5話「二人の侵入者」
こんな恐ろしい事件が同じ列車で起こっていることなどつゆ知らず、後部車両に乗っている貴族達は皆優雅に過ごしていました。
列車は何回か燃料の補給のために停車しましたが、それ以外は事故も無くひたすら走り続け、翌朝に目的地であるサンダースノー波止場まで無事に着きました。
グレイシアが覚めたのは、朝日が昇ってから少し経った後でした。列車が止まる際に発した凄まじい音のせいで嫌でも目が覚めたのです。
エリオットもその音で彼女と同時に起きました。すると早速、ジルフォード侯爵の手下の二人がやって来て、手当たり次第に子供達を担ぐと荷台へと運び出し始めました。
グレイシアとエリオットは、勿論生きていましたから、死んだふりは出来ても体温や少しの鼻息で、生きていることが気づかれてしまわないか心配でした。
ですが手下二人は相当焦っている様子で、夢中になって駆け足で子供達を運び出していましたから全く気付かれませんでした。
なにせ子供達の死体を運んでいることが後部車両に乗っている貴族達に万が一知られてしまえば、大変なことになりますし、しばらくすればこの列車は車庫に戻るからです。
ですから、列車が到着して間もないこの間に作業を終わらせたかったのです。グレイシアとエリオットは同じ柵付きの荷台に乱雑に放りなげられました。
そして凄まじい速さで荷台付きの馬車は走り出し、あっという間に倉庫前まで到着しました。
倉庫は簡素な石造りの大きな建物でした。その倉庫前で怪しげな黒いローブを着た長身の男二人が待ち構えていました。そして小太りの手下は馬から降りると、黒いローブを急いで身に着けると、待っていた二人の男達と三人がかりで荷台から子供達を倉庫内に移動させました。
後から次々に別の手下が乗った馬車が到着し、倉庫に子供達の死体がどんどん運ばれていきました。倉庫内は木造で薄暗く、壁につるされたランプの明かりが辺りを照らしているだけでした。
倉庫は倉庫と呼べるほど物が少なく、数隻の船が止まる波止場の倉庫にはそぐわない内装をしていました。
そこは部屋の中心に物がないため、大広間の様になっており、部屋の隅に甲冑や剣、動物の体の一部に怪しげな液体の入った壺に、数冊の分厚い本が乱雑に並んだ本棚と黒い布がかかった何かが置かれたテーブルがありました。
そしてその床一面に、血で綴られた巨大な魔法陣のようなものが描かれていました。グレイシアとエリオットは他の子供達と同様、冷たい床の上に乱暴に放り出されました。
二人は体を打ち付けて体の痛みを感じましたが、ぐっと堪えて我慢しました。エリオットは少し目を開けて周囲を観察しました。
彼は、目の前に居る黒いローブを着た男三人の内、小太りの手下は分厚い本を片手に何やら呪文を唱えており、残りの二人の男は奇妙な踊りを踊っているのを確認しました。グレイシアも目を少し開いて、床に描かれている魔法陣が紫色のまばゆい光を放っていることに気づくと、書かれている文字をまじまじと見つめました。
「血は赤から黒になるまで絶えず注ぐ、悪しき力を我が身に捧げよ」グレイシアは小太りの男がそう唱えているのを耳にしました。二人はこの場から一刻も早く抜け出さなければ手遅れになると思い、互いに目配せしました。
するとその瞬間呪文を唱えていたはずの小太りの男が急に絶叫しました。
「やめろ!!!!ああああああ乗っ取られるぅぅぅ!!嫌だああああああああああ」明らかに彼は様子がおかしく嗚咽交じりの奇声を上げ片手に持っていた本を手から滑らせて落としました。
彼はうずくまり、頭を何度も激しく床に打ちつけ始めました。
一方、踊りを踊っている二人の男達はそんな彼の様子など一切気にも留めずに踊り続けていました。
やがて彼らも動きがたどたどしくなり奇妙な呻き声を上げて仮面をはぎ取ると、目と鼻と口から血を溢れんばかりの血を流し、犬の様に四つん這いになって周囲を走り回りました。
