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死への受け入れ

 男の名は斎藤直幸、20歳の大学生だ。彼女はいないが、友人は何人かいる平凡な学生だ。

 顔は整っている方なのか分からないが、とにかく普通の顔に天然パーマですこし癖ッ毛のある男だ。身長は男子大学生平均並みの身長に体重も平均並みだ。個性は少し他の学生より強い、が流されやすいタイプだ。


「今日は家に帰ったらゲームでもするかぁ」


 男は大学での講義が終わり、すぐに帰ろうとしていた。


「よ!直幸。なに急いでと帰ろうとしてんだ?」


 友人の南雄二だ。顔は整っていて身長はまぁ普通並みの俺と並ぶくらいの大きさで、性格は明るく、優しいが、少し天然で、俺のような奴からしたら完璧な人間だ。友達も多く、彼女は居ないが完全リア充だ。

 そして小学校からの同期でもある。


「最近ハマってるゲームがあんだよ。楽しみで仕方ねぇから急いでんだ」

「はははは相変わらずお前はゲーム好きだな!ゲームしすぎっと頭悪くなんぞ~」

「まったくどこの迷信なんだよ。お前もよくやってんだろ」

「一般迷信だよ。まぁ俺もゲームは好きさ」


 そんな何気ない、会話をしながら帰り道を二人で歩いていた。


「あやっべ、あの本の貸し出し期限、今日までだった。はやく返しに行かないとな」

「ん?待ってようか?」

「いやすぐ追いつくから先に行ってていいよ」


 雄二は帰り道の途中にふと図書館で本を一冊借りていた事を思い出し、図書館に向かおうとした。  

 そんな時、一台の車が暴走し歩道に乗り上げ、直幸たちの方へ突っ込んできた。


「あぶない!」


ガシャァァァァン!!!!


