第10話 ビギナーズ・トレジャーハント開始!
「ビギナーズ・トレジャーハントの開催時刻だよ!」
案内妖精のセレナが現れて宣言した。
「マップに大体の位置が表示されるから、そこへ向かってね!」
メニューを表示させマップを開く。
マップの殆どが黒塗りで、行ったことのある場所だけ、明るく表示されている。そんなマップにいくつも円が表示されていた。
「この円の中のどこかにあるのかな?」
縮尺的に直径一キロくらいかな? ほとんどが黒塗りの場所にあるな。
「そうよ。頑張ってね!」
はやる気持ちを押さえつつ、俺達は慎重に森の奥へ踏み込んだ。
ここはもう森の奥だ。モンスターの強さも入口付近とは全然違う。
マップに表示された円に入ると、モンスターとの遭遇率が多くなった気がする。
角の生えた兎、大きな蛾、プルプルしたジェル状のモンスターと戦闘になった。その中でもジェル状のモンスターが厄介だった。一見弱そうに見えるけど、斬撃や剣のスキルが効きづらいし、火の魔法も効きづらかった。大きさもそこそこあるので、張り付かれたら、溶かされる前に窒息死しそうだ。
そして大きな鬼達との戦闘。ここまで来ると、もう初心者用の森じゃないな。
「あれ! 宝箱じゃない!?」
「やっと一個目かぁ」
「待ちなさい!」
アリサさんが待ったをかけた。
「絶対何かあるわ! お約束よ!」
「確かに……」
俺は辺りに鑑定スキルをかけまくる。宝箱も遠くから目を凝らして見るが、モンスターの名前もレベルも出てこない。大丈夫そうか?
「宝箱も普通そうだな」
そう思って一歩踏み出した瞬間、宝箱のすぐ隣の地面が淡く光り、魔法陣が浮かび上がった。トラップか!
「うおっ!」
ヤバいと思ってとっさに下がる。
「やっぱりね!」
アリサさんが杖を構えてドヤ顔になった。
一瞬イラっとしたら、顔に出たのだろう、アリサさんが邪悪な笑みを浮かべた。なんか仕返しされてる?
魔法陣から鎧を纏った骸骨が浮かび上がってくる。
「ファイア・ブレイド!」
骸骨が腰まで出てきたところで、待ちきれなかった琴音が剣の平でぶったたいた。
打撃音と共に骸骨の髑髏が吹っ飛び、返す剣で骸骨の片腕を切り飛ばし、たぶん剣を持っていたであろう腕が、魔法陣の中に沈んでいった。
「火の精霊よ。紅き矢となれ! ファイア・アロー!」
鎧の隙間から入り込んだ炎の矢が、髑髏を火葬していく。
「ふぅ」
「ふうじゃねー!」
「ええっ!?」
「配信的に見せ場だろうに!」
「あぁ! そうだった! 登場シーンは攻撃しちゃだめだった!」
「次回は待ってやろうぜ。可哀想だよ」
「そうだねぇ」
「待つんじゃないわよ! 琴音ちゃん、ナイスだったわ!」
「どっちが正解なの!?」
「琴音、コメント見ろ。アリサさんの悲鳴が聞きたかったらしいぞ」
「ホラゲ配信なんて大っ嫌いよ!」
「振りかなぁ? 振りなのかなぁ?」
「違うわよ! アンデッドが出たら速やかに倒して! お願い!」
「あはは。了解だよ」
「早川君。あんたもよ!」
「了解だ」
「さてさて、宝箱の中身はなんだろ?」
「ワクワクするな!」
「早く開けて!」
「服?」
宝箱の中身は白いローブだった。所々青い模様や金糸で装飾されている。
「ローブかなぁ?」
「一度アイテムボックスに入れてみたらどうだ? アイコン化したら説明文が表示されると思う」
「あんた頭良いわね!」
「さすが秀ちゃん!」
ちょっと照れる。
「聖者のローブだって。しかもレアリティ星四よ!」
「すげぇ!」
今俺が装備している店売りの装備は、レアリティ星二だ。二つも上だぞ。
「フレーバーテキストも凝ってるわね。『清浄なる祈りをまとう、聖なる者のローブ。ローブに宿る神聖なる力は、身にまとうだけで穢れを遠ざけるとされる』だって」
