青春だねぇ
「団長! おれは感激しました! 遺言代わりに覚えていて貰いたかっただけなのにまさか口づけまでしてもらえるなんて! おれは世界一の幸せ者でありますっ!」
「落ち着け! 俺がしたのは口づけではなく口移しだ! 断じてお前の気持ちに応えるつもりはないぞっ!」
「そんな! 一度は期待させてどん底に落とすなんて……団長はそこまで冷たいのでありますか!」
「それとこれとは問題が別だ!」
「うーん。青春だねぇ」
「せいしゅん?」
命を救われた部下がうきうきうかれまくりで傭兵団長へのアタックを開始しています。死を乗り越えたことで禁断の扉が開いてしまったようです。むしろ拓いたと言うべきでしょうか。
魔女とにゃんこはその様子を眺めています。完全に傍観者です。
ちなみに部下は重傷から回復しただけではなく失った手足も完全に取り戻しています。駆けずり回って傭兵団長に絶賛アタック可能です。
「いやあ、面白い見世物だね」
「おとこどうしだよね?」
「そこがいいんじゃない」
「……そうなの?」
駄目ですにゃんこ。理解してはいけません。それはにゃんこが知ってはいけない世界なのです。ピュアな心を穢さないでください。
……そんなやり取りを経て、ようやく落ち着きを取り戻した傭兵団でした。
「……ああ、酷い目に遭った。それもこれもお嬢があんなことをさせるから」
「人の所為にしないでよ。口移しが確実だっていうのは賛成でしょ」
「それはそうだが、何もあのタイミングで、あのシチュエーションで強要することはないだろうが」
「いやあ、秘めたる思いを告白した勇気ある部下にちょっとだけご褒美をあげたくなってさ」
「俺にとっては悪夢だ!」
「いいじゃない。尊敬が頂点に達して恋心になっちゃったってことで」
「やめろー!」
本気で頭を抱える傭兵団長でした。これから部下とどう接していいのか分かりません。
「で、何があったの? みんなも団長もボロボロだし」
「ああ。酷い目に遭った。巨人退治があそこまで大変だとは思わなかった」
「巨人?」
「ああ。クルーゼス山脈に巨人が居座ってるんだ。はぐれ巨人らしくてな。退治を依頼されたんだが、見ての通り返り討ちだ。転移呪符でお嬢の所に集団転移するのがやっとだったよ」
「転移呪符ってめっちゃ高いんじゃない?」
「ああ。だが部下達の命には代えられない」
「そんなに大事なら気持ちに応えてあげればいいのに」
「それとこれとは話が別だ」
「ま、面白いからいいけどね」
「………………」
完全に傍観者スタイルです。当事者である傭兵団長にとってはたまったものではありません。
「じゃあ巨人退治は失敗したんだ」
「ああ」
「引き継ぎは?」
「まだだ。俺達が失敗したことで他の連中も怖じ気づいた。とても引き継ぎができる状況じゃない」
彼らは地元ではかなり名の通った傭兵団です。彼らが失敗したという報せを聞いた他の冒険者達は、その仕事を引き継ごうとはしません。失敗するのが分かっているからです。
「じゃあ諦める?」
「いや、もう一度挑戦する」
「そっか。頑張ってね。傷薬ぐらいなら割引販売してあげるよ」
「それはありがたいが、もう一つ頼みたいことがある」
「何?」
嫌な予感がしつつ、魔女は問いかけます。
「お嬢にも同行して欲しい」
「………………」
嫌な予感的中です。
戦闘職の傭兵団が失敗した仕事を、魔女が加わったところでどうにか出来るとは思えません。
どうにも厄介なことをお願いされてしまったと肩を落とす魔女でした。