 咄嗟の事だった。俺は雄二を突き飛ばして庇う。

 直幸は避けきれず車に跳ねられてしまった。


 とても痛い。

 とても痛いがどういう訳か、一瞬でその痛みも引いていき、意識も遠のいていく。

 俺は少しの疑問を覚えた。

 人の死は体験したことが無い。それは誰だって同じことだ。

 だが自分の死はこんなに感情は薄く、死に無頓着なのか、何も思わなかった。

 それは誰も同じことなのだろうか。


「直幸!おいしっかりしろ!返事をしろ!目を覚ませ!おい!」


 雄二の声も段々遠くなっていく。俺はすでに死を受け入れているのだろうか。

死ぬときは簡単に死ぬ人間は弱い生物だなと考えながら気を失った。   


--------------------------------------------------------


 意識が飛んだ。

 とても不思議な感覚だ。

 自分は死んだことすら分からない。とても曖昧な意識で彷徨っている。

 魂が天に昇ろうとしている。その感覚は理解が出来る。

 だがそれは俺の肉体が俺自身の魂を手放したくないと、そんな感じで、手で握りしめている感覚を感じた。

 そして今いる環境。それは今までに居た世界に居た感覚は無く、もはや別世界に存在している気がした。


「ここはどこだ?俺は死んだんじゃなかったのか?」


 目覚めると、西洋風なレンガ造りの建物が並んだ街中に立っていた。

 街には亜人や獣人、人間、エルフなどもいた。


 間違いない。ここは異世界だ。

 俺は本来の世界で死んで転生したんだ。      


 俺は異世界にきたのはいいものの体に異変がないかすぐに確かめた。なんせ車に跳ねられて死んだんだからな。内臓、もしくは骨の一つは折れているはず。

 表面上だけだが体に異常は見つからなかった。痛みもなかった。

 それと俺がなぜ転生したのか、誰が召喚したのか分からない。それらしき人物も見当たらなかった。

 転生したのはいいが、お約束のズバ抜けた能力などは付与されているのか若干ワクワクしていた。

 だが一番大切なのは言葉が通じるのかが問題だ。なので街を探索してみることにした。

 初めに街で展開していた出店の店員に話しかけた。


「こんにちは」

「いらっしゃい!」


 どうやら言葉は通じる用だ。

 俺は店に出してあった商品の玉ねぎに指を差して質問をした。


「店員さん。この商品の名前とお値段はおいくらですか?」

「これは玉ねぎだ。値段は銅貨1枚だ。」


 玉ねぎと銅貨1枚…概念は元の世界と同じだが聞いたことのない通貨に、見たことのない看板の文字、正直、若干戸惑っている…。   

 玉ねぎが日本の相場と変わらないのなら銅貨1枚は大体日本円で言うと100円くらいの価値かな?


「兄ちゃんこれ買うのかい?」

「すまないが、俺は今別の国の金しかもっていない。」

「んだよ、金持ってねぇのかよ。金の持ってねぇ奴に興味はねぇ。冷やかしは去りな!」


 なんと態度の悪い店員だ。日本のバイトでさえこんな態度は取らねぇだろ。たぶん・・・

 まぁ金を持ってねぇ俺が悪いのは事実だし、別の場所を探索するか。


「ちょっと待ちな、せめてもの慈悲だ。今回だけだぞ」


 そういって店の店員は店に並べてあったリンゴを一つ俺にくれた。


「え、良いんですか?」

「おう、金が無いんだろう?そこらでのたれ死なれても後味が悪いしな。

お代はあんたが溜まったらまたここらで買い物をして行ってくれや」

「ありがとうございます!」

「出世払いだ。だれが出世するか分からねぇからな。出世したら宣伝しといてくれや」




 さてどこへ行こう。別の場所ったって看板の文字は読めないわ、ここがどこか分からないし…。

 直幸はリンゴをかじりながら、今後の事を悩んでいた。

 それにしてもこのリンゴ美味いな。


 ゲームならマップがあるからある程度はわかるがここは異世界ではあるが現実味が溢れているというか現実でもあるわけで、デジタルなマップなんかないから実際詰みである。


 何も考えずに周りふらふらと歩いていると、目についたのは一つのサーカス団だった。

 サーカス団の一人の男が見せたのは火の魔法だった。

 その一人の男は杖を持ち、杖を天に掲げ火の玉を打ち上げ、花火のように爆発させた。


 さすが異世界!

 魔法なんて当たり前に存在しているんだな。

 もしかして俺も魔法を使えるようになっていたり?!


「ふん!」


 念じてみるが何も出なかった。

 ちょっとは期待したよ?なんせかの有名な異世界転生だぜ?!ちょっとは期待するでしょ!


 直幸は周りから白い目で見られているのに気づき少し恥ずかしくなり、その場を離れた。


「くそ!金がねぇ!」


 直幸はレンガ造りの建物に頭をぶつけながら言った。


「金はないわ、目的もないわ、住む場所もないわでちょっとした浮浪者だぜこりゃぁ」


 すると、


「きゃぁぁぁぁぁ!魔物がッ!魔物が街に攻め込んできたわ!みんな逃げて!」


 大きな悲鳴が街中で響き渡った。悲鳴が上がった方向を見てみると長く鋭い爪をもった3匹のトカゲ型の魔物、つまりリーザドマンに近い魔物が街の住人を無差別に殺し始めていた。    

 その魔物は胸辺りに見られただけで呪われそうな目が複数存在し、ぎょろぎょろとあらゆる方向を向き、とにかく気色の悪い魔物だ。        

 住人たちは魔物たちから逃げるが、魔物はお構いなく虐殺を続け殺した挙句、住民の首を切って3匹揃って貪り食っていた。


「なんだあれはッ!あんな気色の悪い生物は見たことが無いぞ?    