グレイシアは困惑した表情でこの狂気的な光景を目の当たりにしていました。彼女と同じくらいの年齢の少女がこの光景を目にしたら、あまりの不気味さに泣き出してしまうでしょう。
その時、鋭い銃声が周囲に響き渡り、3人の男達は驚いたような声を上げてから、ずどんと鈍い音を立ててその場に倒れました。
グレイシアは驚いて辺りを見回すと、エリオットがいつの間にか銃を構えて立っていました。彼がこの怪しい手下の男3人を一瞬で仕留めたのです。
グレイシアは立ち上がり、床一面の魔法陣に目を落としました。先ほど紫色のまばゆい光を放っていたそれは、黒ずんだ血で描かれていました。
彼女は倒れている小太りの手下の方へ向かうと、彼の側に落ちていた分厚い本を手に取りました。本の背表紙は黒い光沢のある皮で出来ており、黒い山羊が彫られていました。
グレイシアは本を恐る恐る開きましたが、どのページをめくっても白紙でした。彼女は思わず眉をひそめると、その本を倒れている小太りの男の側に置きました。
その男の側には小さな鮮血のついたナイフが落ちていました。彼女は顔を上げて辺りを見回しました。彼女は隅にあるテーブルの上に黒い布で覆われた何かがあることに気づきました。
「何かしら、これ」彼女はテーブルの前まで行き、その布の掛けられた塊をまじまじと見つめながら呟きました。しかし、これ以上辺りを調べると逆に危ないことが起きる気がして、彼女はエリオットの方を見ました。
「気味が悪いな。早く出ようぜ」彼が早口にそう言ったので、彼女は頷くと彼の後ろについて行くことにしました。
エリオットは出入り口の扉を少し開けて、外の様子を伺いました。そしてこの扉のすぐ近くにジルフォード侯爵の手下二人が見張っていました。
エリオットはグレイシアを扉から離れるように指示し、狙いを定めて手下二人を撃ちました。鋭い銃声がこだまし、二人は声を上げながら鈍い音を立てて倒れました。
恐らく今の音が遠方に居た手下に気づかれたことを察したエリオットはすぐに彼女を横目見ました。
すると彼女はいつの間にエリオットのすぐ傍に立っており、思いがけないことを口にしました。
「足手まといになるのは嫌なの。エリオット、私は豪華客船に向かって走るから。その隙に逃げるのよ」グレイシアは彼に早口でそう言いました。「何言っている、お前」エリオットは緊迫した表情で言いました。
「時間がない。1…2…3、今よ」彼女はそう言うと勢いよく飛び出していきました。
エリオットは彼女の捨て身の行動に冷や汗をかきましたが、彼女が数字を数え始めた瞬間には次の行動に移っていました。倉庫を飛び出したグレイシアの目の前には3隻の貨物船が止まっており、その他にも豪華客船に招待された客の、何隻もの船が止まっていました。
そのすぐ側には貨物船の比にならないくらいにとても巨大な蒸気船の姿が見えました。その船は全体的に白を基調としており、構造としては1階から5階まであり、長さはおよそ全長40m、数百名もの人数が乗れそうな頑丈な造りに、デッキからの展望は見事なものだろうと感じさせました。
そして金色のユニコーンの顔の船首像が付いており船のあちこちには装飾が施されていました。
彼女は息をすることも忘れて全力で走りました。豪華客船の周りにはこの美しくて立派な船を一目見ようとサンダースノー波止場付近に住む人々や、付近に丁度居合わせた船乗り達が居ました。
そしてなんともう既に、船の搭乗口の前には列が出来ていました。沢山の荷物を抱える使用人と、豪華なドレスを身に纏い談笑する夫人達や、眩しく照り付ける日差しを疎ましそうにしているシルクハットを被った紳士達の優雅な姿が見えました。
グレイシアは搭乗口の辺りを一瞬ちらりと横目見ました。階段を登った先の搭乗口の下には赤い絨毯が敷かれており、ジルフォード侯爵の手下が招待状を確認するために立っておりましたから、彼女はもう一つの目立たない船員用の入り口から船に入ることにしました。
搭乗口の付近に居る彼女の姿に気づいた数名の手下達は、「あそこだ!」と大きな声で叫びました。彼女は一目散に船員用の入り口に向かって走り、船の中に入りました。
