21:町にきまして
3/7 薬屋にて、白ポのくだりを追記。
翌朝。留守を任せたエルフ娘たちに見送られ、人族の町に向けて出発する。
フィエリも元気な姿で見送ってくれた。俺との約束どおり、ちゃんとポーションを飲んでくれたみたいだ。ミファとも仲直りできたみたいなので、安心する。
半日かけて、森の東側から外に抜け出る。道中はアルファが付き添ってくれた。ゴーレムの力なしに魔蝕の森を踏破するのは、いささか厳しい。
町には二日間滞在する予定でいるので、アルファに三日後にまた迎えを頼んで別れる。
「この平野を真っ直ぐ進むと、整備された道がある。その道を左に進んでいけば、チアベリの町に着けるぜ。今日中には厳しいから適当な場所で夜を明かして、日の出と同時に動き出そう」
引率するガルグの指示に従い、森から離れた場所に陣取って夜を明かす。安全な野営を行うにあたり、アーガスさんの遺産が役に立った。
・『収納巾着』:伝説級
小さな見た目に騙されることなかれ。中は亜空間と繋がっており、見た目の何百倍もの収納力を誇る。
巾着の口は有る程度伸縮するが、大きすぎるものは収納できない。生物の収納も不可。
やはりあったと言うべき、旅の定番魔道具。『収納巾着』のおかげで、手に持つ荷物は少なくて済む。といってもさすがに手ぶらだと不審に思われるため、最低限の荷物は持っているけどね。
この巾着が本領を発揮するのは、大量に買い込んだ帰りになるかな。
ちなみにこの『収納巾着』。底に穴が開いていて、これまで使用できなかった。駄目もとでフィエリに繕ってもらったら、あっさりと復活したのである。
・『結界樹の枝』:古代級
結界樹の枝を利用した、立派な魔道具。地面に植えることで、効果を発揮する。
親樹同様、周囲に魔物を寄せ付けない結界を張る。枝のため、範囲は狭い。
植えたままにしておくと樹に成長してしまうため、使用後は必ず地面から抜くこと。
この『結界樹の枝』を植えておけば、夜は安心して眠れる。もっとも、効果があるのは魔物に対してのみなので、盗賊などの人間相手には依然として警戒する必要があるが。
二時間交代で睡眠をとり、夜を明かす。朝になって朝食を食べ終えたら、植えた『結界樹の枝』を引っこ抜いて出発した。
平野を進むとガルグの言っていた、人の手によって整備された道を発見。適度な休みを挟みつつ道に沿って進み、ようやくチアベリの町へと到着できた。
「軽い気持ちでいたけれど、結構しんどかったなー。帰りも同じだけ時間がかかると考えただけで、ちょっと憂鬱かも……」
便利な世界で生活してきた身として、何時間も歩き続ける機会なんて滅多にないからね。距離が遠い場合は、乗り物を利用するのが当たり前だった。
新幹線の料金は高いと感じていたクチだけれど、何百キロという離れた距離を、ものの二、三時間で移動できたのだから安いくらいだと実感する。
「……ん? ガルグ、首になにを着けているの? 首輪? お洒落? それ、お洒落なの?」
いつの間に着けたのか。町に入る前までは、ガルグは首輪なんて着けていなかった。見た感じ鉄製の、重そうで不便な首輪だ。
模様が彫り込んであるが、アクセサリーにしてはゴツイ。もし本人がお洒落のつもりで着けているのであれば、センスを疑う。
「お洒落なわけあるか。こいつは隷属の首輪だ。アリシド国内じゃ、着けていない亜人は難癖つけられて捕まったりするからな」
それは穏やかじゃないな。人族至上主義の国とは聞いていたが、そこまでだったか。
ガルグの着けている首輪は、あくまで精巧に作られた偽物。町にいる間は奴隷を演じて、面倒事を避けるための知恵らしい。
ちなみにこの手段は、強面でいかついガルグだから成立するのであって、華奢なエルフ娘たちが真似をしてもあまり意味を成さないのだとか。若い女性がこの手段を用い、単独でいると、下卑た輩に目をつけられるらしい。
「ま、そういうわけだ。町にいる間は頼むぜ、ご主人様よ」
「……ご主人様呼びしていいのは、可愛いメイドさんだけだ。ガルグに言われても嬉しくないから、別の呼び方にしてくれる?」
「おっと、こりゃ手厳しいな。お前の拘りは理解できんが、わかったよ。で、代わりにどう呼べばいい?」
ご主人様以外で真っ先に思いついたのは、旦那様。でもこれも、将来伴侶となる愛しい奥さんに呼んでもらいたいからなぁ。
というわけで、無難な若旦那呼びで落ち着いた。
ガルグの案内で、町外れの薬師が営む店を訪れる。薬を取り扱う店であれば、金策に持参してきたポーションを買い取ってもらえるだろう。
ガルグが自前の小銭を持っている程度で、俺は無一文。先立つものがなければ、なにも買えないからね。
ちなみにこの国では、貨幣は大別して五種類。うち銅貨、銀貨、金貨の三種類が一般的な市民の扱う貨幣となる。金貨の上に大金貨、白金貨とあるが、下々の身では拝む機会すらないのだろう。
また貨幣は、100枚単位で上位の貨幣に繰り上がるそうだ。
店内に入ると、中は暗くてとてもおどろおどろしい雰囲気をしていた。店員は黒いローブを纏った、鷲鼻の似合う怪しいお婆さん。湯気の立つ大釜をずっと混ぜ続けている。
「ねるねる……ねるねる……おや、お客さんかい?」
ぶつぶつと呟いていたお婆さんに、思わず噴き出しそうになった。知育菓子の有名なフレーズが頭によぎったからである。ねればねるほど、大釜内の液体の色が変わるんだろうか。
俺の思い描くファンタジーをまんま再現したような格好といい、期待に応えすぎである。
薬師のお婆さんに薬を買い取ってもらいたい旨を伝え、持参した赤ポーションを見せる。
お婆さんは小瓶に入ったポーションを、様々な角度から眺め、蓋を開けてにおいを嗅ぎ、最後は指先につけてぺろりと舐めた。
「うっ!? えらく苦い味をしているねぇ……? 味は悪いが、質はいい。これなら買い取ってあげてもいいよぉ」
「本当ですか!? やったね。それで、おいくらぐらいで……?」
お婆さんの反応は見た感じ悪くない。赤ポーションを買うには金貨を要すると聞くから、いいお値段になるはず。
「そうさねぇ……銀貨で30枚。このぐらいが妥当かねぇ」
銀貨で30枚……。はて、これは良いのか悪いのか。俺の感覚でいえば、あんまり良くなさそうだけれど……?
