その頃のにゃんこ
さて、その頃のにゃんこです。
「うー……みゅー……」
魔女の宿題……魔導書の山を目の前にしてうんうん唸っています。
初心者用の教本から開いてみたのですが、一文字読むだけでも大変な苦労を強いられています。
この世界に漢字は存在しませんが、漢字とよく似た変換文字は存在します。
つまり、にゃんこにはまだ読めないのです。
にゃんこが読書をするにはまず『もじのよみかた』あたりから始めるべきでした。
もちろん魔女がそういう本から勧めてあげれば良かったのですが、『ひらがなしゃべりのたどたどしさが激萌え』という身勝手な理由から、にゃんこに文字を教えることを良しとしませんでした。
馬鹿な子ほど可愛いのそのまんま版です。
「あう~」
脳みそがそろそろ茹だってきました。
知恵熱の兆候が出てきています。
「ますたぁのいじわる~」
敢えて読めない本を出してきた魔女を少しだけ恨んでしまいます。
もちろん大好きなますたぁですから本気で恨んだりはしないのですが。
このまま挫折してしまうには時間が余りすぎています。
スカルくん達は外で仕事をしていますし、邪魔をするのも気が引けます。
スカルくんの仕事を滞らせると、骨も凍るような魔女のお仕置きが待っていることをにゃんこは知っているからです。
一人きりで過ごすには、勉強ぐらいしかやることがありません。
にゃんこは仕方なく初心者用教本とにらめっこしています。
少しずつ、本当に少しずつなら読むことが出来るのです。
魔女との使い魔関係が役に立っています。
集中することにより魔女の知識を共有することが出来るのです。
もちろんにゃんこは未熟者なので文字を読むことぐらいしか出来ませんが。
読めるようになったら書いていることの意味も分かるかもしれません。
「あう~。あたまいたくなってきたよぅ」
いよいよ限界が近づいてきたのか、にゃんこはテーブルに突っ伏してしまいます。
そんなタイミングで呼び鈴が鳴りました。
「だれだろう?」
知らない人がやってきても扉を開けてはいけません、などという模範的な教育を魔女はしていません。
魔女がにゃんこに教え込んだのは『知らない人がやってきたら迎撃魔法を最大威力で発動させること』でした。
攻撃意識が強すぎます。
にゃんこでも簡単に発動させることが出来るように爆弾スイッチのようなものをドアの横に設置してあります。
このボタンをぽちっと押すだけであら不思議、いつか見た勇者の悲劇が再現できるのです。
押さないでー。
にゃんこはそんな事しちゃ駄目だよー!
ピュアなままでいてー!
などと言いたくなってしまいます。
「はーい。いまでるよー」
にゃんこは扉を開けました。
魔女の言いつけ通り、スイッチに指を添えたままですが。
「あ、こんにちは~」
来客は、にゃんこのよく知っている人でした。




