日常魔法って便利だよ
魔女は黒鍵騎士を連れて甘味処に入ったり、陶器屋を見て回ったりしました。
甘味の土産をいくつか購入して、和風の陶器も購入しました。
「そのお菓子はあまり日持ちしませんので出来ればお帰りになる直前に購入した方がよろしいかと思いますが……」
黒鍵騎士が心配そうに言います。
「時間凍結魔法をかけたからだいじょーぶ。魔法が解けない限り百年経っても腐ったりしないよ」
「……はぁ。魔法って便利なんですね」
攻撃魔法の知識はありますが、こうした日常魔法の方はあまり馴染みがないようです。
「使いこなせるようになると日常魔法の方が結構便利かな」
魔女はお土産を鞄にしまいながら答えます。
月詠の里はただ歩いているだけでも楽しい場所です。
買い物したり練り歩いたり、魔女はそれなりに楽しんでいました。
「………………」
そんな中、視線を感じて振り返りました。
「?」
振り返った魔女に黒鍵騎士は首を傾げます。
「どうかなさいましたか?」
「んー。あの壁の向こうに誰かいたような気がする……」
魔女は視線を感じた壁を指さします。
「地元の子供なのではないですか? 観光客が物珍しくて見ていただけだと思いますが」
「うーん。それにしては気配が妙だったんだけど……」
「妙、といいますと?」
「微弱、というか。希薄、というか。うーん。上手く言えないんだけど生きてる感じがしない、みたいな」
「……どうにも要領を得ませんね」
「うん。幽霊かな」
「魔女殿は幽霊が視えるのですか?」
「見えないけど気配ぐらいは感じられるよ。霊視魔法を使えば視たり会話したり触れたりも出来るけど」
「……やっぱり便利なんですね、魔法って」
「便利だね」
しかしいくら壁を眺めても視線の主は姿を現す気配がありません。
魔女に用事があるのか、それとも黒鍵騎士に用事があるのかも分かりません。
「二手に分かれようか」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫。いざというときは遠慮なく攻撃するから」
魔女は鞄からルナソールを取り出して不敵に笑います。
「……確かに大丈夫そうですね」
オリハルコン製の杖、そしてそこに籠められた蓄積魔力を感じ取った黒鍵騎士は冷や汗混じりに同意しました。
この状態の魔女と戦えば自分でも無事では済まないと感じ取ったのです。
「じゃ、またあとでね」
「お気を付けて」
こうして魔女と黒鍵騎士は幽霊の目的を探るために一旦別れました。




