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004:チュートリアル ~キレちまった~

『──いい力だな、魔法少女。お前も私と同じ運命を辿るか?』


 その声は上空より響いてきた。

 さっきから技名といい上空が賑やかだね。


 っていや、そんなこと言ってる場合じゃないねこれ!?

 だってこの声って桜ちゃんと見たPVの最後の……。


「悪の首領ヘルエル……! なぁんでここで出てくるのかなぁ?」


 そう、この声はこの世界を脅かす悪の首領ヘルエルのそれだ。

 ボク同様星の輝く夜空を見上げるらっきーは、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

 うん、わかる、だってボクもこの先の展開予想してやべぇって思ってるもん。


 満天の星空に負けないどころかその光景を上書きするような光の粒子、その翼。

 純白に金の装飾をした、正義のヒーローかと言いたくなるような、騎士を想わせるその機体。


「新米ちゃん、覚えておくんだゾ。あれが悪の首領ヘルエルが操るギガントギア、その名をヘルギアだ。未だかつてあのヘルギアに傷一つつけられた者はいない……オラが時間を稼ぐから新米ちゃんは早く逃げるんダ!」

「逃げる? ボクこの街のことなにもわからない。案内して?」

「だぁ! んじゃいっちょやってみっか!?」

「うん、いっちょやってみっか!」


 思わぬラスボスとの遭遇にボクを逃がそうとするらっきーだったけど、まさかそんな選択肢取るわけないよね。

 秩序の女神さまも言ってたけど、ボクたちプレイヤー……この世界風に言うなら来訪者は何度だってやり直せる。

 けど、この世界の住人たるらっきーはそうじゃないんだ。

 だから本当ならボクが1人で足止めするべきなんだろうけど。


「それでらっきー、あれどうやって止めるの!?」

「その方法が確立されてたらオラたちは今頃ハッピーエンド迎えてるんだなぁ!」


 そう、こちとらまだ魔法少女歴15分もないド新米なんです。

 熟練らしきらっきーで対処法知らないのに時間稼ぎとかできないって。


 ボクがらっきーと立ち向かうと決めたって、やっぱりこんなチュートリアル? でラスボスは倒せないわけで。

 どうすっかなーととりあえずナイトたちを招集する。


 あれ、けどあの悪の首領全然攻撃してこないね?

 未だ悪の支配者よろしく上空から見下ろしてくるだけで……あ、今目が合った?


『……ほう、逃げないんだな』


 逃げる?

 もしかしてこれって逃走チュートリアルだったりするの?

 でもここで逃げたらお前がらっきーたちこの世界の住人になにするかわかんないだろ!


「ボクは魔法少女だからね!」


 まだ歴20分経ってないけど!


「そうさぁ。そしてお前が舐めプをかましてる間にオラたちの準備も整ったんだなぁ! そっちがギガントギアに乗るならこっちもギガントギアだ! ギガンドコール! さぁ、新米ちゃんもマジステを振って叫ぶんダ!」

「え? あ、ギガントコール! ……でいいの?」


 そういえばこれってチュートリアルだったね。

 らっきーに習ってマジステを誘導棒よろしく頭の上でくるくる回す。

 そっか、魔法少女として戦うなら魔法の次はあの巨大ロボット……ギガントギアの扱いになるんだね。

 いきなりラスボス来たから負けイベかと思った。


 マジステをくるくる回しているとキラキラエフェクトが渦を巻いて上空に昇っていく。

 そして満天の夜空の下花開くと、巨大な魔法陣を形成してそこからPVでも見た量産型のギガントギアがゆっくりと降りてきた。


 うぉぉ、でっけぇ!

 デカすぎんだろ……というのは置いといて。

 見ればらっきーのほうもギガントギアを召喚してる、あっちは全然量産型じゃない、なんかかっこいいデザインの多分専用機ってやつだ、いいなー。


 とか思って眺めてたららっきー搭乗しちゃったんだけど。

 え、これってどうやって搭乗するの!?

 らっきーは光に包まれて吸い込まれていったけど……あ、なんかボクの身体も光始めた。


 そして気付くとコックピット。

 いきなりSFぅ!


