第11話 魔物呼びの鈴
ビギナーズ・トレジャーハントのおかげで、俺達はレベル十五を超えた。間引きクエストだけじゃなくて、ファーミルの森に生息するちょっと強いモンスターの討伐クエストなんかも受けて、今日もレベル上げだ。
アリサさんがレアリティの高い装備には、装備条件があると知って、レベル上げにやる気を出してるからな。
「琴音」
「うん。後をつけられてるね」
「え? なんでそんなことわかるの?」
「三人いる。初日にアリサさんと揉めてた奴らか?」
「三人の気配だから、たぶんそうじゃないかな」
「げっ! それってなんか嫌な予感するんだけど!?」
「きっと逆恨みからの復讐だよね」
「ついでに俺達を懲らしめようってか?」
「でも大丈夫なの?」
「何が?」
「ここってもう森の奥だけど、あんた達が異常だからこの早さで来てるけど、あいつら死なないかなって……」
チリィン……
澄んだ鈴の音が響いた直後――森のあちこちから、一斉にモンスターの咆哮が上がった。
あっ! おすすめで流れて来た動画で見たぞ! 魔物呼びの鈴だ! 読んで字のごとく、モンスターを呼び寄せるマジックアイテムだ。
「確かにやばいかもな!」
ヤスノ達が悲鳴を上げてこっちに逃げてきた。
その後ろに迫るは赤い鬼。赤黒い肌に湾曲した角を持つモンスターだ。その数は十を下らない。
「あいつら魔物呼びの鈴を使ったぞ!」
「トレインじゃん!」
トレインとは、オンラインゲームで大量のモンスターを引き連れながら移動する行為だ。
モンスターを、範囲攻撃を持った仲間の元へ誘導して、一気に倒すやり方なんだけど、他のプレイヤーになすり付ければ迷惑行為になる。
「バッカじゃないの!?」
アリサさんが目を見開いて後ずさった。
「うわぁぁああ!」
「聞いてねぇぞ! あんなでかいのがいるなんて!」
「くっそお!」
あいつこっちに魔物呼びの鈴を投げつけてきやがった。
鈴は俺の魔力に反応してか、大きく鳴り響いた。
「馬鹿野郎!」
更に森のあちこちからモンスターの咆哮が上がった。
「秀ちゃん! モンスターの気配がこっちに集まって来るよ!」
「聞き慣れない咆哮まであるな!」
「夜行性の危険なヤツまで目覚めさせたんじゃない!?」
「とりま目の前のヤツ!」
「了!」
「火の精霊よ。紅き矢となれ! ファイア・アロー!」
「風の精霊よ。蒼雷の矢となれ! ライトニング・アロー!」
俺と琴音が放った火と雷の矢が、赤鬼達に突き刺さり、轟音が鳴り響いた。
灼熱と稲妻の爆発によって、赤鬼達の上半身が吹き飛び、ドッと倒れて、後続の鬼達の足止めになった。
「後はよろしく!」
調子こいて駆け抜けようとしたヤスノの足を払うと、ヤスノは派手に転がり、後から来た仲間達も次々とヤスノに激突していく。
「ってめぇ!」
「死にたいのか!」
俺が怒鳴ると、やっとわかったのか、辺りを見渡して顔を真っ青にした。
自分達が駆け抜けようとした先に、赤い鬼より二回りは大きい、緑色の鬼がいた。
「はぁ!? なんで!」
「どうしてくれんのよ!」
アリサさんも顔を真っ青にして叫んだ。
前方には赤鬼、後方には緑鬼。それだけじゃない。周囲から続々とモンスター達が集まってきた。
ここで力を使ったら陰陽局に迷惑がかかる?
いや、それがどうした!?
ただ俺と琴音が特別って思わせておけば、迷惑にならないだろう!
相手に悪意がある? そんなものは関係ない。悪意に付けこまれた人を助け、元の道に戻すのが俺達の仕事だ!
「秀ちゃん! 局長から書き込み! 人命優先! 全力許可!」
「よっしゃあああ! 行くぜ琴音!」
「了! って! 秀ちゃん! やばい!」
「どうした!?」
「アーカイブにピー音入れろって、めっちゃ怒られた! ってまずいよ! コメントに局長って誰だって流れてる! でもこんなにコメント来てるの初めてかも!」
「琴音! そんなの後にしろ!」
「そうだった!」
「オン・バスラ・クシャナ・テンガラ!」
俺がババっと素早く手印を結び、こっちの世界に存在しない魔法……じゃないな、術を使うと、アリサさんがびっくりしてこっちを向いた。
「なにそれ……」
アリサさんは見鬼の才がある。だから妖魔や呪力を見る力を持っている。きっと魔法とは違う力を見たんだろう。
「オン・サンバ・ラクタ・ゲンガラ! オン・ミトラ・ハクラ・センダラ! 月影に響け、妖しの鈴音! 妖狐招来! 来たれ! 狐鈴! 急急如律令!」
俺は式札を取り出して宙に投げ、両手をパンっと合わせて柏を打つと、式札がパッと消えて、背後に式札が張られた襖が現れた。
そして襖がタンっと開かれた。更にタンッ、タンッ、タンッと襖の向こうの襖が連続で開かれる。一呼吸置くと襖の向こうから、圧倒的な妖気を身にまとった、巫女装束の美少女が現れた。
「やっと呼んだか。秀一よ」
見た目は同年代の美少女に見えるが人間じゃない。白銀色の髪と狐耳、そして大きな狐の尻尾。狐の妖だ。
