プロローグ
闇を喰らう者たち
― 夜はログを残す ―
前作『夜を喰らう者たち』までのあらすじ
東京には、地図に載らない戦場がある。
戦争でも、テロでも、犯罪でもない。
警察には扱えない。
自衛隊を出せば、それ自体が事件になる。
政府が存在を認めれば、社会そのものが揺らぐ。
そんな「表に出せない脅威」に対処する組織のひとつが、民間軍事会社――PMCだった。
代表、九条ホオズキ。
決して大規模な企業ではない。
だが、元軍人、戦闘員、情報分析官、技術者など、それぞれ一癖も二癖もある人間が集まり、国家機関だけでは手を出せない案件を請け負ってきた。
副代表の榊原宗一郎。
御影紗夜、篠宮レイナ、久世冬馬、神代蓮司、真壁仁、一条寺アカネ。
そして、なぜか本部に居着いている猫――少佐。
彼らにとって、銃撃戦も、誘拐犯の拠点制圧も、危険地域での救出作戦も仕事の一部だった。
だが。
あの夜、ヤタガラスは初めて、
人間ではないもの
を相手にすることになった。
発端は、東京の地下ライブハウス《Vesper》。
若い女性の失踪が相次ぎ、その一部は異常な失血状態の遺体となって発見されていた。
首筋に残された二つの傷。
常識では説明できない量の失血。
監禁された女性たち。
地下施設に設置された採血設備。
そこでヤタガラスと警視庁の黒崎剛士が目にしたのは、怪談や伝承の存在でしかなかったはずのものだった。
吸血鬼。
銃弾を受けても動き続ける身体。
異常な再生力。
人間をはるかに上回る筋力と反射速度。
そして血液への執着。
ヤタガラスは交戦の中で、銀と紫外線が彼らに有効であることを突き止める。
さらに一体の吸血鬼を生け捕りにしたことで、それまで都市伝説として処理されてきた存在が、ついに「物証」となった。
しかし、それは始まりに過ぎなかった。
捕獲された吸血鬼は、彼らの社会において重要な個体だった。
その奪還のため、三十体を超える吸血鬼が動いた。
そしてその背後にいたのが、銀髪の女――
アウレリア・セレスティン。
多くの吸血鬼から「母」と呼ばれる存在だった。
調査が進むにつれ、人類が知ることになる事実はさらに深刻なものとなった。
吸血鬼は最近現れた怪物ではない。
何十年。
あるいは何百年という時間をかけ、人間社会の陰に潜伏していた。
政治。
経済。
企業。
歓楽街。
犯罪組織。
人間社会の隙間に根を張り、独自の血統と掟と派閥を形成しながら、「夜の秩序」を築いていたのである。
しかも彼らは一枚岩ではなかった。
人間を家畜とみなす者。
人間社会との共存を望む者。
古い掟を守ろうとする者。
すべてを壊そうとする者。
その内部にも、長い歴史を持つ対立が存在していた。
アウレリアは、その均衡を壊そうとした者のひとりだった。
一連の事件を通じ、政府、警察、防衛関係機関のごく一部は、ついに吸血鬼の実在を認めざるを得なくなる。
東京の地下には、さらに古い何かが眠っている。
「始祖級」と呼ばれる存在。
そして――《門》。
事件は終わった。
少なくとも、表面上は。
アウレリアの勢力は大きな損害を受け、生き残った吸血鬼たちは地下へ潜伏した。
行方不明者事件も減った。
夜の東京は再びネオンに満ち、人々は以前と変わらない生活へ戻っていった。
だが。
ヤタガラスだけは知っていた。
怪物を一度見つけたからといって、
怪物がいなくなるわけではない。
ただ、
見つからないようにするだけだ




