第1話 断罪の瞬間と魂の転生
冷たい石の床が、背中にべったりと張りついていた。
両手首と足首に食い込む鎖の重みは、まるでこの世界そのものを象徴しているかのようだった。
「……ここは……どこだ?」
佐藤健一は、ぼんやりと目を開けた。
視界が揺れる。
頭が重い。
心臓が、どくん、どくんと不規則に鳴っている。
さっきまで……そうだ、いつもの安アパートで、派遣のシフト明けにビールを飲んで、ソファで寝落ちしたはずだった。
胸が締めつけられるような痛みが走って……それから、暗闇。
なのに今、目の前には見知らぬ天井。
高い石造りのアーチ。
天井から吊るされた魔導灯が、淡い青白い光を落としている。
そして、周囲にいるのは——女ばかりだった。
豪奢なドレスをまとった貴族風の女性たち。
銀の鎧を着込んだ女騎士。
厳しい顔つきの女性看守たち。
皆、若い。
美しく、気品と強さを併せ持った女性たちだ。
その視線が、一斉に自分に向けられている。
好奇、嘲り、そしてどこか冷たい感情が混じった視線。
「レオン・フォン・ローゼンベルク公爵令息。貴様の罪は明白である」
壇上の玉座に座る、銀髪の美しい少女——王女エレノアが、冷たい声で告げた。
「王女たる私への毒殺未遂。国家反逆罪。死罪に値するが……この国では、男は貴重な資源。死など与えぬ。貴様は即刻、階級を剥奪され、献身の奴隷として地下施設に送られる」
……献身の奴隷?健一の頭の中で、言葉がぐるぐる回った。
毒殺? 献身の奴隷? レオン……誰だ?自分の体を見下ろす。
細い鎖で繋がれた手足。
白い貴族服が、ところどころ破れて肌を覗かせている。
筋肉質で、若々しい——明らかに自分のものではない体。
(俺……死んだのか? それで……この体に?)
記憶の断片が、洪水のように流れ込んでくる。
この体の元の持ち主——レオンは、女嫌いの冷酷な公爵令息。
王女との結婚を拒み、彼女を毒殺しようとした。
計画は露呈し、捕らえられた。
そして今、断罪の瞬間。
その直前で、元のレオンの魂は消え、代わりに佐藤健一の魂がこの肉体に宿った。
「ふざけるな……俺は何もしてねえぞ!」
思わず声が出た。
50代のおっさんの、掠れたような声が、美しい公爵令息の顔から出る。
周囲の女たちが、くすくすと笑う。
「ほら、聞いて。元公爵令息様が、情けない声を上げてるわ」
「献身の奴隷なんて、ぴったりじゃない? あんなに綺麗な顔して、毎日女性たちのために尽くすなんて……」
王女エレノアが、わずかに唇を歪めた。
「連れていけ。地下の献身施設へ。今日から、貴様の体は王国の女性たちのための資源だ」
女騎士たちが、鎖を引く。
健一の体は、無理やり立ち上がらされた。
足が震える。
心臓が、早鐘のように鳴っている。
(マジかよ……異世界転生? しかも即座に最下層? 理由もわからねえうちに、献身の奴隷だって?)
通路を進む。
石の階段を下りるたび、空気が重く、湿り気を帯びていく。
甘い、女の匂いが混じった空気。
地下施設の門が開いた。
そこは、薄暗い石室の連なり。
中央に大きな台がいくつも並び、鎖や拘束具が備えられている。
壁には、さまざまな道具が吊るされている。
そして、十数人の女性看守たちが、待ち構えていた。
皆、黒いタイトな制服。
胸元が大きく開き、豊満な胸が強調されている。
目が、強い意志と何かを求めるような光を帯びている。
「新しい献身の奴隷よ。元公爵令息様だって」
「ふふ……可愛い顔してる。今日はたっぷり尽くしてもらうわ」
看守の一人——赤毛の豊満な女が、近づいてきた。
彼女は健一の顎を掴み、顔を上げさせる。
「ほら、抵抗しないの。この世界では、男は女性たちのために尽くすのが運命なんだから」
健一の心臓が、どくん、と大きく跳ねた。
(やめろ……俺は女なんて……)
通路の奥へ連れていかれる間、健一は必死に状況を整理しようとした。
女性が圧倒的に多い世界。
男が極端に少ない世界。
そして、自分は「献身の奴隷」
として、女性たちのために尽くす立場に落とされた。
「ここは……地獄か……?」
健一は鎖の中で小さく呟いた。
女性1万人に対して、男性がたった1人。
この異常な世界で、彼の新たな人生が——最下層からの、理不尽な逆転劇が、今、始まろうとしていた。
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