第6話 王女の執着と指名手配
王都の裏街、スラム街の奥にある古びた宿屋の一室。
健一は粗末な木のテーブルに肘をつき、セレナとリリアから届いたばかりの情報をじっと見つめていた。
薄暗いランプの光が、紙に書かれた文字を揺らめかせている。
そこには、衝撃的な内容が記されていた。
「王女エレノア生存……全国指名手配……対象:レオン・フォン・ローゼンベルク……」
セレナが、静かな声で説明を加えた。
「エレノア王女は毒殺未遂の事件後も生きておられました。しかも、彼女はレオン様を『自分の婚約者だった男を、誰にも渡したくない』という強い執着を抱いているようです。そのため、王国全土に指名手配状が出され、賞金もかけられています」
健一は紙を握りしめ、ゆっくりと息を吐いた。
「俺は何もしていないのに……」
声が、自然と低く震えた。
50代のおっさんの魂が、胸の奥で激しくざわついていた。
(この体がやった罪の後始末を、俺が全部背負わされるなんて……。理不尽すぎるだろ……)
リリアが心配そうに健一の顔を覗き込んだ。
「レオン様……大丈夫ですか?」
健一は紙をテーブルに置き、静かに拳を握った。
「大丈夫じゃない……けど、怒っているだけじゃ何も変わらない」
彼は立ち上がり、窓の外の暗い通りを見つめた。
王都の夜は静かだったが、遠くから時折、巡回する衛兵の足音が聞こえてくる。
自分は今、逃亡者だ。
しかも、王女本人から異常な執着を抱かれ、全国的に追われている。
「エレノア……お前は俺を、ただの所有物のように思ってるのか……」
健一は小さく呟いた。
最初は、ただ生き残ることだけを考えていた。
しかし、今は違う。
「俺は何もしていないのに、こんな目に遭わされている。だったら……俺は、自分のために戦う」
彼はセレナとリリアに向き直り、静かだが力強い声で言った。
「復讐のためじゃない。俺自身を守るための戦いだ。そして……お前たちのような、俺を信じてくれる人たちを守るための戦いにする」
セレナの瞳が、わずかに輝いた。
「レオン様……そのお言葉、胸に刻みます。私も、できる限りのことをします」
リリアも深く頷いた。
「私たちも、レオン様と共に歩みます。どうか……私たちを、頼ってください」
健一は二人の顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。
(一人じゃない……。この子たちが、俺の味方でいてくれる……)
理不尽な状況に怒りは残っていた。
しかし、その怒りは、ただの恨みではなく、「自分を守り、未来を切り開く」ための力に変わり始めていた。
「よし……まずは情報を集めよう。王女の動き、指名手配の範囲、公爵領の状況……
すべてを知った上で、次の一手を考える」
健一はテーブルに地図を広げ、三人で話し合いを始めた。
夜はまだ長い。
しかし、健一の心には、初めて明確な「目的」が生まれていた。
これは、復讐の物語ではない。
自分を守り、大切な仲間を守るための、静かな戦いの始まりだった。
王都の裏街の闇の中で、健一の決意は、静かに、しかし確かに燃え始めていた。
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