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29話 ミタマエヨ グシャノ ミャクドウ



 「終わったわ。天界に戻るために必要な魔素がある場所を『サーチ』して引っかかったのは5つ。その中で一番魔素が多いのは幸運にも近くにあるわ」


 神ウインリーはそう言って見つけた方角を指す。

 その先はこの部屋にいる調査班にはよく知った場所で、俺にとっても記憶の手がかりとなる場所だった。


 災厄の腐海『グラトニートラップ』


 かつては幻惑の砂海『トラップデスネスト』と呼ばれていた時期があり、足を踏み入れたモノを罠にかけ畳み掛けてくる難度S級エリアと認定された場所。

 この場所で300年前に勇者が死んだと思われる現象が起きた後、全世界に多大な損害を及ぼす衝撃波が発生した。

 各国は自国の復興と調査に乗り出し、爆心地とされるサンドローズ国北『トラップデスネスト』に進軍し言葉を失った。

 いくつもの毒沼が点在しており、そこから発生する毒霧で視界を暗く染め上げていたのだ。

 初めはただの霧だと思っていた。初めはヘドロが溜まった水たまりだと思っていた。

 霧を長く吸い込んだ者は苦しみだし身が剥がれだした。

 水を触った者はすぐさま意識を失い身が剥がれだした。

 変わり果てた姿はゾンビに酷似(こくじ)しており、されど知識はなくしておらず次々と仲間を増やしていった。

 異変に気づいた軍はすぐさま後退し、固く門を閉ざし迎撃体制を敷いたが、知識を持ったゾンビは壁の戦闘を避け散り散りに消えていった。


 月日が立ち、前回の反省を活かして毒耐性装備に身を包んだ第二陣が結成された。

 『魔眼』持ちの活躍もあって深くまで進軍することは出来たが、毒耐性装備を上回る濃さになったため撤退。その時奥から聞こえてくる音が“まるで何かを飲み込んでいるかのよう”だったため、『暴食(グラトニー)』と名付けられた。

 第二陣で使った毒耐性装備を上回る装備が作られておらず、それ以降の調査は横に広げていくこと、毒沼を浄化すること、ゾンビを討伐することの3項目となった。


 「俺は『魔眼』を使い『グラトニー』に向かって魔素が流れていくのを確認している。ただどこかに流れていくのはよくあることだから『サーチ』で言われるまで気にしていなかった。何かが溜めているのか……?」


 「そうなるとその何かによって勇者は死んだというのかい」


 「S級エリアには強大な魔物がいるとは聞くけど、『トラップデスネスト』はそのエリアの特徴と生息する魔物のコンボによってS級認定されたと聞く。実は統べるモノがいたの?」


 「勇者を殺せる魔物……それはもう魔王としか」


 ポンドゴーを初めとしボクス、チョチョコーネ、ビンベンと会話が続く。それを心の傷が癒えていない俺は黙って聞いていた。思ったより重症だったようで考えたことを口に出すのが重かった。


 「『サーチ』をしたときに変だなって感じたことがあるの。世界には地脈といって全ての生物に必要なエネルギーが流れている見えない川があるの。その地脈が濃く集まる場所があってほぼ全ての世界で強力な生物が生息する場所になってるわ。わたしが言った5つの場所がそれね。変だなってのはさっき指した場所なんだけど、“地脈に勇者の魂がくっついている”の。まるで食らいつくようにがっちりと」


 「それは、どういうことなんだ。それはつまり、そういうことなのか」

 「待てボクス!危険な考えだ!」

 「しかしそうとしか!」


 ボクスが何か確信したといった物言いで怒りを(あらわ)にする。ポンドゴーも同じ考えに至ったようだが他の可能性があるかもしれないと止めに入る。


 俺もここまで情報が揃ってるなら同じであろう考えに行き着く。生命エネルギーが流れる地脈に勇者の魂がくっついている。集まる魔素。神を天に戻せるほどの魔素溜まり。300年前の神の怒り事件。まるで罰のような毒。


 勇者は力を求め地脈を我が物にしようとしたが、それは禁忌だったため天罰|《神の怒り》が起き世界中が災害に見舞われた。爆心地となった場所は呪われ、神に逆らうとどうなるかを物語っていた。しかし勇者は魂になっても力に食らいつき、魔素をかき集め復活しようとしている、と起こったことに関してはこんなところか。


 もうこんな奴は勇者でなく力に溺れた邪悪、魔王そのものだ。許されるはずがない。

 こいつのワガママ(・・・・・・・・)でサンドローズ国の人たちがどれだけ苦しんでいるのか。


 「ちょっと待つでしゅ、勘違いしないで欲しいでしゅ。勇者はその存在を望んでいる世界にしか送れないルールになってるでしゅ。そしてタイミングよくゲートに来た者を姿形を変えて能力を付与して送るぐらいしかできないでしゅ。いいでしゅか?神は手を差し伸べたにすぎないんでしゅよ?」


 森の精霊コッキが慌てて神のフォローをする。


 これは元はと言えば神の怠慢と自己の利益のために起きた事ではないのかと、神そのものに不信感を抱くには充分な証言も出ていたから責任は神にあるよねと考えられる。もっと立派な正義の心を抱いた勇者を選定してくれていたら、こんなことにはならなかったのではないかと。そう、かつての伝説の勇者みたいな立派な方を。


 怒りの意図を察したコッキが“この世界が勇者を望んだから送っただけだぞ。感謝しろ。あ、送った者の性格とかはいじれんからそっちの好きにして。よろしくー。”と説明した流れだ。


