第117話 十二姫将ここに参上
「あんた達って、本当に……いつでもどこでも、イチャイチャしてるわね! このバカップルが! セリーニさん! やっちゃって!」
「はい。秀一様。失礼します」
セリーニはそう言って、俺の頭に手を置いた。
「オン・ダーナ・ソワカ」
すると、スゥッと頭痛が消えて、頭の中がクリアになっていく。
同時にだるかった倦怠感も消えた。
「おぉ! これは……ありがとう。セリーニ」
「どういたしまして。次は琴音様」
「うん」
「オン・ダーナ・ソワカ」
「うおおっ!?」
「琴音様。秀一様に呪力を分けられますか?」
「うん。分けられるよ」
「ではお願いします。我々式神はプレイヤーではありませんから、いくら戦ってもレベルがあがりません。ここは我々式神の出番かと」
「レベルアップ弊害もないってことか」
「はい。秀一様のレベルが上がり、総呪力も上がっているはずです。それなら我ら十二姫将を真名で呼べるのではないでしょうか?」
「……確かに」
「呼べるのでしたら、真名は自然と浮かび上がってくるはずです」
「やってみるよ」
「んじゃ秀ちゃんにちゅーにゅー!」
琴音が俺の背中に抱き着いて、呪力を注いでくれた。
温かい力がじわじわと入り込んでくる。
「私も呪力余っているから、分けようか?」
アリサさんが少し躊躇いながら手を向けてきた。
「大丈夫なのか? さっき朱雀と青龍を出してただろ?」
「魔力を呪力に変換するスキルを閃いたから平気よ。MP回復ポーションがあれば、どんどん変換できるしね」
「えっ! そんなの閃かなかったぞ!?」
「私も! ずっこい!」
「きっと呪力を限界まで使ってないからじゃない? そっちは二人で戦ってたし。余裕あったでしょ?」
「まぁなぁ。じゃあお願いするよ」
「えぇ……じゃあ……さわるわよ?」
「ん? あぁ。よろしく」
アリサさんはどこか緊張しながら、俺の肩に手を置いた。
そして……その顔がちょっと曇ったかと思ったら、いたずらをする子供のような……にや、違うな。邪悪な笑みを浮かべていた。
「この私が触ってあげるのよ。ありがたく思うのね! さぁ燃えなさい! 炎上するのよ!」
「え? って! うええええっ!?」
コメント欄を見ると、赤く怒った顔マークで埋め尽くされていた。
「やばい! 炎上してる!」
「いい反応ね! なんかおもちゃにしたくなっちゃった! さぁ私の呪力を受け取りなさい! これってもう逆セクハラなんじゃない!?」
「おおいい! 何言ってるんだ!?」
「このアイドルの私に、見向きも反応もしないなんて! 流石に傷つくのよ!」
「ちょ!?」
そんなアリサさんの言葉と共に、肩から琴音とはまた違った、熱い力が流れてきた。
レベルが上がり、呪力の総量も上がった。かつてない程の呪力が蓄えられる。
呪力が溜まっていくたびに、式神達の真名が頭に浮かび上がってきた。
いや、これは俺の記憶なのか? 遠い遠い昔の記憶。
本来なら思い出せない前世の記憶。
それが微かだけど、こじ開けられたような、つながったような……
「これくらいかしら?」
気づいたらアリサさんが肩で息をしていた。
どこか色っぽい。
「私もちょっと限界かも……」
琴音は抱き着くというより、もたれかかっていた。
「二人共ありがとう」
俺は二人を優しく引きはがすと、印を結んだ。
「オン・マハー・ラギータ・ヴァジュラ! 星天の座、宵夜の天人、夜白を歩く霊天将。ここに応えよ。来たれ! 白夜! 急急如律令!」
俺の背後に金の襖が現れた。
襖の中央には天狗の顔が描かれていた。
その襖がタンッと開き、アシリアが翼を広げて現れた。
しかしいつもと雰囲気と装いが違う。
白い翼は同じだけど、山伏の服装に手には羽団扇を持っている。まるで天狗みたいだ。
「十二姫将が一人。白夜。ご主人様の命により……きちゃった!」
