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幸せ絶頂我が人生に悔い無し!

「お嬢! 助けてくださいっ!」

「わあっ!?」

 ある日の出来事です。

 魔女の家に傭兵団長たちがやってきました。

 実に久し振りの登場です。そろそろ存在を忘れかけていた人もいるのではないでしょうか。魔女自身も忘れかけていました。

 そもそも魔女の知り合いには魔王や勇者、白銀龍や黒鍵騎士など、実に個性豊かな面々が多いので、ただの傭兵など存在が霞んでしまうのは無理もないことです。

 そして魔女の家にやってきた傭兵団長は、瀕死の怪我人を抱えていました。

「う、うぅ……」

 その怪我人は左腕と右足を無くしています。どう見ても重傷です。

「と、とにかく中に入って。その人を休ませないと」

 怪我人を放っておくことは出来ないので、魔女はベッドを貸してあげました。自分のベッドではなく先代魔女が使っていた加齢臭の残るベッドです。客人用のベッドですが、いまは怪我人用になっています。

 ベッドに寝かせられた怪我人は今にも死んでしまいそうです。

「しっかりしろ! 死ぬんじゃねえぞっ!」

「だ、団長……おれは……もう駄目です……どうか……気になさらず……」

「馬鹿野郎! 弱音を吐いてんじゃねえっ! お嬢! 何か方法はないか!? 金なら何とかする! だから……」

 傭兵団長は魔女に懇願します。部下を死なせたくない一心なのでしょう。団長の鏡です。

「と、言われてもね。そこまで重傷だと『白の祝福』も効かないだろうし……」

 傷薬『白の祝福』は、あくまでも本人の生命力を活性化させて回復させる薬です。対象者がここまで弱っていると効果は期待できません。

「さ、最期に……言わせて下さい……おれ……実は団長のことが……」

「っ!」

 瀕死の部下を看取る覚悟を決めていた傭兵団長ですが、その言葉に若干顔を引きつらせました。

 遺言代わりに男から告白されてはたまったものではありません。

 しかし死ぬ前だからこそ伝えておきたい、恐らくは生きている間はずっと胸のうちに秘めておくつもりだった大切な気持ちです。ここで引いてはいけないと傭兵団長は覚悟を決めました。……ちょっと嫌そうですが。

「くふぅ」

 そんな二人を、魔女がほくほく顔で見つめていました。とても美味しそうなものを目の前にした表情です。

 急いで薬品倉庫へと踵を返して、とっておきの薬を取ってきます。とても高価な薬ですが、この先の展開を見られるのなら個人的には惜しくはありません。

 腐女子根性……もとい好奇心を刺激されまくっている魔女にとって、薬の一つを捧げることに何の抵抗もありません。

「助けたい?」

「もちろんだ」

 告白された後も、傭兵団長の気持ちは変わりません。大切な部下なのです。

「じゃあこれを飲ませて」

 魔女は薬の瓶を手渡しました。

「これは?」

「『エリクシール』だよ」

「奇跡の回復薬か!」

 傭兵団長はさっそく瓶を空けました。部下の口をこじ開けてのませようとしたのですが、そこは魔女が止めます。

「待って。それは口移しで飲ませて」

「……なんだと?」

「自分で飲めないほど弱ってるかもしれないでしょ? 確実に飲ませるには口移しが一番いいんだよ。分かってるでしょ?」

「うぐ……」

 分かってはいますが、たった今告白をしてきた相手に下手な期待を抱かせるのも気が引けます。

「ほらほら早く♪」

「……楽しんでないか?」

「嫌なら返して」

「それは困る」

「じゃあ早く。その人だって愛する団長にちゅーしてもらえるんだから幸せ絶頂で生き返ってくれるはずだよ」

「………………」

「その後のことまでは責任持てないけどね」

「……他人事だと思いやがって」

 覚悟を決めた傭兵団長はエリクシールを煽ってから部下に口移しで飲ませました。

「………………」

 瀕死の重傷だった部下は幸せ絶頂我が人生に悔い無し! な表情で目を閉じるのでした。

 ……もちろん死んでません。回復のために眠りについただけです。

 精神的には傭兵団長の方が重傷かもしれません。



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