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29:移らう季節

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。

 食事が終わり、ティアの歓迎会はお開きに。食事に使った食器の洗浄は、ミファとフィエリが行ってくれている。


 台所の流しでミファが洗い、綺麗になった食器を、椅子に腰かけたフィエリが布巾で水気を拭う。食後の食器洗いは、もっぱら彼女たちの役割と化していた。

 料理関連の家仕事でなにが面倒かって、食後の後始末なんだよね。料理を作るだけで、後片付けはやってもらえるのであれば、これほど気楽な役割はない。


「シギ、お風呂が沸いたわよー。あなた、昨日は体を拭いただけでしょ? 私たちはあとからで構わないから、さっさと入っちゃいなさい」


「はいよ。どう? ガルグ。最初のときみたく、たまには男同士で一緒に入る?」


「ほざけ。お前に手伝ってもらわなくとも、とっくにひとりで入れるわ」


 軽い気持ちで誘ってみたのだが、あっけなく拒否されてしまった。裸の付き合いぐらい構わないだろうに、つれないなぁ。濡れて毛がしぼんだガルグの姿、面白いからまた見たかったんだけどね。


 無理強いしても機嫌を悪くさせるだけなので、大人しく引き下がる。着替えとタオルを用意し、シエラが沸かしてくれた一番風呂をいただくとしよう。


 脱衣所で衣服を脱ぎ捨て、汚れた衣類は洗濯籠へ。

 ちなみに毎日の洗濯物なのだが、これはエルフ娘たちが役回りで洗ってくれている。汚れを落とす便利な生活魔法というものがあり、洗濯機いらずであった。

 お婆さんは川へ洗濯に~……なんてのは、栄えた集落ではほとんど見ないそうだ。


 るんるん気分で浴室の扉に手をかけたとき。ノックもなしに、背後の脱衣所の扉が開かれた。突然の事態に驚き、慌ててタオルで股間を隠す。


 扉を開けた犯人は、ティアであった。脱衣所に悪びれる様子なく侵入してきた彼女は、扉を閉めてにっこりと微笑む。そしておもむろに、着ている服に手をかけた。


「待って、ティア! ストップ、ストーップ!!」


 たわわな南半球が垣間見えたあたりで、ティアの腕を掴んで静止させる。なお当の本人は、理由がわからずぽかんとした表情を浮かべている模様。

 彼女の行動から、どうやら俺と一緒にお風呂に入るつもりだったようだ。


「さすがにまずい。さすがにまずいよ、それは」


 ティアとは父と娘のような関係を築けつつある。親子でお風呂に入るのは、至って普通のこと。だがそれは、娘が幼い時期に限る。


 たまに「二十までお父さんとお風呂に入ってました~」なんて人の話を耳にするが、それはその人の家庭が世間の感覚とズレているだけ。思春期の娘さんだったら、むしろ「パパ汚い! 私より先に入らないで!」と嫌がられる場合が大半だと思う。


 さてティアの場合だが、中身は幼女相当である反面、体は思春期成長期の真っ盛り。一緒にお風呂をするには、問題大ありである。少なくとも俺の倫理観では。


 居間で寛いでいるであろうシエラを呼び、ティアを連れ戻してもらう。表情を曇らせぐずりそうになったものの、シエラが「あとで私と一緒に入ろうね」と約束したことによって、事態は終息した。


 以降のティアのお風呂係は、エルフ娘たちに任せることが決定。ごめんよ、父親になりきれていなくって。チキンな俺には荷が重いんだ。


 なお、夜の添い寝だけは回避できなかった。寝るときは俺が傍に居ないと、不安になって夜泣きをしてしまうのである。両親を失ったときの辛い記憶が、心の奥で思い返されているのかもしれない。


「夜分遅くにごめんなさいね、シギ。ティアちゃんがぐずりだしちゃって、私たちがあやしても泣き止んでくれないの……」


 彼女たちに預けて、さぁ安心! と思った矢先。寝入りばなに、シエラがティア手を引いてうちを訪ねてきたのである。ティアを連れた彼女の顔からは、疲れの色が見て取れた。


 ティアは俺の顔を見るなり表情を明るくし、まるで寂しかったと言わんばかりにしがみつく。

 この子から見て俺を父親とするならば、シエラたちエルフ娘は近所の優しいお姉さん的なポジションに留まるのだろう。


 お留守番はできたし、お風呂も任せられた。ならいけるだろうと判断したのだが、こっちはまだ早かったみたい。

 夜は精神的に、不安になってくる時間帯だ。介護の仕事をしていたときも、お泊りの利用者さんで不穏になられる方が多かった。


 かつての上司の笑い話のひとつに、不穏になった利用者さんを落ち着かせるため添い寝して、そのまま一緒に朝まで寝入ってしまったという失敗談がある。


 聞く限りではほんわかした話だが、責任を問われる過失である。寝入っている間に利用者さんに急変があったらと考えると、その実は冷や冷やものの話だ。まともに歩けないのに勝手にトイレに立って、案の定転倒しました……なんてのは珍しくないからね。


 前日の経験を糧に、寝る前にもう一度ティアをトイレに行かせておく。そしてもし夜中に催してきたら、遠慮なく起こすようにと約束し、一緒に床に就いた。


 対策(といっても、寝る前にトイレに行かせるだけだが)を徹底したおかげで、以降ティアが粗相することはなくなった。子供の小さな成長を、親として実感した気分だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 保護したティアを連れ帰ってから、早いものでもうひと月が経った。

