30話 南へ。 I look forward to seeing my family again
俺たちは極秘任務をやり遂げることを使命とし心を一つにした。
円陣を組み、手を前に出し【御霊を得よ】と作戦名を叫んだ。
皆真剣な眼差しだった。
ポンドゴー、若くして才能を認められ調査班のトップに立ち戦線の拡大に大きく貢献している。ゆくゆくは王直下の重要なポジションに就いただろう。いつも優しそうな顔立ちが唇を力強く閉ざし未来を見つめる。
ボクス、サポーター(荷物持ち)という一見頼りなさそうな戦闘ポジションだが、個としての能力が高く気配を消し素早く動くまるで忍者のような存在だ。その上誰よりも仲間思いで人にやさしく、給料のほとんどを孤児院へ寄付していると聞いたときには、身にまとう大きく肥大した筋肉が小さく見えるぐらいの心の大きさが見えた。
俺は記憶がないからもしこの人が父だったら胸を張って自慢できるなと思った。そんな彼が俺を心配してそうな目を向けている。
チョチョコーネ、エルフで美人な森信仰のお姉さん。ここで目覚めて初めて目にした人。優しく接してくれた行動は親から子にするそれだっただろうけど、たぶん一目惚れだった俺は気が気ではなかった。いつもは言葉数が少ないけど興奮するとかわいい反応をしたのが意外だったが、森信仰をしてみて少し分かった。自然に近づくと普段はゆったりしているから性格に影響するのかもしれない。いたずら好きな彼女の緑の瞳が決心した目をしている。
ビンベン、書紀的なポジションの人だと思う。初めの頃にトイレで会って以来今日で2度目の再会だ。細い印象だけど壁に出してる時の勢いは力強かった。この人からさっと風が吹いてくる時があるから風を使って何かをしてるんだろう。焦ってるような緊張した顔をしている。
神ウインリーと森の精霊コッキ、ってなんでここに神様が?って思ったけどこれから共に作戦を成し遂げる仲間になったのだから当然か。しかしこの短い間でしか付き合いがないのによく輪に入ってこれたな。昔から居ましたが何か?という雰囲気を出しながらやってやろうぜ兄弟って顔をしてる。この神様のメンタルどうなってんだ。
円陣を解き最低限旅に必要な物をかき集めて再度集合という流れになった。
俺はシーツを風呂敷にするため剥がし皆が持ってくる物を詰めていくよう言われた。
ポンドゴーは保存食などを取りに、ボクスは2班班長ビスマルショットの元に行って時間稼ぎに、ビンベンは薬草採取依頼書を作りに部屋から急いで出ていった。
チョチョコーネは神ウインリーと森の精霊コッキを連れて着替えを取りに最後に出て行くのだが、去り際に「まだ少ないけど魔素を吸収していって」と言って綺麗な指を口に突っ込んできた。
その行動に驚いたが意図を理解し遠慮なく吸わせてもらった。
それは会議室で味わったものと同じとても甘い汁で、全身に染み渡り隙間が満たされていくような、溜まっていくような、体に必要なものだと分からせてくれる味だった。
ただ、これが別れの挨拶のようにも受け取れてしまい、溜まったものが逆流してくる塩っ辛い味も一緒に味わった。
「~~~~~ッ~~~~~!」
彼女は一言も声に出さず悶耐えた後困ったような優しい顔を見せて部屋から出ていった。
「……」
あまりにも印象的な表情に声をかけることが出来ず、ほんの少しの間、開いてる扉を見つめていた。
……
…
バタバタと走る音が聞こえる。準備を整えた俺の元にポンドゴーと神ウインリーが森の精霊コッキを抱きながら走ってきた。
俺たちは誰か分からないようにフード付きマントを着て身を隠し、ここを脱出する。
関所は薬草採取依頼を見せて突破する予定だ。
大丈夫だろう、大丈夫だ、いける。絶対やり遂げる。
「あれ?チョチョコーネさんは?」
神と一緒に戻ってくると思ったがいなかったため質問した。
「チョチョコーネは、重要な作戦を行っている。ここにはこれない」
「そ、そうよ。作戦よ」
「それよりも急いだほうがいい。今ならまだ逃げれる」
「こっちだ!急げ!」
やはり魔素を貰ったときに声をかけるべきだった。
最後に会いたかったが時間がない。
急ごう、皆が作ってくれた逃げ道を台無しにするわけには行かない。
しかしここからどうやって逃げればいいんだ。
周りは塀で囲まれ唯一の出入り口はビスマルショットとボクスが抑えている。のこのこ出ていったら捕まってしまう。
考えながら誘導地へと向かうとそこは手押しポンプ式井戸のある裏庭だった。
戻ってきてから結局一度も会うことがなかった。
貰った寄せ書きの礼と仕事を一緒にできなくなったことを詫びたかった。
ごめんな先輩たち。絶対に戻ってくるから……だから、だから俺を忘れないでくれ。
こんなことになってしまって本当にごめんな。
思いの丈を叫びたかった。肺の中で出たり入ったり繰り返す叫びの津波は膨れていくばかりだ。
「塀を魔法で飛び越える。着地したら離すから後ろを振り返らず走れ。未来を託す。頼んだぞ対魔防1班トキ・ワタリ」
「――はいッ」
ポンドゴーは腰に手を回しギュッと力強く抱き寄せ「やれ」と合図を送る。
「了解!『アッパーエアー』」
ビンベンが風魔法『アッパーエアー』を唱えると俺達の下から風が爆発したように吹き上げ塀の向こう側へと運ぶ。
「「~~~~~~~ッ!!!」」
浮遊感と迫る地面が恐ろしく叫びたくなったが、なんとか声に出すことなく塀を飛び越え、着地前にまた下から小さな風が吹き上がり衝撃を軽減させ着地する。
しかし自分を含めて3人分の体重が足にかかったのだろう。「ぐッ」と声を漏らす音が聞こえたがすぐに手を離した。
これでお別れか。そう思って前に走ろうとしたとき2つの人影が俺たちを囲む。
「私だ!命令を言い渡す!お前たちはこの二人を南門まで先導しろ!」
「っ!?了解しました!」
どうやら2班のメンバーらしい。詳細を聞かずに南門まで案内してくれることになった。
これで本当にお別れだ。
後ろは振り向かない。ただ一度だけ腕を上げグッと握りしめた。
さようなら俺の家族。また会える日まで。
✕ ✕ ✕
サンドローズ国に光の線が刺さった。その噂は瞬く間に広がり世界を駆け巡る。
事実確認のため、各国は使者を出し情報を集める。
根も葉もない噂を吟遊詩人は歌う。伝説と罰を。
惑えよ騙されよ宴は始まったばかり。
騒げよ踊れよ気にするな。
宴にこれない馬鹿は放っておけ。
世界が騒がしい中、薬草採取に出ていった者が戻らないことに誰も関心を示さなかった。
読んでいただきありがとうございます。
これにて1部完結となります。
連日投稿出来たのはひとえに皆様の応援のおかげです。
本当にありがとうございました。
引き続きご贔屓のほど宜しくお願い致します。
では次話もよろしくお願いいたします。





