表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/21

第11話 魔物呼びの鈴

 ビギナーズ・トレジャーハントのおかげで、俺達はレベル十五を超えた。間引きクエストだけじゃなくて、ファーミルの森に生息するちょっと強いモンスターの討伐クエストなんかも受けて、今日もレベル上げだ。

 アリサさんがレアリティの高い装備には、装備条件があると知って、レベル上げにやる気を出してるからな。


「琴音」


「うん。後をつけられてるね」


「え? なんでそんなことわかるの?」


「三人いる。初日にアリサさんと揉めてた奴らか?」


「三人の気配だから、たぶんそうじゃないかな」


「げっ! それってなんか嫌な予感するんだけど!?」


「きっと逆恨みからの復讐だよね」


「ついでに俺達を懲らしめようってか?」


「でも大丈夫なの?」


「何が?」


「ここってもう森の奥だけど、あんた達が異常だからこの早さで来てるけど、あいつら死なないかなって……」


 チリィン……

 澄んだ鈴の音が響いた直後――森のあちこちから、一斉にモンスターの咆哮が上がった。

 あっ! おすすめで流れて来た動画で見たぞ! 魔物呼びの鈴だ! 読んで字のごとく、モンスターを呼び寄せるマジックアイテムだ。


「確かにやばいかもな!」


 ヤスノ達が悲鳴を上げてこっちに逃げてきた。

 その後ろに迫るは赤い鬼。赤黒い肌に湾曲した角を持つモンスターだ。その数は十を下らない。


「あいつら魔物呼びの鈴を使ったぞ!」


「トレインじゃん!」


 トレインとは、オンラインゲームで大量のモンスターを引き連れながら移動する行為だ。

 モンスターを、範囲攻撃を持った仲間の元へ誘導して、一気に倒すやり方なんだけど、他のプレイヤーになすり付ければ迷惑行為になる。


「バッカじゃないの!?」


 アリサさんが目を見開いて後ずさった。


「うわぁぁああ!」


「聞いてねぇぞ! あんなでかいのがいるなんて!」


「くっそお!」


 あいつこっちに魔物呼びの鈴を投げつけてきやがった。

 鈴は俺の魔力に反応してか、大きく鳴り響いた。


「馬鹿野郎!」


 更に森のあちこちからモンスターの咆哮が上がった。


「秀ちゃん! モンスターの気配がこっちに集まって来るよ!」


「聞き慣れない咆哮まであるな!」


「夜行性の危険なヤツまで目覚めさせたんじゃない!?」


「とりま目の前のヤツ!」


「了!」


「火の精霊よ。紅き矢となれ! ファイア・アロー!」


「風の精霊よ。蒼雷の矢となれ! ライトニング・アロー!」


 俺と琴音が放った火と雷の矢が、赤鬼達に突き刺さり、轟音が鳴り響いた。

 灼熱と稲妻の爆発によって、赤鬼達の上半身が吹き飛び、ドッと倒れて、後続の鬼達の足止めになった。


「後はよろしく!」


 調子こいて駆け抜けようとしたヤスノの足を払うと、ヤスノは派手に転がり、後から来た仲間達も次々とヤスノに激突していく。


「ってめぇ!」


「死にたいのか!」


 俺が怒鳴ると、やっとわかったのか、辺りを見渡して顔を真っ青にした。

 自分達が駆け抜けようとした先に、赤い鬼より二回りは大きい、緑色の鬼がいた。


「はぁ!? なんで!」


「どうしてくれんのよ!」


 アリサさんも顔を真っ青にして叫んだ。

 前方には赤鬼、後方には緑鬼。それだけじゃない。周囲から続々とモンスター達が集まってきた。


 ここで力を使ったら陰陽局に迷惑がかかる?

 いや、それがどうした!?

 ただ俺と琴音が特別って思わせておけば、迷惑にならないだろう!

