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1話


「ここなら……ここならきっと大丈夫。多分ここが世界樹様のお告げ通りの場所……」


女は地面を手で掘り返し、腰に差していた木の棒を地面に埋め、抱えていた花瓶に刺さっている数枚の葉の生えた枝を棒に当たるようにし、土をかぶせる。すると、枝が徐々に薄く光始める。暖かな優しい光だ。女はその場で跪いて祈るように枝に手を合わせる。


「ここなら魔素が濃いし、世界樹様もここで静かに成長してくださるでしょう……世界樹様、人間のしたことをお許しください……そしてどうか、どうかもう一度多くの人々を幸せにしてください……」


女がそう祈ると、枝に数枚残っていた葉が揺れ始める。風が吹いていたわけではないのだが、ゆっくりと笑っているように感じた女は目をそっと閉じ優しい笑みを浮かべ祈り続ける。


「おい!ミラ!終わったか!?早くしろ!行き用の魔物避けが切れる!帰り用の魔物避けを使うぞ!」


「は、はい!今行きます!……それでは……世界樹様……」


女は枝に深く頭を下げると、立ち上がり声のした方向に走って向かう。女たちは無事森を抜けられたのかは、わからない。



1日目〜


目を開くとそこは鬱蒼とした森の中にいた。そして目線がかなり低くなっているのに気づいた。


『なんだ?俺は……横になっているのか?……』


俺は必死に体を起こそうとするが、力が入らない。いや、力の入れ方がわからない。それに自分は本当に横になっているのか?そもそも……俺は……


『俺はなんなんだ?……何も覚えていない…』


自分という存在は確かにわかるのだが自分が何者なのかが思い出せない。とりあえず考えることをやめ、周りの状況を把握しようと首を動かそうとするが動かないことに気づいた。仕方がないので、視野の中でもと視線を動かすと限界がなくそのまま後ろまで見とおすことができた。何も違和感なく自然に動く視線に驚く。


『待て待て待て!!!ど、どうなってんだ!?』


自分を落ち着かせるため、視野の中でできるだけ情報を手に入れる。記憶がない以上は目に映るものがすべてだ。

俺は自分の頭のてっぺんに視線を持って行き、そこから下、まあ体を見下ろす形か。


『は?……』


見下ろすと、小さな枝が地面に突き刺さっている。どうやら俺は木になっていた。いや、この低さだと苗木ってやつか?普通ならここでテンパるはずだろうが、俺は逆に冷静だった。いや、そもそもこの状況が自然と理解できた。


『そうか……俺は木になったのか……』


なんの木なんだ?いや、その前になぜ木なのに意思があるんだ?あ、実は木にも意思があったのか?

俺がそう考えていると、突然少ない葉が風に吹かれ揺れる。と、同時に女の声が微かに聞こえた。辺りを見渡すが声の主は見つからない。よく聞き取ろうとすると、それは声ではなく体に当たる風だと気がついた。


『ああ、私の分体よ。あなたは神によって選ばれた私を継ぐもの。そう、世界樹の子。そして運命によってあなたは意思を持つことができた。意思があるなあらあなたの可能性は無限大に広がる。そう、この世界を見守るだけしかできなかった私と違う。さあ、あなたは自由に生きなさい。その長い長い命を大切に。』


声はどこかで聞いたことがあるような声で、優しく包み込むような声だった。俺は何も言わず黙って声だけを聞いていた。疑問が多かったのに、なぜか何も言えなかった。まるで親に諭されているような感じか。それがなぜか懐かしく感じる。

声は続く


『あなたは何も知らないでしょう。ではあなたに私の記憶を分けてあげましょう。あなたの足元に埋まる杖の分のみですが。そして、私からの贈り物も。もしあなたが成長し、私の事を知りたくなったら世界中に散らばる私に触れなさい。その時に記憶をあげましょう。それじゃあね、私の愛しい子……』


声が聞こえなくなると同時に吹いていた風がやんだ。あまりにも静かで、どこか寂しさを感じるのはなぜだろう。俺は声の主を覚えてはいないが俺はあの声は自分の事を世界樹と名乗っていた。


『世界樹』 


樹とついているからには俺は世界樹の「挿し木」というわけか?まあ、いい。

それと世界樹は変な事を言っていたな……私と違う?理解できないな。俺は樹として生まれたのなら動けるわけないし、可能性とはなんだ?


