ある放課後
俺は教室で直子がテニス部の練習を終えるのを待っていた。
直子の教室で待ち合わせて、二人で一緒に帰るのが日課だった。
俺は二年になってバレー部でキャプテンを任された。決して強いチームではなかったが、
みんなと汗を流して練習するのが、楽しくて仕方なかった。
窓から外を見ると、ちょうど直子がグランドを走っているのが見えた。
遠くから眺めていると、いつも一緒の直子が少し遠い存在に感じられて新鮮だった。
放課後の誰もいない教室はとても静かで、昼間の雑踏が嘘のようだ。
だが、その日はいつもとは違っていた。
「バタ、バタ、バタ、」
直子ではない大きな足音が静まりかえった廊下に響きわたった。
その足音はさらに大きくなり、やがてこの教室の前までやってきた。
直子の担任の田島だ。
俺はとっさに身をかがめて隠れてしまった。
田島は教室に入ってきた。
あいつには今日、こっぴどく叱られたばかりだったのだ。
最近あいつは俺に対して、理不尽な理由で文句を言ってくるのだ。
一体俺が何をしたというのだ。中年の独身男の欲求不満を俺にぶつけているのだろうか。
田島は一番前の右端の机の前にいた。そしてその引き出しの中から、ノートを一冊取り出し、
パラパラとめくっている。
確かあそこは直子の席のはずだ。
田島はそのノートに何か書き始めた。そしてまた別のノートを取り出し、また何かを書き始めた。
一体何をしているのだ。
田島は気配に気がついたのか、後ろを振り向いた。
隠れているつもりだったが、見つかってしまったようだ。俺は嫌な予感がした。
「おい、おまえそこで何している?」田島の大きな声が静まりかえった教室に響いた。
やれやれ面倒なことになった。俺は渋々立ち上がった。
「先生こそ何してるんですか?」
俺は率直に疑問に思ったことを聞いてみた。
「おっ俺は生徒のノートをチェックしてるんだ、何が悪い?」
田島は明らかに動揺していた。
「悪いなんて言ってないですよ。そうですか、じゃあさようなら。」
俺は田島のさっきの行動が気になったが、とりあえずこの場を立ち去りたかった。
「おいちょっと待て。」
嫌な予感が的中したようだ。
「今日のことだが、おまえは最近なまけてるんじゃないのか!この前のことといい、もう二年
なんだから、気合いれないと落ちこぼれるぞ。ただでさえ成績が悪いじゃないか。」
「何か先生俺に恨みでもあるんですか?俺ばっかりじゃないですか?今日だって、あんなみんなの
前で怒られるようなことしてないっすよ。担任でもないのに説教ばっかり止めてください。時間がないんでもう帰ります。」
「何だその態度は!」
田島は大声を出し、俺に近ずいてきた。
「っていうか先生はさっき直子の机で何してたんですか?」
俺が聞くと、田島は興奮ぎみに俺に聞いてきた。
「お前飯田と付き合ってるんだろ。」
「えっ。」
俺はすごく驚いてしまった。田島の口からそんな話がでるのが予想外だったからだ。
「やっぱりお前か。」
田島は大きなため息をついた。
その時俺はピンときた。こいつだ。 最近直子が言い寄られて困ると言っていた奴だ。
学校の人だと言ってたが、まさか教師とは。
俺は思わずぞっとした。
中年のおやじが女子高生に、しかも自分の生徒をそんな目で見ているとは、教師失格だ。
俺は同姓として許せなかった。そしてふつふつと怒りがこみ上げてきた。
「おまえまさか直子に言い寄ってるんじゃないだろうなぁ。」
「何だよ、ガキのくせに、自分の物みたいに言いやがって。だいたいお前とは何だ!」
田島もかなり興奮している。俺は確信した。
「いい歳して気持ち悪いんだよ。」
「何だとっ」
「だいたい直子がお前みたいなやつ相手にするわけないだろ。考えれば分かるじゃないか。
あぁ、だからストーカーみたいなことしてたってわけか。」
田島は顔を真っ赤にして俺に殴りかかってきた。
拳は顔にはあたらなかったが、俺は思いっきり後ろに倒された。
「くそっ」
俺はすぐに立ち上がり、拳を挙げ田島の頬に向かって振り下ろした。
田島はそれをあっけなくかわした。
「何だ、意外とたいしたことないな」
俺は頭が真っ白になり、もう一度力まかせに殴りかかった。
俺またかわされたが、拍子に田島は体制を崩し、思いっきり後ろに倒れこんだ。
「ドン」
鈍い音が教室に響きわたった。