「人を守れ」
「良かろう。オン・サナマヤ・パー・ソワカ! 神狐よ、白狐の気よ、地を巡り、結界を成せ! 白狐守護陣! 急急如律令!」
狐鈴がババっと印を結ぶと、地面に和風の魔法陣が現れ、ドーム型の防御結界がアリサさんとヤスノ達を包み込んだ。
「オン・カシャ・ザンマ・ソワカ!」
今度は琴音が手印を結ぶ。
「天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀! 急急如律令!」
琴音は虚空に現れた刀を掴むと赤鬼達に向かって跳躍した。
「オン・カンダ・ヴァジュラ・ソワカ!」
琴音の刀に青白い稲妻が宿る。
「はぁっ!」
琴音の放った斬撃により、赤鬼が真っ二つになり、一瞬稲妻が走ったかと思うと爆散した。
「オン・アグニ・カジャラヤ・ソワカ!」
俺も琴音に続いて手印を結ぶ。
「天より降りよ、邪鬼断罪の刃! 召刃・天焔業刀! 急急如律令!」
俺も虚空より現れた刀を掴み、続いて片手で印を結ぶ。
「オン・カンダ・アグニ・ソワカ!」
俺の刀に炎が宿る。
後ろから襲ってきた緑鬼の足を切り付けると、傷口から炎が広がり、爆散しつつ、緑鬼の体を駆け巡った。
怯んだ緑鬼に向かって跳躍しつつ、相撲取りより太い胴を一刀両断する。
絶命を確認するまでもなく、続いて襲い掛かってくる緑鬼に向かって左手を突き出し、片手だけで手印を結ぶ。
「オン・ソラソバ・レイマク・サンバラ・カンマン! 火行の理よ、陽炎を纏いし紅蓮の業火となれ! 朱焔爆炎! 急急如律令!」
俺の手から紅蓮の炎が、奔流となって放たれ、一瞬にして緑鬼を消し炭にする。
「オン・アグニ・ガルダ・ジャラー! 南方の神鳥よ! 紅蓮の翼を広げよ! 神獣招来! 来たれ! 朱雀! 急急如律令!」
俺は式札を取り出して宙に投げると、式札から炎を纏った巨鳥が現れ、狐鈴が張った防御結界を旋回し、向かってきたモンスター達を次々と焼き尽くしていく。
「オン・バク・ラン・シェン!」
琴音も式札を取り出し宙に投げて手印を結ぶ。
「西方の獣王よ、白銀の爪を振るえ! 神獣招来! 来たれ! 白虎! 急急如律令!」
式札から巨大な虎が現れ、一声咆哮すると、鬼達に向かって突進し、その牙と爪で、容赦なく蹂躙していく。
「な、な、なんなのこれぇ!」
アリサさんが声を上げるが今は無視だ。
「この鈴か」
狐鈴が足元に転がっている鈴を踏み潰した。
辺りで響き渡っていた雄叫びが少なくなったが、こちらに向かってくるモンスターがいなくなったわけじゃない。
「はあっ!」
俺は巨大な緑鬼の間を駆け抜け、次々と切り伏せていく。
「オン・カン・ゾラ・シュラ・ガンダ・レイ! 火行の理よ、其は舞い踊る陽炎、すなわち業火の竜巻! 紅蓮旋嵐! 急急如律令!」
風が吹き、炎の竜巻が地面から吹き荒れ、緑鬼や赤鬼達を吸引しながら焼き殺していく。
巻き込まれまいと踏ん張る鬼達の元へ琴音が舞い、稲妻を宿した刃で爆殺し、琴音に続くように、白虎が殴り殺していく。
「……なんだこれ」
ヤスノがつぶやく声がした。
既にモンスター達は物言わぬ死体になっていた。
「何なんだよ! お前らは!」
「陰陽師だよ」
「はあ?」
「まぁ、まだ学生だから、バイト扱いだけどな」
「ふざけんなよ! この厨二病野郎が!」
「信じなくていいよ」
「秀一よ。こやつら生かしておくのかえ?」
狐鈴が底冷えしそうな視線をヤスノ達に送る。
「殺……何もしないよ」
「お主達を殺そうとしたのじゃぞ」
「物騒なこと言うなよ。ただの嫌がらせだ」
「そうかの?」
「ごめん。一旦戻って」
このまま狐鈴を放置したら、禁止ワードを連発して、チャンネルが破壊されそうだ。
「待て! 秀一よ!」
有無を言わさず襖が現れ、狐鈴を帰還させた。
「……あんた達って本当に陰陽師なの?」
アリサさんが青ざめた顔で聞いてきた。まだ死の恐怖が消えてないみたいだ。
「現実も不思議な事がいっぱいなんだよ」
「秀ちゃん。まずはこいつらが先だよ」
「そうだな。さてお前ら……」
俺は刀を送還してヤスノ達に向き合う。
「どうしてくれる?」
「一応殺人未遂だね」
「わ、悪かった!」
「俺は、ここまでやるなんて聞いてなかったんだ! ちょっと脅かすだけだって……」
「おい! お前ら!」
「ヤスノさん。ここは引きましょう」
「なんだよ殺人未遂ってよ! ただのトレインだろ!」
「ゲームと現実の区別がついてないのかよ」
「はぁ!? こんなの現実じゃねぇ。ゲームだろ! それに元々はお前らが邪魔したんじゃねぇか!」
「最初に私を脅迫したのはあんた達じゃない。早川君達は私を助けてくれただけよ」
「ヤスノさん。分が悪いですよ。それに俺達だけじゃ帰れないですよ」
「俺、もう付き合ってられんわ。悪かったよ。もう手を出さない。約束する。だから一緒に帰らせてくれ。頼むよ」
「くそったれが!」




