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DOOR ――道を開く者――  作者: うわの空
第二章 金の亡者
14/35

6

 良照君を見送った後、若者はわしの許可も得ず、キャラメルを開封した。わしが喰ったはずのそれは、一粒たりとも減ってはいなかった。


「中身が減ってない……?」

「あくまで幽霊は、『供えてくれた人の気持ち』を喰らうからね。逆に言うと、あんたらは供え物そのものは喰えない。つまり、実体はそのまま残るんだよ。――ということで」


 キャラメルを覆っている銀色の紙をぺりぺりと剥がしながら、若者はにやりと笑った。


実体のこりは俺のもん。ラッキー」

「……お前、それ、良照君に返してあげてくれないか。それを買うために、彼は全財産使ったんだ。きっと、明日の飯代にも困るはずだ。だからせめて……」

「は? それじゃ、ヨシテル君の気が晴れないだろ? 自分が供えた物を返されて、嬉しいかい?」


 ああ言えばこう言うとは、まさにこいつの事かもしれん。そう思いながらも、わしは若者の後を追った。若者は道行く人々をスムーズにに避けながら、わしの屋敷の方へと歩いていく。


「もう一度、わしの息子達に会うつもりか?」


 後ろからわしが尋ねると、若者が不意に足を止めた。住宅街だが人気のない、夜の路地。寿命の切れかかっている街灯は点滅しており、そのせいでなんとも不気味な雰囲気を醸し出していた。

 若者は「ここら辺でいいか」と呟くと、昼間のようなおどけた声を出してみせた。


「ぼくがまた、あのでかいお屋敷に行くと思ってたんですかあ? あなた様の息子さん達に怒られるって分かってるのに、わざわざ行っちゃうと思いますう? 行くわけないじゃないですかー!」


 楽しそうに笑いながら、若者は腕まくりをする。

 わしの方は、笑っている場合ではない。この若者に道を開いてもらわなければ、成仏もできないのだ。


「しかし、息子たちを説得しないと、通行料も払えな――」

「さてと。キリもいいし、そろそろ道を開きましょうかね。お仕事おしごとー」


 若者の言葉に、わしは目を見開いた。


「お前、道を開くって……」

「あんたの道だよ。決まってんだろ」


 呆然としているわしに、当然のように若者は答えた。


「いやでも、わし、金払ってないし……」

「もう貰ったよ、通行料は」


 いまさら何言ってるんだと言わんばかりの呆れ顔を、若者はこちらに向ける。わしの方はというと、どうなってるんだと言わんばかりの間抜けな顔をしていたと思う。

 若者は腕を組むと、目を細めた。


「言ったよね? 俺は、タダ働きが嫌いなんだよ。タダじゃ絶対に働かない」

「しかし……」

「――ま、一千万円じゃなかったけど」


 若者は腕を組むのをやめると、


「相応の価値があるものを、通行料として確かに頂いたから。……ね」


 自分の手の中にあるキャラメルの箱を振りながら、笑った。





「……相変わらず、貧相な扉だ」


 若者が開いてくれた道に飛び込んだわしは、目の前にある木製の扉を見ながらため息をついた。


「もう少しきらびやかにすることはできなかったのか? 学芸会のセットじゃあるまいし、手抜きにもほどがあるぞ。こんなデザインだから、入る気が失せるんだ。……わしの子供達もこんな情けない扉を見たら、成仏する気をなくすかもしれん」


 わしはそこで言葉を切ると、声をあげて笑った。白い空間の中に、自分の声だけが響く。

 この声はきっと、あの若者にももう聴こえてはいないだろう。


「幽霊を成仏させる、か。……ボランティアではなく、それを仕事としているのなら礼など言わんぞ。こっちだって、通行料は払ったからな。――だが」


 ドアノブレバーに手をかけると、わしは一人で微笑んだ。


「次に会った時は、美味い寿司を好きなだけ食わせてやる」


 ゆっくりと開く扉。ゆっくりと広がる景色。

 ――いつになるかは分からない。出来ないかもしれない。

 だがあえて、こう言ってやる。



「またいつか会おう。――じゃあな」



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