第9話 初心者イベントを目指して異世界の森へ
今日は昨日に引き続きファーミルの森に来ていた。ただし、なるべく戦闘は避けて、奥へ奥へと進んでいる。昨夜案内妖精から、イベントの告知があったからな。
「はぁ……はぁ……ちょっと待って……」
後ろからアリサさんの、か細い声が聞こえてきた。
「秀ちゃんストップ!」
「あっ! ごめん。いったん休憩にしよう」
気持ちが先走って、考えが足りてなかった。
俺は止まると、周囲に鑑定スキルを使った。モンスターがいたら反応するはずだ。うん、近くにいないな。
「あんた達……どんだけ体力あるのよ……」
アリサさんが恨みがましい視線を送って来た。
「私だって、ダンスレッスンとかしてるから、体力ある方だと思ってたのに……」
「俺と琴音は体が資本みたいなところあるからな……。ごめんな」
「いいわ。少し休ませてね。それでイベントまでは……」
アリサさんがアイテムボックスからウッドチェアを出して腰掛けた。
準備がいいな……
そしてアリサさんは、メニューの右上の方を見た。そこには時刻が表示されている。
「正午まで後一時間ね」
「イベントかぁ。なんかオンラインゲームみたいだね」
琴音はそう言いながら辺りを見渡すと、丁度座れそうな倒木を見つけた。
倒木へトコトコと近寄ると、アイテムボックスから取り出したタオルを、幹の上に敷いて腰掛けた。俺も琴音の隣に座った。
「そうだなぁ。やっぱりゲームの中じゃないかって、勘違いしちゃうな」
俺はメニューを開き、イベント内容を確認すると、こう書かれていた。
『初心者応援イベント開催!』
『プレイヤーの皆さん、異世界の生活には慣れましたか? このたび、初心者向けの特別イベント、ビギナーズ・トレジャーハントを開催します!』
『イベント期間中、指定されたフィールドで、期間限定の宝箱がランダムで出現! 中には初心者に嬉しいアイテム(武器・防具・魔導書・スキル書等)が入っているぞ!』
『運が良ければレアアイテムが手に入るかも?』
『開催期間は明日の正午から三日間』
『宝箱出現場所は各ギルドがある都市と、サンリット草原、セリーン草原、ウィスパリング草原、ノルディアの森、ファーミルの森、ムルグの森。宝箱のヒントは案内妖精が教えてくれるぞ!』
『初心者でも気軽に参加できるイベントなので、是非この機会に冒険を楽しんでください!(配信ルールは厳守してください)』
俺達の拠点から近いのは、セリーン草原とファーミルの森だ。都市は競争率高そうだし、プレイヤー同士のトラブルを避けるために、俺達は森の奥地へ行くことにしたんだ。
「ここまで来たら大丈夫じゃないか? そろそろモンスターを倒していくか?」
「そうだね。宝探しだけじゃ、配信も地味になっちゃうしね」
◇◆◇◆◇◆◇◆
もっと座っていたいという体に、鞭を打って立ち上がり、俺達は再び森の奥へ進んだ。
「なんだあれ?」
「……木? なんか動きそう」
大きな木。しかし琴音の言うとおり、その樹皮は目を閉じた顔のように見えて、動きそうだ。目を凝らして鑑定スキルを発動すると、『ドレッドウッド・レベル12』と表示された。
「結構レベル高いな」
「森の奥だしね。今は動いてないし、遠距離から火炙りにしちゃおうか?」
「いいね!」
「先手必勝ね!」
「「「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ!」」」
俺達の声が重なり、まるで合唱のようになる。
「「「ファイアーボール!」」」
三つの火球が膨れ上がり、森の中を照らしながら、ドレッドウッドに向かって突き進み、着弾した瞬間、轟音を響かせて爆発した。
ドレッドウッドの樹皮が焼け、焦げた木の匂いが立ちこめる。
楽勝だと思ったその瞬間、ドレッドウッドが咆哮を上げた。
「グォォォ!」
鋭い木の根が地面から飛び出し、俺達に襲い掛かった。
「きゃああ!」
俺と琴音はとっさに避けられたが、アリサさんが木の根に突かれ、後ろに吹っ飛んだ。
アリサさんのシールドゲージが一気に半分まで減った……まずい!
「うおおっ! 火の精霊よ。紅き矢となれ! ファイア・アロー!」
俺は炎の矢を放ちながら距離を縮め、琴音はアリサさんを庇うように立ちはだかり、回復魔法を唱えた。
「光の精霊よ。癒しの光となれ! ヒール!」
アリサさんのシールドゲージがぐんぐんと回復していく。
それを目の端で確認しつつ、炎の矢で怯んだドレッドウッドに迫った。
ドレッドウッドが剣の間合いに入ると、足を踏ん張り、剣にグッと力を入れた。
ここまでくる間の戦闘で閃いた、新スキルを放つ!
「クレセント・カット!」
袈裟斬りに振り下ろした剣が光り、ドレッドウッドが俺に伸ばした枝を斬り飛ばした。
「スラッシュ!」
さらに返す剣で、スキルを使って幹を切り裂く。
深追いはしないでいったん飛びのくと、さっきまでいた地面から、槍のような根が突き出した。
そして後ろからキレ気味の詠唱が聞こえたので、すぐさま横に飛んだ。
「ファイアーボール!」
戦意は失ってないみたいだ。
火球が俺のすぐ脇を抜けて、ドレッドウッドのど真ん中に着弾。すると轟音と共に炎が膨れ上がり、焦げた木片が飛び散った。
「あっぶねー!」
「あんたなら避けるでしょ!」
「一言あってもいいと思うぞ!」
「グルォオオ!」
「しぶてぇ!」
俺は再び突っ込み、ドレッドウッドに斬撃を放った。
「クレセント・カット!」
ドレッドウッドは斬撃を受けながらも、焼け焦げた体を揺らし、腕を振り下ろして反撃してきた。
俺は木の腕を避けて、再びスキルを放とうとしたその瞬間、新たなスキルを閃いた!
俺は大きく振りかぶり、魔法を唱える時のように剣に魔力を注ぐ。
「ファイア・ブレード!」
剣が紅蓮の炎に包まれ、燃え盛る斬撃がドレッドウッドの幹を切り裂き、炎が裂け目に流れ込んだ。
「グォォォ……」
遂にドレッドウッドは動かなくなり、炎に包まれながらゆっくりと崩れ落ちた。
「しぶとかったな」
「あんたも大概だわ。琴音ちゃん、ありがとうね」
「どういたしまして。とっさにヒールかけたけど、シールドってヒールでも回復するんだね。ポーションでも回復するみたいだし。変なの」
「確かに……普通なら怪我を回復する魔法よね」
「やっぱりシールドも、私達だけにあるのかな? 配信の配慮ってやつ?」
「道具屋の店員も、シールドのことを知らなかったよな」
「イベント告知とかもそうだよね。ゲームっぽいシステムがあるから困るよ」
「ゲーム感覚で戦ってたら、いつか死人が出そうだな」
俺がそういうと二人共黙り込んで、少し気まずくなってしまった。
「……おっと、火を消しておくか」
三人で火がくすぶってる箇所を、アイスジャベリンを放っていたところ、アクアボールの魔法を閃いた。
……これは勘違いしちゃうよな。