「特殊効果付き?」
「瘴気耐性プラス二って書いてある!」
「すっごいな!」
「ここまで来た甲斐があったわ……これ、私が使ってもいい?」
「いいぜ。俺はローブを装備しないし」
「私もいいかな。アリサさん使ってよ」
「ありがと! 感謝するわ!」
とびっきりの笑顔が可愛いって思ったら、琴音が前を塞いだ。
「秀ちゃん! それ以上見ちゃダメ!」
「げっ! このローブ、装備条件があるわ! 筋力が足りない……今上げちゃおうかな」
アリサさんは周囲を見渡して、周りにモンスターの気配がないのを確認すると、メニュー画面を操作した。
「くっ……んあっ!」
筋力を上げると、強い筋肉痛に襲われるんだよな。アリサさんがちょっとセクシーな声を上げると、琴音が両手を広げた。何を……
「ふんっ!」
琴音がビンタするように、俺の耳を塞いだ。
「いってぇ!」
シールドがあると微妙な感覚が感じられないから、オフにしたままだった。
「あんたら何やってるの?」
琴音がビクっと震えて、パッと両手を離した。
「何でもないよ?」
「ふぅん?」
「さっ! 次の宝箱行こう!」
この後俺達はいくつかの宝箱を発見した。中身は星二つや三つの装備品や即時全回復するポーション。そしてこの辺り一帯のマップが解放される地図だった。
どうやらファーミルの森では、『聖者』シリーズの防具が宝箱から出るみたいだ。
俺達は星二つから星四つの『聖者』シリーズの装備を取得できた。星四つの装備は、アリサさんのローブだけだったけどな。
ふと思ったんだけど、このイベントって俺達プレイヤーだけしか参加していない。宝箱は享楽之神が用意した、配信を盛り上げるための、仕掛けなのかもしれない。装備品だってそうだ。星二とか三が付いてるのって、配信的に面白くするためで、本来ならレアリティなんてないのかもしれない。
装備品もきっと条件を満たしてなくても装備できる。ただ、重すぎて動きづらくなったり、特殊な効果を発動するのに、魔力が足りなくて発動できないとか、そんな感じだろう。
そんな事を考えつつも、俺と琴音は『聖者』シリーズの星三装備、見習い聖騎士の軽装鎧を揃えることができた。白い皮のレザーアーマーだけど、要所要所に金属が使われている。装備の防御力が上がると、シールドの防御力が上がるみたいだ。
軽装備で良かった。あまり重いと動きが鈍くなるし、疲れやすい。これくらいが丁度いいのかもしれない。ちなみに小手や脛当てはアリサさんも装備してる。
フレーバーテキストもローブと似たり寄ったりの内容で、瘴気耐性や光属性の攻撃アップなどだった。
他の配信者のチャンネルを覗いても、星四つの装備は数えるくらいしか発見されていなかった。
思い返してみると、殆どの配信者が戦闘に手こずっている感じがした。パッシブスキル、ブレイブハートのおかげで、モンスターと対峙してもビビって動けなくなるような事はない。しかしそのまま戦えるかと言われたらそうでもない。
普通の人は戦闘の経験なんてまずいない。剣道や柔道をやっていても、命のやり取りなんてしないしな。例えモンスターであっても、命ある生き物を殺す事は避けたいって思う気持ちもあると思うし、何より負けるかもしれない、殺されるかもしれない。そう思ったら積極的に戦おうとは思わないよな。だからこそ少しでも良い装備を与え、気持ちのハードルを下げ、戦いへの後押しをしたかったのだろうか?
そんなことを考えながら、他の配信者のアーカイブ動画を見ていた俺は、使い方によって厄介なことになるアイテムを気に留めていなかった。あいつらが取得していたのを配信で見たはずなのに。