世界樹の言っていたことを考え始めると、一向に何も解決せず逆に疑問が増えて行く。すると、俺の頭上にあった光を遮っていた木がざわざわと動き日の光が俺に当たると何だか体の奥が熱くなっていく。


『ああ……なんて気持ちがいいのだろうか……』


しばらく日の光の暖かさを感じていると、暖かさに隠れた謎の違和感に気付いた。頭の先から何かが流れてくるような感じだ。違和感に気付いた瞬間、流れてきていたものが理解できた。いや、理解したといった方が正しいか。

これがさっきの会話にあった『記憶』というやつか。目紛しく頭の中をかき乱す記憶が入ってくるが、嫌悪感や倦怠感などはなく、それより日の光が気持ちよくて仕方ない。しばらく日の光を堪能していると、記憶の読み込みが終わったのか、違和感は無くなった。それと同時に避けていた枝が元に戻り気持ちの良かった日の光を遮ってしまう。名残惜しいが、周りの木の枝を切り倒す事も出来ない。今の俺は何もできないので気持ちを切り替え先ほど入ってきた記憶を読み解く。


『これはすげぇ……』


記憶を思い返すように読み解いていると、今の俺の状況やこの世界の事などが理解できた。

とりあえず俺は世界樹の挿し木であり、世界樹の後継者という立場らしい。その親とも言える世界樹は人間いよって切り倒されたようだ。しかし、今の俺は世界樹ではなく世界樹になることができる立場のようだ。まあ、そう簡単に世界樹になれるものではないらしいし、世界樹は称号のようなものらしい。そして俺はトレントという魔物らしい。どうやら俺のいるこの森は『魔素の森』と呼ばれる魔力が濃い土地らしく植えられたばかりで幼い俺が自然と魔力を吸収してしまい魔物化してしまったようだ。ちなみにこの森には俺以外の魔物も存在しかなり強めの部類に入るらしい。しかし、魔物か……だから、あの声は『俺に可能性がある』と言っていたんだな。

それ以外の記憶は体の動かし方などの基礎から、この森の魔物や植物の名前、ポーションや解毒薬などの作り方に近くの国の名前などだった。


『とりあえず、ステータスを見てみるか』


記憶によるとこの世界ではステータスというもので自分自身を見つめることができるらしい。ステータスの表示の仕方は記憶にあるお陰かそれが当たり前のように使用できた。


『ステータスオープン』


名前 未定

部類 魔樹

種族 トレント

レベル1

HP 100

MP 100

スキル

 光合成

 魔力吸収

称号

 世界樹の後継者


おお……これは弱い類だな。まあ、仕方ないか。レベル1だし最初から高レベルでも意味はないだろう。とりあえずスキルを詳しく調べていく。


光合成

 光を浴びるとHPを回復する。体力の上限値を上げる。特殊な養分を作成する。

魔力吸収

 魔力を吸収しMPを回復する。多く吸収すると魔力の限界値を上げることができる。


うーん。これに関してはそこまでの世界樹の記憶がないな。世界樹はこのスキルを持っていなかったのか?それとも分けられた記憶にあるのかもしれないな。まあ、とりあえず試してみるか。

『光合成』をしたくとも、上には俺より成長している木々が枝を伸ばし光を遮っているので光を浴びることができない。ま、『魔力吸収』をして限界値を高めることを優先しよう。記憶によると魔力が枯渇すると最悪枯れてしまう可能性があるらしい。とりあえずできることからやるのがいいだろう。

それと、俺の成長は光合成でも魔力吸収でもできるらしい。まあ、魔力吸収でステータスは上げられてもレベルは上がらないらしい。


『魔素吸収』


スキルを発動すると、俺の数少ない葉が広がる。同時に何かが入ってくる感覚に襲われる。まるで呼吸をしているような感覚だ。そういえばさっきまで呼吸していなかったがしなくとも死なないのか?まあ、いいか。

しばらくはずっとこうしていくことにした。


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