 季節は移り変わり、気温が上がって夏季に突入。……といっても、魔蝕の森では比較的涼しく過ごせているけどね。日本のうだるように暑い夏を思えば、随分と快適である。


 いつもならちゃんと服を着ているガルグだが、この時期においては別。上半身裸の半裸姿が、この時期の彼の普段着となっていた。

 天然の毛皮服を常に着ているわけだから、そりゃ夏はあっついよねぇ。


「うわ、ガルグ。すごい量の抜け毛だね?」


「火の季節に入ったからな。そりゃ毛も抜けるさ」


 ガルグの言う火の季節とは、まさしく夏のこと。ちなみに春が風の季節で、秋が土、冬が水なのだそう。言葉が違うだけで、元の世界とたいしてからわないね。


 マイブラシで、自慢の毛をお手入れしているガルグ。彼の傍らにはこんもりと抜け毛が山盛りに。

 このガルグの抜け毛、集めておけばなにかに使えそうかも……? クッションの中につめる棉代わりにとかさ。


 愛犬の抜け毛を使った人形作りは結構ポピュラーみたいだし、なんならセーターを編む猛者までいるのだとか。となれば捨てるにはもったいないから、とっておこう。


「あ、そうだ! もしガルグさえよければ、俺が全身の毛を刈ってあげようか?」


「おぉ、そいつは涼しくなりそうでいいな! ……と言うとでも思ったか? 皮膚病を患ったみたく貧相になるから、ご免被る」


 毛の大量確保を企んでみたが、あえなく失敗に終わった。

 人で例えるなら、「バリカンで坊主にしてやるよ」と提案されたも同じだから、当然だよね。そりゃ嫌だわ。野球少年じゃあるまいし。


 季節の変化により、衣替えをしたのはガルグだけではない。エルフ娘たちもまた、この時期に合った涼しげな格好に変わっていた。


 夏は男女問わず、必然的に薄着となる。つまり女性陣が着る服の布面積が少なくなり、目のやり場に困る場面がちらほら。下着程度なら当たり前のように目に入る。

 俺ってあまり男扱いされていないのかな……?


「あの、シギ様……? 私の格好、どこかおかしいのでしょうか?」


「いやー、そんなことはないよ」


 フィエリ。いや、フィエリ様。君は実はエルフじゃなく、本当に天使様なんじゃないのかい? ノースリーブの白いワンピースとか、似合いすぎて反則過ぎる。


 まるで夏をモチーフにした二次元の可愛い少女が、現実に現れたかのような奇跡。あとは麦わら帽子さえ被ってもらえば、文句なしの完璧だった。

 長いスカート部分だが、膝から下の部分はシースルーになっていて見た目も涼やか。余っていたカーテンの生地を使ったらしい。


 そしてまた憎いことに、ティアもフィエリとお揃いの服に身を包んでいる。白ワンピ姿のふたりを見れただけで、この世界に来てよかったと思ってしまう。

 是非シエラにも着てもらいたい願望が生まれたが、さすがに欲求を口に出す勇気はない。


 ミファは……うん、へそ出しのタンクトップと短パンがよく似合ってるね。虫かごを肩から下げさせて、虫アミを持たせれば立派な田舎っ子だ。蝉とか追いかけてそう。こちらもまた、夏に相応しい格好である。


 敷地を広げるため端に植えていた結界樹の枝だが、夏の日差しを浴びて順調に育っていた。ポーション栽培による成長ぶりは目覚しく、ひと月経った今ではすでに俺の身長を追い抜いている。


 町で手に入れ、畑に植えた様々な作物も順次実り、早いものであればすでにいくつか収穫済み。食卓の彩が増え、毎日が楽しい。


 もう俺の中ではポーション=薬ではなく、肥料という認識になりつつある。といいつつも、毎日欠かさずにしっかり飲んでいるけどね。栄養剤=人間用の肥料って意味では間違っていないでしょ。


 しかし問題が全くないわけではない。畑の面積を拡張したため、肥料代わりに使う赤ポーションの供給が追いつかなくなりつつあるのだ。そのためポーションメーカーは、毎日絶賛フル稼働。ゴーレムたちが採取してくる素材すら、いつかは不足しかねない勢いだった。


 ポーション頼りの栽培から、普通の栽培へと徐々にシフトしていく道を模索し始める。一度楽を覚えてしまった身なので、軌道に乗るまでは苦労するだろうな。

 最近では水でポーションを希釈し、節約する方法をとっている。薄めた分だけ成長速度は落ちたが、これでも十分に効果がある。


 真っ赤に熟れたトマトの実をひとつもぎり、服の裾で表面を拭いてから齧りつく。甘酸っぱい汁が口いっぱいに広がり、最高の食べごろだったと実感させてくれた。

 今日のお昼は収穫したトマトを使って、トマト尽くしにしようかな。

お読みいただき、ありがとうございます。

いただいた感想、ブクマ、評価は今後の創作の励みになります。

引き続き、お付き合い願えれば幸いです。


別作「必中の投擲士」の2巻が、5月31日に発売いたします。

こちらもよろしくお願いいたします。

挿絵(By みてみん)

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