 相手に悪意がある? そんなものは関係ない。悪意に付けこまれた人を助け、元の道に戻すのが俺達の仕事だ!


「秀ちゃん! 局長から書き込み! 人命優先! 全力許可!」


「よっしゃあああ! 行くぜ琴音!」


「了! って! 秀ちゃん! やばい!」


「どうした!?」


「アーカイブにピー音入れろって、めっちゃ怒られた! ってまずいよ! コメントに局長って誰だって流れてる! でもこんなにコメント来てるの初めてかも!」


「琴音! そんなの後にしろ!」


「そうだった!」


「オン・バスラ・クシャナ・テンガラ!」


 俺がババっと素早く手印を結び、こっちの世界に存在しない魔法……じゃないな、術を使うと、アリサさんがびっくりしてこっちを向いた。


「なにそれ……」


 アリサさんは見鬼の才がある。だから妖魔や呪力を見る力を持っている。きっと魔法とは違う力を見たんだろう。


「オン・サンバ・ラクタ・ゲンガラ! オン・ミトラ・ハクラ・センダラ! 月影に響け、妖しの鈴音! 妖狐招来! 来たれ! 狐鈴こりん! 急急如律令!」


 俺は式札を取り出して宙に投げ、両手をパンっと合わせて柏を打つと、式札がパッと消えて、背後に式札が張られたふすまが現れた。


 そして襖がタンっと開かれた。更にタンッ、タンッ、タンッと襖の向こうの襖が連続で開かれる。一呼吸置くと襖の向こうから、圧倒的な妖気を身にまとった、巫女装束の美少女が現れた。