彼女は行く先も考えずにひたすら走りました。すると急に空気が煙たくなり、息がしづらくなりました。なんとそこは本来働くはずであった、複数のボイラー室と機関室の入り口がある通路でした。
彼女は走りながら通路の先に目を凝らすと、向こうからやって来る侯爵の手下の姿が見えました。グレイシアは後にも先にも進めなくなり、ボイラー室に逃げ込みました。
彼女の目には炎の燃え盛る大きな釜戸と一人の作業員の姿、複数の配管とレバー付きの複雑な装置が目に飛び込んできました。
彼女は近くに積まれていた石炭の入っている袋の山の中に、空の袋があることに気づき、その中に身を潜めました。
作業員の男は、煤だらけの薄い上着にズボンを履き、全身汗まみれになりながら働いていました。切羽詰まったような表情で黙々と作業を進める彼は、幸いにもグレイシアがここに来たことも、石炭の袋の中に入ったことにも気づいていない様でした。
そしてすぐに侯爵の手下の男1人がやって来ました。彼は大股歩きでニタニタと意地の悪そうな笑みを浮かべながら中に入って来ました。
「ここに隠れているんだろ?大人しく出て来い!!!」彼はそう怒鳴るとボイラー室の中だというのに、手当たり次第に辺りを撃ちまくりました。グレイシアは銃弾が自分の頭上をかすめたのに気づき、思わず身震いしてしまいました。
「袋の中だな」意地の悪そうな手下の男はそう言うと石炭の袋の山に目を向け、それを敢えて左から順番に打っていきました。
グレイシアは次々と等間隔に鳴り響く激しい銃声を耳にし、息苦しい袋の中で自分の死を覚悟し、涙が溢れそうになるのを堪えて目を固く閉じました。
遂に自分の真横で激しい銃声が響き、遂に自分の入っている袋が撃たれるとグレイシアは確信しました。「さようなら、エリオット」彼女は心の中でそう呟きました。
その瞬間、鋭い銃声が響き渡り、声を上げてどさっと何かが地面に勢いよく倒れる音がしました。グレイシアはまだ生きていることが信じられず、状況を整理したくても頭が追い付かず、硬直したままでした。
すると、勢いよく自分の入っていた石炭の袋が破かれました。彼女は恐る恐る目を少しだけ開けると、目の前に道化師の格好をした男がしゃがんでこちらをのぞき込んでいました。
グレイシアは侯爵の手下であるはずのその男に勢いよく担がれました。グレイシアは担がれながら、目を落とした先には、恰幅の良い道化師の姿をした侯爵の手下が胸を撃ち抜かれて倒れていました。
そしてもう一人長身の侯爵の手下がこちらに向かって来るのが見えたものですから、彼女はすぐに目を閉じて項垂れました。
「そいつが船に紛れ込んだガキか。お前が始末したのか?」やって来た長身の侯爵の手下の低い声が、彼女の耳にも聞こえてきました。
彼女を担いでいる手下の男は頷き、ボイラー室の扉の前まで行きました。
グレイシアは再び薄く目を開いて、扉のすぐ側で家畜につけるような黒い足枷と首輪をつけられ、麻縄で腕を固く縛られて怖気づいた表情をしている栗色の髪の自分達より幼い少年と少女の姿を一瞬目にしました。
彼らがはめている足枷には、球体の重りがついており、縛られている両腕は赤く痛々しく腫れていました。彼らは怯えと諦めの感情が混じったような虚ろな瞳をしていました。
しかし、グレイシアは彼らをなんとかしてあそこから助けたいと強く思いましたが、どうすることも出来ないと悟りました。
彼女は再び目を閉じると、何故か自分を担いで長い通路を歩いているこの手下の男に、身を任せることにしました。今の彼女にはただそうすることしか出来なかったからです。
しばらく黙って手下の男に担がれていると、徐々に煙たさが消えて呼吸がしやすくなっていきました。彼女は追手の気配が無くなった気がして、恐る恐る小さな声で尋ねました。
「貴方は私を助けてくれたんですか?」手下の男はしばらく黙っていましたが、やがて口を開きました。「ああ、そうだよ。グレイシア」馴染みのある声と自分の名前が聞こえた瞬間、グレイシアは心臓が飛び跳ねました。