 この精霊のフォロー力、結構苦労して得たものじゃないかな。


 これを言われると思い当たる節がある。伝説の勇者が優秀だったために栄えた国がいくつもあり、またその恩恵にあやかりたいと人々が望んでいた。


 甘い汁が甘すぎたのかもしれない。


 それに気づいた伝説の勇者は手を付けていた研究を途中で破棄したのかもしれない。

 以前ボクスが話してくれた勇者の話、“あるがままのほうが人生楽しい”には、今だと異世界の勇者は不要と言っているような捉え方もできなくもない。


 全部憶測だけども……一度調べてみるのもいいかもしれない。


 後出しの説明ではあったが、この部屋の誰もが伝説の勇者の恩恵を理解できているため、過去の人達が次の勇者を求める気持ちもまた理解できた。


 「自分たちが行動せず外に求めすぎたのが原因ということなのか……」

 「それを皮肉って“神の怒り”だとでもいうのか」

 「なんて愚かな……」

 「気付けるかよこんなの」


 先人の(あやま)ちを理解し神に対して不信を抱いてしまったことを詫びる。

 その直後建物を揺らす真っ赤な大爆発が起きた。


 「きゃあ!な、何?なんの揺れ?」

 「これは!ビスマルショットからの合図だ!もう時間がないってことだろう!」


 2班班長のビスマルショットは部下と共にこの施設に近づく者を制止していた。しかしビスマルショットを持ってしても抑えることが出来ない人物が出てきたのだろう。それは武力なのか権力なのか両方なのか分からないが、最後の抵抗としてスキル『猛虎』を使い時間稼ぎに入ったと考えられる。


 「神ウインリー様、もしその勇者の魂がなくなればこの地は元の姿に戻りますか?」

 「それは、恐らく……」


 ポンドゴーは決心がついたといった顔になり仲間に目線を送る。構わないな、異議があるなら今言えよと言っているかのようだ。それぞれがコクリと(うなず)き返す。

 最後に俺のほうを向き1班の想いを委ねてきた。


 「トキ君、私達はね、最高の仲間を集いどうしても『グラトニートラップ』を攻略したかったんだ。300年経ち、誰かがやらなければこれから先もずっと毒に怯えなくてはならない。調査し、原因を突き止め、攻略し元の砂海に戻したかったんだ。共に歩んだ仲間がゾンビになる姿を見たくはないんだ。そんな時に君を見つけた。運命だと思ったんだ。毒耐性を持つ君を鍛えることによって完全な攻略が出来ると、君の気持ちも考えずにボクスに頼んで今の君の状態になるように仕組んでしまった。最低な男だと(ののし)ってくれて構わない。しかし、しかしだ!どうか子供たちの未来のために力を貸してくれないだろうか……ッ」


 (こぼ)れる涙がポンドゴーの内面を語る。


 「何言ってるんですか、俺は命を拾ってもらった。優しくしてくれた。最初っから1班の人たちに恩を返したいと言ってるじゃないですか。俺やりますよ!やる気でいっぱいですよ!使ってください!!!」


 貰い泣きだろうか。涙を拭いながら答えた声はちゃんと届いただろうか。恩を返したいと思っていた人たちに頼られるのがこんなにも嬉しいとは。胸がアツい、体がアツい、今ならなんでも出来そうな根拠のない自信で溢れている。


 「そうか!そうか!ありがとう……ッ本当にありがとう……!」


 皆が感謝の言葉を掛けてくる。感謝したいのはこっちも同じだ。


 「なんか感動するんですけどぉ~」と神ウインリーもなぜか泣き出す始末。感情に素直なのかもしれない。


 「しかしだ、今の君を『グラトニートラップ』に連れて行っても殺されるだけだ。何もかも準備が足らない。私達はここで大人としてのけじめを付けなくてはならない。君と神ウインリー様と森の精霊コッキー様でこの国を抜け出し南のS級エリア“竜神の古戦場『クリスタルロマン』”にある街で『グラトニートラップ』を攻略する準備をしてほしい。

 大変な旅になってしまうがやってくれるか?」


 一旦ここを逃げて準備を整えてくれと言う。このまま全員で『グラトニートラップ』に行ったとしても中心部に行けるのは俺一人だけとなる。自分の身も守れない弱いやつが行っても殺されるだけだ。

 では一緒に南に逃げた場合はどうなる。お尋ね者の状態では身動きが取れず『グラトニートラップ』を攻略することは不可能に近くなる。

 身が割れてない今だからこそ3人で動けるということか。

 南に向かい、仲間の毒耐性装備を用意すること。自分を鍛えること。神を守ること。できれば賛同してくれる仲間を増やすこと。この4つが俺の使命だろう。


 「必ず戻ってきます!」


 皆が一つに集まり握手をし、肩を抱き、期待と別れを共有する。


 「私達1班はこれから極秘任務に入る!作戦名は


御霊(みたま)()よ】だ!」





読んでいただきありがとうございます。


ついにタイトル回収です。


愚かな者たちを見てほしいのと御霊の回収をかけ合わせてみました。

もう死んでもいい。


アニメでてさぐれ!部活ものというのがあるのですがそれのオープニングをイメージして

タイトルがドーンと出てきました。


歌詞抜粋


さあカメラが下からグイッとパンしてタイトルロゴがドーン!


次で第1部完結となります。


では次話で。

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