「やっと呼んだか。秀一よ」


 見た目は同年代の美少女に見えるが人間じゃない。白銀色の髪と狐耳、そして大きな狐の尻尾。狐の妖だ。


「人を守れ」


「良かろう。オン・サナマヤ・パー・ソワカ! 神狐よ、白狐の気よ、地を巡り、結界を成せ! 白狐守護陣びゃっこしゅごじん! 急急如律令!」


 狐鈴こりんがババっと印を結ぶと、地面に和風の魔法陣が現れ、ドーム型の防御結界がアリサさんとヤスノ達を包み込んだ。


「オン・カシャ・ザンマ・ソワカ!」


 今度は琴音が手印を結ぶ。


「天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀あまのいかづちのたち! 急急如律令!」


 琴音は虚空に現れた刀を掴むと赤鬼達に向かって跳躍した。


「オン・カンダ・ヴァジュラ・ソワカ!」


 琴音の刀に青白い稲妻が宿る。


「はぁっ!」


 琴音の放った斬撃により、赤鬼が真っ二つになり、一瞬稲妻が走ったかと思うと爆散した。


「オン・アグニ・カジャラヤ・ソワカ!」


 俺も琴音に続いて手印を結ぶ。


「天より降りよ、邪鬼断罪の刃! 召刃・天焔業刀あまのほむらのたち! 急急如律令!」


 俺も虚空より現れた刀を掴み、続いて片手で印を結ぶ。


「オン・カンダ・アグニ・ソワカ!」


 俺の刀に炎が宿る。

 後ろから襲ってきた緑鬼の足を切り付けると、傷口から炎が広がり、爆散しつつ、緑鬼の体を駆け巡った。

 怯んだ緑鬼に向かって跳躍しつつ、相撲取りより太い胴を一刀両断する。

 絶命を確認するまでもなく、続いて襲い掛かってくる緑鬼に向かって左手を突き出し、片手だけで手印を結ぶ。


「オン・ソラソバ・レイマク・サンバラ・カンマン! 火行の理よ、陽炎を纏いし紅蓮の業火となれ! 朱焔爆炎しゅえんばくえん! 急急如律令!」


 俺の手から紅蓮の炎が、奔流となって放たれ、一瞬にして緑鬼を消し炭にする。


「オン・アグニ・ガルダ・ジャラー! 南方の神鳥よ! 紅蓮の翼を広げよ! 神獣招来! 来たれ! 朱雀! 急急如律令!」


 俺は式札を取り出して宙に投げると、式札から炎を纏った巨鳥が現れ、狐鈴こりんが張った防御結界を旋回し、向かってきたモンスター達を次々と焼き尽くしていく。


「オン・バク・ラン・シェン!」


 琴音も式札を取り出し宙に投げて手印を結ぶ。


「西方の獣王よ、白銀の爪を振るえ! 神獣招来! 来たれ! 白虎! 急急如律令!」


 式札から巨大な虎が現れ、一声咆哮すると、鬼達に向かって突進し、その牙と爪で、容赦なく蹂躙していく。


「な、な、なんなのこれぇ!」


 アリサさんが声を上げるが今は無視だ。


「この鈴か」


 狐鈴こりんが足元に転がっている鈴を踏み潰した。

 辺りで響き渡っていた雄叫びが少なくなったが、こちらに向かってくるモンスターがいなくなったわけじゃない。


「はあっ!」


 俺は巨大な緑鬼の間を駆け抜け、次々と切り伏せていく。


「オン・カン・ゾラ・シュラ・ガンダ・レイ! 火行の理よ、其は舞い踊る陽炎、すなわち業火の竜巻! 紅蓮旋嵐ぐれんせんらん! 急急如律令!」


 風が吹き、炎の竜巻が地面から吹き荒れ、緑鬼や赤鬼達を吸引しながら焼き殺していく。

 巻き込まれまいと踏ん張る鬼達の元へ琴音が舞い、稲妻を宿した刃で爆殺し、琴音に続くように、白虎が殴り殺していく。


「……なんだこれ」


 ヤスノがつぶやく声がした。

 既にモンスター達は物言わぬ死体になっていた。


「何なんだよ! お前らは!」


「陰陽師だよ」


「はあ?」


「まぁ、まだ学生だから、バイト扱いだけどな」


「ふざけんなよ! この厨二病野郎が!」


「信じなくていいよ」


「秀一よ。こやつら生かしておくのかえ?」


 狐鈴こりんが底冷えしそうな視線をヤスノ達に送る。


「殺……何もしないよ」


「お主達を殺そうとしたのじゃぞ」


「物騒なこと言うなよ。ただの嫌がらせだ」


「そうかの?」


「ごめん。一旦戻って」


 このまま狐鈴を放置したら、禁止ワードを連発して、チャンネルが破壊されそうだ。


「待て! 秀一よ!」


 有無を言わさず襖が現れ、狐鈴こりんを帰還させた。


「……あんた達って本当に陰陽師なの?」


 アリサさんが青ざめた顔で聞いてきた。まだ死の恐怖が消えてないみたいだ。


「現実も不思議な事がいっぱいなんだよ」


「秀ちゃん。まずはこいつらが先だよ」


「そうだな。さてお前ら……」


 俺は刀を送還してヤスノ達に向き合う。


「どうしてくれる?」


「一応殺人未遂だね」


「わ、悪かった!」


「俺は、ここまでやるなんて聞いてなかったんだ! ちょっと脅かすだけだって……」


「おい! お前ら!」


「ヤスノさん。ここは引きましょう」


「なんだよ殺人未遂ってよ! ただのトレインだろ!」


「ゲームと現実の区別がついてないのかよ」


「はぁ!? こんなの現実じゃねぇ。ゲームだろ! それに元々はお前らが邪魔したんじゃねぇか!」


「最初に私を脅迫したのはあんた達じゃない。早川君達は私を助けてくれただけよ」


「ヤスノさん。分が悪いですよ。それに俺達だけじゃ帰れないですよ」


「俺、もう付き合ってられんわ。悪かったよ。もう手を出さない。約束する。だから一緒に帰らせてくれ。頼むよ」


「くそったれが!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