小声で後ろに控えたガルグに尋ねる。すると小さく首を振られてしまった。やはり足元を見られているようだ。
あちらも商売なのだから安く買い取り、高く売りたいと考えるのは自然。だからといって向こうの言い値で売るのは明らかな損なので、頑張って値上げの交渉を試みる。
……一時間近く粘り、頑張った結果。所持する本数全てを売る条件で、一本あたり銀貨60枚まで買取額を上げられた。最初の提示額より、実に倍である。
持っているのは十本が全てと嘘をつき、合計額は銀貨600枚。
在庫はまだまだあるので、本音を言えばもっと売りたい。しかし大量に持ち込みすぎると不審がられると判断し、ぎりぎりの範囲で留めておく。10本売りですら、結構な量の持ち込み数だろうしね。
全て銀貨だとかさ張るため、100枚だけ残してあとは金貨にしてもらった。
金が絡めば、なにかと交渉が求められる世界。毎回となれば、とても面倒くさいな。決められた額で買い物が出来るって、実はとんでもなく楽だったんだと実感する。
「赤ポーションを売っておいて尋ねるのはおかしいでしょうけど、この店で白ポーションは取り扱ってないでしょうか? 赤より上の、特等級のポーションです」
「……あるように見えるかい? 白なんて最上級品、町の薬屋なんかに並びやしないよぉ。赤とは比にならないくらい貴重で高価だからねぇ、市場にはまず流れてこないねぇ」
フィエリとガルグのために、あればいいな程度の軽い気持ちで聞いたが、結果は残念。それどころか、市場に出回らない品とまで言われてしまった。
まぁ、もし仮にあったとしても、今の俺の手持ちでは恐らく買えないけども。
軍資金を手に入れ、ほくほく顔で店を出る。するとすぐガルグが、取引の結果について難癖をつけてきた。曰く、もう少し高く吊り上げられただろう、と。
なら教えてくれよと俺も言い返したが、奴隷を演じる手前、口出しできなかったそうだ。
まぁ、まだ魔蝕の森産の魔物素材があるため、こちらも売ってしまえば金には困らないはず。
お買い物をする前に、今晩の宿を確保する。青果の露店で呼び込みをする人のよさそうなおじさんに、お勧めの宿を訪ねた。おじさんは気前良く教えてくれ、俺も教えてくれた礼にと売られていた果物をふたついただく。
見た目は長細いリンゴ。赤く熟れていて、皮は艶がありとても美味しそうだ。ひと口齧ってみたが、味もリンゴ。ちょっと酸味が強いかな。蜂蜜付けにするか、パイにしたらきっと美味しい。
種が確保できたので、帰ったら植えよう。
事前にガルグから聞いていた話から、町は陰気な人ばかりと思っていたのだが、今のところは意外とそうでもないな。
もっとも、それは俺が同じ人族なのだからだろうけどさ。
俺が意図的に目を背けているだけで、視界の端ではちらほらと嫌な光景が映っている。亜人種の奴隷が、主人からぞんざいな扱いを受けている光景だ。
粗相をしたのか、幼い奴隷の子が暴力まで振るわれている始末。思わず飛び出しそうになるが、ぐっと堪えた。
俺も歳をとり、清濁飲み込める大人になった。感情的な子供じゃあるまいし、まともに救えやしないのに首は突っ込めない。
他人事と耳を塞ぎ、目を前にだけ向ける。だが宿を訪れて、俺もようやく人族至上主義の洗礼を受けてしまった。
「……え? 奴隷と一緒の部屋は駄目なんですか……?」
「当たり前だろう。あんたを泊めるのは構わんが、奴隷に部屋は貸せない。部屋が獣臭くなっちまう。奴隷には馬屋を提供しているから、泊まるならそちらで寝かせな」
後ろに控えたガルグに、侮蔑した目を向ける宿の主人。身内に対してとなれば、さすがに抑えていた負の感情が込み上げてくる。
「馬屋を貸していただけるとはありがたいです、若旦那。部屋に荷物を置いたら、さっそく買い物に出かけましょう」
別の宿を探すと俺が啖呵を切るよりも先に、ガルグが口を開いた。俺のことは気にするなと耳打ちされ、渋々矛を収める。
この町ではどこの宿でも、奴隷に対する扱いに差異はないらしい。むしろ馬屋を提供してもらえるだけ、良心的なほうなのだと。
腑に落ちないものを感じながらも、ガルグに促されるまま行動する。
借りた部屋に俺とガルグの荷物を置き、本来の目的を果たすため商店が並ぶ大通りへと出かけた。
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