 怖い、見られるだけで怖い!殺される!逃げなきゃ!俺も逃げなきゃ!」


 住人が逃げている間に小さな人の女の子が人の流れについていけず転んでしまった。


「ニンゲンノコドモ?ウマイ!コロセ!オイシイ!ハハハハハ!メガイチバン!オイシタベタイ!」


 めちゃくちゃな文で話している。その話し方には狂気を感じるものがあった。

 女の子が転んだその光景を見た魔物たちは、転んだ女の子を見て一斉に襲いかかり始めた。


「やめろぉ!!!!!!」


 バキィ!!!


 恐怖など消えた。直幸は目の前の光景を見て反射的に近くにあった木材を持って1匹の魔物を後ろから殴った。なぜ力も何もなく恐怖していたのに飛び出したのか分からない。

 1匹の魔物は倒したが、殴った衝撃で木材は折れてしまった。

 どうやら殺傷力は高いが、思ったより衝撃には弱いらしい。だがその分動きがとても速い。

 後の2匹は俺の存在に気づき、すぐに鋭い爪で攻撃してきた。1匹の魔物の攻撃はかろうじて避けることができたが、もう一匹の攻撃は避けきれず、肩に傷を負ってしまった。


 出血もひどく痛い。だが今は耐えるしかない。   


 直幸は魔物2匹の注目を集めながら、逃げた。

 魔物はお構いなく俺を追いかけてくる。どうにか逃げながら、奴らを倒す方法を練らなくてはッ!


 そのまま街で逃げ回りながら、狭い裏路地に入った。魔物は俺を追いかけてくる。裏路地で逃げ回っていると、行き止まりにあい、魔物たちに追い詰められてしまった。

 だが諦めずに直幸は後ろにある壁を思いっきり蹴り、助走をつけて向かってくる魔物の腹部に1発、拳をたたきつけた。

 1匹は仕留められた。

 だがもう一匹はピンピンしている。

 その一匹の魔物は仲間がやられた事に対して怒り、飛び掛かり、爪で俺の腹部を裂いた。  


「がはぁッ!」


 直幸は倒れてしまった。

 自分がなぜこの世界に飛ばされたのか分からないまま死んでしまうのか。そう考えると少し辛く感じてしまった。   


 鎧を着た赤い長髪の女性が立っているのが見えた。

 その女性はおもむろに腰に下げた剣を抜いた。   


 女は剣で魔物を斬った。

 斬った魔物の斬り口は凍っていた。


「すげぇ……」


 意識が飛びそうな状態で幻覚を見ているのだと俺は考えていた。

 それに彼女の剣からはとてつもない冷気が発生していた。

 ものすごい幻を見た後に直幸は気を失った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 

 目が覚めるとそこは見知らぬベッドの上で横になっていた。


「目が覚めましたか?」


 修道服を着た女性が俺に話しかけていた。


「ここは?・・・」

「ここは教会内の治療室です」

「あなたは?」

「私はこのイーストレオグランデの教会のしがないシスターのアリアです」

「・・・俺はなぜここに?」

「先ほどの騒動で大怪我をしていたあなたは、マリアナ様が担いでここまで運んでくださいました。運ばれたときは私も驚きました。なんせあの出血量はいつ死んでもおかしくありませんでしたし、マリアナ様があなたの傷口を凍らせて止血していなかったら死んでいましたよ?!」

「マリアナとは赤い長髪の女性のことか?」

「ええそうですが、それがどうかしましたか?マリアナ様はこの国の貴族の一人であり、氷の騎士姫と呼ばれる聖騎士のお方ですよ」


 あの剣裁きや魔法のような技、あれは夢ではなかったのか。


「その女性は今どこにいる?」

「会われるというのですか?!だめです!私たちの身分では会うこと愚か!話すことは禁止されています!最悪処刑されます!」


 会うことすら許されない格差社会なのかこの世界は。だが助けてもらった礼は必ずしたい!