転ばないように、少し宙に浮いている。
一瞬雰囲気が変わったかと思ったけど、全然変わってない気もした。
「オン・ヴァーユラ・ラージャ・タラシャ! 星火の座、炎の竜人、焔を懐き霊竜将。ここに応えよ。来たれ! 炎華! 急急如律令!」
今度は龍が描かれた金の襖が現れ、ジャネットが腕を組んで現れた。
師匠や狐鈴にビビり散らかしていた面影はなく、堂々とした雰囲気だ。
赤い髪に合わせているのか、着崩した赤い着物に腰には太刀を下げている。
裾が短いせいか、ちょっと嘘っぽい着物だ。
動きやすいためだと思うけど。
「十二姫将が一人。炎華。ここに参上。御主人、ご命令を」
その堂々とした立ち姿は素直にかっこいいと思った。
「オン・ヴァジュラ・カーラ・ラギータ! 星蒼の座、蒼の獣人、月影を忍ぶ霊獣将。ここに応えよ。来たれ! 蒼蓮! 急急如律令!」
続いて狼が描かれた金の襖が現れ、シルヴィアが出てきた。
第一声にお仕置きがない。すっごくまともだ。
いつもこんな感じで出てきたらいいのに。
黒い忍び装束で腰の両側にそれぞれ短刀を差している。
一言でいうなら、くノ一だな。
「十二姫将が一人。蒼蓮。是非名誉挽回の機会を……」
真面目だ! 真面目過ぎる!
「なければやはりお仕置きで」
やっぱり蒼蓮はシルヴィアだった。
「オン・マハー・ジョーティ・パドマ・ウルサ! 光月の座、破邪の天女、六翼を翔る霊光将。ここに応えよ。来たれ! 煌姫! 急急如律令!」
さらに天女が描かれた金の襖が現れ、スゥっと宙を漂いながら、エリスが現れた。
天女のような桜色の着物を着て、背中には大きな翼が六枚生えている。
記憶を失っていないので、服装が違うだけで、いつも通りに見えた。
「十二姫将が一人。煌姫。敵の殲滅ならお任せあれ」
そう言って微笑む煌姫。
コメント欄がハートマークで埋め尽くされていた。
凄い人気だ。
「オン・シュッダ・ラクト・ルビラ! 紅蓮の座、紅翼の霊鳥、焔をまといし霊鳥将。ここに応えよ。来たれ! 紅羽! 急急如律令!」
夜叉が描かれた金の襖が現れ、ちょんっとクリスが小ジャンプして現れ、トコトコと歩き出す。
可愛い現れ方だが、その手には自分の背より大きな大鎌を持っている。
服装は黒い和風ゴスロリだ。
「……十二姫将が一人。……紅羽。以上……」
クリスがジト目で見つめてきたので、見つめ返すと目を逸らされた。
その瞬間コメント欄が赤い顔マークで埋まる。解せぬ。
そして最後、いつのまにか帰っていたセリーニを呼び出す。
「オン・チャンドラ・マハー・ヴァジュラ! 星月の座、月の軍人、采配を刻む霊軍将。ここに応えよ。来たれ! 月華! 急急如律令!」
月の襖から再びセリーニが現れた。
薄い黄色の着物を着たセリーニが現れた。
どことなく月の色を連想してしまう。
武器は特に持っていない。
「十二姫将が一人。月華。作戦立案とグッズ開発ならお任せを」
「え? グッズ?」
「是非。それは後ほど」
後ほどってなんだよ!
「我ら十二姫将の内、半数が集まれたのも、秀一様のおかげです。まずは感謝を」
「お前らって記憶が戻ったのか?」
アシリアを見て言うと、
「はい。ご主人様」
とびっきりの笑顔を見せてくれた。
今まで見せてくれたどの笑顔よりも、可愛く思えた。
「話したいことは山とありますが、まずは敵を片付けましょう」
セリーニが視線を前方に向けると、アルベール率いるデーモンの軍勢が、戦場を飛び越えて迫ってきた。
流石に送還による転移まで予測できなかったようだな。
せっかくレベルアップ弊害で追い詰めたのに、逃げられ、更に回復されてはまずいと思ったに違いないな。
「反撃の時間だ。みんな頼んだぞ」
俺の言葉に式神達は一斉に武器を抜いた。
横一文字にならんだその姿は絵になっていた。




