CASE1-28 「上がった後、一緒に出かけません?」
オレンジ色に染まった夏空の下、ハルマイラの城下町はどこもかしこも、ガイリア王国三大祭のひとつである“ユウソウリ祭”を楽しみ満喫する人々の楽しげな声と、威勢のいいかけ声、そして太鼓や鉦の音で満ちていた。
大通りには至る所に明かりが灯り、まるで真昼のような明るさで行き交う人々を照らし出す。
三日間に渡って開催される大祭は、まだ始まったばかりだ――。
――そんな活気と喧騒に包まれた城下町の一角、『ダイサリィ・アームズ&アーマー』の中では、慌ただしく閉店作業が行われていた。
「イクサ先輩! 日報書き上がりました!」
「お、有難う。シーリカちゃん、お疲れ様」
ニコリと笑ったシーリカに、売上金の計算を終わらせたイクサは労いの言葉をかける。
と、彼女は、カウンターの椅子に腰を下ろすと、身を乗り出してイクサに尋ねた。
「――イクサ先輩。上がったら、何か予定あります?」
「え? あ、いや、別に予定は無いけど……」
突然のシーリカの問いに、イクサは目をパチクリさせながらも、頭を振る。
すると、イクサの答えに、シーリカは目を輝かせた。
「じゃあ! 上がった後、一緒に出かけません? ユウソウリ祭を見て回りましょうよ!」
「へ? ユウソウリ祭を……?」
イクサは、彼女の勢いにやや気圧されながら、鸚鵡返しに聞き返す。――そして、頭の隅で考える。
(……夜に、女の子とふたりで祭見物だと……? こ、これって……ひょっとして、で……デ、デートのお誘い……?)
おもむろに、彼の心臓が鼓動を早める。
――シーリカは、そんな彼の心中を知ってか知らずか、顔を上気させながら、更に捲し立てる。
「そうですよ、あと一時間くらいしたら、中央広場で“大篝火の儀”が始まりますし、美味しい屋台もたくさん出てますから、晩ご飯代わりになりますよ。あ――、それに!」
彼女のメガネがキラリと光る。
「例の……、『ボルディ・クワルテ』の特別公開も、ちょうど今日から始まってるじゃないですか! 折角だから、見に行きましょう!」
「ああ……アレね……」
イクサの脳裏に、金象眼の装飾が施され、鍔に蒼い魔晶石が嵌め込まれたエレメンタル・ダガーの姿が浮かぶ。――チクリとした胸の痛みと共に……。
「いやぁ……アレはいいよ……。第一、三日前にさんざん間近で見たし……で、でも、シーリカちゃんがどうしてもと言――」
「ああ――、確かに今日からだったわね、特別公開」
「……て、ま、マイスさん! ――お疲れ様です」
「お疲れ様でーす」
「ふたりともお疲れ様」
バックヤードのドアを開けてカウンターに入ってきたマイスが、ふたりに微笑みかけながら会話に加わる。
「あ! マイスさんもどうですか? 『ボルディ・クワルテ』の特別公開、皆で見に行きません?」
シーリカが日報を渡しながら、早速マイスを祭へと誘う。
(……あれ? ま、マイスさんも誘うのかい、シーリカちゃん……)
イクサは、彼女の行動に愕然とし、心の中でガックリと肩を落とした。
「え? 私も? ……そうねえ……どうしようかしら」
一方のマイスは、受け取った日報に素早く目を走らせながら、考え込む素振りをする。
「……でも、マイスさんも、修復の時にさんざん間近で見てたじゃないですか? それどころか、仕上がったボルディ・クワルテを持って、『試運転よー!』って言いながら、水刃顕現させまくって、楽しそうに遊……動作検証しまくってたじゃないですか……。今更、神殿で飾られてるボルディ・クワルテを見に行く事も無いんじゃ……?」
「あら、それとこれとは話が違うわよ」
マイスは、イクサの言葉に苦笑を浮かべながら、頭を振る。
「自分の手でお引き渡しした修理品が、お客様の所でイキイキと活用されているのを見る事って、とっても素敵な事よ。そう思わない?」
「ま……確かにそれは……そうですね……」
「――あ! それにね」
マイスはふと、ある事に気付いた顔で、パンと手を叩いた。
「ひとつ確かめなきゃならない事があったのを思い出したわ。――シーリカちゃんの言う通り、店を閉めたら、みんなで特別展示を見に行きましょう!」
「そうですね! ――じゃ、神殿に寄る前に、ラチカン通りの露店に寄って行きましょう! そこのオクトル焼きは、あたし調べで5つ星なんですよ~!」
「オクトル焼き! 私も好きなのー。甘辛いタレがかかった熱々のやつに齧り付いて……ああ、想像しただけでお腹が空いてきちゃった!」
女子ふたりは、ウットリとして、口の端から零れかけた涎を袖口で拭う。
そして、クルリとイクサの方を向くと、同時に叫んだ。
「「ユウソウリ祭へ、れっつごーッ!」」
【イラスト・トド様】