「エリオットなの?その恰好は」彼女はすかさず聞きました。「侯爵の手下から身ぐるみ奪って着替えたんだ。元の服も中に着ている」エリオットは平然と言いました。
「そんな‥‥どうして」彼女はなるべく目立たないように小さな声で話していましたが、内心凄く動揺していました。色んな感情が一気に彼女に押し寄せてきたからです。
エリオットは、まるで予期せぬ出来事に遭遇したような態度をとる彼女をちらりと目にしてからこう言いました。「囮になろうとしたんだろうけどな」
そして、彼はこう付け加えました。「見くびるなよ。俺がお前を見捨てられると思うか?」グレイシアは彼の言葉にじんと胸が熱くなるのを感じました。
「本当にありがとう」彼女は安堵したように小さくそう呟き、エリオットは満足げに頷きました。
そんな彼ですが、グレイシアと同様に何処に何があるかなど全く把握しておりませんから、実は手当たり次第にこの長い廊下を歩いていました。
しかし、急に場違いな所に来てしまったことは彼にも分かりました。彼は恐らくこの豪華客船の華麗なる招待客をもてなす最初の顔、ロビーに来てしまったのです。
広々としたこの空間には、明らかにエリオットやグレイシアが一生働くだけは手に入らないような見事な調度品、宝石の散りばめられた大きなシャンデリアが天井に爛々と輝いておりました。
そこには、先ほど搭乗口の辺りでグレイシアが見かけた貴族達や荷物を抱えた使用人たちがぞろぞろと一人の紳士を囲むようにして立っており、近寄るだけでも恐れ多い雰囲気が漂っていました。
その紳士は大柄で背はさほど高くありませんでしたが、羽付きの黒いシルクハットを被り、宝石の散りばめられた、ワインレッド色の刺繍の入ったコートを着て、大粒の宝石のついたステッキを手にしていました。
そして彼は、はっきりとした顔立ちで、威厳のある雰囲気を放っていましたから、誰かに言われなくても彼こそが、この豪華客船の持ち主であるジルフォード侯爵であることが自然とこの場に居る誰にでも分かりました。
エリオットはこの華やかな空間の中心に居る彼が、前に街で彼を見かけた時の何倍も高貴な存在であるように思えましたが、昨日と今日で体験した恐ろしい出来事が脳裏をよぎり、彼をここから撃ち殺してやりたい気分になりました。
「クソ野郎が」彼はそう吐き捨てるように言いました。
するとそんな彼に向かって、水色のフリルが沢山ついたドレスを着たツインテールの女の子が突進してきました。
彼は苛立つ自分の感情に気を取られ、彼女を避けきれずそのままぶつかってしまいました。
「ごめんなさい」彼女は申し訳なさそうに謝ると、じっとエリオットの肩の辺りを見つめて言いました。「ねえ、貴方が担いでいるその人のお顔を見せてもらえないかしら」エリオットは思わず、まじまじとその子の顔を見ました。
彼はその子に見覚えがあったからです。それというのも、その子は昨日、ルビークロスの噴水広場で夫人と一緒にギャングに襲われかけていたところを助けた、ヒューバートン男爵の末娘でした。
エリオットは仕方なく担いでいたグレイシアを抱えなおすとその子の前に膝をつき、グレイシアの顔を見せました。
グレイシアが恐る恐る目を開くと、その女の子はまるで恋をするような瞳でグレイシアを見つめていました。グレイシアは自分へとじーっと向けられた視線に、体が思わず強張りました。
「やっぱり!街で私を助けてくれたギャングのお兄さんだ!」その子はグレイシアの顔を認識すると、ぱっと明るい表情を浮かべてそう言いました。
エリオットは彼女があまりに大きな声でそう言ったので、思わず周りを見回しました。
しかし、周囲に居る達はまだ侯爵の話に夢中になっており、こちらのことなど一切気に留めていない様でした。
「この者は侵入者です。危ないですので、関わるのはよしてくださいね」エリオットはその子になるべく柔らかい声で優しく言うと、グレイシアを担ぎなおしました。