「新米ちゃん! コックピットの棒を握るんダ! 両足と両手で動いた通りにギガントギアも動いてくれるゾ!」

「そういう感じか……操縦というかスポーツって感じでちょっと好きかも」


 らっきーの説明で左右にある棒を握る。

 両足は始めから靴みたいなのに嵌まってるし、これでこのコックピットの中で動くように操縦できるってわけだ。


『鈍重の鎧に身を包んだところで、このヘルギアを突破できぬと何故わからない?』


 準備が整ったところで悪の首領が声をかけてきた。

 待たせちゃってすみませんね、へへ。


 ギガントギアの視界とリンクするように見えるヘルギアは言いながら両手を広げて光の粒子を槍のように左右で握った。


 片方の粒子の槍が強く発光する。


『挨拶だけのつもりだったが、いい機会だ。不滅の魔法少女が真実たるか、この一撃でもって確かめさせてもらうとしよう』

「……!? 新米ちゃん、避けるんダ!」


 ──え?


 疑問を挟む余地も、言葉を返す余地も、抵抗を残す余地もなにもない。


 視界が、白く染まる。


『ヘルギア・スピア』


 その声が果たして上空の機体から聞こえたのか、それとももっと上からだったのかもわからない。


 ボクの身体は衝撃に包まれた。



 〈チュートリアル達成〉



 満天の夜空を見上げるボクの視界にそんな文字が現れる。

 なにが達成だこりゃ、速攻すぎる負けイベントじゃねぇか。

 ボクギガントギア乗って10秒も経過してなかったんだけど?

 量産型じゃ例えチュートリアルでもラスボスに対抗できないってか?

 ケッ!


 そんなことを思いつつ頭を動かすと、らっきーの専用機とヘルギアが変わらずそこにいた。

 あっるぇ?

 来訪者の不滅ってその場でリスポーンですか?

 リス狩りわっしょいですかぁ?


『『『キャキャキャ……』』』

「え……ナイト?」


 微かな笑い声がしてそっちに視線をやる。

 なんてことだろう、ナイトたちが粒子になってサラサラと消滅していくところだった。

 10体のナイト全員が、ボクに笑いかけながら消えていく。


 あー……そういうことね。


『ダスト・プライド』


 ボクの、ううんナイトたちの声が上空から響いてくる。

 埃の矜持?

 ボクの身代わりで消滅するのが埃レベルなら、きっとボクは一生埃以下だね。


「新米ちゃん! よかった無事だったんだねぇ」


 らっきーの心配してくれる声が彼女の機体から聞こえてくる。

 ボクの乗ってたギガントギアは木っ端微塵に消し飛んだみたいだけど、ボクは今それどころじゃない。


「キレちまった」


 今はもう姿の見えないナイトたちの残した粒子を掌で撫でる。

 長い付き合いになると思ったのに、あっという間だったな。

 また魔法を使えば復活するんだろうか。


『……不滅、とは少し違うな。懐かしいやり方をするじゃないか、魔法少女。命を対価に命を守る、私の嫌いなやり方だ』

「うん、ボクもこの魔法大っ嫌い。だけどナイトたちにはまた会いたいからね、これからは死なないように戦わないと」

『……それがお前の不滅の形か? ははは、嫌いじゃない』


 平坦な笑い方をするねヘルエル。

 ボクはお前に好かれたって嬉しくないんだけど、それを言っても仕方ないので無視する。


『では新たなる不滅は確認できたと言えよう。今宵の挨拶はここまでだ。……あぁ、お前の名前を聞いておこうか?』


 名前?

 そんなの悪の首領に名乗りたくない……けど、ヘルギアは上空でボクが名乗るのを待っている。

 あーもう!

 ナイトもギガントギアも失ってこれ以上抗う術もないのに相手してられないよ。


「……こころ」


 悔しいけど今は力が足りない。

 だから不満をいっぱいに露わにして、ヘルギアを、その中にいるだろう悪の首領ヘルエルを睨みつけるように名乗った。


『では魔法少女こころ。お前とはまた会える気がする、そのときを楽しみにしていよう。さらばだ』


 粒子の翼を大きく吹かせて更に上空に昇るヘルギアを、ムスッとした眼光で見送る。

 次会いに来るならそのギガントギアを脱いでこい!

 それ現状強すぎだから!


 満天の夜空。

 そこに煌めく一筋の流星が去っていくのを見て、ボクのチュートリアルは今度こそ終わった。

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