第3話 地下施設の支配者へ
地下施設の空気は、冷たく重かった。
石の壁に囲まれた部屋で、佐藤健一はまだ鎖に繋がれたままだった。
しかし、先ほどまでとは明らかに空気が変わっていた。
周囲にいる女性看守たちの視線が、まるで別人のように柔らかくなっていた。
「レオン様……大丈夫ですか?」
先ほどまで健一を厳しく扱っていた赤毛の看守長・リリアが、優しい声で尋ねてきた。
彼女の瞳には、さっきまでなかった忠誠の色が浮かんでいる。
健一は内心で驚きを隠せなかった。
(この力……「支配の刻印」……触れただけで、相手の心をこんなに動かせるなんて……)
彼は試しに、もう一人の看守の腕に軽く触れた。
その瞬間、その看守の表情が緩み、頰がわずかに赤らんだ。
「レオン様……何か、ご用でしょうか?」
声が、さっきまでとは全く違う、敬意と親しみに満ちたものに変わっていた。
健一は息を飲みながら、ゆっくりと理解を深めていった。
この能力は、触れた相手の心を強く揺さぶり、忠誠心や好意を急速に高めるものらしい。
性的なものではなく、純粋に「心を掴む」力だ。
「みんな……少し、鎖を緩めてくれないか?」
健一がそう言うと、看守たちはすぐに動いた。
リリアが自ら鍵を取り、健一の手首と足首の鎖を外してくれた。
「申し訳ありませんでした。レオン様をこんな扱いをして……」
彼女の声には、本気の後悔が込められていた。
健一は自由になった手首を軽く揉みながら、周囲を見回した。
(……これで、施設内で少しは動きやすくなったな)
しかし、喜びは長く続かなかった。
頭の中に、別の記憶が少しずつ流れ込んできた。
元レオンの記憶だ。
冷酷で女嫌いだった公爵令息レオンは、王女エレノアとの結婚を拒否し、彼女を毒殺しようとした。
その計画が露呈し、即座に階級剥奪。
献身の奴隷として地下施設に落とされた。
(……理不尽すぎるだろ……)
健一は内心で歯噛みした。
自分は何もしていない。
この体がやった罪の後始末を、突然押しつけられただけだ。
「レオン様、どうかされましたか?」
リリアが心配そうに顔を覗き込んでくる。
健一は慌てて表情を整えた。
「いや……少し、頭が痛いだけだ。気にしないでくれ」
彼は立ち上がり、施設内をゆっくりと歩き始めた。
看守たちは自然と彼の後ろをついてくる。
まるで、健一がこの施設の主であるかのように。
一人の管理官が近づいてきて、丁寧に頭を下げた。
「レオン様……もしよろしければ、施設の案内をさせていただきます。何かご要望がありましたら、何でもおっしゃってください」
健一は内心で驚きながらも、冷静に頷いた。
(この能力……本当にすごい……。搾精奴隷のはずが、施設内で影響力を持ち始めている……)
しかし、同時に強い不安も感じていた。
(この力は便利だが……人を心から動かすってことは、責任も伴うってことだ……
俺は、ただ生き残りたいだけなのに……)
元レオンの記憶が、さらに流れ込んでくる。
レオンは女嫌いで冷酷だった。
周囲の女性を道具のように扱い、利用していた。
健一は自分の胸に手を当て、静かに息を吐いた。
(俺は……レオンじゃない。佐藤健一だ。この力を使って、誰かを傷つけるような真似はしたくない……)
それでも、現実は厳しい。
この施設で生き残るためには、能力を使わざるを得ない。
そして、いつかこの理不尽な状況から脱出するためにも、味方を増やしていく必要があった。
健一はリリアに向かって、静かに言った。
「リリア……みんなに伝えてくれ。俺は、ここで無理に奉仕を強いるつもりはない。ただ……少し時間をくれ。自分の置かれた状況を、ちゃんと理解したい」
リリアは深く頭を下げた。
「わかりました。レオン様のおっしゃる通りにいたします」
その瞳には、すでに健一への強い忠誠の色が宿っていた。
地下施設の冷たい石室で、健一は静かに拳を握った。
(この世界は、俺にとって理不尽だ。でも……この力がある限り、俺は諦めない。少しずつ、道を切り開いていく……)
初めての逆転の夜は、まだ始まったばかりだった。
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