しかし、その子は慌てた様子でこう言いました。「やだ!だってきっとその方は私に会いに来てくれたんだもの!ついて来て!」リボンのついたおさげをブンブンと振りながらそう言いました。
そして、エリオットの服の裾を引っ張り歩き出そうとしました。彼女はとても嬉しそうな笑顔を浮かべていました。「言い訳がないでしょう!!」しかし耳を裂くようなその力強い声が響き渡り、その女の子とエリオットはいつの間にか自分達の正面に立っている恐ろしい形相で立っている夫人を見つめました。
その夫人こそ先ほど広場で女の子と一緒に助けた、あのヒューバートン男爵夫人でした。夫人は自分の娘に説教をし始めましたが、その子は耳を塞ぎながら首を振っていました。
エリオットがさり気なくその場を去ろうとしたその時、恐らく執事と思われるアッシュグレーの髪をまとめ、口ひげに金縁の眼鏡をかけて燕尾服を着た男性が颯爽と現れて夫人に恭しくこう言いました。
「奥様、旦那様がお呼びです」夫人は慌てて先ほどまで居た場所に目をやると、大勢の貴族達とジルフォード侯爵が何事か?とこちらを凝視していました。
夫人は恥ずかしくて居ても立っても居られなくなり、すぐに執事にこう命じました。「ジェイス、この暴れる娘を部屋まで連れていきなさい。もう一度言うわ、ローラだけを連れて行って頂戴」彼女はそう言うとくるりと踵を返して、貴族達が集まっているジルフォード侯爵の居るロビーの中央辺りに戻っていきました。
エリオットはしばらく唖然としていましたが、執事のジェイスがお嬢様に跪いて尋ねました。
「ローラ様、いかがいたしましょう」彼はお嬢様の側に立っているエリオットの方をちらりと横目見ました。「ねえ、ジェイス。この人が担いでいるお方を部屋に連れて行っちゃだめ?昨日、街で怖い人達から助けてくれた王子様なの」お嬢様のローラは上目遣いで頼みました。
「そう言うことでしたら、歓迎しましょう」彼はにこやかにそう言って彼女にウインクすると、立ち上がりました。
執事のジェイスは怖い旦那様や奥様ではなく、自由奔放で可愛らしい小さなお嬢様の味方だったのです。
「ついて来て!」ローラはエリオットに向かって笑顔でそう言うと、ドレスの裾を掴みながら、ちょこちょこと歩き出しました。
ジェイスはローラの後を歩き始めると、振り向いてエリオットにこちらまで来るよう目配せしました。エリオットは他に行く当ても無かったので有難くついていくことにしました。
こうして彼らはロビーを抜けた先にある赤い絨毯の敷かれた長い廊下を歩いて行きました。エリオットは足が少し沈むくらいふかふかした絨毯の踏み心地に驚きました。
彼は今までこんなに上等な絨毯の上を歩いたことなど一度も無かったからです。彼は貧富の差をまざまざと感じました。
この廊下は来客用の部屋が並んでおり、招待された貴族達が頻繁に出入りする場所ですから、装飾のついたランプが薄いクリーム色の壁に等間隔につけられ、高級な雰囲気を醸し出していました。
ヒューバートン男爵夫人の娘のローラと、その執事のジェイスはある部屋の前で立ち止まりました。エリオットもそれと同時に立ち止まり、部屋の焦げ茶色のドアに飾られているネームプレートの文字を見ました。
確かにそこにはプライス家と書かれており、ヒューバートン男爵家一同が宿泊する部屋でした。
ジェイスはローラと何か言葉を交わした後、エリオットに軽く会釈して廊下を引き返していきました。ローラはエリオットの方を振り返るとこう言いました。
「今メアリーと話してくる!ちょっとそこで待っていて」ローラはドアを開けて中に部屋の中へ入っていきました。
エリオットはその様子を見届けると、辺りに誰も居ないことを確認してそっとグレイシアを抱えなおし、彼女を絨毯の上へゆっくりと下ろしました。
Merry Christmas
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