「助けてもらった礼だけ言うだけだ」    


 シスターは直幸の顔を見てあきれた様子で言った。


「仕方ないですね、今はまだこの教会にいますよ。中庭で月を眺めていたのを先ほど見かけました。ついでに私たちはこのことに関しては、まったく関係ありませんからね!」

「ありがとうシスター」


 直幸はシスターに礼を言って、さっそく中庭に向かった。中庭にはシスターが言った通り、マリアナが立っていた。

 マリアナは凛々しくかつ、可憐な姿で月を眺めていた。一歩間違えれば一目惚れする姿に直幸は感心した。


「すまない、あんたがマリアナさんか?」


 一瞬だった。目にもとまらぬ速さで彼女は腰に掛けていた剣を抜き、直幸に喉元に剣先を向けた。


「誰に向かって口を聞いている!貴様は今ここで処刑してもいいのだぞ!」


 1度死に、1度死にかけてるからだろうか。直幸はなぜかマリアナに剣を向けられているのに恐怖は感じなかった。


「俺はあんたに礼を言いに来ただけだ、どうかその剣を下ろしてくれ」

「貴様どういう意味か分かっているのか、この国では貴族と一般人と会話をしてはいけないのだぞ。それを分かっての行動か?」

「ああ、わかっているとも、それでも俺はあんたに礼を言いたい。あんたはこんなことで刑を実行する人ではないと信じている」


 直幸がそういうと彼女はゆっくりと剣を収めた。


「俺は罪であろうと、一人の人間として一人の人としてあんたに感謝しているんだ!それか一言伝えたかっただけだ!さっきは助けてくれてありがとう!」


 マリアナは直幸の行動に多少の疑問を感じていた様子だったが、感謝の意を伝えると呆れと同時に少し晴れた表情をしていた。


「はぁ…あなたかなり変わっているのね、見た感じこの国の住民でもなさそうなのに、見ず知らずの人や子供を助けようとするなんて、さらに自分が戦える力がないことを知りながらも戦いに挑むなんて馬鹿に等しいわね」

「ああ俺は馬鹿だ。馬鹿だからこそあんたと話している」

「あなたねぇ…分かってるの?この状況も危ないけどあの状況だと、簡単に殺されていたわよ。勇気と無謀は違うって聞いたことない?」    

「まぁいいじゃないか、結果論とは言え、被害は多少抑えたと思うし」   


 マリアナは開きかえったように答えた。


「まぁそうね、あなたが守ってくれなかったら被害がもっと広がっていた思うしね」

「どういうことだ?」

「女の子を助けた時に怪我を負ったでしょう?」


 肩を引っ掻かれたときの事を直幸は思い出した。


「あなたが逃げた後に血痕が残っていたのよ。その血痕をたどってみるとあなたが奴らと戦っている姿が見えたのよ」


 うわ、あっぶね!もし俺があの時肩に傷を負わなかったら誰にも気づかれることなく殺されてたわけか…。今考えてみるとゾッとするぜ。


「あなた名前は?」

「斎藤直幸だ」

「ナオユキ?聞いたことのない名前の特徴だわ。まぁいいわ、ナオユキはなぜ私が刑を執行しないと思ったわけ?」

「あんたは俺のことを助けてくれた。それに治療まで施してくれた。そんな人が悪いやつなわけがないだろう?」

「私はあくまであそこで見捨てるのは後味が悪いと思って助けただけよ」


 彼女はそう言うと少し寂しそうで悲しそうな表情をしていた。

 俺は言った。


「そういうところも含めあんたはそんな残酷なことをしないのでは?と考えたからさ、なんにせよ俺は感謝の意を伝えたかったんだよ」   

「そうなのね?」

「俺の国の常識?ならお礼の品などを贈るんだが、あいにく今は持ち合わせも何も無くて…」

「いいわ、助けたいから助けただけなのだから。お礼なんていらないわ。今日はもう寝なさい、回復魔法をかけてもらったとはいえ、すごくしんどいと思うわ」

「ああ、すまない。言う通り立っているのがやっとなくらいだからそうさせてもらう。礼は後程させてもらうぜ」

「ええ」


 俺は意識を失いそうになりながら自分が寝ていたベッドに戻り、眠りについた。


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