011:診療所 ~淑女ポイント爆稼ぎ中~
「はい、お次の方どうぞー」
至って普通の花々が咲き誇る庭園の東屋にて。
相も変わらずブラックな魔法少女姿にてボクはNPC……この世界風に言うなら住人たちを相手にクエストを熟していた。
いや、クエストっていっていいのかわかんないけどね……?
幼い少女を連れてボクの対面に腰かけたのは母親らしき女性。
その人に目を向けながら、恐らく今回の患者だろう少女にも目を向けた。
両目を覆うように包帯を巻いている少女は当然前も見えていないのか、母親にしっかりと手を握られて不安そうにしていた。
失明?
ただの外傷ならボクでも治せるけど、これは師匠呼び出し案件かな?
と、覚えたばかりの回復魔法で思案する。
「聖女さま、黒の聖女さま。どうかこの子の火傷を治してくださいませんか? この火傷のせいでこの子は目が開かないのです……」
「あぁ、失明じゃなくて火傷による皮膚の癒着か。それならボクでも治せるかな。花も要らなそう……ところでボクは聖女じゃないからね?」
「この子の火傷を癒せるのですか!? あぁ流石は黒の聖女さま……!」
「……う、ん。そうだね、治せるには治せるね。聖女じゃないけどちゃちゃっと治しちゃいますね」
「感謝します聖女さま!」
この人も話聞かないね?
NPCだから決まった台詞しか話せない……っていうのはこのゲームだと当て嵌まらないし、もうこれ全部師匠のせいでしょ。
ボクはこの花に囲われた診療所を押し付けてきた師匠に心の中で文句を言いながら、少女を癒すためヒールナイトたちを呼び出した。
「よろしくね、みんな」
『『『キャキャキャ!』』』
笑いながら頷くように踊ったヒールナイトたち。
緑色の光が少女の両目を包み込んだ。
現状ボクが自力で治せるのは簡単な外傷までだ。
病とか欠損とか失明とかになると師匠の手助けだったり命の花の使用が必要になってくるんだけど、今回は火傷だけだからヒールナイトたちの集中回復でどうにかなった。
はらり、と。
治療が終わると同時に少女の両目を覆う包帯が地面に落ちる。
「……ママ、見えるよママ……! 綺麗なお花畑が見える! 黒の聖女さまも!」
「あぁ! よかった、本当に……! ありがとうございます黒の聖女さま! なんとお礼を言ったらよいか。ほら、お前もお礼を言うのよ」
「うん! ありがとう黒の聖女さま!」
視力を……というか視界を取り戻した少女が涙を流しながら母親に抱きつく。
うーん微笑ましい光景だね。
けど少女よお前もか……?
「う、うん、聖女じゃないけどまた見えるようになってよかったよ! でもボクは黒いかもしれないけど聖女じゃないからね?」
「「黒の聖女さま……!」」
「聞いて?」
キラキラした目で母娘がボクに拝みだした。
黒い魔法少女姿で回復魔法を使うから、黒の聖女。
そんな話がこの世界の住人たちの間で広まってもう3日。
この診療所を開いて、というか師匠に押し付けられてから途切れることのない患者たちは凄い勢いで噂を広めた。
この、今も拝む母娘の前で椅子の座るボク、の更に後ろで花畑の花びらが風に吹かれて背後を舞う。
この演出が聖女認定に大きく貢献しやがったのは言うまでもないと思ってる。
運営?
それとも師匠ですか?
この演出毎回の如く見せるのいい加減やめてください。
「はぁ……」
バイバーイ、と元気に手を振って帰っていく母娘を見送って、次の患者を呼ぶ前にボクは1人こっそりと溜息を吐いた。
視線の先の画面には貯まりに貯まった淑女ポイント。
〈保有淑女ポイント:6700〉
悪い魔女、通称黒魔女の討伐を1人で達成して得られるポイントが平均1000くらいらしいから、これはとんでもない額だ。
そもそも黒魔女討伐は討伐隊前提らしいし……。
気を逸らすようにシステムウィンドウをスライドさせる。
〈淑女ポイント交換ラインナップ〉
・ギガントギアカスタムパーツ
・ギガントギア専用機
・魔法進化の書
・ハウス購入権
・箱庭創造
エトセトラエトセトラ……。
現時点でも買えない項目がいくつもあるのヤバすぎだろ。
ギガントギア専用機とか現状でも夢のまた夢なんですが。
せめて量産型ギガントギアのカスタム項目をポチポチ見てみながらボクは貯まる一方の淑女ポイントの使い道を探す。
でも結局それを決める前にやらなくてはならないことがあって……。
「黒の聖女さま、おでの足治んないだか? これじゃ畑の世話もできねぇんだ」
「はいはい。これは欠損かぁ、なら命の花で回復力強化して……」
止まることのない様々な怪我を負った住人たちの治療。
同じ人間としか思えないこの世界の住人たち相手だからこそ確かなやりがいを感じながらも、ボクはボクがこの診療所で聖女と呼ばれながら彼らを癒す理由……それを作った師匠とのやり取りを思い出す。
それは3日前、この世界に来た初日の晩での提案だった──……。




