最終話 『世界最後のひと皿――究極と至高のスライムを添えて』
――旅の果て。
幾千のスライムを食べ尽くし、幾万の味覚を超えて。
俺は、ついにここに辿り着いた。
「スライミネイア宮」――伝説にのみ記される、スライムたちの聖域。
空は金色に輝き、空間にはスパイスと星屑の香りが漂う。
ここで待ち受けていたのは、かつてないほどの存在感を放つ――二体のスライムだった。
ひとつは、『究極のスライム』
全てのスライムの記憶を吸収し、進化し続けた生きた料理。
その身体には、カレーの香り、マカロンの甘さ、マグマの灼熱、プリンのとろみ、和の出汁……
あらゆる味が幾層にも折り重なっている。
見る者を圧倒する、多重奏の旨味生命体。
そしてもうひとつは、『至高のスライム』
料理の神々が残したという“神のレシピ”から生まれた、完璧な球体。
火も包丁も使わず、温度、湿度、香り、全てが“自然と調和した料理”として構成されている。
一口で、記憶が涙を流すと言われる、究極を超える存在――“至高”。
「君に、最後の調理を任せよう」
審判者にそう告げられ、俺は深く息を吸い込む。
――どちらかひとつを、食材として選ぶこと。
それが、この旅の終着点。
「……俺が選ぶのは、**“究極”**だ」
迷いはなかった。
俺がここまで歩いてきたすべての道、食べてきたすべてのスライムたちの“記憶”が、
このスライムの中で生きていたからだ。
そして、最後の調理が始まる。
無数の味が共鳴し、せめぎ合い、融合していく。
カレーの熱にマグマの辛さを添え、チーズのコクにワインの香りが舞う。
最奥には、あの日の“プリン”が、優しく包み込むように微笑んでいた。
完成した皿の名は――
『記憶のグラタン・オブ・スライム』
一口ごとに、旅が蘇る。
すべてのスライムとの出会いが、味となって舌の上で踊る。
それは、ただの料理ではない。
それは、この物語そのものだった。
皿を前にして、俺は静かにナイフを置いた。
「……これで、ほんとうに終わりだな」
でも――そう、終わりじゃない。
スライムグルメの旅は、俺の中に生き続ける。
いつかまた、新たな味に出会うその日まで。
『スライムは美味しいらしい。』――完結




