魔女のたっきゅーびん
「おー、あそこがハルマ大陸かぁ」
高速飛行で四時間ほど飛ぶと、ハルマ大陸が見えてきました。
カルラド大陸から海を隔てた南西に位置する大陸です。
一番高い塔の見える場所が、恐らく魔王城でしょう。
魔女は以前教えられた通信コードで魔王に話しかけます。
「こんにちはー。魔女の宅急便でーす」
通信魔法越しに気の抜けた会話をする魔女です。
『随分と早かったな。ところでタッキュービンとは何だ?』
魔王は特に驚いた様子もなく応じてくれました。
「荷物を届けることだよー。私の世界では結構頻繁に使われていた輸送手段だったんだよ。くろねことか、ぺりかんとか、ひきゃくとか、かんがるーとか、色々ヴァージョンがあったけどね~」
『……動物が荷物を届けるのか? 猫や鳥やカンガルーが?』
魔王陛下、ナイスボケです。
「それはそれで面白そうだね。企業名だよ。それで私は魔王城に向かえばいいのかな?」
『いや。そこで待機していてくれ。空域とは言えハルマ大陸に単身で侵入すれば他の魔族の警戒を招いてしまうだろう。今迎えを寄越す』
「りょーかい。なるべく早くね~」
魔王との通信が切れました。
魔女は迎えを待つ間、ハルマ大陸を空から眺めています。
港には沢山の船が停泊しています。
街もごく普通です。
教会はさすがにありませんが、建物や道路など、人間の街とほとんど変わらないように見えます。 建築様式が違うぐらいです。
人間の大陸が中世ヨーロッパ風であるのに対して、こちらは全体的に中国風といった感じです。
「うーん。魔族の土地っていうともっとおどろおどろしいものを想像してたんだけどな~。ちょっと普通すぎて拍子抜け。まあ陽の当たる地上にあるんだからこんなものかもしれないけどさ」
好奇心でどきどきわくわくだった魔女はちょっとだけがっかりしてしまいました。
魔族の土地というよりは普通に遠出して観光にやってきた感じになってしまっています。
「ま、中に入ればちょっと印象変わるかもしれないし」
それでもまだ諦めてはいません。
もしかしたら魔族の土地にしかない珍しいものを見ることが出来るかもしれませんし。
魔女がそんな期待に胸を膨らませていると、
「お待たせしました。魔王陛下の命によりお迎えに参りました。黒鍵騎士と申します。以後お見知りおきを」
「こ、こんにちは……」
現れたのは黒い甲冑の騎士でした。
フルフェイスフル甲冑ですから、顔が全く見えません。ちょっとだけ不気味です。
腰には真っ黒い剣を差しています。
黒鍵騎士は魔女に手を差し出します。
「?」
「お手を。転移魔法にて魔王城までご案内します」
「あ、うん」
魔女は黒鍵騎士の手を取ってそっと握りました。
籠手越しに握った手はとても冷たいものでした。
魔女と黒鍵騎士は転移魔法でその場から消えてしまいました。




