕様だ。
まぁそうじゃないと、地球規模で滅茶苦茶になっちゃうよな。
レベルが上がった者が、上位存在として君臨する世界なんて、神々は望んでいないのだろう。
そんなわけで、ダンジョン外でも超人になってしまった俺達は、変わらず要監視対象ってわけだ。
要監視対象って言われても悪いことをしなければいいので、元転移者達は今日もダンジョン攻略配信をしている。
ただ、アリサやVTuber達は素顔でダンジョンに潜ることになるので、厳しい状況だった。
そこに手を差し伸べたのが愉悦之神――鎮水静悦之尊だった。
陰陽局と連絡を取り合い、東京にある陰陽局の敷地内にもダンジョン入口を作り、VTuber専用のダンジョンを造ったのだ。
それによってアリサやまどかさん達もダンジョンを攻略するようになった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
数か月後。
俺と琴音は陰陽庁の仕事で、夜の新宿に来ていた。
今日は新人も連れてきているので、任務遂行の手本を見せなくちゃいけない。
そして余裕そうなら新人も戦闘に参加させる。そんな任務だ。
「最近怨霊の発生回数増えてきたね」
俺の隣で歩いている琴音が、煌びやかなネオンや広告を見ながらつぶやいた。
「ダンジョンが出来て、世界が不安定になってるんじゃないか?」
俺は周囲に注意を払いながら返事をした。
気をつけなくちゃいけないのは、怨霊だけじゃない。
十代の女の子が新宿の夜を歩くのは、何かと危険だ。
特に琴音は可愛いからな!
「そうかもね。今はダンジョンの外にモンスターが出現するって話は聞いたことないけど……」
「いつ綻びが出来てもおかしくないか……」
「うん。神様だって完璧じゃない」
「確かにな。だから本物の怪異事件は情報が早い」
「勘違いされたら困るもんね」
今回の依頼はとある神社からだ。
神社の近くに怨霊が出てた。まだ人を襲うほど大きくなっていないが、事件が起きる前に払ってくれと。
今の時代、神主に怨霊を見たり感じたりする力があるのか疑問に思ったけど、神様からお告げがあったそうだ。
ダンジョン運営も大事だと思うけど、それ以上に管轄内で、怨霊事件を起きさせたくないよな。
「んじゃ。さっさと払うか」
俺は陰陽庁の霊視スタッフに秘匿回線で連絡を入れた。
「こちら新宿ダンジョン付近に到着。怨霊の気配なし」
「怨霊は二丁目に移動したようです。新宿御苑に誘導してください」
「了解。琴音。新人のアリサ。行くぞ!」
「う、うん。流石に緊張するわね……」
後ろについてきたアリサは、不安そうにしていた。
「本物の怨霊だからな。気を抜くなよ。魔王が操ってた怨霊より、アルベールが怨霊になった時の方がイメージしやすいかも」
「あんなのとまた戦うの……?」
「秀ちゃん脅かしすぎ。まだ人を襲うほど大きくなってないって言ってたでしょ。浄化の術でちょちょいのよいだよ」
「琴音ちゃんの方が頼もしい気がする!」
「まーかせて!」
「ぐっ……俺だって先輩として……アドバイスをだな……」
「ん~なら耳元で頑張れって、イケボ風に囁いて。あっ! ついでに好きだよって!」
「調子に乗んな! さっさと行くぞ!」
「ちょっとくらいいいじゃない!」
「残念ながら、そのサービスは琴音専用なんだ」
「うへへ。秀ちゃん好きー」
「なによそれ! リア充爆発しろ!」
お終い




